「25日の夜は、どこもかしこも騒々しい」
小説で冬の場面を書いていたら、リアルで寒の戻りが直撃するとは思いませんでした。
集英社WEB小説大賞にも参加することにしました。応援よろしくお願い致します。
また、某アイドルゲームの総選挙の時期になって参りました。主にツイッターでひたすら選挙活動に勤しむ様が見られると思いますが、御容赦ください。
「いやあああああ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
『階段で上に逃げても、追い付かれたら逃げ場がないんだよね』
「ひゃあああああああ飛んできたあああああああ!!!!」
『イナゴベースの改造人間キラーだから、そりゃ飛ぶよ』
「お願い許して許して箱は違えど同期じゃん!!」
『そうだね、同期だね。でもここで逃げると恐怖が長引くだけだから終わらせるのが星狩さんの為なんじゃないかな。という訳でおやすみなさい』
「きゃああああああああああああ!!!!!」
《草》
《大騒ぎw》
《キャラコン難しいロウカストを使いこなしてるのすごい》
《ロエンちゃん、俺らの鼓膜の在庫を減らすのやめよ?》
小泉四谷が操るイナゴ怪人『ロウカスト』が星狩ロエンの操るエスケイパーを襲撃。最後の一人が全滅し、配信画面にはハンターの勝利画面が大写しになる。移動能力が低く歩行が遅い為、メインスキルであるハイジャンプに移動の大半を依存しているロウカストを使い、的確な距離に飛び込んでエスケイパーを駆逐していく様は、メイン視点であるパンドラ・ミミックの配信枠だけでなく、オーバーズ1809組・L.O.Pメンバーでの各配信でも恐怖と驚嘆が渦巻いていた。
「小回りが利かないロウカストなら逃げきれると思ったんだけどなぁ……」
「飛び過ぎて壁にぶつかるのすら利用してくるの怖すぎるって!」
「いやいや、お見事お見事!四谷くん誘って良かった!」
「ははは、でも正直緊張しましたし、途中負けるかなと思ったんですけどね」
《Tier下位のハンターも強い人が使えば強いんだな……》
《ジャンプ角度の調整精度がかなり高かったよな。ミスっても変な方向に飛んだりしなかったし》
《野良エスケイパーやってる時にロウカスト来ると「ガハハ勝ったな」ってなるくらいには弱キャラだぞ》
《シンプルに四谷さんが上手いだけでは》
《それな》
「さて、これでキラー側が一周して2勝1敗だが、まだやるかい?」
「その1敗、ドラちゃん先輩だぞ」
「俺は四っちゃんともう一回やりてぇかな。実質同期に負けるのは悔しいし」
「よ、四っちゃん?」
「私もそれに賛成。覚悟しろ四っちゃん」
数か月後、小泉四谷が『実質L.O.P』『オーバーズ1809組外部顧問』と呼ばれることになる事を彼は未だ知らない。今は、やたらと自分にライバル心を燃やしつつも当たり前の様に渾名で呼んでくる他箱の同期達の猛攻に耐えていた。
なお、再戦の結果、四谷が見事な完封勝利を決めた。
※※※
「いやー……各自持ち寄り、とはいえ思った以上に豪華だな」
「スタッフの人に写真撮って貰おう。飯テロ飯テロー」
テーブルの上に並べ終わった料理やドリンク類を見て、龍真が感嘆の声を上げた。スタジオからの配信である事を活かし、白羽がスタッフに撮影を求めて席を立った。実際、テーブルにはマイクなどの機材を除けば料理で埋め尽くされていた。特に、中央に鎮座する巨大なホールケーキの存在感が凄まじい事になっていた。
「わ、私……8号のケーキなんて初めて見ました……」
「しかもそれが2つですからね。今日の参加者、最大で5人なんですが……ああ、普段は事務所でしかお見掛けしない方もスタジオに詰めてるという事はそういう事ですか」
「イチゴショート……フルーツタルト……イチゴショート……フルーツタルト……」
「ユリアさん?」
配信参加者の人数から考えれば、明らかにオーバーサイズのホールケーキ2種。王道スタンダードなイチゴショートに、旬のフルーツを美しく整然と並べられたタルト、どちらも非常に美味しそうな見た目ではあるが、サイズという名のインパクトがそれを凌駕していた。外見に惑わされていないのは、この場においては石楠花ユリアただ一人だった。
《持ち込みかぁ。それぞれの食の性癖が見れるな》
《龍真がたじろいどる》
《サンキュー白羽。リバユニ公式アカでアップされてるぞ》
《うわ、すっげぇ》
《ケーキでけぇ!?》
《後でスタッフが美味しく頂きます(予告)》
《普通のご家庭なら5号サイズしか見ないもんなぁ》
《アカン、お嬢がバグった》
《かわいい》
《かわいい》
《ユリアさん?》
「豪華だけどシャンパンもデカいチキンもねぇよな。まぁ俺ららしいっちゃらしいけど」
「失礼な、チキンならば私が用意しました」
「手羽先じゃねぇか。胡椒の量がとんでもねぇけど」
「胡椒少な目の方もあります。ですが、お酒飲む方にはこちらの方がいいかと」
「分かってるなぁ、おい。流石だぜ廻叉」
