『Virtual CountDown FES』-3-
ツイッターにて報告させて頂きましたが、ブックマーク件数が1,500を超えました。
本当にありがとうございます。これからも安定しないペースではありますが、投稿を続けていきたいと思っております。
皆様から頂いた感想や評価ポイント等は本当にモチベーションになっております。
ステラ・フリークスの歌唱力の高さはVtuberという界隈においては広く知られている。特に、彼女の歌を形容する際に『魔性』あるいは『蠱惑』と呼ばれる事が多い。技術的な点で言えば、高得点ではあるが100点ではない、とも言われる。しかし、彼女はバーチャルシンガーとしてデビューして以来、その歌で数多の人間を虜にして見せた。
彼女のファンは、ステラ・フリークスの歌の凄さを伝える時に頻出するのは『私に向かって歌っている』という物だ。実際に、ミュージックビデオやライブイベントでは終始カメラから視線を外さない。まるでモニターの向こうに居る自分達を逆に覗き込むかのように。
『深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いている』という言葉を体現するかのように、彼女はカメラの向こう側に居る無数の誰かから目を逸らさない。さながら、モニター越しに飲み込もうとするかのように。故に、『魔性』であり、『蠱惑』。『歌うコズミックホラー』などというファンの間から発生したキャッチフレーズは、図らずも彼女の歌の性質を的確に表現したものと言えた。
彼女のステージは、常に宇宙空間を舞台にしている。そこに、他者は介在していない。星の海で一人歌う様から、彼女は『極星』という二つ名を得た。しかし、彼女は『星座』になる事を選んだ。彼女と共に星の海を彩る仲間こそがRe:BIRTH UNIONの面々である。そして、星座とは得てして『神話』に由来するものだ。神に召し上げられ、夜空に在り続ける星座になるという事は、自ら神話になるという宣言に他ならない。
「さぁ、まだまだ続けよう。君達も、この程度で音を上げる程ヤワではないだろう?『歌うコズミックホラー』に抗ってみせたまえよ。声援と喝采で抗うといい。――そう、その調子だ。さぁ、行くよ」
宇宙空間が、じわりじわりと赤に浸食される。黒と赤が混じり、不安と恐怖を煽るような色彩の中で、星々だけが白く煌々と輝いている。
「――『RED SHIFT』――」
※※※
そのライブを見つめていたRe:BIRTH UNIONの面々は、戦慄を覚えていた。画面に映っている存在が本当にステラ・フリークスなのかを疑う程、普段の彼女とは程遠い、そしてこれまでのライブイベント等とも一線を画するパフォーマンスに、ただただ圧倒されていた。
ステラ・フリークスの凄さを知っている筈の自分達が、見た事のない、知らないステラ・フリークスを目の当たりにした。
「……言葉も出ないですね……これがステラ様の本気、なんですね」
「ずっと……目が離せませんでした……」
「凄い……!こんな表現があるんだ……!!」
2曲目のパフォーマンスを終えたタイミングで、どこか畏れすら含んだ声色で廻叉が呟けば、同調するようにユリアも呟く。一方で、四谷はまるで特撮ヒーローを前にした少年の様に目を輝かせ、声を弾ませていた。
赤方偏移という意味のタイトル通り、赤く染まった宇宙で歌うステラ・フリークスの姿は『魔王』、あるいは『怪物』と呼ぶにふさわしい姿だった。姿形は一切変えていないにも関わらず、楽曲と歌唱力、佇まいだけで雰囲気を激変させた。一曲目の『Constellation』では神秘性を帯びていた彼女の姿が、背景と歌声の変化と共に変貌していく様は、『歌うコズミックホラー』の名を完全に体現してみせた。
「つーか、あんなハードなドラムンベースを歌にして破綻してねぇ時点でバケモノだよ。あんなのラップのビートでも滅多に使わねぇぞ」
「最後の超高音ロングトーンは人間の出せる限界点だと思う……」
音楽を中心に活動する1期生、龍真と白羽は演出に埋もれない彼女の技量に舌を巻くしか出来なかった。本来ならばインストゥルメンタルで通用する程のハードコアドラムンベースを歌唱用楽曲とした事、そして彼女の真骨頂でもある高音域をフル稼働させたロングトーン。どちらも、常人が真似をすれば怪我をするような物であると二人は見抜き、改めて0期生の壁の高さを実感していた。
「怖い……けどカッコイイ……好き……」
《怖ぇよ……でもスゲェんだよ……》
