「迷宮の奥に潜む者」
この物語はフィクションであり、実在人物・団体とは一切関係がございません。
そして、他ならぬ私自身が「絶対にフィクションであって欲しい」と思いながら書きました。
【Re:BIRTH UNION総合スレ】より抜粋
926:再生回数7743 ID:********
執事のSNS、クソリプ祭りで草
927:再生回数7743 ID:********
本格的に炎上してるな
928:再生回数7743 ID:********
火種を持ってきたのはエリザのとこの鳩だけど、ダイナマイトで迎撃したのは執事なんだよなぁ……
929:再生回数7743 ID:********
ラブラビスレの加速がやべぇ
アイツら餌場見付けるとすぐこうなる
930:再生回数7743 ID:********
【悲報】執事、事務所呼び出し
ttp://short-net-sign.com/Re_Birth_UNION/************
931:再生回数7743 ID:********
残当
932:再生回数7743 ID:********
草
933:再生回数7743 ID:********
リバユニスレ初見なんだけど、なんでお前ら推しが燃えて草が生えてんだ?
934:再生回数7743 ID:********
>>933
良くも悪くも、この程度で潰れる連中じゃないって知ってるからかな
935:再生回数7743 ID:********
>>933
だって、執事の趣深い狂人っぷりが見れるチャンスだぞ?
936:933 ID:********
なにそれこわい
937:再生回数7743 ID:********
白羽とキンメが事務所まで行って執事に差し入れしに行くらしいw
ついでに配信で公開事情聴取しようと提案したけど流石に蹴られた模様
938:再生回数7743 ID:********
草
939:再生回数7743 ID:********
同期の絆てぇてぇ
940:再生回数7743 ID:********
ユリアのお嬢以外、マジで全員狂ってるなリバユニ
941:再生回数7743 ID:********
お嬢も大概だけどな……
ピアノ練習10時間配信は狂気の沙汰としか言いようがない
942:再生回数7743 ID:********
>>941
見てたわ。開始時の「ピアノを弾いて喜んでもらえる事が嬉しい」っていう聖人の様な言葉から、そのまま10時間ぶっ通しで弾き続ける狂人の行動
943:再生回数7743 ID:********
よし、みんな狂ってやがるな!
これだからリバユニ追うのやめられねぇんだ
944:再生回数7743 ID:********
そういえばこっちにはラブラビの荒らし来ないんだな
もっとこのスレも荒れるもんかと
945:再生回数7743 ID:********
執事の単独アンチスレがあって、そっちに結集してる
なお総合スレが荒れるのを見越していたこのスレの住人が建てた模様
946:再生回数7743 ID:********
スレ住民も大概狂ってやがるな!?
947:再生回数7743 ID:********
>>Re:BIRTH UNION所属2期生正時廻叉単独アンチスレです
>>現在炎上中の彼に物申したい方はこちらでどうぞ
>>なお、このスレは総合スレが荒れる事を回避するために御主人候補のリバユニ総合スレ住民が立てました(生産者表示)
草
948:再生回数7743 ID:********
そろそろ次スレの季節だな
しかし、俺らもヤベー奴らの箱を追い過ぎてヤベー奴らになってきたな
949:再生回数7743 ID:********
イカれた奴らの影響を受け過ぎてイカレた行動をするようになったリバユニスレ住民の明日はどっちだ
950:再生回数7743 ID:********
「狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり」って奴だな