《こいつら楽しそうだな》
《クリスマスパーティという名の家呑みじゃねぇか!》
《安ワイン買っておいてよかったー》
《チクショウ、作り置きの麦茶しかねぇ!》
《ビール持ったし乾杯待ち》
《コンビニチキンだってチキンだからセーフ》
《冷蔵庫開けたらサラダチキンとプロテインしかない》
《お前らも十分楽しそうだぞ》
雑談の流れからおざなりな乾杯の挨拶があり、コメント欄に総ツッコミをされながらクリスマスパーティは始まった。なお、十数分もしない内にケーキのサイズがスタッフを含めても食べきれるか怪しい、という流れになった。龍真は酒飲みであり、廻叉は一般に比べればやや小食気味。大きな誤算だったのは、白羽も甘味より酒に走ったことだった。結果、ケーキの消費はユリアに任されることになるのだが。
「んー…………幸せ………………」
一口ずつ、じっくり味わうタイプの甘党だった。ショートケーキとタルトを各2ピースずつ自分の取り分として確保しているが、今のペースではユリアが完食するのは当分先になりそうだった。
※※※
「ありがとうございました。申し訳ありませんでした、こんな日にこんな時間まで……」
「いや、この時間にしか開けられなかった私の都合に合わせて貰ったんだ。むしろ謝るのは私の方だよ」
最近になり肩書をVtuber関連の専属記者と改めた玉露屋縁が申し訳なさそうに頭を下げた。取材対象であるステラ・フリークスが困った様に笑いながら顔を上げる様に促す。彼の所属するWebメディア『NEXT STREAM』で年末の大型イベント『Virtule CountDown FES』に関する記事が連日の様にアップされ、SNS上のトレンドにも何度か表示されるなど、大きな話題になっていた。
「どうせならお詫びも兼ねて……下のスタジオに来るかい?丁度、クリスマス会配信をやっている所でね」
「お誘いはありがたいのですが、今日のインタビューを記事にまとめなければいけないので……それに、私の様な部外者が配信にお邪魔する訳にはいきませんよ」
「残念。でも、その仕事に真摯な姿勢がどの箱のファンからも信頼される理由なのかもね」
「ははは、好きだからこそ出来る事ですよ。TryTubeでデビュー直後のNAYUTAを見付けた時には、ここまで大きなムーブメントになるとは思いませんでしたけどね」
ステラの誘いを丁重に断る玉露屋の言葉に、心から残念そうに言いながらも納得するような表情を彼女は浮かべる。実際、玉露屋縁という存在は『Vtuberの記事で一番信頼できる記者』という界隈からの評価を得ている。更に言えば2017年当初、人知れずデビューした電子生命体NAYUTAを発見し、新しい形のTryTuberとして紹介したのが玉露屋縁だった。
「そのNAYUTAが帰ってくるって知った時、どう思ったのかな?」
「……恥ずかしながら、泣いてしまいましたね。最後に残した動画の隠しメッセージの事は知っていましたが、それでもどこか諦めていましたから。それが帰って来てくれて、しかも願真くんと組んでアメリカから新しい、そして巨大なムーブメントを起こそうとしている――彼女を見付けて本当に良かった、と思いましたね」
「恥ずかしくなんかないさ。なんせ、『NAYU願の帰還を知ったVtuberの反応まとめ』なんて切り抜きが出来て、しかもかなりの速度で再生回数を伸ばしているんだから。切り抜き師さんもテンション上がったのか、今じゃPart.4まで出てるからね。ちなみに、Part.4では玉露屋さんの『泣いた』っていうSNSの呟きも拾われてるよ」
「え……?」
まだ件の動画を見ていないのか、それとも動画を見た上で見逃したのか、どちらかは窺い知る事は出来ないが、玉露屋が固まったのは事実だ。ステラから見て、彼は自分のネームバリューを過小評価しているようにすら見える。
「各事務所の表に出てるスタッフや公式アカウント、果ては事務所の社長の反応もまとめられていたからね。玉露屋さんもそういう『関係者』として見られてるって事だよ」
「畏れ多いですよ。俺なんて、一介の記者に過ぎませんから」
「そうかな?玉露屋さんのVtuber業界に対する貢献度で言えば、そう見られて当然だと思うよ。……これは個人的な意見だから、気に入らなければ聞き流してくれて構わないんだけど」
姿勢を正し、真っ直ぐに玉露屋へと視線を向けてステラが笑う。
「私は、君こそVtuberになるべき人材だと思うけどね」
玉露屋は驚いたように目を丸くしたまま、暫く押し黙る。彼の頭の中では、仮に自分がVtuberとしてデビューした場合のメリットやデメリット、あるいは客観的な視線と主観的な想いとが混ざり合っているのだろう、とステラは推測する。急かす事もなく、答えを待った。
「アバターを持つだけで、Vtuberという肩書は名乗らない、という形ならば」
「なるほど。その心は?」
