『Virtual CountDown FES』-2-
「GAMMA 02さんでしたー!拍手ー!!」
「凄いね……選曲と映像とGAMMAさんが完璧に噛み合ってた感じだ」
「……これ、照れるなぁ……!でも、うん、喜んでもらえてよかった」
GAMMAの歌唱動画が終わり、ライブ配信画面に戻ると照陽アポロがすぐさま拍手を促し、ステラ・フリークスは動画全体の完成度の高さに感嘆する。コメント欄も、動画開始直後から終わるまで盛り上がっており、何よりGAMMAの歌が聴けたという事と、トレードマークとなっているメカニカルバイザーを外した素顔を初めて見せた事が相当な衝撃だったらしい。当のGAMMA本人は照れくさそうにしながらも、周囲やコメントの反応が良好である事にホッとしたように呟いた。
「私、納得いきません」
「どしたん、アリア?」
全体的に歓迎ムードの中、何故か不満を露わにしたのは七星アリアだった。その不本意そうな口調と身振りから隠し切れないわざとらしさを感じ取った月影オボロが理由を尋ねる。
(たぶん、しょうもない理由なんやろなぁ)
という内心は隠しては居たが、問いかける口調が完全に流す事前提のそれだった。
《どうした急に》
《え?なんで?》
《なんて雑な演技なんだ……》
《学芸会なら褒められる演技力》
《すまんな、ウチの生徒会長、アレなんだ……》
《初見の方へ。オーバーズ名物雑茶番への導入です。ご安心してお召し上がりください》
一部のファンから不穏な気配に心配する声が上がるも、大半は「また始まったよ」という空気だった。七星アリアの雑談の傾向として、真剣な態度であればあるほど続く発言が重要性の欠片も感じられない話に続く可能性が極めて高い。笑いの基本である緊張と緩和の活用だと彼女は主張するが、緊張の表現が大袈裟過ぎるため単なる前振りと化している。そして、今回もまたその例に漏れる事はなかった。
「なんでバイザーの下が普通にイケメンなんですか!それでもガンマさんですか!」
「ねぇ、凄い理不尽な事言われてない?」
「ありあ、まえからあんなかんじだよ」
《草》
《草》
《本当に何を言っているんだ、お前は》
《ナユにまでアレだって認識されてるの重症なのでは》
「じゃあ聞くけど、アリアはどういう顔であって欲しかったんだい?」
「そりゃ勿論数字の3みたいな目をしてて欲しかったに決まってるじゃないですか!」
「昔の漫画やんけ」
《ちょっと見たい》
《草》
《これはファンアート不可避》
《こうか→(3 д 3)》
フリートークの場を支配しているのは七星アリアだった。ツッコミどころのある発言も多数あるが、こうした多人数が集まっている場に彼女が居ると、自然と中心に存在している。彼女の素っ頓狂な発言に誰かがツッコミを入れ、そのツッコミを推進力に更にボケを畳みかける事もあれば、トークに参加していない人に話を振っていくバランス感覚も持ち合わせている。そんな彼女のトーク力は多方面から評価されている。なお、最も七星アリアを評価していないのが、彼女の所属事務所であるオーバーズの同期及び後輩達である事は有名である。曰く、
「あの人、そこまで考えてないと思う」
という意見で過半数の合意が取れている時点でお察しである。
閑話休題。GAMMAのバイザーの下大喜利が一段落したタイミングで、前半のメインMCを任されている照陽アポロが次のコーナーへと繋げる。そして、このコーナーをVCFのメインコンテンツだとするファンも多数いる程の目玉企画だった。
「それじゃあ、Vtuberオールスター!歌ってみた動画メドレーパート1!今年投稿された歌ってみたを、Vtuberの皆さんにアドレスを送ってもらいました!そして、各社の映像編集班が血反吐を吐きながらほぼ全員分の動画を良い感じに切り抜いて繋げました!一部、Vtuberではない方や楽曲的に放送に適さない人は泣く泣くカットになりましたのでご了承ください!」
「まぁメドレーって言うけど、短時間での紹介を連続で続ける感じです!順番などは完全にランダムなので、送ってくれたVtuberさんや、ファンのみなさんは見逃し厳禁!リアタイ出来なかった人は、各パート終了のタイミングで概要欄にプレイリストのアドレスを張ります!じっくり確認したい人や、気になる曲やVtuberさんがあったら是非見に行ってください!もちろん、高評価にチャンネル登録もね!」
