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「お嬢様と魔女見習い、それを眺める占い師と魔窟の住人達」

拙作のレビューを書いていただいたり、ブックマーク数が1,000件を超えたりと嬉しい事が立て続けに起こっております。すべて御愛読頂いている皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


なお、この配信はオフモードの執事が見守っています。

 氷室オニキスは恋愛脳である。自分自身よりも他人の恋路の観察に全力を挙げ、仮にそれが恋愛ではなかったとしても、脳内で「これは恋愛である」と仮定して想像と妄想を無制限に膨らませて精神的な飢餓を癒す。自身の主催する心理テスト配信のみならず、にゅーろねっとわーく内のコラボでも恋愛に関する話を引き出しては自己満足に浸るという業の深い性質を持っていた。

 無論、女性Vtuberに本気の恋愛感情を持つタイプのリスナーが配信のコメント等で文句を言う事もあったが、本人が一向に堪えないため、自然と「言うだけ無駄」という空気が蔓延し、彼らは彼女の存在を黙殺するという方向にシフトした。なお、同様の性質をもつリスナーが吸い寄せられ、彼女の配信コメント欄は恋愛妄想で終始盛り上がる異常な場となっている。


「改めて、本日お二人にはいくつかの心理テストに挑んで頂くのですが……それは、割と建前です」

「建前?!」

「え、その……ということは、本題は……?」

「心理テストの結果を踏まえた上で二人の恋愛観とか諸々聴かせてもらって私と私のリスナーが満足する企画です。なお、第一回からこんな感じだからね……ふふふ」


《草》

《いいぞ氷室、恋するVtuberを俺達にもっと見せろ》

《現在進行形少女漫画が見たいんじゃあ!!》

《二人とも可愛いから素敵な男の人と結ばれてほしいよね》

《恋する美少女は万病に効く……!》

《毎度思うけど酷いコメント欄だよな》


 所属する事務所こそ違うが、ほぼ同期デビューである如月シャロンと石楠花ユリアは恐怖した。必ず、かの邪知暴虐の恋愛脳先輩から逃げねばならぬと決意した。


「ユリアちゃん、初めましてだけど……頑張ろう……!!」

「は、はい、シャロンさん……!」


《新人二人がなんか覚悟決めてるぞ》

《美しい友情の花》

《え?百合の花?》

《それもまた良し》

《二人が手を握り合ってる様を脳内に再生》


 ユリアは初めての外部コラボにも関わらず、自分が極めて特殊な場所に放り込まれたのだと認めた。招待してくれた氷室オニキスも、彼女に付いているリスナーも、恋バナに飢えた肉食獣だ。いわゆるユニコーンが沸いてもお構いなし、それどころか角が圧し折れるまで濃度と粘度のある妄想を繰り広げる魔窟の主。それが氷室オニキスである。


 そんな地獄に巻き込まれた二人は、互いに親友と呼び合う程の仲になるのだが、それはもう少し先の話である。


「まぁまずは普通にちょっとお話しようね?私とシャロちゃんは同じ事務所だから面識あるけど、ユリアちゃんとは初めましてだもんね」

「あ、はい……その、コラボ自体が、実は初めてで」

「そうなんだ!ウチも実は他の事務所の人とは初めてだから、一緒だね」

「凄く助かります……よろしくお願いします」

「いいよいいよ敬語なんて無しで!同じ月のデビューなんだからさ!あ、そうだユリちゃんって呼んでいい?」

「う、うん……じゃあ私も、オニキスさんが呼んでたみたいに、シャロちゃんって呼んでもいい……?」

「ねぇリスナーのみんな。今日はもうこのままこの二人の会話見てるだけでよくない?純度の高いてぇてぇ摂取できると思うよ?」


《草》

《てぇてぇ》

《シャロのコミュ強が引きこもりのお嬢の心を溶かしている……》

《このてぇてぇ、末端価格500万はあるな》

《あああ……キマる……》

《もう最高、最高なのよ……》

《でもよ、オニキス、まだあるんだろ……よりてぇてぇになる、心理テストがよぉ……》


 阿片窟に近い有様と化したコメント欄を見てシャロンとユリアが慄く中、オニキスはリスナー達へと落ち着くように告げると、画面を切り替えて二人の簡易的なプロフィールを表示した。名前、年齢、趣味・特技、Vtuberになった切っ掛けなど普通の物だ。そして名前と年齢のみ埋まっており、後半の項目は空欄となっている。


「てぇキメはさておき、私としても後輩に友達が出来るのは良いことだと思ってるよ。なので、まずは簡単にプロフィールトークから入ろうか?年齢はお互いに18歳、うんうん青春ど真ん中。じゃあ、まずシャロン。趣味とか特技とかある?」

