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「【収益化&登録者数1万人突破記念】正時廻叉の夢の話【Re:BIRTH UNION】2」

仕事の繁忙期ではありますが、幸い執筆時間が取れましたので投下いたします。

記念配信第二話、それぞれとの会話をお楽しみください。

「廻叉くんの夢は何?」


 キンメの問いかけに、廻叉は沈黙する。コメント欄からはお祝いムードは無くなっていた。正時廻叉の仕掛けた『舞台』に飲み込まれつつあった。


《確かに執事の夢とか目標って聞いたっけ?》

《演技に力入れてるのはしってるけど、そこからどうなるまでは言ってなかった気がする》


 配信への単純な反応や、たった今配信を見に来た者による祝福の言葉。そんな中で、今までの正時廻叉の配信をよく知る者達が、必死に記憶を漁る。


「私の夢、ですか?」

「そう、廻叉くんの夢。私は、Vtuberのイラストレーター、そういう肩書を堂々と名乗れるようになりたい。支えてくれている旦那や娘に、誇れる自分である為に。君はどうかな?」

「私は」


 再び沈黙する。時間にして、およそ数秒。だが、視聴者にとっては長く感じる数秒間だった。


「私は、表現者でありたい。正時廻叉という表現者として、自身の最大値を見てみたい。そう考えています」

「うん、良いと思うよ。それは、やっぱり演劇であったり朗読みたいな感じ?」

「そうですね。何かを演じるという事は、どんな自分にもなれるという事です。キンメさんが人魚で、メイドでありながらイラストレーターでもあるように、私も執事であると同時に役者でもある」


《ブレねぇなぁ執事》

《廻叉、淡々と断言するの強い》

《朗読の時とか本当に別人だからなぁ》


 廻叉の決意表明のような言葉に、コメントは好意的な反応を示した。特に、デビュー初期段階から彼を追っているファンは、その回答に納得している様子だった。一方で、キンメは更に問い掛けを続けた。


「少し意地の悪い質問だけど、役者をやるのだとしたら、執事であり続ける必要はあるかな?まぁ、私にも言える事だけど……私は、人魚姫になりたかったんだ。小さいころにね。だから、この姿も夢を叶えた姿でもある。メイドさんなのも、私がメイドさんの服が好きで、旦那さんの為に働いているっていう証でもある」

「……私が執事である理由」


《うわ、踏み込むなぁ……》

《なんとなくそういうモンだって思ってたけど》

《Vtuberにはよくある設定との乖離かー》

《割と有名無実化しつつあるけどな、Vの設定って》


「演技だけしたいのなら、それこそ『現代のオペラ座の怪人』で良かったよね?マスクもそうだし。でも、君にはちゃんと執事である理由がある……って、お姉さん思うな☆」

「急にテンション上げないでください」

「いやー、私らしからぬ感じだったかなーって思って?でも廻叉くん、御主人様って言える人が居ないんだよね。それを見付けたいから、執事を名乗り続けてるのかな、って私は思う」

「…………」


 シリアスな空気から突然普段の調子で話し始めたキンメに、廻叉のみならずコメント欄すらどこかズッコケたようなリアクションが大量に流れて行った。しかし、廻叉自身はツッコミを入れつつも、自身に主が居ない事を指摘された事を重く受け止めているように、視聴者側からは見えた。


「まぁ私には素敵な旦那様が居るんだけど☆」

「隙あらば惚気るの、どうにかなりませんか?」

「ふふ、素敵な娘も居るぞ☆」

「……羨ましい限りですよ、本心から」


《突然の既婚者マウントで草》

《キンメの配信にダメージ受ける女性Vだってたくさん居るんですよ!主にオーバーズに!!》

《人妻子持ちがこの喋り方……ええやん……》

《また一人目覚めてしまったか》

《これには執事も呆れ顔。でも、心なしか優しい声色な気がする》

《無感情にしか聞こえないんだが……》

《そこは、こう、訓練と慣れだ》


 緊張感が消え去ると同時に、まるで発言のタイミングを伺っていたかのようにコメントの流れが再加速した。同時接続者数は1,500前後を推移している。新規流入もある物の、所謂『記念配信』らしからぬ空気に面を喰らってブラウザを閉じる者も少なからず存在するのか、減りこそしないが、増えもしない状態だった。


