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「2月上旬の予定:イケメンになった後、キンメ邸で一ヶ月遅れの新年会(要:お年玉3人分)」

執筆において寝落ちが最大の敵となっています。二番目が見たい配信。

「結局新年会は2月ですか」

「全員集まれそうな日を探してたら2月になっちゃったんだよね」


 パソコン上のスケジューラーに日程を打ち込みながら正時廻叉は小さく唸った。通話の相手は同期の魚住キンメ。配信とは一切関係なく、単なる新年会としてRe:BIRTH UNIONメンバー全員が集まれる日がようやく決定したのが1月末。2月最初の連休に全員がオフを取る事でようやく決まった形だ。

 こうなったのも理由があり、昨年末のフェスでRe:BIRTH UNION全体の知名度が上がった事で案件やコラボが増えた事が最大の理由だった。また、それ以外に個人での配信や動画作成、楽曲制作などが重なっていた為、全員の予定を無理矢理合わせた結果が2月の新年会、という時期外れな集まりだった。


「実際、1月は全員が全員、予定を詰め込み倒してましたからね」

「フェスで折角注目されたのに、その時期に正月休みなんか取ったら勿体ないもん。文字通り休日返上の勢いだったから、丁度落ち着いた時期って事で良いんじゃないかな」

「なんならキンメさんの家でオフコラボ配信、って手もありますが」

「流石にそれはちょっとなぁ。配信部屋が狭いんだよね。防音材とかで更に手狭になっちゃってるし」

「それは残念。実際、やるならスタジオの方が色々便利ですしね」


 現在のRe:BIRTH UNIONメンバーにおける共通の目標は『チャンネル登録者数5万人』である。未だにステラ・フリークス一強状態である事を全員が気にしている事もあってか、新年早々にDirecTalker上で今年の目標という形で掲げられた。最終的には運営企業であるリザードテイルの事務所に書き初めで描かれた『目指せ登録5万』なる書が額に入れて飾られている。なお、社長直筆であった。


 閑話休題。


 廻叉がスケジューラーを見て唸る。新年会当日の昼にコラボ配信がある。同業他社であるオーバーズ所属のVtuber、パンドラ・ミミックからの出演依頼があった『第三回イケメニスト決定戦』なる企画であった。恋愛に関する一定のシチュエーションに対し、男性Vtuberがアドリブで対応。その対応のカッコよさ、男らしさ、気遣いなどを女性審査員数名によって審査されるという企画だった。

 これまでに過去2回程開催され、いずれも高い同接人数と評価を得ている企画だ。これまでにリブラ、紅スザクがそれぞれ『イケメニスト』の称号を獲得している。逆に最下位である『マジアカン』枠にはフィリップ・ヴァイス、各務原正蔵が選ばれていた。1804組、まさかの2連敗である。


「そんなわけで私はイケメンにならなきゃいけないので、当日は夜からの参加になりますが大丈夫ですか?」

「了解ー。どうせみんな連休明けまで一緒に居る予定だからね。むしろ、みんなで廻叉くんの勇姿を見守るよ」

「オフで同時視聴とか勘弁してくれませんかね……?」

「え?じゃあ仮に四谷くんがイケメニストに出てて、廻叉くんがウチに来てたらどうするの?」

「もちろん最初から最後まで見届けます。仮に龍真さんが参加していた場合は、ここにビールとおつまみが付きます」

「先輩を酒の肴にするんじゃないよ」

「後輩を酒の肴にするよりはマシでは?」

「うーん、五十歩百歩……!で、結局誰が出るのさ?」

「当日発表が一人いらっしゃるみたいですが、後は情報解禁されてますね……あったあった。このアドレスで見れますよ」


 DirecTalker上に張られたアドレスはパンドラ・ミミックのSNSのものだった。そこには画像付きで参加者情報が掲載されていた。しかも当日発表の1名を除いてキャッチフレーズ付きでの紹介だった。


『MCだけやれると思うなよ パンドラ・ミミック』

『熱血硬派愚連隊 秤京吾』

『大酒呑みパイレーツ 海賊ブラックセイル』

『渋谷系能天気 春日野ユーマ』

『感情スイッチ自在の執事 正時廻叉』

『三十路のリリシスト MC備前』

『 X 』


「パンドラくんだけなんか違わない?」

「京吾さんも元ネタバレバレ感が凄くしますね」

「そしてXってのがこう、プロレス感あるわね……」

「っていうか、感情スイッチ自在ってほど自在じゃないんだけどな……」


 キャッチフレーズを自己申告した記憶がない為、おそらくオーバーズ陣営が考えたのだと予測できるが、極端に失礼なものも無かったので許容する。何はともあれ、当日発表の参加者と審査員にもよるが役者としてアドリブ芝居での勝負で負ける訳には行かない。