《これがリバユニの女王の力……ふふふ、怖い》
《下手すりゃナユタより人間かどうか怪しい》
《最初の7人に入る訳だわ……傑物すぎる》
《エレメンタル・火咲リン:素敵ですステラ様!!》
ホラーが大の苦手であると同時にステラへの深い敬愛を抱くキンメは、震えた声で消失を免れた数少ない語彙を呟くだけだった。なお、配信のコメント欄も似たような状態に陥っている。中にはVtuberのアカウントもあり、彼女の影響力の大きさを物語ってはいたが、6人にはそれに気付く余裕がない。そして、ステラのライブパートの最後の楽曲、その準備が整った。
※※※
赤く染まった宇宙が、緩やかに元の穏やかな漆黒の宇宙へと戻っていく。ステラ・フリークスは静かに佇みながら、カメラの奥、視聴者の目を見据えるようにしながら語り始める。
「私は、『最初の7人』においては末席だ。もしかしたら、私以上の才能が既にVtuberの中に居るかもしれない。私より『7人』に相応しい誰かが居るかもしれない。ならば、私は更に先へと進まねばならない。今の立場、評価、キャリア……うちの龍くんが言う所の『プロップス』って言うのかな?うん、それが分かりやすそうだ。私は、今のプロップスに満足して立ち止まる事はしない。改めて君達に宣言しておこう」
ヒップホップ用語を引き合いに出しながら、まるで施政者の演説の様に身振り手振りを交えながら朗々と語る。自身を末席と呼び、己よりも才覚のある者の存在を仮想し、その上で現状の地位に安心を覚えない。彼女の持つ、隠れた上昇志向が露わになる。
「最後の曲は、私の決意表明だ。私達、Re:BIRTH UNIONの決意表明だ」
宇宙が、蠢く。星と星が彼女の動きに同期するかのように、不自然に煌きながら形を成す。
「――『Future Destination』――私達の、未来の行先を示す歌」
※※※
「ステラ・フリークスちゃんでしたー!拍手拍手ー!!」
ステラ・フリークスのパフォーマンスが終わり、彼女がMCステージに戻ってくると照陽アポロが歓喜と興奮を隠すことなく拍手を促す。他の面々もその声に促され、ようやく拍手を始めた。呆然と彼女が戻ってくるのを眺めるしか出来ない程に、彼女のパフォーマンスは圧倒的だった。
「ありがとう。うん、今日の私は過去イチだったね」
当の本人はおどけたように、そして満足そうにそう言った。
「いやー……前々から思っとったけど、ステラってやっぱバケモンやな」
「ききせまる、ってやつ?」
「ちょっとステラさん、次のライブパート私ですよ。ハードルが宇宙にあるんですけどどうしてくれるんですか」
「うん、頑張れ」
「軽い軽い!あんなスーパーヘビー級の重圧感全開なパフォーマンスしておいて!私はどう上回ればいいんですか!はっ、そうだ!脱ぎますか!?」
「アリアさん、落ち着こう?」
月影オボロは当然のことを再確認するように頷き、NAYUTAは拍手しながら形容詞としてあっているかどうか首を傾げる。一方、七星アリアは彼女から受け取ったバトンの重さに真っ向から文句を言った。既に一仕事終えた空気になっているステラは、そんな文句を平然と受け流す。アリアはプレッシャーとテンションがおかしな方向に跳ね上っているのか、常軌を逸した提案をしてGAMMAに宥められていた。
《バケモンて》
《ド直球で草》
《ナユの話し方だと鬼気迫るなのか危機迫るなのかどっちなのか判断しづらいな。どっちでも意味通りそうなのがステラのやべーとこなんだが》
《草》
《おいたわしや会長》
《どう頑張ればいいってのは確かにそう》
《脱ぐな!》
《脱がれても興奮しねぇんだよなぁ……》
《むしろ脱いでるのがもう居るしな、オーバーズ。フィリップと京吾と正蔵っていうんだけど》
《ガンマさん、ウチの一期生が本当にすいませんでした》
ステラのステージの余韻を残しながらも、ごく自然にフリートークへと繋げていくのは彼女たちの力量でもあり、関係性の深さの証左でもあったが、主にトークを回している七星アリアが若干暴走気味になっている事もあってか、コメント欄の雰囲気は音楽番組というよりもバラエティ番組と化している。
実際にバラエティ寄りの企画も用意されているが、あくまでも長時間配信における出演者・視聴者の休憩時間やスタッフによる機器の調整時間の確保に当てる為だ。担当MCがアリア、ステラ、オボロであり、この場で好きにはしゃいでいる3人だという事に気付いた一部視聴者が「こりゃ企画時間はカオスになるな」という予想をした。