※※※
Re:BIRTH UNIONの運営企業、リザードテイルのミーティング室は室内灯が落とされ、テーブルの上のスタンドライトの明かりだけが灯っていた。机を挟んで座っているのは一組の男女。神妙な表情を浮かべる魚住キンメこと清川芽衣、そして無表情のまま椅子に座る正時廻叉こと、境正辰だった。彼は先日の配信において、荒らしに対して煽り返す一言を放ち炎上。現在も彼個人の動画アーカイブやSNS、更にはRe:BIRTH UNIONの問い合わせメールフォームにも苦情や誹謗中傷のメッセージが届いている状態だった。
「……なんで、あんな事をしたのか、キリキリ吐いてもらおうかな?」
「このシチュエーション作る必要あります?」
「質問を質問で返すな!あと佐伯さん来たらどうせ真面目な話になるから今のうちに茶番したい!」
「清川さんだけに限りませんが、弊社のVtuberは茶番への情熱が過剰だと思います」
オールドスクールな刑事ドラマの取り調べシーンの様に芽衣が問い詰めるが、正辰に混ぜ返されて早々に脱線した。正辰が立ち上がり室内灯を点けると、丁度そのタイミングで佐伯が入って来た。
「お疲れ様です。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「注意喚起した上で、しかも君がやったって事はある程度理由はあるんだろうけど、事情は聴かせてもらうからね」
「勿論です、全て正直にお話します」
「正辰くんの『正直に』って、とんでもない暴言が出てくる可能性高いよね」
「……俺もそう思う」
統括マネージャーとして注意する立場にあるとはいえ、佐伯は境正辰という人物の性格上、軽率にキレてやらかしたという事は考えにくい。逆に言えば、正辰が熟慮を重ねた上で炎上するであろう言葉を放ったという事であり、故意犯であり計画性もある。しかも、まるで2Dアバターの正時廻叉と同様に、目の前に立つ人物は鉄面皮のままだった。
「はーい、お待ちどう。翼ちゃんが取り調べを受ける正辰くんの為に差し入れを持ってきたよ。お腹すいてるでしょ?」
「まぁ昼は食べていませんので、空腹ではありますが」
「翼ちゃん、何買ってきたの?やっぱカツ丼?」
「ううん、酸辣湯麺」
「なんでだよ!!」
事情聴取開始の直前にスーパーの袋を持ってきた丑倉白羽こと白金翼が現れ、その中からインスタント袋麺を取り出すと佐伯が耐えきれずにツッコミを入れた。正辰を呼び出すより数十分早く事務所に現れた女性陣二人が嬉々として取り調べごっこを始めるのは、空気を和ませるために百歩譲って許したが、何故取り調べに麺類なのか。そしてどうして酸辣湯麺なのか。かつて配信者でもあった佐伯のツッコミ気質が、このボケだかマジだか分からない行動をスルーする事は不可能だった。
「じゃあ、作って来るね」と給湯室へ向かった翼を三人が遠い目で見送ると、改めて今回の件に関する事情聴取が始まった。それぞれ椅子に腰を下ろし、今回の経緯を正辰が簡単に説明する。
「きっかけは本当に偶然、としか言いようがないですね。私、四谷さん、ユリガスキー少佐の三人でACT HEROESコラボ配信をしていた際、我々がチャンピオンを取った試合の最後の一人が件のエリザベート・レリックさんだったというだけです」
「で、相手方のファンが逆恨みして三人の所にコメントで文句言うわ、低評価付けるわで散々暴れ倒したんだよね」
「……確かに、それは避けられないけど、もうちょっと穏便に済ませなかった?」
正時廻叉炎上騒動の発端は、正真正銘、偶然に偶然が重なっただけであった。試合のマッチングが重なり、互いに善戦した上で最後の2チームまで残り、結果廻叉達のチームが勝利したに過ぎない。しかし、エリザベートがランク昇格が掛かっていた試合だった事や、悔し泣きする姿を見せた事、更に優勝チーム紹介画面に廻叉らのIDが映った事、その情報から『相手が配信中のVtuber』だと特定された事。