アポロのタイトルコールに続き、天堂シエルが補足説明を入れる。実際に多数の応募があった上に、各社編集班が必要以上に張り切った結果、アポロの言う通りほぼ全員分の動画を捻じ込んだ結果、パート数も再生時間も膨大な数になっている。ただし、Vtuberとしてデビューしていない者や明らかな冷やかし投稿、度を越したレベルでの反社会的な楽曲を除いて、ではある。
「それでは早速行ってみましょう!動画メドレーパート1!スタート!!」
※※※
メドレーが始まると、Re:BIRTH UNIONのメンバーは全員が黙り込んで動画を注視する。理由は当然、自分達の楽曲がいつ流れるか分からないからである。今回の動画メドレー企画には全員がそれぞれ1曲ずつ、この企画への参加を目的に新しい歌動画をアップしている。それぞれ、既にある程度の再生数等は付いているが、あくまでも普段からRe:BIRTH UNIONを追っているファンや、SNS経由であったり、TryTube上でたまたま楽曲名などで検索した初見視聴者がメインだ。所謂、『バズる』と言われるほどの再生数は得ていない。
基本的にRe:BIRTH UNIONは数字にこだわりのない事務所だ。だが、そんな彼らが黙り込んでまで注視する理由は『自分の動画』以上に『仲間の動画』への配信コメント欄の反応だった。無論、自分の動画に対する反応が気にならない訳ではない。だが、全員口には出さずともこう思っている。
『自分はともかく、みんなはもっと評価されて然るべきである』
コメント欄は動画が切り替わるごとに大盛り上がりだ。同接人数の多さから多少のラグはあるものの、ほぼ全員の動画に対して好意的な反応を見せている。画面にはPVだけでなく、Vtuberの名前や現在のチャンネル登録者数、デビュー日時、企業所属であれば企業名、元の歌動画の現在の再生数、チャンネルアクセス用の二次元コード等も張られていた。そこから得られる情報が、歓声だけでなく驚きの声を表している。
《シャロン来た!にゅーろの正統派アイドル候補!》
《この上手さでデビュー3ヶ月とか嘘やろ……登録して古参面しなきゃ(決意)》
《ラブラビ勢の歌動画初めて見たけど、思った以上に気合入ってるな》
《声低ゥ!?ってかヴィクおじ上手いなおい!?》
《三味線弾き語りなんて居るのか、V世界広いわー》
《ガチヨーデル草。いや、凄ぇんだけど草生えるわこんなん》
《登録者数や再生数ってマジで目安でしかねぇんだな……才能埋もれ過ぎて勿体ないよ、これ。こういう機会もっと増やしたいね》
「シャロンちゃん……!凄い……!」
メドレーの中盤頃、にゅーろねっとわーく所属の如月シャロンの歌ってみた動画が流れ、思わず声を漏らすユリア。心理テストコラボで共演して以来友人としての関係を着実に築いていた。互いに初めての事務所外部の友人という事もあり、SNSでのリプ会話だけでなくコラボ配信も数回行っており、そろそろコンビ名を決めようかという話も内々に進んでいるほどだ。
そんな彼女が歌ったのは男女混成バンドの楽曲であり、ドラマ主題歌にもなった楽曲だ。前向きで真っ直ぐな愛を歌う曲は、彼女のキャラクター性、あるいは人間性にピッタリとハマっていた。
「うーん、これはアイドル……!シャロンちゃん、これは伸びる子の予感……!」
「オーバーズさんもそうですけど、8月9月デビュー組に才能集まり過ぎてません?僕、自分のが流れるの不安になってきたんですが」
キンメが感心したように唸り、レベルの高さに四谷がボヤく。実際にオーバーズの1808、1809組とコラボを行っている四谷は、そのタレント性やスター性を間近で感じている。ACT HEROESコラボで一緒になったエキドナ・エレンシアは現時点で唯一の1808組である。本来6月デビュー予定だったが、自宅で転倒して腕を骨折してデビューが先延ばしになった不運な女性だ。そんな苦労話を笑いながら話せる快活さは、初の外部コラボだった四谷からすれば随分と助けられた、とコラボ直後に語っていた。
「多分ですが、オーバーズの方に四谷さんやユリアさんについて尋ねれば、同じセリフがそっくりそのまま返されると思いますよ。お二人はもっと自信を持っていいのです」
「あ、ありがとうございます……」
「自信……うーん、僕の場合初のソロ歌ですからマジで不安なんですよ……」
