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「10月イベントラッシュのその前に」

お待たせいたしました。作中内は10月の上旬となっております。

とりあえず来週火曜日から年末年始休暇に入りますので、それまでは更新頻度が落ちますのでご了承ください。

 正時廻叉、石楠花ユリアがそれぞれに外部コラボへの参加を発表すると同時に、Re:BIRTH UNION公式から一つの企画が発表された。


『10月31日、ハロウィン企画――Re:BIRTH VILLAINS』


 この短い文章と、真っ黒の背景の中にステラ・フリークスおよびRe:BIRTH UNIONメンバーの目だけが描かれたイラストがSNS上にアップされた。VILLAINSの名の通り、普段の配信で魅せる姿とは全く別の、負の感情を前面に押し出したような眼光はVtuber界隈における物語性を好むファンや、考察を好む層へと突き刺さった。


「デビューしていきなり歌う事になるとは思いませんでしたよ……あと、俺の場合最初からヴィラン寄りのタイプなんですけど、大丈夫ですかね?」

「私もキンメさんも、最初は歌う気はなかったですよ。ですが、我々のトップはステラ様ですからね。彼女の意向には出来る限り応えたいと思っています。なので全員問答無用でヴィランです」

「光栄ではあるけど、俺で良いのかなとも思っちゃうんですよね……」


 それぞれがソロの配信を終えた直後、DirecTalkerで正時廻叉と小泉四谷が作業を行いながら通話をしていた。元々は、廻叉が手掛けている連作動画についてアドバイスを貰うつもりで通話を持ちかけたのが切っ掛けだ。元々動画作成を行っていた四谷も、惜しみなく自分のノウハウを伝え、廻叉の作業効率は間違いなく上がったと言える。この調子であれば、来月ごろには第一弾を投下する事が可能だと廻叉は予測を立てていた。


 一方で、初配信での宣言通り小泉四谷はホラーゲームの配信を中心に、作中に出てくるオカルト用語の解説を活き活きと話してホラーファンの心を掴んだ他、動画作成講座と称して初配信時に流した動画を『もう一度最初から組み直す』という配信を行った事で、動画作成に興味のあるファンや、動画を中心に活動しているVtuberからも高い評価を得るなど、独自のファン層を開拓しつつある。


 そういう活動方針だからこそ、事務所全体の企画とはいえ歌う事になるとは全く思っていなかった様子であり、キャリアの程近い先輩である廻叉へとその悩みと戸惑いを正直に打ち明けた。同期である石楠花ユリアがピアノ演奏や歌唱をメインコンテンツとしているだけに、参加するのは彼女だけでいいのではないか、という想いも少なからずあったようで、公式で全員参加が発表されてなお辞退すら考えていた。


「ステラ様は後輩愛が重い方ですからね。ワガママであると自覚した上で『後輩と一緒に歌いたい』という希望を叶える為に全力を尽くすタイプの方です。どうやって参加を避けるか、ではなく、どうやって参加しても遜色のない歌唱力を得られるか、を考えるべきです」

「そういえば廻叉さんとキンメさん、直で歌唱指導受けたって言ってましたね……」

「おそらく四谷さんとユリアさんもレッスンを受ける事になると思いますよ」

「うわぁ、リバユニに入ったって気分になってきましたよ?」

「それに12月にも大きいイベントがありますからね。それも歌系のイベントですから……ハロウィンはグループで、年末ソロでそれぞれ1曲ずつ全員が出すことになるでしょうね」

「うーん……正直自信はないですけど、ファンが喜んでくれるなら頑張ります」


 既にRe:BIRTH UNION内のスケジュール表には年末の大規模イベントへの参加が決定済みだ。定期配信の合間に楽曲作成に向けて動いている。特に唯一の地方居住の廻叉は今月中にもう一度東京のスタジオに行き録音をする事になっている。


「今月は1週間ほど東京に出ますので、もしかしたら事務所で顔を合わせる事になるかもしれませんのでよろしくお願いします」

「了解です。まだ直接ご挨拶してないの廻叉さんだけなんで、是非会いたいんですよ」

「私もですよ。一応、収益化が通り次第、上京予定ではありますが……」

「ウチだとステラさんと1期生のお二人が通ってるんでしたっけ……あ、そういえば、廻叉さんって事務所から仕事貰ってるって聞いたんですが。いわゆる案件って奴ですか?」


 収益化の話題になった所で、四谷が以前から気になっていた様な口調で尋ねる。収益化が通っていない状態にも関わらずほぼ専業でVtuber活動を行っている廻叉は、運営会社であるリザードテイルからいくつかの仕事を請け負う事で収入を得ている。


「Vtuberとしての仕事ではないですね。企業が会社説明会などで流すものや、結婚式のお祝いビデオにナレーションを入れる仕事を請け負って、出演料という形で収入を得ています。基本的に正時廻叉の名前も、本名も出さないで行っているので、身バレは無いかと。むしろバレたら正時廻叉の仕事として公表するつもりみたいですが」

