「2018年の終わりに向けて」
低気圧による体調の微妙な悪さと戦いながらも完成しました。
よろしくお願い致します。
「というわけで、開始から1時間経過しましてステラ・フリークス様ご到着です。お疲れ様です」
「やぁ、遅くなって申し訳ないね。玉露屋縁氏のインタビューがあってね。例の年末イベント記事だよ」
「あー、3Dで参加する人らが受けてた奴ね。って、玉露屋さんブースの外に居るな」
「ここから見ても分かる『社会人同士の年末の御挨拶』だあ……」
《来たー!!》
《ステラ様ー!》
《あの記事か。一年振り返りつつ年末イベントへの期待度煽ってくれてたな》
《玉ニキ居るんだw》
《目に浮かぶようだ>社会人同士の年末の挨拶》
《大事な取引先だからなw》
スタジオ内にステラが登場し、一言発しただけでコメント欄の加速した。更には玉露屋縁の存在が示唆されると更に盛り上がる。本人はスタジオ内に入る気は一切なく、ブース外でリザードテイルスタッフと年末の挨拶に勤しんでいた。
「ところで、四谷くんはまだ来ないのかな?確かオーバーズの子達と胡乱なタイトルのコラボ企画に出てたはずだけど」
「オーバーズ胡乱なタイトルしかねぇんだよなぁ」
「先ほど連絡がありました。『これから泣きの4戦目が始まるのでもうちょっと遅れそうです』との事です」
「あ、似てる……」
《草》
《オーバーズって大体変なタイトル付けるよな……》
《無駄に長いサブタイトル付きの配信があったら大体オーバーズ》
《似てて草》
《声色というか、喋りのクセの掴み方が異様に上手い》
《泣きで貰えるチャンスは基本一発勝負だけなんだよ》
《4戦は草》
《ガチ泣きしてそう。してたわ(二窓勢)》
《お嬢久々に喋ったな》
《さてはずっとケーキ喰ってたな?》
※※※
「えー、では最後の試合でギリギリまで逃げたけども、結果四谷くんに5連敗を喫したL.O.Pの皆さん。泣きの1戦目の時に約束した一言をどうぞ」
『我々は小泉四谷さんに完全敗北した事をここに認めます!!』
「あははははは!!!練習したかのように息ピッタリなの笑うんだけど!」
「えー……あ、うん。恐縮です。はい」
7人による高らかな敗北宣言に、リリアムが爆笑し、四谷は苦笑を浮かべていた。泣きの一戦が何度も続く、場合によっては視聴者のフラストレーションが溜まる展開にはなったが、徐々にチームワークを上げていき上級者である四谷に肉薄し、四谷もそれに付随するようにプレイの精度が上がっていった。
「いや、本当にありがとうね。この後リバユニさんのクリスマス会でしょ?」
「まぁ実質忘年会ですけどね。あ、今リバユニ公式チャンネルで配信中なので見て下さると嬉しいです。この後、僕が何分で事務所に着くかも注目してくれると嬉しいですね」
「サラッと告知入れる辺り、初外部コラボとは思えないんだけど……オーバーズの子達もすぐに打ち解ける子ばっかりだし、9月デビュー組みんな地力あるねぇ……」
《面白かった》
《四谷チャンネル登録してきた》
《リバユニ忘年会と2窓してたわ》
《この後スタジオ行くのか……》
《リリアムが新人の力量に慄いておられる》
《17年デビュー特有のベテランムーブ》
「という訳で、本日のコラボはここまで!いやー、後輩わからせるの気持ちいいね」
「一番酷い負け方した癖に……」
「ネメシス、ダメだって!事実は人を傷付けるんだから……!