「えーっと、趣味かぁ……魔法の練習は義務だしなぁ。あー、スポーツ見るの好きっすよ」

「おっと、それは初耳。野球とかサッカーとか?」

「んー、むしろウチが絶対に出来ないものを見たいって感じで……その、プロレスとか」


《これはスポ根魔女》

《新人の子を詳しく知れるのはいいけど、いきなりプロレスファン情報ぶち込まれても、その、困る》

《まぁ、今はイケメンレスラーとかも多いしな》


「わ、意外……でも、最近テレビ番組にも、よくプロレスラーさん出てるよね」

「あー、そっちじゃなくて――TryTubeで見つけた、海外のプロレスなんだよね」

「海外って事はアメリカの方かな?」

「いや、メヒコっすね。ルチャの飛び技集みたいなのを見付けて、超カッケェ!!ってなって」

「め、めひこ?」

「……あ、ごめん!メキシコ、メキシコのことね!」


 ユリアがテレビ番組に出ていた、整った顔と均整の取れた肉体を持つプロレスラーの姿を想像するが、シャロンが提示したのはメキシコのプロレス、所謂ルチャ・リブレというものだった。簡単に言えば、マスクマンが大多数で華麗な飛び技や複雑怪奇な関節技が魅力的なプロレスである。日本でも軽量級の選手がルチャの流れを汲む動きをするが、本場メキシコのそれをTryTube経由とはいえ観ているというシャロンの発言は、コメント欄にも衝撃が走る。


《ルチャて》

《意外過ぎるチョイス》

《日本のプオタでも、その辺の情報に明るい奴少ない気が……》

《メキシコをメヒコって言い出すのはそこそこ深いところまで首突っ込んでるプロレスオタクだぞ》

《今調べた。何だこの動き意味が分からん》

《人間が人間の周りをぐるんぐるんしとる》


「割と体育会系気質があるとは思ってたけど、これはシャロンの意外な一面を見てしまった感はあるなぁ」

「なははは……ま、まぁウチの事はさておき!さておきましょ!」

「そうだね、これを深く掘り下げるならプロレス詳しい人呼ばなきゃいけないし。では改めてユリアちゃん、趣味や特技はある?」


 改めて問われた時に、ユリアは一瞬言葉に詰まる。ピアノは確かに趣味であり特技だ。自身の根幹ともいえる。だが、それは自分の公式プロフィールや、配信内容のサムネイルを見るだけでも分かってしまう、浅い情報に過ぎない。故に、それ以外を探した。自分が楽しいと思えた事、嬉しかった事を。


「えっと……ピアノはもちろん、そうなんですけど、最近は……高校一年生くらいの、勉強をするのが楽しいです」

「えええ!?勉強がなんで面白いの!?」

「えっと……私、高校中退なんだ……ずっと引きこもってて。で、兄とその彼女さんが家庭教師してくれて……出来た時に褒めてもらえるのが嬉しくて、もっとやろうって思ってるうちに、趣味みたいになっちゃって……」

「そっか……ユリちゃん、大変だったんだね。でも、お兄さんと彼女さんが教えてくれるってのは羨ましいなぁ。ウチ、一人っ子だから兄弟居るってだけでちょっと羨ましいもん」

「うんうん、闇深案件なのか家族愛にてぇてぇすべきなのか非常に困るね。あと何気に兄とその彼女さんって情報がまぁまぁの爆弾じゃないかな?うん?」


《真面目だ……》

《これが、清楚……》

《しれっと高校中退とかいう闇が出たんだが、ここは敢えてのスルー》

《それを許容してくれる家族が居るのは幸せな事よ、マジで》

《兄とその彼女から勉強教えてもらえるってすげぇな》

《兄カノと仲いいとかあるの?》

《ウチの兄の彼女と俺の妹、昼ドラ並みにギスってたぞ》


 他に思い付かなかったが故の勉強というチョイスではあったが、自身のバックボーンを僅かに明かすことで説得力が増したのか、好意的に受け止められていたようだ。家族と、いずれ家族になる女性の話は若干の疑念を生んでしまったが、むしろ「兄の彼女と妹が仲良くする状況が本当にあるのか」という方向性だった。ユリア自身はそれが普通だと思っていたが、どうも普通ではないらしいと知った。


「それじゃVtuberになった切っ掛けも話していこうか。まずはシャロン……は、日ごろから言ってるから知ってる人もおおいんじゃないかな?飛ばしていい?」

「なんでっすか!?実際ずーっと言ってますけど!ウチがVtuberになったのは、にゅーろねっとわーくの天堂シエルさんみたいなアイドルになろうと思ったからですっ!!」

「最初の、七人……」

「まぁ、The アイドルって感じの人だからね、シエルさん。意外と気さくな人ではあるんだけど……そして、ユリアちゃんの言う通り、Vtuber最初の7人。よく知ってるね」