「まぁ、私からはこんな感じで。これからもお互い頑張っていこうね」

「はい、ありがとうございます」


 配信画面からキンメの姿と、背景が消える。そして一瞬の暗転の後、背景はライブステージとなっていた。そして、隣には丑倉白羽の2Dモデルが立っていた。


「やっほー、廻叉くん。丑倉だよ。色々おめでとう」

「色々ありがとうございます、白羽さん」


《なんだこの雑な会話は……》

《この二人の会話って割と想像付かないよな》

《下ネタぶっ放しモードじゃない事を祈れ》


「まぁ丑倉はギタリストで、廻叉くんは役者さんな訳だけど。単刀直入に聞くけど、才能と努力、どっちが大事だと思う?」


 丑倉白羽は、最近でこそオブラートという概念の無い無軌道トークが多いが、デビュー当初から一貫したストイックな姿勢は崩していない。週に数回はギター練習配信を数時間続け、最低でも月に一度は楽曲動画を投稿している。


「丑倉はねー……努力すれば、ある程度は出来る。そのある程度を突破するためには、才能か、死ぬほどの努力かのどっちかが必要だって思う。ただ、才能は目に見えない。自分に無かったら怖いから私は練習ばっかりしてるわけだけど」


 廻叉の返事を待たずに、持論を滔々と語る白羽。


「廻叉くん。『はい』か、『いいえ』で答えて?努力してる?」

「……はい」

「その努力で、十分?」

「いいえ」

「自分に『才能がある』と思った事はある?」

「いいえ」

「でも諦める気はないんだよね?」

「はい」

「よかった、白羽と同じだ。君もやっぱり、()()()()だった。良い機会だから確認しておきたかったんだ」


 矢継ぎ早な質問に最初だけ少し考えて答えたが、その後はほぼノータイムで廻叉は返答した。白羽は満足そうに笑っていた。コメント欄は、淡々と繰り返された一問一答の内容に、戦慄を覚えていた。


《なんだろう、心が痛い》

《こいつら怖ぇよ……マジで……》

《そういう風に答えられる事がもう才能なんだよ》

《執事が自分に才能がないって断言してんの、もう恐怖だよ》

《やっぱリバユニってどこかのネジが外れてる奴しか居ないよな……》

【\:500 敵わない】


「丑倉たちは、みーんなそうだよ。何か一つに、死ぬまで努力し続けられる。むしろ、死ぬまで諦める事が出来なくなった壊れた人たち。自覚の有無や、強弱はあるけどね」

「否定はできませんね」

「まぁ誰だってそういう所は大なり小なりあるものじゃない?人には誰だって、譲れない物と人に言えない秘密がある」

「それはまぁそうでしょうけども」

「本来ならここから性癖トークにシフトするんだけど、今日の主役は廻叉くんだからやめとく。そんじゃね」

「賢明な判断、ありがとうございます」


《おいこら丑倉》

《本当にシリアスが持たないな、リバユニはさぁ!!》

《シリアスの濃度が高いから、こうでもしないと俺らが窒息するまであるからな……》

《でも執事の性癖はちょっと気になる》

《俺も》

《私も》

《拙者も》

《★プラトニコフ・ユリガスキー特務少佐:吾輩も》

《やべぇ魔窟の主3号だ!!》

《草》

《モデレーター貰ってて草》


 丑倉白羽の2Dモデルが消えるが、背景はそのままライブステージのままだった。そして、次に現れたのは三日月龍真だった。ラジオ企画で共演している事もあり、最も付き合いの長い相手とも言える。龍真はラッパーらしく振舞うでもなく、いつも通りの雰囲気で話し出す。


「よう廻叉。とりあえず、おめでとう。これで2期生まで全員が1万まで行った訳だ」

「ありがとうございます。なんとか、ここまで来れましたね」

「でも、この後出てくる人には10倍差を付けられてるんだぜ?俺ら、もっとやれるよな」


《お、龍真だ》

《そりゃ出てくるわな》

《ここまで早かったと見るか、長かったと見るか》

《ステラ様出てくるのか》

《10倍差……》

【\:1,000 次は登録者数10万人目指して頑張れ】

《企業勢としては確かに物足りない数字って思うのもわかるんだよな》


「ぶっちゃけた話するけどな。俺、別に登録者数とか同接とか大した意味なんてねぇって思ってるんだよ。むしろ楽曲の再生回数の方が大事だ。チャンネル登録だとかは、それに付随して増えるだけの話だって思ってる」