「適当に歌ったわけではないのでしょう?ならば、それは正しく評価されるはずです」
「そうそう。二人が努力家なのは私達だけじゃなくて、リスナーの人も知ってると思うからさ」
廻叉が後輩達へと諭すように言えば、照れたように礼を言うユリアとは対照的に、不安を隠せない四谷。しかし、廻叉とキンメが意に介さず励ますように続ける。そんな後輩達の姿を軽く笑い飛ばすのは、1期生の二人だった。
「どーんと構えてりゃいいんだよ。どーん、と」
「開き直りって割と重要だよ?」
「えええ……」
「あの、お二人は、自分の歌がどう反応されるか、とかは気にならないんですか?」
余りにも大雑把なアドバイスに困惑する四谷。その自信に満ち溢れた態度に純粋な敬意を向けるユリアが二人に尋ねた。自己評価が最低値こそ脱したが低空飛行を続けているユリアにしてみれば、先輩達の自信がどこから来るものなのか気になって仕方なかった。
「絶賛しか見ねぇもん」
「コメントは都合の良い所だけ受け取っておけばいいよ」
「……お二人もここまで極端にとは言いませんが、賛否の賛を楽しみにするくらいの考えで居た方が良いとは思います」
ある意味、メンタルコントロールとしては大正解なのかもしれないが、あまりにも身も蓋も無い1期生の回答に3期生が絶句する。結果的に廻叉がある程度マイルドにした考えの持ち様を伝えた為、全くの無益ではなかった事だけが救いと言えば救いだった。
※※※
「いやー……凄いね。みんな気合入ってる」
「ナユやガンさんがおらん間に、みんなめっちゃ頑張っとったんやで」
「みんなすごい。それに、まえにあそんだひとも、いた。まだ、つづけてくれてるの、うれしい」
企業所属、個人運営問わず、各々が自身の個性を発揮するために作られた歌動画のメドレーは、『NDX』の二人から見ても想定外の熱量と技量だった。徐々にインターネットという世界で文化圏の拡大を続けているVtuberというジャンルに、これだけの人数と才能が集まっている事をGAMMAは頼もしく思い、NAYUTAは活動停止前にSNSやコラボ等で遊んだことのある相手が居る事を喜んだ。
その中でも特に印象に残った作品を語り合い、コメント欄に当のVtuberが話題に出した事の謝礼に現れ、それをまたMC勢が拾ったりと、終始和やかな雰囲気で続いていく。このジャンルに興味がない者から見れば、身内同士のなれ合いに見えるかもしれない。だが、昨年行われた同様のイベントと比べれば、『内輪』の範囲が比べ物にならない程に広がっている。そして、己の決断と行動力だけでいつでも内輪の内側に入れるのがVtuberというジャンルだ。
「さて、それでは次はお待ちかねの生ライブ!トップバッターは、Re:BIRTH UNIONの首領、ステラ・フリークス!!」
《ステラ来たああああああ!!》
《ライブのステラ見るの初めてだからマジ楽しみだった》
《ステージセットが気合入りまくってる……》
《歌唱力と映像の暴力で7人目になった女だ、面構えが違う》
《衣装綺麗……》
黒を基調としたライブステージ映像に切り替わる。まるでプラネタリウムの様に、星の海を背景に彼女はスタンドマイクの前にまっすぐ立っていた。
「改めまして、私はRe:BIRTH UNIONのステラ・フリークス。人は私を『極星』だとか、『歌うコズミックホラー』だとか、色々な呼び方をしているね。まぁ、名前からしても私は、星につくづく縁があるらしい」
芝居がかった大仰な喋り方で、ディスプレイやスマートフォン、タブレット端末で見ているであろう視聴者へと話しかける様に言葉を紡いでいく。
「私は『極星』かもしれないが、独りではない。今日は、きっと私の仲間達の歌も、動画メドレーで流れるだろう。そして、君達は改めて知るのだ。ステラ・フリークスという『極星』は、今や星座になったのだ、と」
背景の映像に映っていた星に、線が伸びていく。七つの点を繋ぎ、その上から蜥蜴を模した絵が被さる。
「では、今夜は新曲だけを歌うとしようか。リザードテイル、Re:BIRTH UNION、そしてステラ・フリークスの名を知らしめるために」
両手を広げて前へと差し出す。この手を握れ、と命ずるように。
「さぁ、始めよう――『Constellation』」
次回、ステラ様のガチライブ。
御意見御感想の程、お待ちしております。