後は、自身の推しが悲しむ理由を作ったVtuberへの突発的な怒りと嫌悪を推進力に変えて、エリザベートの過激派ファンが彼らの配信へとやってきたというだけの話だ。
「外部の方も招いていましたし、四谷さん……っと、桧田さんはまだキャリアが浅いですから。油を撒いて火を私の所に集中させた方がいい、と判断しました」
「謝罪するかと思わせてからの超性格の悪い皮肉ぶち込むところは、流石我が同期って感じ」
「実際あの一言だけなんだよ、明確に挑発したのは。その後完全に無視し続けた辺りも、彼らがヒートアップした原因な気もするけど……」
当然のことをしたまでだ、と言わんばかりの正辰。ニヤニヤと笑う芽衣。若干引き攣ったような表情を浮かべる佐伯。良くも悪くも、佐伯久丸はRe:BIRTH UNIONひいては株式会社リザードテイルにおいては常識人寄りである事で、所属タレント達の奔放さに振り回されている。最初は常識人に見えた者達が、配信業を続けるにしたがって常軌を逸した部分が露呈していく様は、佐伯の胃壁に着実なダメージを与えていた。
「正直、罵詈雑言を飛ばされるだけなら全然大丈夫です。そもそも舞台役者をやっていた私が字面だけの暴言でダメージを受けるはずがないでしょう。演出家や舞台監督の方から大音量で放たれる暴言まがいのダメ出し、稀に飛んでくるペットボトルなどに比べたら、心を痛める要素すらありません」
「そもそも心あったっけ?」
「少しは」
「そこは堂々と『ある』って言ってくれよ……」
淡々と過去を語る正辰。内容は刺激の強い物であったが、それが当然だと思っているのか、嫌な過去を思い出すような雰囲気すらない。正辰自身も激しいダメ出しは何度も受けている。流石に物が飛んできたことは無いが、他の劇団員が投げられている現場は見た事があった。罵声や罵倒の本当の怖さを知っている以上、SNS等を介した誹謗中傷程度では何一つ心に響かない。
故に心があるかと聞かれれば、少しはある、というのが正辰の自己評価である。佐伯が何故疲れた表情でこちらを見ているのかわからず、軽く首をかしげるが返答は溜息だった。
「まぁいいや。先方さんは翌日の配信で注意喚起と謝罪をしてたから大丈夫……だって、思いたいんだけどね」
「んー、なんか引っかかる?」
「……炎上について20分くらい使ってたんだけどさ、大半が自分の所のファンへの注意を泣きながらしてて、こちらへの謝罪は最後。しかも、正時廻叉という名前すら出してなかった。『ご迷惑をおかけした皆様』で一括り」
「うわぁ……」
「しかもゲーム配信枠の冒頭に時間作った形だからね。おまけにドネート機能入れっぱなし」
「佐伯さん達が絡むのは慎重にしろって言ってた理由ちょっとわかったかも」
佐伯の説明に芽衣があからさまに嫌な顔をした。ラブラビリンスという箱についても、エリザベート・レリックというVtuberについても詳しく知らない芽衣から見ても、良くない対応だと感じた。
「ちょっと見てみる?」
佐伯がタブレット端末をテーブルに置き、ブラウザ履歴からエリザベート・レリックの配信アーカイブを開く。炎上に関する話題の部分だけ視聴する。涙声でファンに自重を求め、自分が不甲斐ないからこういう行動をさせてしまったと謝罪し、最後にご迷惑をお掛けした皆様にお詫びします、という言葉で〆られていた。その間も彼女の一言一言に反応してドネートコメントが列を成し、合間合間に謝らせた相手側のVtuberへの逆恨みのような言葉が飛び交う。
「……なんかこう、典型的なオタサーの姫って感じだね」
恐らく、大分オブラートに包んだであろう言葉が芽衣から零れる。自分達の配信に付くコメントとは、全く性質が違うそれに、若干慄いているような雰囲気でもあった。
「正辰くん的には、どう?当事者として、この対応は」
