「近い未来の為に出来る事」
龍真廻叉による無軌道ラジオの続きとなります。
この二人を書いてる時の筆の乗り方が異常です。
そして以前にタイトルを伏せた、ある楽曲が投稿されます。
「という訳で、フルコーラスで流させていただきました。フィリップ・ヴァイスさんのチャンネルに投稿されておりますので是非」
「さっき開いたらフルコーラスじゃなくて、フルコーラスを60分耐久にした奴が上がってたんだけど。何なの、これがデフォなんか?」
《草》
《腹筋に悪い》
《★フィリップ・ヴァイス@OVERS1804:その方が面白いかと思って》
《あいつらも変な方向に思い切りがいいからな》
《正蔵おじがボケに乗ると収拾がつかない》
《おるやんけ》
《何故執事が参加しているのか》
「いきなりニュース原稿送られてきて『動画で使いたいから読んで』と雑に頼まれた時は何事かと。まぁ読みましたが」
「何故かギャラが事務所に現金書留で送られてきたんだよな」
「フィリップさんと秤さんは自由過ぎる節がありますから。我々が言うのもどうかという話ですが」
「俺らはまだ指向性のある狂気だけど、あの二人360度全方位に狂気ぶちまけるからなぁ」
《★フィリップ・ヴァイス@OVERS1804:お褒めに預かりまして》
《お前らが言うなw》
《草》
《反応早ぇよフィリップ》
《褒めてねぇよ》
「しかし久々に無感情で台本を読んだ気がします。私が読む朗読作品や、ボイスなどは普段より少し感情を出すように心掛けていますが、ニュース原稿という媒体だとそうもいきません」
「……少し?」
《少し?》
《何を仰る執事殿》
《お前のアレは感情というより激情だろ》
「その辺りは認識の違いでしょう。本気で感情を全て出してしまうと、台本を逸脱してしまいます。それは、脚本家や演出家の意にそぐわない……というのが役者としての建前です」
「建前かい」
「本音を言えば、感情のブレーキが利かなくなるような気がするのです。私は……脚本に入り込み過ぎる悪癖がありますから」
《建前かよ!》
《真顔ですっとぼけた事言うから困る》
《あれでブレーキ掛けてるってマ……?》
「あー……いつぞやの配信でやってた『少年の日の思い出』とかヤバかったもんな……エーミールのセリフでゾッとしたわ」
「『ぼく』のトラウマになるような言い方を追求した結果です」
「ではここで、その時の気持ちであのセリフをどうぞ。3、2、1、キュー」
《教科書で読めるトラウマ》
《うわ、出た……》
《見てたわ、その配信。コメ欄阿鼻叫喚だった》
《主人公の居た堪れなさや罪悪感の表現もヤバかった》
《おいやめろ龍真死人が出るぞ!!》
『……そうか、そうか、つまり君はそんな奴なんだな』
《ひぃ!!》
《やめろやめてくれ!!》
《すまない、すまないエーミール……》
《本気の軽蔑と嘲笑やめーや》
《甘い言葉とかより気合入ってる疑惑》
「相変わらずスッと入るよな」
「そこはまぁ、経験です。本職の俳優・女優の方に比べたら拙いにも程がある演技ですが」
「お前、その辺り謙遜通り越して自虐の域に達してるよな」
「ですが、本音です。いずれは執事としても俳優としても一流になりたいと思っています」
《間違いなく経験者のそれなんだよなぁ》
《マスクも相まって正体不明感が強い》
《最近オペラ座の怪人扱いされてるよな》
《自分に対してなんでこう厳しいんだ、執事は》
《覇道よりも求道か》
《リバユニの人らってなんかこう、突き詰める事に躊躇が無いんだよな……》
「まぁでも俺らは大前提Vtuberだからな。現実と虚構の間に居るからこそできるやり方してかねぇと」
「ふむ……どちらにしても3Dの体を手に入れたいですね。コスト面もあり、弊社ではステラ様のみの実装となっていますが……」
「3D一番多用してるのってエレメンタルとにゅーろだよな。あの辺は、バーチャルアイドル事務所だから歌って踊ってるところ見せてナンボってのもあるし大分力入れてるよな」
「オーバーズさんは棒人間というか……ピクトグラム……?に近いモデルを作っていて全員が使える共用モデルにしてますね。3Dお披露目に乱入したり、バラエティ企画に使ったりしていましたね。この前見たら、緑と白と黒の三色にまで増えていて驚きましたが」
