『Virtual CountDown FES』-5-
投稿が遅くなり申し訳ありません。大分詰め込んだ形になりましたが、逆にスピード感は出たような気がします。
「っしゃあ!俺らの動画だ!震えろ、世界!!」
配信枠が切り替わった直後の動画メドレーに、三日月龍真も参加している複数のVtuberによるマイクリレー形式のラップ動画が流れると同時に気合の咆哮が響く。
動画投稿者名はMC備前feat.三日月龍真a.k.a.LunaDora、ダルマリアッチ、VIRTUAL-MC FENIXX、ill da Ring、MCカサノヴァ。主にVtuber界隈においてラッパーとして活動している面子で固められた本気のマイクリレー楽曲だった。
コメント欄には相変わらずラッパー勢が布教に努めているが、楽曲への反応コメントに埋もれてしまっていたが、龍真からすれば好感触のコメントの数にテンションを跳ね上げていた。
「ちょうど全員がワンフレーズずつ矢継ぎ早に重ねるパート選んでくれてるね」
『宣戦布告決めていく先制』
『電脳世界最強の編成』
『神よ、俺達に与えろ天啓』
『脳味噌ブン回しライムを錬成』
『六者六様、自在の変幻』
『やりたい事だけやり切る現世』
『6人MC此処に顕現、世界を揺るがす我らの宣誓』
「ラスサビ前の見せ場中の見せ場だからな。備前がここ指定したんじゃねぇかな」
「動画もセンス最高ですね、これ。キネティックタイポグラフィが一番映えるのってラップかもしれないですね……」
立ち絵はほぼ動かず、歌詞を表示する文字だけが縦横無尽に画面を駆けまわる様は、男性6人編成による声の厚みを更に後押しする形になり、1分にも満たない再生時間ながらも大きなインパクトを残すことに成功していた。
「俺が伸びるのもそうだけど、ラッパーがこんなに居るってのをアピールできたのがありがてぇわ。あいつらだってスキルだけなら一流どころなんだけど、まー見事に埋もれちまってるし」
「業界全体の急拡大の弊害なのかもしれませんね。来年以降、NDXの参入などもありますし状況がどう変わるかも不透明ではありますが」
龍真の嘆きともつかない言葉に廻叉が同意する。仮に昨年の時点で現在の状況を読めていた者は、恐らくVtuber関係者であっても限りなく少ないと思われた。一過性のブームで終わる事も十分にあり得た中で、これだけの業界全体が拡大傾向に偏る事になると思っていなかった者の方が多かっただろう。
しかし、現実はブームを超えて文化に成り得る業界として更なる注目を集めている。その上で『New Dimension X』という海外発のVtuber事務所の立ち上げなど、発展速度は急加速している。
動画メドレーが終わり、次に始まった一年間の振り返り企画を眺めながら正時廻叉は考える。来年、自分やRe:BIRTH UNIONはどう変わっているのだろうか。
それが可能であれば良い方向での変化であればいいと考える。その為に自分が出来る事を実行しなければいけない。数時間後にやって来る2019年に思いを馳せながら、今年最後の祭りを眺めていた。
※※※
「それじゃ、ライブ行こか。改めまして、エレメンタル所属の月影オボロです」
「同じくエレメンタル所属の照陽アポロでーす!!なんだかんだで二人で歌ってる曲も多いから一緒にやるよ!」
自然体な立ち姿を崩さない月影オボロと、全身からエネルギーを発露するように動き回る照陽アポロ。エレメンタルという事務所の誇る二枚看板は、歌唱力やダンスといったアイドルに必要な要素を高い水準で持っているだけでなく、正反対の性格と共通するVtuber愛を大きな武器として界隈を席巻した。
月影オボロはアイドルを名乗るVtuberの中でもテンションが極めて低く、やや低めの声質も相まって気だるげなイケメン女子という印象から女性ファンを独占する勢いで集めた実績がある。SNSでは検索欄のサジェストで『月影オボロ 夢女』と出てきたりする事はファンの間では有名である。その上で本人もSNSでの立ち振る舞いが非常に上手く、自身の動画や配信の宣伝、私生活でのちょっとした小ネタ、そして個人的に気に入ったVtuberの動画紹介とバランスの良さには定評がある。
一方の照陽アポロは『元気の擬人化』『笑顔で人を焼く女』と呼ばれるレベルでのハイテンションとポジティブさを個性とした、ある種のアイドルらしさの塊の様な存在である。そして、エレメンタルという事務所内におけるコラボの代名詞でもある。自分が気に入れば登録者数一桁の新人Vtuberから、他事務所のベテランVtuberまで、文字通り垣根無くコラボを行ってきた。そして、そのコラボを誰よりも楽しんできた実績があった。