「はっきり言えば謝罪されたところであの程度の暴言なら別にどうでも、という話ですが」
「うん、それSNSとかで言わないように。……エリザベート・レリックさんについては?」
過去の活動履歴が予想できない形で悪影響を及ぼしている様に佐伯は溜息を吐き、相手側の印象を尋ねる。
「泣きの演技がなかなかお上手だと思います」
その一言で、佐伯と芽衣が凍り付いた。
※※※
「んー、無感情系の人なんだ」
自身の配信を終えたエリザベート・レリックが見ているのは、正時廻叉が自分を倒してチャンピオンを取ったACT HEROES配信のアーカイブだ。タイムスタンプ機能で、自分の家臣が彼の配信のコメントに現れたタイミングから見始める。
「なんか住民も慌ててないし、なんで草生やしてんの?意味わかんないんだけど。そういうのじゃないじゃん」
面白くなさそうにコメントの流れを見ていく。他の二人の所は先に見たが、そちらもあまり面白くはなかった。勝手な話を延々続け、自分の家臣のコメントに見向きもしない様はつまらなさ過ぎて、見る価値もない物だった。
『そちらのエリザさんという方にお伝え願えますか?私はそこまで上手くないので、貴女のファンが望むような八百長は出来ません、と』
「……何こいつ、マジでムカつく」
そして件の正時廻叉の一言は、彼女にとって許しがたい物だった。火の手が上がっているにも関わらず、逆に油を注ぐような言葉。そして何より、『ファンが八百長を強要しなければ勝てない腕前なんだろう?』という廻叉が込めた皮肉を、エリザベートは正しく受け取った。
「ねぇ、夏乃、天歌。次のタゲ、リバユニにしよ?」
繋いだままのDirecTalkerに向かってそんな提案をする。部屋名は設定されておらず、入室用にパスワードが必要となっている完全にプライベートな通話だ。ただし、お互いの本名をきちんと覚えていない為、彼女たちはVtuberとしての名前で呼び合っていた。
『リバユニってステラ・フリークスの所?あそこカルト宗教っぽいから触りたくない』
『私はいいよー?声からすると、執事くんもラッパーくんもオカルトくんも、そこそこリアル顔も良さそうだしね』
「でもこういう我が道を行くーみたいなツラした奴らが炎上して謝罪してるとことか、超面白いじゃん」
エリザベート・レリック。泣き虫で健気な令嬢。それが表の顔。
裏の顔は、自身のファンを操って炎上を焚きつけ、他人の謝罪する様や精神の均衡を崩す様を見る事が何よりの楽しみであるという人格破綻者。
『ま、火を付けたきゃ勝手にすれば?マネとかが邪魔してくるかもしれないけど、その時は社長に言って担当降ろすようにお願いしてあげるからさ。つーか、アンタが一番私に感謝しろって話よ。アンタの趣味が一番ラブラビアンチ作ってんだよ』
淀川夏乃。面倒見がよく、包容力のある女性。それが表の顔。
裏の顔は、ラブラビリンスを運営する企業の社長の娘という立場を悪用し、自分達の都合の良い人材を集めて好き勝手に振舞う暴君。
『むしろ、オフコラボ頼んで欲しいなー。こないだ個人勢の子とあったけど、ガチ中学生でさー。可愛かったけど、個人的にはまだ食べ頃じゃない感じ?下手に手ぇ出して親とか出て来られても面倒だしねー』
則雲天歌。甘い歌声で聴く者を魅了し、誰にでも分け隔てなく接するアイドル歌手。それが表の顔。
裏の顔は、恵まれた容姿を以てオフで出会ったVtuberや周辺のスタッフ等、自分の好みの男を誘惑し、肉体関係を持つ事に血道を上げる悪女。
バーチャルアイドルを名乗る彼女たちの真の姿は、『愛の迷宮』に巣食う怪物だった。
迷宮の深淵に住む、愛らしい姿を持った三人の怪物。
Vtuber側を明確な悪として書くという事に躊躇はありましたが、Re:BIRTH UNIONの思想的な対立軸に据えるに値する存在を描こうと思い、彼女たちを書きました。
今回は賛否両論、むしろ否の方が多いかもしれません。
御意見御感想の程、お待ちしております。