「ここでバズらせてきなよー。それでなくても、NDXのデビューからVtuber全体の注目度上がってるんだから」

「……ですね。技術力や演出だけでなく、メンバーのタレント性も高かったですよね」

「ねー……ナユ願の二人は勿論、向こうでデビューした二人もそうだし、志熊くんも日本に居た時以上に華があったような気がするし」


 予告通り、『New Dimension X』は2月初頭に公式チャンネルをオープン、お披露目配信で同時接続数20,000人という大人数を集めた。コメント欄は英語と日本語がほぼ半々。3Dモデル5体が自在に動き、手描きのメッセージボードを投影するなど新しい技術も山盛りに詰め込まれた配信はSNSトレンドを席巻し、ポータルサイトのニュースにもなった。公式チャンネルはチャンネル登録者数が30,000を突破、その後に開設された各メンバーの登録者数も10,000を超えて現在も伸び続けている。


「とはいえ、比べても仕方ありませんから」

「うん、みんなで応援するから全員落してこい」

「委細承知」




※※※




「第三回イケメニスト決定戦ー!バレンタイン前の最後のお願いスペシャルー!!」


《きたああああああああああああああ》

《待ってた!!》

《選挙じゃねぇんだからw》

《相変わらず勢い任せのドラちゃん》


「なんやかんやで第三回、男性ライバーがみんなの期待を上回ったり下回ったりする名物企画!今回もシチュエーションに対して素敵なセリフをアドリブでキメて頂きます!早速ですが全選手入場!まずボク!パンドラ・ミミックでーす!司会だけやって煽ってたらとうとう参加者側にも回されたよ!激務!!」


《草》

《残当》

《まぁまぁ下回る率が高いのがアレ》

《フィリップと正蔵おじのデリカシー皆無具合はワンチャン炎上寸前だったもんな》

《全体的に酷い中で1位取った二人は強い》


「エントリーNo.2!秤京吾参上!ぶっちゃけ同期二人がクソみたいな結果だったんで、俺がなんとかしねぇと……!!」

「なんかもう悲壮感すら漂ってるなー」


《おいたわしや……》

《同期が酷いザマだったからな》

《気合は感じる》

《京吾がここまで責任感持った事って今までにないのでは》


「あー、俺が3番?待たせたな、お前ら!オーバーズ1809、L.O.Pの海賊ブラックセイルだ。ぶっちゃけ女心はわかんねぇけど、同期代表として本気でやるぜ」

「うーむ、謎の貫禄……!」

「すんませんね、どうにも敬語が苦手なもんで」

「いやいや、それも個性よ個性」


《キャプテン来たか!》

《渋めの兄貴枠なので期待》

《酒さえ入らなければダンディな男なのにな……》

《今日はシラフだから……》

《敬語じゃなくても敬意は伝わるからOK》


「4番、春日野ユーマでーす。ただのチャラ男じゃないってとこ、見せちゃうぜー?」

「もうその時点で大分チャラいんだよなー、お前」

「おー?煽ってくんじゃん京吾くんよー。トリプル最下位行っとく?」

「それ決めるのはお前じゃなくて審査員だろ、ルール知ってるー?」

「よーし表出ろ!」

「はーい、馬鹿二人は放っておいて、次は外部ゲストでーす」


《ユーマくんがんばれー》

《テスト以降バチバチに煽り合ってるよな、この二人》

《最終的に共倒れするとこまでがワンセットよ》

《草》


「では、次は私ですね。エントリーNo.5、Re:BIRTH UNION所属の正時廻叉です。執事でもあり役者でもある身です故、こういった企画に呼ばれるのは光栄です」

「いや、本当に来てくれてありがとう!こないだのテストでの褒め言葉が凄すぎて、次回は絶対呼ぶってあの日決めたんだよね!」

「私としても出演後の反響の大きさに驚きました。今回も、ご一緒させていただけて喜ばしく思っています」

「相変わらず固ぇなぁ、執事さん」

「今の所、廻叉さんとは俺だけが初見か。あ、いつも四っちゃんに世話になってます」

「いえいえ。こちらとしても四谷さんと仲良くして頂いて」


《執事ー!!》

《演技ガチ勢登場》

《前回ドロッドロに溶かされてたもんな、ドラちゃん》

《Xが誰かにもよるけど、ガチの今回の大本命》

《最近リアル舞台にも出演してたんだっけか》

《その手の挨拶は裏でやれ定期》

《礼儀正しさ出ちゃってるよキャプテン》


「エントリーNo.6……あーあー……mic,check……OK?」

「お?」

「Yo!バーチャルラッパー古株の備前、吐き出す言葉は今日も新鮮、新選組みたく言葉の刃、抜き放ち討ち入る like a 池田屋!……ってな感じでラッパーやってます。MC備前です。どーぞ、よろしく!」