「クロム!お前もだよチクショウ!!」
「良い性格してるなぁ、みんな」
企画者であるパンドラ・ミミックだけが後輩にやや舐められて終わるという大団円で、オーバーズによる大人数コラボは無事終了となった。なお、小泉四谷によるスタジオ到着RTAが同タイミングで始まりSNS上で若干の盛り上がりがあったが、特にフォロワー数やチャンネル登録者数には影響しなかった。
※※※
「……お、お疲れ、様です……」
「業務連絡、小泉四谷さん到着しました」
「小泉さん、お疲れ様です……あの、大丈夫ですか?」
「まわりに、人のいない所、全部走った、から……キツい……かも……」
「大丈夫?ビール飲む?」
「レモンサワーもあるぞ」
「やめなさい」
《四谷到着!!》
《息切れしてて草》
《人の居るところでは走らない常識人》
《なおさっきまで飛び回りながらオーバーズを狩ってた模様》
《今疲れてるのもスキルとウルトの使い過ぎ……?》
《事務所ダッシュRTAは25分か。勿論世界記録》
《疲れてる奴に酒を勧めるなw》
《これだから1期生は》
見るからに疲労困憊という実際には会社近くのマンションに住んでいる為、10分程前には到着していた。だが、あまりに早く到着した場合、彼の住所をある程度絞られる可能性がある事を危惧したスタッフの提案で登場を遅らせる事になった。更に、ある程度の部分を走った事にして事務所への所要時間を更に分からなくしよう、という提案が四谷本人から出され、先程までブース外でスクワットを延々続けていた。
なお、最初は腹筋や腕立て伏せという案も出たが「走ってきたんだから脚を使う事をするべきでは?」というツッコミが廻叉から入った。その会議の一部始終を見ていた玉露屋縁は、身バレ・住所バレといった情報漏洩対策がしっかりしている事に感心しつつも、その為にスクワットをするという発想に関しては「どこかズレてるな」という感想を持ったが、口には出さずにスタッフとの談笑を続けていた。
「とりあえず、四谷さんの呼吸が落ち着くまでは待つとしましょうか」
「そうだね。それじゃあキンメちゃん以外の全員揃った事だし、今年一年の振り返りと来年に向けての抱負でもそれぞれ語って貰おうかな。ちなみにキンメちゃんの分は事前に動画で貰ってるからそれを流す事にするよ」
《年末らしい企画だな》
《そういえば、ステラ以外は全員今年デビューか》
《長い一年だったなぁ……》
「じゃ、1期生から順番で行こうぜ。トリがステラ様って事で」
龍真が咳ばらいを一つし、マイクの前に。
「まぁ今年一年、Vtuberとしてデビューして思ったのが、思った以上にラッパー多いなって事で。スタイルも歌ってる内容も全然違う中で、Vtuber業界自体が好きだって共通項はあって。バトルはしても本格的なビーフやディスり合いは無い。俺みたいな新興企業の新人も歓迎してくれて、良い所に来れたって本気で思った」
三日月龍真は元々、リアルの世界でHIPHOPミュージシャンをしていた。紆余曲折を経てRe:BIRTH UNION所属1期生としてデビューしたが、最初は自分一人だけで細々とラップをやるつもりだった。しかし、デビューしてすぐに『バーチャルサイファー』というVtuber内のラッパーコミュニティに誘われ、今では中心人物の一人としてラップ普及活動に勤しむ日々を過ごしている。
「来年は、Vtuberのラップシーンをより盛り上げつつ、一大勢力にしたいって思ってる。その為に、バーチャルサイファーで楽曲を出した。『宣誓』って曲だな。俺のチャンネルに上がってるけど、この面子での曲は参加者のチャンネル持ち回りでアップしていくからチェックしといてくれ。俺からは以上」
《ネタ一切なしのガチな振り返りと抱負だったな》
《宣誓はマジで名曲》
《個人勢ラッパー増えたよなぁ》
《今日は珍しくラッパーが来ないな》
「それじゃあ、次は丑倉だね。丑倉的には、Vtuberとしてデビューして何か変わったかって言うとそうでもなくて、ギター練習してギター弾いて歌って……って生活は変わってなかった。ただ、人に見られる機会が増えたからこそ、モチベーションに繋がったって感じかな。それに、まだ丑倉上手くなれるなって思った」