「あ、その……ステラさんが、お話してくれたんです」

「そっか、ステラさんも最初の7人だった」


『にゅーろねっとわーく』は大元を辿れば、バーチャルアイドル天堂シエルのバックダンサー、妹分ユニットとして募集されたのが最初である。そこから、2Dモデルを用いた現在のVtuberの流れに参入してきた事務所だった。故に、天堂シエルと最初のバックダンサーである二人組『にゅーろんず』は3Dモデルしか持っておらず、殆どの活動をアイドルとしてのライブ活動に勤しんでいる。古参のファンからは、狭義の『にゅーろねっとわーく』はシエルとにゅーろんずの二人だけだという者も居る。

 シャロンはシエルの3DMVを見てこの世界に憧れた、根っからのシエルファンだった。いずれは自身も3Dモデルを手に入れて同じようにアイドルとして活動したい、という野望を持っている。そして、そんな彼女の真っ直ぐな思いは視聴者も重々承知な様子であった。


《うん、名前の「シ」がお揃いってデビュー配信で喜んでたもんな》

《そこでいいのか、そこでw》

《シエルとにゅーろんずでバーチャルアイドルってジャンル知ったわ》

《実際シエルに憧れてる子、企業・個人問わずめっちゃ居るよな》

《オニキスの言う通り、正統派アイドルといえばシエルみたいなところはある》


 シエルの素晴らしさをシャロンが熱く語る中、コメント欄の話題は『Vtuber最初の7人』へと移っていた。およそ一年近く前に産まれた枠組みにも関わらず、7人の名は多くの視聴者からの敬意と共に、未だに語り継がれている。


《最初の7人繋がりでアポロ・オボロは?》

《歌とダンスが上手くて顔が良い漫才コンビ》

《草》

《否定出来ねぇ》

《あとはオーバーズの生徒会長に、ステラか》

《人間力だけで最初の7人になった生徒会長はヤバい》

《あれ?残りの二人は?》

《一人は技術向上目的の勉強を理由に活動停止中。もう一人はガチで消息不明》

《あの二人が一番バーチャルしてたまであるから、いつか帰って来てほしいな》


「それじゃあ、ユリアちゃんの切っ掛けは?」

「最初は、ステラさんの楽曲からでした。普通の歌手の方かな、って思って、調べたらバーチャルの人で……そのまま追って行ったら、Re:BIRTH UNIONの皆さんと出会って……私もこの人たちと共に、って。その、ごめんなさい、私も初配信に言った事と同じ事しか言えてない……」

「いいんだよ。二人ともまだこちらの世界に来て日が浅いんだ。話せる内容が少ないのは仕方ない」


 以前に話した事を、ほぼそのまま話した事に気付いてユリアの声の音量が少しずつ下がっていくのを察したオニキスが助け舟を出す。この場合、毎回同じ事(シエル賛美)を同じ熱量で話すシャロンが特殊である。


「だから、二人に話す内容を提供するのが、私の心理テストだ。それでは、早速第一問と言ってみようか」


 心底楽しそうにオニキスが画面を切り替える。そこには心理テストの問題文が表示されていた。


『この中から、貴女の癒しや元気に繋がるものを次の4つから選んでください。

 A:太陽 B:月 C:花火 D:海 』


「まぁ選択式のテストはジャブみたいなもんだから、気軽に、直感で選んでみて欲しいな」

「うーん、ウチはD!夏の海は元気にもなるし、穏やかな海なら癒しにもなるし!」

「私は……この中だと、B、月が一番いいな、って思いました」

「ほうほうほう、なるほどなるほど……」


 言われた通り、シャロンとユリアは極めて直感的に選択肢からそれぞれ選んだ。その答えに満足げに、或いは納得したかのように、もしくは獲物を見付けたかのように、オニキスは笑った。


《心理テストの始まり始まり》

《シャロは太陽選びそうだったけど海に行ったか》

《ユリア嬢が月は解釈一致》

《オニキスがニチャってらっしゃる》

《って事は、答え合わせが楽しみな奴だな?w》


「さて、この問題で何が分かるかと言うと……」

「あなたの寿命がわかります」

「マジで?!」



ラーメンズの心理テストネタは流石に本編には捻じ込めませんでした。

今回作中に出てきた心理テストは近い内容のものが多数のサイトに載っていたりして、正確な出展が非常にわかりにくいのですが、何にせよインターネットで検索した発見したものを使用させて頂いております。問題がありましたら該当部分を削除いたします。


御意見御感想の程、宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 寡黙でしっかり者の異性に弱いでしょうは執事。はっきりわかんだね。
[一言] 早くてぇてぇが見たいですね……!!
[一言] 心理テストの回答ググってきてもうニヤニヤしたわ よく見つけてくるなぁ!これは『あ…(察し)』不可避だわ 最初の7人に親分に相当する始祖的な格が違うvtuberが存在しないのがちょっと意外…
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