「あれ、上手いよなぁ。本人の3Dモデルが出来るまでに練習出来るし、何なら外部のゲストや、それこそ現実世界の人達をこっちに招くのにも使えるし」
《確かに》
《意外とVtuberとしての自覚が強めのリバユニ》
《3D見てぇなぁ》
《あの辺は最初から3Dあってこそ感がある》
《エレメンタルは実在感強いし、にゅーろは動きの精度がそれぞれヤバい》
《オーバーズの棒人間3Dはクッソ笑った》
《エイプリルフールで新人が3Dデビューとか言ってあれだからな……w》
《一番酷使されてるモデルでもある》
《誰かの3Dモデルお披露目で大体出て来て雑に扱われるピクトくん》
《荒く扱われてる時の中身大体京吾説》
「実際、我々が3Dモデルを持ったとしてですが。龍真さん、白羽さん、ユリアさん、あと私は何をするか大体想像がつくと思うのですが」
「まぁ音楽やるか演劇やるかだわな」
「四谷さんとキンメさんが何をやるのか気になりますね」
「……確かに。割とバラエティ出来る二人だから、何でも出来そうだから逆に想像付かねぇわ」
《音楽系はまぁ大体歌うよな》
《執事の一人芝居も見たいけど、執事ムーブしてるとこも見たい》
《四谷とキンメの二人にはVRホラゲー同時プレイして欲しいなぁ。ホラー耐性最強と最弱の二人で》
「我々にとって共通の目標ですからね。いつかは全員3Dの体でSinを歌いたいですね」
「その場合、俺らの普段着じゃなくて専用衣装の3Dモデル錬成する必要あるんだぞ……」
「稼ぎましょう」
「それしかねぇかぁ……」
《いいなぁ、マジで見たいわ》
《むしろ2DでデビューしたVtuber全員の夢であり目標だよな>3D》
《デフォ衣装だとちょっと合わないのは分かる》
《草》
《世知辛ぇなぁ》
《毎度毎度思うけど、本来表立って言わない事全部言うなこいつら》
「ドネートはあくまでチップですからね。会社にお金を落とすにはやはり案件でしょうか」
「正直貰ってもまぁまぁの割合TryTubeに吸われるしなぁ」
「会社が大きくなった方が最終的に私達への収入に繋がりますからね」
「映像制作部がめっちゃ頑張ってるよな……Vtuber事業部潰さねぇように頑張らねぇと」
「居場所を失う苦しみは一度だけで十分ですから」
「だな……ん?」
《そこまで割り切ってるのか》
《ドネートのお金も個人単位なら大金だけど会社の運転資金にはならん、と》
《TryTubeの中抜き、3割だっけか》
《明るい未来と暗い現実を交互にぶつけるのやめよう?》
《執事……?》
《ほらまた過去匂わせるー》
「どうされましたか?」
「いや、お前もかと思って」
《えええ……》
《なんか絶対そういうバックボーンあるんだろうなって気はしてた》
《ああ、Re:BIRTHってやっぱそういう……》
《ユリア嬢なんかデビュー配信で言ってたもんな》
《ここにきてリバユニの共通項が見付かったか……》
《嫌だわ、そんな負の繋がり》
「ああ、龍真さんもですか」
「ま、ありふれた挫折とよくある絶望って奴だな」
「仰る通り。更に言うならつまらない失意と、安い苦悩です」
「で、俺に残ったのがラップで」
「私に残ったのが執事として、役者としての矜持です」
「お前二つも持っててズルくね?」
「一つに絞れなかった半端者ですよ」
《ライトにヘビーな話してる……》
《本当に大したこと無さそうに言うのが怖い。ポーズじゃなくてガチだってわかるのがより怖い》
《★フィリップ・ヴァイス@OVERS1804:正気の顔で狂ってるの最高だな》
《今日も健やかにガンギマってる》
《フィリップが楽しそうで草》
《そういえばこいつ芸人だけど愉悦部でもあったな…… 》
《俺らから見ると二足の草鞋だけど、執事的には半端者になるのか》
「じゃ、半端者と言えなくなるくらい研鑽しとけ。先端走りたきゃ平坦な道歩いてる暇はねぇからな」
「相変わらず熟語で韻を踏むのがお好きなようで……」
「韻の勉強の為だけに同音異義語調べたくて国語辞典買ったからな」
「ラッパーのイメージをどうしたいのですか、龍真さんは」