「仮に私がVtuberとして今の仕事を継続した場合、取材対象と距離が近付き過ぎてしまう気がするんです。読者の方からすれば、身内の提灯記事を書いてるように思われると……私の評判はさておき、界隈の評判が下がるのは許容できませんから」
「……そのセリフ、NAYUTAやGAMMAの前で言ってごらん。秒で引き抜かれて、翌日にはVtuberデビューしてるよ?」
「あの二人ならやりかねないのでオフレコでお願いしますね」
自分の名誉よりも取材対象への配慮を優先する姿は、NDXの二人からすれば喉から手が出る程欲しい人材だろう。Vtuberという存在を新次元へと押し上げる事を本気で考えているNDXの理念からすれば、玉露屋ほど界隈への愛情を持つ人物を傍に置きたいと思うはずだ、とステラは推測する。あの二人であれば、NAYUTA01、GAMMA02に並ぶ『03』のナンバーを彼に用意するくらいの事は平然と行うはずだ。
人気絶頂期に、理由はある程度違えどほぼ同じタイミングで休止という判断を取る思い切りの良さ。そして目的の為にならばいくらでも貪欲になれる無限のモチベーションこそが、あの二人を『最初の七人』にした最大の理由だった。
「でも、実際問題君の公平性は外部にあってこそ輝くというのも事実だ。例えば、廻叉くんの炎上事件とかね」
「……正直、あの件が起きた時、『廻叉さんらしくないな』って思ったのと同時に『廻叉さんならやりかねないな』って思ったんです。以前のインタビューで自身の活動を一人舞台と例えた事から、彼の演劇への並々ならない拘りを感じましたから」
身内の起こした炎上沙汰という事もあり、やや神妙に、それでも誤魔化すことなく名前を出したステラの言葉に、玉露屋は逆に極めて慎重に、言葉を選ぶように自分の印象を語る。実際に、廻叉が炎上した配信のアーカイブを視聴した上での、印象だ。
「恐らく、配信の内容に対するものだったら彼は限りなく寛容だと思うんです。アドリブで、観客と掛け合いをしているような感じです。ただ、流れや文脈に沿わない暴言などに対しては、極めて攻撃的だな、と」
「廻叉くんの場合、コメント同士で会話をむしろ推奨してるフシがあるからなぁ……コメントすら登場人物として、配信という舞台を面白くしようとしてる気がするよ。となると、流れも文脈も読めていない野次にはキツい一言を投げた上で劇場から追い出した、と」
「一部ではリバユニとラブラビの関係悪化を煽るような記事なんかも出てますけど、まぁそういう事にはならないでしょうね。今回は偶発的な事件に、お互いの配信者としての弱点が出てしまった結果炎上に繋がった形、という認識です」
正時廻叉の炎上に関しての玉露屋の見解は、当事者たる正時廻叉、エリザベート・レリックの二人がそれぞれ延焼させた、という物だった。ステラは興味深そうに続きを促す。
「廻叉さんは、荒らし的なコメントに対する執拗なまでの攻撃性の高さが、エリザさんは自分のファンに対する統率力、或いは自治力の無さが炎上にまで繋がったと思っています。というよりも、リバユニの面々って基本的に視聴者というかコメントに対して容赦がない所がある気がするんですが」
「否定できないね。たぶん、切っ掛けは1期生だろうけど。コメントとラップバトル始める龍くんに、投げっぱなし放置の白ちゃん。廻くんは龍くんの、キンメちゃんは白ちゃんのタイプを継いでるね」
「それを伝統にするのはリスク高い気がするなぁ……」
そして何より、炎上した後輩に対して一切心配する素振りすら見せないステラ・フリークスの存在が大きい。それぞれジャンルは違えど、Re:BIRTH UNIONは基本的にクリエイター気質・職人気質な面々ばかりだという事を玉露屋は今更ながらに思い返していた。
「さて、それじゃあそろそろ私も、後輩達の所に顔を出すかな。玉露屋さんも、スタッフに挨拶がてら少しだけスタジオに寄りなよ。手土産のお礼に、ケーキのお土産くらいは渡せるからさ」
「いや、悪いですよ。リバユニの皆さんや、リザードテイルの皆さんの分でしょう?」
「その皆さんが調子に乗って8号のケーキ2つも買ってきて消化しきれるか怪しい、想像以上にデカかった……ってさっき私のスマホに連絡が来たんだ」
「……消費のお手伝いになるなら、頂きます」
「助かるよ、いや本当に……」
退出の準備をしながら玉露屋は苦笑いを浮かべる。いつ来ても、規格外で何が起こるか分からない事務所だなぁ、と思いながらステラに先導されながら彼は地下スタジオへと向かった。
なお、スタッフやリバユニメンバーが調子に乗って大量購入していたのがケーキだけではなかった為、彼は持ってきた手土産のおよそ2.5倍近い料理や酒類を持って帰る羽目になる。
お嬢がリバユニの良心である以上に、玉露屋縁さんが界隈の良心となっている気がします。
文面から対象への愛が伝わって来る記事を書いてくれるライターさんは本当に信頼できる、と思っています。
御意見御感想の程、よろしくお願い致します。