「「「おおおおー……!!!」」」

「流石です」

「実は備前さん、リスナー推薦枠なんだよね。ラップもカッコいいけど、普段の言動もカッコいいっていうタレコミが大量に来てたんだよ」

「いやいや、俺は単なるラップ好きのおじさんだよ。それこそFENIXXとかのが良かったんじゃねぇかな。あいつ、若いしさ」

「そのFENIXXさんからも推薦状がメールフォームに来てたんだよ」

「あの野郎……」

「ちょっと照れ笑い浮かべていらっしゃいますね」


《おおおおおおお!!》

《めっちゃ聞き取りやすいなぁ》

《『宣誓』で知ったけど、そんなカッコイイことしてんのか》

《VIRTUAL-MC FENIXX CHANNEL:備前くんは背中で語る人だから》

《三日月龍真a.k.a.Luna-Dora:悪いな、廻叉。今日ばかりは備前を応援する》

《ダルマリアッチ@Vtuber:備前さん、今日バズってくれマジで》

《うわああああラップ勢がコメント欄を練り歩いてるっ!!》

《人望の厚さがとんでもねぇことに》


「やめろ、ハードル上げんなマジで……」

「……さぁ、備前さんがガチ照れ入った所で当日発表のXの登場です!」


《可愛いな備前ニキ》

《X誰だろうな》

《外部三人だと流石に多い気がするけどなぁ》


「待たせてしまったかな?」

「!?」

「え、マジ……?」

「パンドラ、お前マジか。呼べたのか……?」


《!!!!!!》

《このお声は!!!》

《ウッソだろ》

《1期生!!!!》

《優勝》


「ごきげんよう、私は青薔薇(あおばら)……パンドラくんに頼まれて、こうしてやって来たけれど……いつも通り、皆を魅了すればいいのかな?」

「はい、Xの正体はオリジナルメンバーズの青薔薇さんでーす!!どうだ、ボクの交渉力は!!」

「マジかよ、勝てねぇよ……!!」

「……備前さん、我々、とんでもない回にお呼ばれしたのかもしれません」

「だな、執事くん……俺、青薔薇とはほぼ同期だから、あいつの凄さはよーく知ってんだよ……」


《きゃあああああ青薔薇様ああああああああ!!!!》

《よくやったドラちゃん!!!》

《男女問わず恋する乙女にするでお馴染みの人やんけ……!》

《ちょっと墓立ててくる》

《VIRTUAL-MC FENIXX CHANNEL:備前くん、骨は拾ってやる》

《ダルマリアッチ@Vtuber:目指せ総合三位だ》

《ラッパー勢、速攻で手の平返してて大草原》




※※※




 同時刻、魚住キンメこと清川芽衣宅。

 新年会の準備の為に昼前から来ていたRe:BIRTH UNIONメンバーが、テレビモニターとPCを接続して『イケメニスト決定戦』の配信を見ていた。そして、青薔薇の登場と同時に白羽が黄色い歓声を上げた。同じように配信を見ていた清川芽衣の娘、清川亜依が青薔薇の立ち絵に魅入られたように画面を凝視していた。


「うーわ、マジか……青薔薇さん出てきたらいくら廻叉や備前でもキツイぞ」

「あ、あの、龍真さん……青薔薇さんって、どういう人なんですか?」

「俺も知りたいです。オーバーズのオリジナルメンバーって事は知ってるんですけど、最近までかなり不定期の配信間隔だったから詳しく知らなくて」


 苦笑いを浮かべる龍真にユリアが尋ね、それに追随するように四谷からも質問が飛んだ。画面上の2Dモデルを見ると、そこには中性的な美少年、あるいは美少女が居た。鮮やかな青色の髪とエメラルドグリーンの眼。髪色と同じく青を基調としたゴシックドレス。幻想的で儚げな雰囲気を纏っていた。


「あー……ある種、廻叉と同様の世界観系のVtuberだな。バストアップだからわかんねぇだろうけど、手首とか肘とかの関節が球になってんだよ。球体関節人形、ってやつ。本人は自嘲なのかなんなのか、マネキンとか言ってるけどな」

「そして、誰よりも自分の魅せ方を知ってる人さ。こういう企画では……うん、端的に言ってかなり強いと思うよ?」


 龍真の説明に付け加えるようにステラがそう言うと、ニヤリと笑って画面を見る。視線の先は、無感情な顔を浮かべている廻叉が居た。


「さて、廻叉くんはどこまで頑張れるかな?」

ちなみに性別:青薔薇です。


御意見御感想の程、お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] キンメママの出番が来るとホッとしますね。 しかし、青薔薇さん出演はめちゃやばいw
[良い点] 性別:青薔薇は強い 執事負けるなー! [気になる点] サブタイトルのキンメ亭はキンメ邸、またはキンメ宅ではないでしょうか? [一言] 正蔵おじのときは、ジッパーの下がる音みたいなSEが聞こ…
[良い点] 性別、青薔薇w そりゃモテるわ [一言] 久々に時間取れて一気読みしましたが、やっぱり面白いですね。 なろうでvtuberってジャンルが流行ってないせいだろうけど、ランキング載らないの…
2021/06/10 00:15 ご主人候補11(たぶん)
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