「あー、声優さんやナレーターさん的な役割を社内で賄えるのは強いですね」

「実際には声優さんを使いたいクライアントさんもいらっしゃるので、私の録音が仮撮りというかサンプルみたいな形のまま終わる事もありますけどね」

「でもちょっと安心しました。龍真さんが『廻叉は貯金切り崩して生活してるんじゃないか』って心配してましたから」

「まぁ、その辺はご心配なく。なんとかなっていますから、ね」


 そう言って廻叉は収入に関する話題を切り上げる。実際には貯金が残っているのは確かだが、それ以上に実家暮らしという事で生活費を抑えられているというのが実情だった。正時廻叉こと境正辰は、家族に『映像企画会社の社員』という虚実の入り混じった説明をしている。声を出す必要があるという事で、家の中で最も端の方の部屋に安価な防音材を敷き詰めて『仕事部屋兼自室』という形にさせてもらっている。


「あー、ちょっと不躾でしたね。すいませんでした」

「いえ、いいんですよ。恐らく、直接顔を合わせた時になら話せますから。こうしてネットを介在して話している時の私は『正時廻叉』ですから」

「うーん……流石です。なんというか、リバユニの皆さんのプロ意識に圧倒される事が多いです。入って2週間弱くらいの間に、何度もそう思う機会があるっていうか」


 小泉四谷はまだVtuber歴が1ヶ月未満ということもあってかどこかアマチュア感が残っており、親しみやすさという形でファンを得てはいるが、一部のファンからは『良くも悪くもRe:BIRTH UNIONらしくない』という評価を得ていた。


「そこは心配しなくても大丈夫だと思いますよ。各々がやりたい事を執拗に突き詰めていく姿勢があればRe:BIRTH UNIONとしてやっていけます」

「そこで執拗って単語が出る辺りがリバユニなんでしょうね……」


 四谷の声色が若干引いているような気配を感じたが、廻叉は追及しなかった。少なくとも社長、佐伯、ステラの3人が認めた以上は、Re:BIRTH UNIONとしてやっていけると判断されたのだ。


「逆に言えば、本当に好きな事を追求し続ければいい事務所なんですから。まずはやりたい事をやり尽くしてから考えましょう」

「なるほど……自分もオカルト好きをまだ出し切れてないんで、全部出しきってみます」

「でも歌は出してもらいます」

「えええ……」

「他の人の『好きな事を追求』に巻き込まれるのも、この事務所ですから」


 一つの悩みがある程度解決したと思ったタイミングで別の悩みが発生した四谷は、困惑を隠しきれない声を上げていた。




 ※※※




 翌日の廻叉の雑談配信、という名の今後のイベント等の告知配信は普段以上に盛況だった。事前告知されたハロウィン企画、3期生のデビュー、オーバーズ企画への参加など、ニュースが多かった事もあり、更にはオーバーズ所属の各務原正蔵がSNSで正時廻叉の参加をアナウンスした事で、初見のオーバーズファンが多数居たというのもあった。


「色々とお話することがあるので順番に話していきましょう。まずはRe:BIRTH UNIONのハロウィン企画ですね。『Re:BIRTH VILLAINS』と題されたイメージイラストが発表されましたが、皆様いかがでしたか?」


 《超カッコ良かった》

 《目だけで魅せるの好き》

 《3期生参加マジ嬉しい》

 《やっぱり悪の組織だったか》

 《初見です。すごく落ち着く声されてますね》

 《ヴィラン化は性癖なので助かる》


 公式SNSアカウントから告知されたイラストは、憶測が憶測を呼びVtuber界隈全体へと広がりつつあった。界隈の中でも古参であり、知名度の高さでは群を抜いているステラ・フリークスが当たり前のように参加している事で、普段Re:BIRTH UNIONを見ない層にも伝わっていた。


「詳細は当日までのお楽しみという事でひとつお願い致します。続きまして私個人としては初の外部コラボが決定しました。オーバーズ所属、各務原正蔵さん主催の学力テスト企画にサブMCとして参加させていただく事になりました」


 《おおおおおおお》

 《ゲストじゃなくていきなりサブMCなの草》

 《凸待ちの縁が生きてる》

 《★各務原正蔵@OVERS:当日はよろしくお願いします!》

 《オーバーズの面々めっちゃ濃いから気を付けて》

 《正蔵おじさんおるやんけ!?》

 《オーバーズ所属/秤京吾:俺達の馬鹿がリバユニさんにバレる日が来てしまったか》

 《京吾もおるwwww》

 《少なくともお前の馬鹿は界隈全体に広まってるぞ》

 《京吾にも★つけてやって》


 コメントの中に混じるオーバーズ所属の面々にコメント欄の勢いが加速する中、淡々と企画の日時を告知していく。その片手間にコメント管理等のモデレーターの証明である『★』を秤京吾へと付与する。既に配信外での打ち合わせで数人とは話してはいたが、その例外の一人が秤京吾だった。