「それも一つの考えではありますが、また極端な」

「でも、世間はそうじゃねぇだろ?一枚看板って言えば聞こえはいいが、実際はワンマンチームだ。俺らもいい加減、追い付いていかないといけねぇよな。それこそ、登録者数っていう分かりやすい指標があるんだからな」

「それは、そうですね。我々が伸びなければ、先細る一方です」

「折角、Re:BIRTHしたのに、このままじゃDEATHまで一直線だ。シビアな話だけどな。夢の裏側には、現実がある」

「現実も夢も、まとめて見据えて行くだけです。既に我々は、虚構と現実の狭間の存在なのですから。それに、()()()()()()()()()()。死ぬ事の怖さを知っている。もう二度と死にたくないのですよ、私は。死の経験は一度で十分です。故に、私は決して引き退がる事はしない」

「相変わらずブレないな。まぁ何にせよ芯があるのは良い事だ。お前の場合、芯が(シン)になって(シン)になってるな。ああ、心と身体って書いてシンな?」

「説明しなきゃわからない韻はライマーとしてどうなんですか?」

「世の中には歌詞カードとかリリックビデオっていう便利なもんがあるだろうが」

「そういうのに頼らず耳と脳だけで捉えられる物が求められるのでは?」


 BGMも無い、ただ二人の会話だけが続いていく。話している内容は、全て現実的な話だった。Vtuberに限らず、動画や配信で活動する者に付いて回る『数字』に関する話も、何一つ包み隠さない。自分達に悪意を持った見方についても目を離さない。

 そして、結果を残せなかったVtuberや配信者が至る末路――解散、引退。直接的な言葉にこそしていないが、二人が語った内容はそういう事だ。


 《うわぁ……》

 《さらっとこういう重い話するよな、こいつら》

 《別の箱の推しがこの手の話してたらキツいけど、この二人だとアリなの不思議だわ》

 《★ラッパーVtuber・MC備前:ポエトリーかつリアル志向なんだよな、龍真》

 《龍真、実際記念配信一切やらねぇもんな》

 《VにおけるDEATHって、まぁそういう事だよな》

 《そこ突くの怖いって》

 《触れない部分だからな、普通は》

 《執事が死について語るの怖すぎるわ。感情込められてないのが余計に怖い》

 《こう見ると、普段の感情の欠落すらなんらかの伏線なんじゃないかって思うわ》

 《龍真がシリアスに耐えきれなくなった……w》

 《なんでいつも変な方向に開き直るのか》

 《捉えられる、と、求められるで韻踏んでる執事》


 そして、廻叉は死という言葉を繰り返した。更に、死の経験という言葉から想起されるのは、『前世』『転生』というVtuber界隈に置いてスラング化しつつある表現である。自身がVtuberになる以前の活動、およびその名義に関する事を『前世』、何かしらの活動歴のある人物がVtuberとしてデビューすることを揶揄して『転生』と呼ばれている。直接的に廻叉が自身の前世について語った訳ではないが、どこか仄めかすような言い方であった事もあり、視聴者も触れるべきか触れざるべきか迷う言い方だった。


「まぁ死なないように頑張ろうぜ」

「ええ、龍真さんこそ」


《謎の相棒感あるよな》

《バディものっぽい二人》

《龍廻てぇてぇ》

《字面が強いな、龍廻》


特別さを感じさせない、別れの言葉を告げて龍真の2Dモデルが、足音と共に消えていく。同時に、ライブステージ背景が消失し――




 宇宙空間が広がった。




 《きちゃああああああ!》

 《ステラ様確定演出!!》

 《執事は宇宙に放り出されて平気なのか》

 《そこはこうステラ様がなんかするだろ》

 《なんかて》




「君の見ていた白昼夢は覚めたかな?改めて、ここで自己紹介をしてみてよ、廻くん」



「私はVtuber正時廻叉。Re:BIRTH UNIONの2期生。解っていますよ、ステラ様」

次回、記念配信回のラストです。

御意見御感想の程、お待ちしております。


※第9回ネット小説大賞に参加しています。応援よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] お、ユリアのターンがステラ様の後で大トリってハードル高すぎひん? まぁユリ廻は執事の心揺さぶりでペルソナ剥がされるか要チェックだ!
[良い点] 執事が韻踏んでるのわかったニキネキすげー 言われるまで気づかなかった ライバーさん等の配信や動画視聴するのって、自分にできないこと、あるいは諦めたことを追体験している面もあると思うのです…
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