クールなギタリスト、という印象はやや変わったものの、丑倉白羽の一年は極めてマイペースに過ぎて行ったという印象を界隈に与えていた。個人Vtuberで楽器演奏をメインとしている者達からは、練習量やストイックな姿勢にリスペクトを送る者も少なくない。行動によって自分自身の評価を高めた事に自信を持っているのか、白羽の語る言葉は口調こそ普段通りだが、迷いがない。
「来年も変わらず……と言いたいところだけど、もっと積極性持って動こうかなと。歌の方もちゃんと習おうと思ってる。ギターボーカルとして、色んなセッション……早い話が歌ってみたコラボに打って出たいね」
《確かに良い意味で変わってない、というかブレない白羽》
《単純に上手くなってるのは素人目に見ても分かるからなぁ》
《コラボは期待》
《あとは下ネタを自重してくれれば……》
《執事とは別の理由で舌禍が怖い人》
「じゃあ、先にキンメちゃんに撮って貰った動画を流そうか。準備は……OKみたいだね、ではどうぞ」
ステラが合図を出すと、画面が切り替わり魚住キンメの姿が映る。背景が彼女の雑談配信等で使用している者と同じ為か、良くも悪くも特別感は一切無かった。そして、彼女自身もいつも通りに話し始める。
「ざっぱーん!魚住キンメです!今日は参加出来なくてごめんね!ほら、旦那と子供と過ごすクリスマスって大事だと思うから!」
《グサッ……》
《やめてくれキンメ、その言葉は独身の俺に効く》
《大事なのはガチだから文句も言えねぇのがもう……》
「今年デビューして、いきなりかつての名前がバレて色々大変だったけど、魚住キンメって名前により愛着を持てるようになったし、万事OKって感じかな。変な渾名が出来たのは喜んでいいのか何なのかって感じだけど」
デビュー時に前名義、所謂前世バレというトラブルが起きたキンメであったが、一切否定せずに認め、その上で前名義での活動を完全に終了すると宣言した事で覚悟と決意を示した。その結果、前名義からのファンにもVtuberファンにも受け入れられてスタートダッシュに成功した。なお、『マママーメイドメイド』なる渾名が独り歩きしている現状は、当人的に微妙ではあるらしい。
「そうだねー、来年はイラスト仕事も沢山受けたいね。歌ってみたサムネとか、依頼お待ちしてまーす!あと、私が活躍することで『結婚』や『出産』に対して前向きになってくれる人が増えたらなって思うんだ。それは視聴者のみんなに対してもそうだし、Vtuberの人達にもね。いつかはバーチャルPTAとか出来たら面白そうだよね。やる事は、たぶんゲームとかだろうけど!それじゃあ、皆さん良いお年を!ぶくぶくぶく……」
《イラストレーターの仕事伸びるといいよなぁ》
《あー……これはキンメならではの目標だわ》
《ここに斬り込めるのは確かに既婚者しかいねぇわ》
《VPTAとか新し過ぎない?》
《教育に悪いゲームとか煽りとかしてそうで草>バーチャルPTA》
「では次は私ですね。今年デビューして以来良くも悪くも話題に出して頂く事も多く、自分自身執事としても役者としても幅が広がった、という風に感じています。正直に言えば、チャンネル登録者数が1万人を突破するとは思っていませんでした。本当にありがとうございます」
相変わらずの鉄面皮と無感情を貫きながらも、正時廻叉は素直に感謝の意を視聴者に伝える。Re:BIRTH UNIONで唯一、炎上らしい炎上を起こした身ではあるが、悪影響らしい悪影響は殆ど無いままだった。彼自身は知る由も無いが、業界視聴率の高さがチャンネル登録者数の増加に繋がっており、業界全体の有望株の一人として見られている。
「来年以降は、執事としての技量も磨きたいと思い……紅茶とコーヒーに関しては専門書と器材を購入しました。今日も実際に私が淹れたものを未成年であるユリアさんや、お酒の飲めないスタッフの皆様にお出ししました。更に、役者としても――私の舞台を、より多くの方に見て頂ければ、と思っております。来年も何卒よろしくお願い致します」
《草》
《紅茶を高い所から注いでる姿、3Dで見たいわw》
《相変わらず無駄に思い切りの良い買い物っぷり》
《1万人記念みたいなのまた見たい》