二人は界隈の裾野を広げる事に注力してきたアイドルとして、Vtuberだけでなくリスナーからも大きな尊敬を集めている二人だった。
「んじゃ、まずはウチから歌おうかな。おかげさんで今年はライブも沢山やれたし、オリジナル曲もかなりええもん出来たんよね。作詞作曲してくれたり、MIXしてくれたり、動画作ってくれたりした皆さん。ホンマにありがとうございます」
「オボロちゃん、今年超頑張ってたもんね!月一ペースで歌ってみたの新曲出してたり!今日も何歌うのか楽しみで仕方ないよ!」
《ヤンキー扱いされてるけど礼儀正しさはガチなんだよな》
《仁義に厚い女、月影オボロ》
《一礼の仕方が男らしいの草》
《アポロは可愛いなあ》
《Vtuberのトップでありながら、Vtuberのガチヲタク》
アポロがステージから一旦離れ、月影オボロが一人ステージに立つ。黒を基調にした衣装を翻しながら、堂々とした姿を崩す事は一切ない。威風堂々を体現する姿を自然体でこなす、という稀有な才能の持ち主。それが月影オボロというVtuberの凄さだった。
「そんじゃ、行くで。着いてこれるよな?――『ツキニムラクモ』」
不敵に笑い、カメラの向こう側、モニターの前に居る視聴者を静かに煽る。答えを待たず、或いは聞かずとも分かると言わんばかりにイントロが流れ始め、吠えるように歌う。ステージはいつの間にか、満月の夜へと切り替わっていた。
月の名を持つ彼女の歌声は、神秘や静謐とは真逆の声だった。それはさながら、満月の夜に本性を剥き出しにする魔獣そのもの。聴く者の鼓膜と心を鷲掴みにして、そのまま握り潰さんばかりの力と鋭さに満ちていた。
※※※
「いやー、やっぱりオボロちゃんの歌って凄いよね!カッコイイ!」
代表曲を皮切りに、3曲連続で歌い切った月影オボロに代わってステージに上がったのは照陽アポロだった。白とオレンジ色を基調とした衣装、ステージは夜が明けて真っ青な空と一面の草原へと変わっていた。
《凄かった》
《アップテンポ歌ってる時とバラード歌ってる時で別人過ぎてヤバい》
《男女問わず堕とすヤバい女》
「正直、歌はオボロちゃんに任せておけばいいかなーって思ってたんだけど、いざ歌うとみんなが喜んでくれるし、私自身も楽しいって思えるんだよね。不思議なもんだよね!」
終始あっけらかんとした態度のまま、視聴者とリアルタイムで会話をしているかのように話す。
「それじゃ、歌おうか!今年、私の大好きな曲を2曲カバーしました!動画もお陰様で沢山再生して貰えて嬉しいので、そういう感謝も込み込みで歌いまーす!!」
《アポロ素敵ー!!》
《陽キャっていうかもう陽そのもの》
《泣けるほど元気が出るんだよなぁ》
《この子が曇るところはマジで見たくないな……》
《アポロマジ太陽》
※※※
「真逆の個性なのに一緒に歌うと完璧なのヤバいよね……」
「何というか、組むために生まれて来たとしか思えないです……」
オボロとアポロのライブステージの最後の曲は、『エレメンタル』の全体曲とでも言うべきオリジナル曲だった。本来は全メンバーでの合唱曲だが、二人だけで視聴者全てを満足させるパフォーマンスを見せた二人の姿に、魚住キンメと石楠花ユリアが半ば呆然としたまま言葉を吐く。
「上には上が居るね。追い付くのは難しいけど、簡単に追い付ける人たちじゃないって事が嬉しい気持ちもあるような」
「とはいえ、一足飛びにバズろうとすると後が怖いんで地道に行くしかなさそうなんですよね……」
好戦的な笑みを浮かべる丑倉白羽と、慎重論を述べる小泉四谷。1期生、2期生がどちらかといえば前のめりに死ぬ事に躊躇が無い面々である反動なのか、3期生の二人は着実さを重視している。その辺りの性格も踏まえて二人が選ばれたのかは、彼らには知る由もない。
「さて、メドレー未登場は白羽さん、四谷さん、ユリアさんですが……そろそろ、出そうですね」
メドレー自体も残りパート数が減っており、この後のライブパートはNAYUTA 01、そして天堂シエルという最古参二人である。恐らく、ここから一気にメドレーが消化され、必然的に三者の楽曲が紹介される。正時廻叉はそう予想した。
「っと、来たぜ。四谷の曲」
「わああああ!?」
「なんて声を出すんですか」
悲鳴に半ばかき消されては居たが、配信画面には真っ黒の画面に白の線で荒く描かれた小泉四谷が映っていた。楽曲はロック調だが、その歌詞はかなり過激なものとなっている。挑発的で嘲笑うような歌声は、普段の飄々とした好青年である四谷の印象とは真逆のものだ。