「これはこれは、各務原さんに秤さん。わざわざお越しいただきありがとうございます。こちらこそよろしくお願い致します。秤さんとは打ち合わせの際にお会い出来なかったので、当日が初顔合わせになりますが、何卒お手柔らかにお願い致します」


 《★オーバーズ所属/秤京吾:気軽に京ちゃんと呼んでも、いいんだぜ?》

 《すげぇ、京吾を雑に扱わない人初めて見た》

 《一番雑に扱ってるのが京吾本人だけどな》

 《愉快な人だなw》

 《リバユニファン、執事ファンの皆さんすいません。こいつ悪い奴じゃないけど頭悪い奴なんです》

 《草》

 《★各務原正蔵@OVERS:当日はバッサリ切り捨ててやってください》

 《同期に見捨てられてて草》

 《京吾大丈夫?執事の名前読める?》

 《★オーバーズ所属/秤京吾:しょうじかいしゃ》

 《惜しいの草》


「しょうじ、かいさ、と申します」


 《子供に言い聞かせるトーンで草》

 《草》

 《★各務原正蔵@OVERS:京吾あとで説教な》

 《当日はコイツに加えてオーバーズおばかさんの精鋭達が揃ってるんだよなぁ……》

 《男子限定で良かった。女子も混ぜたらオーバーズの知的レベルが疑われるところだった》

 《★オーバーズ所属/秤京吾:疑いようもなく低いに決まってるじゃないかHAHAHA》

 《お前が言うな》

 《笑い事じゃないぞ(真顔)》


 面通しどころか通話すらしていない相手の配信で最早常連の如くコメントで場を暖める秤京吾の姿に、廻叉はその確かなエンタメ力を感じるとともに、彼の同期である各務原正蔵の胃の心配をした。コメントの流れがようやく落ち着いたところで話を再開する。


「当日はきっと、より濃密なトークが出来る事を楽しみにしております。そして、今月のトピックといえば幣事務所の3期生デビューでしたね。二人とも、それぞれが個性豊かなメンバーですが、既に配信や動画は見て頂けましたか?」


 そんな風に話を振るとコメント欄が再加速する。コメント欄に目を向けると全体的に高評価だ。四谷に対しては『明るいオカルトマニア』というシンプルかつインパクトのあるキャラクター性を高く評価している声が多かった。また、SEを使ったり自作の配信用OP動画等の技術に対する称賛も多かった。


 一方で、石楠花ユリアに対しては不慣れながらも誠実に配信に向き合う姿勢や、ピアノの腕前、発展途上とはいえ歌声への高評価が目立つ。だが、それ以上にシンプルな「可愛い」評が大半を占めていた。既に彼女はRe:BIRTH UNIONのアイドルだというコメントもあった。なお、一番彼女をアイドル扱いして愛でているのは丑倉白羽と魚住キンメであるという事実を、廻叉は口にしなかった。尤も、それを察しているコメントもあったが、敢えて触れる事はしなかった。


「お二人ともデビューしてまだ時間が経っていないにも関わらず、自分自身の魅力を発揮されているようで何よりです。是非、二人のこれからを見守ってください。公式企画とは別で、私と3期生の二人とのコラボもあるかもしれません。まだ未定ではありますが、その日を楽しみにしています」


 《いい先輩してるわ執事》

 《執事と令嬢……そそるじゃない》

 《四谷くんとの怪談朗読コラボとかやってほしい》

 《執事と令嬢はもう少女漫画なんよ》

 《リバユニは基本箱内コラボ多いからいずれ見れるだろうな》


「繰り返しにはなりますが、予定は未定です。ですが、同じ事務所に籍を置く者同士です。未定が予定に変わる日を気長にお待ちいただければ、と思います。それでは、そろそろお時間です。おやすみなさいませ、御主人候補の皆様方」


 この配信の翌日、正時廻叉は東京へと向かう。目的はRe:BIRTH UNIONのハロウィン企画と、オーバーズの学力テスト企画配信への参加の為に。


【雑談配信】10月下旬のイベント告知【Vtuber/Re:BIRTH UNION】


配信時間:1時間58分


最大同時接続者数:429人


チャンネル登録者数:6325人

次回から正時廻叉二度目の東京編となります。

御意見御感想の程、お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて、最新話まで読み続けたいです。 [一言] 主人公の名前の読み方、知らなかった……
[一言] 四谷とはいろいろ語りたいんだよなぁ UMA、オーパーツ、レイライン、パワースポットえとせとらえとせとら 執事曰く仲間を己の衝動に巻き込むことも事務所的に是なのだから"ラップやろうぜー"のノリ…
[一言] 相変わらず安定して面白いです。 外部コラボも面白そうですし、ハロウィンがどんな感じなんかも楽しみです。
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