「えーっと、じゃあようやく疲れも抜けてきたので僕から。改めましてこんばんは、小泉四谷です。デビューしてまだ3か月ちょっとなんですけど、ホラー系やオカルトが好きだって人が僕の配信や動画を見に来てくれるようになって、やっぱり好きな物をちゃんとアピールするのは大事だなって思ったのが一番かな。あと、同期のユリアさんやオーバーズの1809組のみんなとはこれからも仲良くやれそうで、友達もたくさん増えたし、Vtuberになって良かった、って本当に思います」
疲労回復に専念していた四谷の順番が回ってくると、途中参加だった事やこれまで疲れで話せていなかった事から勢いよく喋り始める。オカルトを前面に押し出した姿勢は、同様の趣味を持つ視聴者を集めて更にそこから一般の視聴者へと知名度が広がる、という専門系のお手本のような伸び方を見せた事で一躍有望新人の一角になった。
「来年も良いペースで、オカルトマニア御用達Vtuberになれればな、と。後は、他箱も含めた同期で業界をどんどん盛り上げていきたいと思ってます……と、こんな感じで!」
《マシンガントークだ……》
《じわじわ登録者伸びてるよな》
《今日のコラボで知ったけど面白かった。チャンネル登録します》
《LOPともまた遊んでくれ》
「え、じゃあ、次は……えと、石楠花ユリアです。その、Vtuberになれた事が、未だに夢みたいで……でも、私のピアノを聞いてくれる人が、こんなにたくさん居るんだって……それが、嬉しくて、楽しかったです。それに、私も小泉さんと同じで、他の事務所の……同期の、人。友達になりました」
自己評価の低さと、ピアノへの熱情だけで3ヶ月を走り抜けた彼女にとっては、『自分が必要とされている』という事実こそが、彼女の心の奥に残った傷を癒す薬となっていた。更に、にゅーろねっとわーく所属で同時期にデビューした如月シャロンと知り合った事で、ほぼ同年代の友人を得た事は、彼女の精神的成長に大きく寄与したと言える。
「来年も、またピアノと歌で、皆さんの心に何かを届けられたら、って思います。この前出した、洋楽のカバーは……そんな私の気持ちです。視聴者の方から、サビの歌詞の様に『歌ってくれないか、ピアノマン。今夜、私たちの為に』……って、思ってもらえるピアニストに、なりたい……です」
《ええ子や……》
《真清楚どころやない……大清楚や……》
《泣けるでぇ……ピアノマンのカバーも、泣けたでぇ……》
《コメントの雑関西人やめーや》
《マジでリバユニのエースになれる逸材》
《Vtuberになってくれてありがとう》
《カバー曲のMVやばかったぞ、泣けるぞ》
「では、最後に私から簡単に。今年、Re:BIRTH UNIONを私の希望で立ち上げて――私の望む、私と同じ道を歩んでくれる友達がこんなにも出来た。何より、私自身が本当に楽しく過ごせた一年だった。一生忘れない一年になったと思う」
短いながらも、ステラ・フリークスの感慨深さが伝わる回顧だった。超然とした存在から、少しずつ親しみやすさを覚える存在になったのは、間違いなくRe:BIRTH UNIONのメンバーによる影響だった。
「来年は、更に私たちの名が広まるように、その上で私を含めたみんなの願いが叶うように――全身全霊でRe:BIRTH UNIONを盛り上げていきたい。今年最後の大イベントはあるし、まだ一年終わった訳じゃないけど。本当にありがとう」
《888888888》
《ステラ嬉しそうだ》
《来年一番伸びる箱であって欲しい》
《なんか泣ける》
《後輩じゃなくて友達ってのがまた》
「さて、それじゃあパーティの続きと行こうか。特に、途中参加の四谷くんには盛り上げと……まだ大量に残っている料理の消化という大仕事があるからね」
「え……?」
Re:BIRTH UNIONのクリスマス会は、日付が変わるまで続いた。良くも悪くも普段通りな姿ではあったが、よく言われる『常人離れした精神性の集まり』『ヤベー奴ら』という姿はこの日に限っては表に出ず、同じ夢を追う仲間として楽しむ姿を、視聴者に見せた。
そして、更に時間は進む。
2018年12月31日。
『Virtual CountDown FES』が始まった。
次回、いよいよ大イベント……ですが、実際にライブ配信に出るのは『最初の7人』だけです。
どの様な形で描くか、楽しみにしていただければと思います。
御意見御感想の程、お待ちしております。