「はいはいはーい!ステラさんの凄いステージに続いては、動画メドレーパート2のお時間でーす!」
「うん、もしかしたら私を超える才能がこの中に……」
「あ、Vtuberのみんながコメント欄で『無理無理無理!!』って……」
「ステラー、自分の箱の後輩感覚で無茶振りしたらアカンで?」
「うーん、Re:BIRTH UNIONではこれくらいが平常運転なんだけど」
「オーバーズの私が言うのもアレですけどリバユニさんも大概お狂いになってますよね」
《メドレー来たー!!》
《第一弾だけで28人登録したぜ》
《オーバーズ所属/秤京吾:いや無理無理無理!!》
《電子の森の熊Vtuber・志熊:超えるとか畏れ多いですって……!》
《堕天使系Vtuber瀬羅腐チャンネル:どうかこれ以上のハードル上げはご勘弁を……》
《草》
《これは草》
《ステラの無茶ぶりに対する正しい反応。リバユニ勢のはガンギマってる人らの反応》
《やっぱリバユニってヤベー奴らなんだな》
《否定できねぇ……(リバユニ箱推し並感)》
「さぁ悲喜こもごもありますが時間は有限!張り切ってパート2、どうぞー!!」
後方の騒々しさを全てぶった切るかのように、天堂シエルによる強制進行で動画メドレーが始まった。
※※※
「あ、私の来ましたね」
廻叉が呟けば、他の5人も反応して食い入るように画面を注視する。ボカロ楽曲カバーは、これで2曲目だが純然たるソロ歌唱はこれが初となる。マスクに隠されていない側の眼を大写しにしたサムネイルは、原曲サムネイルのオマージュでありつつも、一切の感情のこもっていない冷たい眼も相まってインパクトとしては十分だった。
流されたのは1番のBメロからサビ部分。BPMが速く、難しい単語も頻発する楽曲ながら全編朗読モードで歌い上げた楽曲には、歌詞に込められた悲哀・悲嘆・絶望・狂気を正時廻叉の演技という形で表現している。投稿が数日前だった事もあり、再生数等の伸びはまだまだではあったが、幸いにも高評価の様だ。
また、歌詞に出てくるフレーズが『正時廻叉のストーリーへの伏線ではないか』という所で、一部のVtuberまとめサイトや匿名掲示板でも話題になっている。
《リバユニの執事さんすげぇ》
《この曲やる人居るとは》
《これはフル聞きたい。登録してくる》
《演技ガチ勢とは聞いてたが、ガチだこれ(確信)》
コメント欄の速度が常に早い事も相まってか、廻叉が自身への言及をすぐに見つけることが出来たのは少なかった。後日、アーカイブでじっくり確認しよう、と決めた所で今度はキンメから「あっ!!」という声が上がった。
「私の曲も来た!わー、みんな反応してくれてる!」
「4割くらい『ママ……』ってコメだったけどいいのか?」
暫く後に魚住キンメの楽曲も流れる。同期である正時廻叉とは対照的に、クレヨン風のタッチで描かれたサムネイルが特徴的な、かつて子供番組で流れていた楽曲のカバーだった。現在のVtuberのファン層が10代~30代と言われている中で、彼女が歌った曲には所謂『直撃世代』が多数存在している。そして、子を持つ母である事を公表しているキンメが歌う事で、楽曲の持つ意味を何倍にも膨れ上がらせて視聴者の心を撃ち抜いた。
《懐かしい。ずっと歌ってた覚えがある》
《ママでもあるキンメさんが歌ってるって思うと泣けてくるね……》
《ママ……》
《ママありがとう……》
ついにRe:BIRTH UNIONメンバーの楽曲がメドレー内に取り上げられたことでチャンネル内でのトークも活発化している。その中には、登録者数やコメントが急に増えただとか、SNSでのエゴサーチをすると新着投稿が多数出てくると言った、極めて好意的な反応が多数だった。
一方、まだ動画メドレーに登場していない4人は、2期生達を羨みながらも自身の出番をひたすらに待つ。少なくとも、六者六様の形ではあるが本気で取り組んだ楽曲である。それが、数十秒であろうとも万を超える人数に披露されるという事への期待と興奮に満ち溢れていた。
なお、満ち溢れ過ぎていたのか、現在配信開始から2時間弱であり、残り10時間近くあるという事実からは半ば意図的に目を背けていた。長い長い12月31日は、まだ続く――。
あと10時間分、逐一書いていくと本当に年末辺りまでこの話を書くことになりそうなので次回からある程度時間のスキップが発生しますがご了承ください。
MC勢によるライブパートとリバユニ勢の紹介パート、そしてバラエティ企画を中心に書いていきます。
御意見・御感想の程、お待ちしております。よろしくお願い致します。