《四谷の怖いところ出てる好き》
《軽率に闇を出せ》
《本性表したね》
《僕らの求めた小泉四谷》
《なんかもうリバユニファンのが怖いわ》
「四谷さん御覧ください、大好評ですよ」
「嬉しいけど素直に喜んでいいのか微妙に疑問ですね……!」
「草」
廻叉がコメント欄を確認するように促せば、四谷は複雑な心境を隠しきれていない。ダーク路線を求められている事は彼自身も認識していたが、ここまで本気で求められている事を実感すると色々と思う所があるようだった。なお、そんな葛藤を草の一文字で叩き切ったのは丑倉白羽だった。
「草生やしてる場合じゃないぞ、白羽。お前の来たぞ」
「マージで?!」
「わ、素敵……!」
そんな丑倉白羽の投稿した楽曲は、シンプルなギター弾き語りだった。アニメソングのアコースティックアレンジにしたものを、特にミックス等もしない一発撮り音源を動画化したものだった。
《これほぼ無加工の生歌か?》
《シンプルに上手いな》
《このアニメ好きだったから嬉しい》
《技量抜群なのに喋ると酷いのが草しか生えない》
《やるやん白羽》
「凄いです白羽さん……私も、これくらい堂々と弾き語りが出来たら」
「出来てるよ。ユリアちゃんは出来てる」
本人としては素直にその気持ちを伝えたつもりのユリアだったが、自然と自分を下げるような言い方になりかけていた。それを遮るように白羽が口を挟む。普段の悪ふざけや軽口とは違う、真剣な口調だった。
「……いいタイミングで来てくれたね。ユリアちゃんの曲だよ」
「え?」
映像にはピアノバーで弾き語る石楠花ユリアの姿があった。
その奥には、客として酒と演奏を楽しむRe:BIRTH UNIONのメンバーが居た。まだ拙さの残る英語での歌唱。結果的に別撮りという形になったものの、その分だけ完成度を練習量で高めたピアノ演奏。彼女はきっと「自分より上手い人はもっとたくさん居る」と言うはずだ。そして、それは確かに事実でもある。
だが、より上手い人が居るからといって、その歌が人に届かないという道理はない。
《すげえええええええ!?》
《選曲渋っ!?》
《ピアノもこの子弾いてる?いや、上手いわ》
《お嬢!!》
《お嬢がバレる時がついにきたか》
《wow》
《イラストがまたエモいわ……》
《意訳詞が泣ける》
《Re:BIRTH UNIONの石楠花ユリアをよろしく》
「ほら、良い反応してくれてるよ」
「しかもお嬢のファンが滅茶苦茶に推してるな。これもお嬢の人望プラス歌と演奏の良さがあってこそだよ」
「じゃあ僕の時の反応は一体……」
「……四谷さんは選曲が一定の層に刺さり過ぎました。悪い事ではないのですが、はい」
「ま、まぁ今後の僕の方向性の一助にはなります、よね……ははは」
「良かったねぇ、ユリアちゃん」
自身の楽曲部分が終わり、別の楽曲になってその投稿者の話題になる。だが、合間合間に「さっきのピアノの子」というフレーズがちらほらと出ている。『石楠花ユリア』を知らない人が、1分にも満たない楽曲を聴いて知ろうとしてくれている。
「わ、私、その……こんな気持ち、初めてで、嬉しいけどそれだけじゃなくて、そのどう言ったらいいか……その、リバユニの合格を貰った時みたいな、そんな気持ちなんです……!」
「達成感、でしょうね。ユリアさんが本気で取り組んだ事が実を結んだことへの達成感、だと思います」
「……私、成し遂げたんですか……?」
「少なくとも、50秒弱の動画でインパクトを残す、という意味では。この後、ユリアさんの動画がどこまで伸びるかで、また違う達成感を得られると思います」
ユリアを始め、この場に居る全員はまだ知る由もなかったが、彼女の投稿した動画の再生数がこの時間を皮切りに大きく伸び始めていた。同時にSNS上でも、「ピアノの子」という呼ばれ方ではあったが石楠花ユリアという存在を認知した人々の声が溢れ始めていた。
「達成感……」
彼女は自分の中に生まれた、成し遂げたという感覚を不思議そうに噛みしめていた。
大きな嵐が起きる直前だという事に、そしてそれを起こすのが自分だという事に――
石楠花ユリアはまだ気付いていなかった。
今年に入ってからラップ詞書くの2回目です。熟語で脚韻踏むのが好きなんですよね……ラッパー勢には個人的にもお気に入りです。
そして、四谷と白羽が一定の評価をされ、ユリアのお嬢がバレました。
バズの嵐って、割と時間差でやって来る印象があります。
御意見御感想の程、お待ちしております。
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