《おお、流石》
《普通のトークに韻踏み混ぜるの好き》
《ラッパーと勉強って同線上に存在できるのか……》
《★ラッパーVtuber・MC備前:辞書とかは暇つぶしによく読むぞ。ラッパーは語彙力が命だからな》
《作詞のネタ出しには必要なんだろうなってのは分かるが》
《やんのかい》
《備前ニキの貴重な証言ktkr》
《★ダルマリアッチ@Vtuber:こいつらだけに決まってんだろ》
《反論が速攻で来たw》
《★ラッパーVtuber・MC備前:俺はお前ほどフロウ強くねぇからそういうとこで差ぁ出さな個性が出ねぇんだわ》
《★ダルマリアッチ@Vtuber:急に褒めるな照れるだろコノヤロウ》
《ラッパー共イチャイチャすんな》
「スタイルはそれぞれ、という事ですね」
「そういうことでーす。ダルちゃんの変態フロウも、備前の細かすぎて伝わってるか不安になる韻踏みも俺は大好きだからなー愛してるぜ、マイメン」
《ラップと無関係な執事がまとめるの草》
《恥ずかしげもなく愛してるって言える龍真すげぇってたまに思うわ》
《★ラッパーVtuber・MC備前:俺も龍真しゅき》
《★ダルマリアッチ@Vtuber:パパ……》
《草》
《草》
《こいつら……w》
《ダルさん一番年上だろアンタw》
「それじゃあ、楽曲の方に行きましょうか。ラッパーの皆さんが今日も集まっていますので、龍真さんの曲を掛けましょう」
「OK、じゃ、先月にソロで出した曲掛けるわ。俺だってトラップ乗れるんだぞってとこを見せ付けたいだけの曲だけど」
「概要欄にそういう事書くの好きですよね、龍真さん」
「誰よりも正直に生きているからな、俺は」
「そんな龍真さんの楽曲です。お聞きください。『Knock On』」
※※※
「……よし」
龍真と廻叉のラジオ番組のアーカイブを作業用のBGMに、石楠花ユリアは動画の投稿を完了する。今までは配信での弾き語りが中心だった為、いわゆる「歌ってみた動画」をアップロードするのはこれが初となる。ピアノと歌を別々に録音するのも、イラストや動画、MIXの制作依頼を出すのも初めてで戸惑う事も多々あったが、彼女は納得する歌と演奏が出来たと思っている。
そして、実際にそれを動画化されたものを見ると、感謝や敬意が彼女の胸に溢れる。イラストは、自身の『母親』であるイラストレーターに、動画やMIXは事務所の映像制作部や音響部に依頼した。身内ばかりではあるが、コネクションを持たない彼女の精一杯だった事は確かだ。
更に、その動画のURLと、希望する再生時間を記載し、『Virtule CountDown FES』への参加登録を済ませる。
どれくらい再生されるかは、今のユリアには全くわからない。偉大な楽曲のカバーである以上、原曲のファンからのバッシングという可能性もある。だが、それらすべてを飲み込んで、彼女はこの楽曲を歌い、動画として出すことを決めた。
「どうか、届きますように」
動画概要欄に書いた言葉は、ユリアの決意表明でもあった。その歌が、自分の配信を見に来てくれているリスナーに届けばいいと、そんな願いを込めた動画は、その日、TryTube上に石楠花ユリア初の歌ってみた及び演奏してみた動画がアップされた。
【歌ってみた・弾いてみた】Billy Joel - Piano Man(Covered by 石楠花ユリア)【Vtuber/Re:BIRTH UNION】
いつも私の配信に来てくださり、ありがとうございます。
未だに、自分に自信が持てない私でも、誰かの支えになれているのかな、って思えるようになりました。
これからも、皆さんの為に歌いたい、ピアノを弾きたいと思います。
そう思った自分への、メッセージとして、この素晴らしい曲をカバーしました。
少しでも楽しんで頂ければ、幸いです。 石楠花ユリア
原曲:Billy Joel - Piano Man
http://trytube.com/watch?v=********
歌・ピアノ演奏:石楠花ユリア
MIX・動画制作:(株)リザードテイル
イラスト:九重ヒカル
石楠花ユリア、飛躍の時まであと少し。
御意見御感想の程、お待ちしております。




