表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/232

「Re:BIRTH UNION3期生デビュー配信・小泉四谷の本性」

お待たせしました。3期生デビュー配信のお時間です。

令嬢こと石楠花ユリアが面接ではフィーチャーされていましたが、もう一人の合格者については特に触れてませんでした。

では、ご覧ください。彼が、小泉四谷です。

 桧田啓介(ひだけいすけ)。22歳の大学生2年生。浪人生活の間、息抜きのつもりで始めた動画作成にハマり、音声ソフトを使ったゲーム実況動画を文福茶釜という名義で投稿していた経歴を持っている。再生数や支持者は得たが、彼はトップに立つ事は出来なかった。それ自体は彼自身は気にした事はない。だが、一方で本来の自分をどこか抑えつけている、という自覚はあった。


「生まれ変わるって、いい気分だな。なぁ、君もそう思うだろ、四谷くん」


 画面上の配信用2Dモデルがニコニコと微笑む。和装に茶色の髪、そして何より特徴的なのは狐面を模したメイクだ。2Dモデルをデザインしたイラストレーターが遊び心として書き加えたオプションだが、これを見た時に彼は運命を感じた。自身のやりたい事と、それを表現する姿としてこれ以上の物はないと感じたほどだ。


「ああ、楽しみだなぁ。早く時間が過ぎないかなぁ……」


 画面右下へと視線を向ける。カレンダーの日付は9月30日、現在の時刻は20時51分。Re:BIRTH UNION3期生、小泉四谷(こいずみよつや)デビュー配信まで、残り10分を切った所だった。


 ◆


 DirecTalker上、『リバユニ3期の初配信を見守る先輩たちの会』と銘打たれた会話ルームには、1期生・2期生の計4人が既にスタンバイしていた。2期生デビュー時に1期生二人が見守りながら話す為に会話ルームを作った事から、今回も同様に見守り部屋を作ろうと提案したのは丑倉白羽だった。この提案は全会一致であっさりと可決され、配信開始10分前の時点で既に大盛り上がりだった。


「小泉四谷さんって、通話面接の最初に来た人だよね?動画作成やってた、っていう人」

「だな。理路整然と、分かりやすく人に伝える喋り方が出来るって話だったが……どうも、最終面接でハジけたらしくてな」

「えええ!?」


 キンメの問いに龍真が答える。通話面接の際に声質や喋り方などは把握していたが、最終面接での『エア配信』の内容までは知らなかった。むしろ、龍真が知っている事に驚いたようにキンメは驚きの声を上げた。


「別件で佐伯さんと話す機会があってな。その時に最終面接がどんな感じだったかチラッと聞いたんだよ。通話面接の時の印象のまま純粋に力を発揮したのがユリアで、全く別の顔を見せたのが四谷だった、ってさ」

「意外ですね……どういう形でハジけたのかまでは聞いてないですか?」

「なんだろうな……あの伝わりやすい話し方を、ある意味ではフル活用したとは聞いたんだが、後は初配信でのお楽しみだってさ」

「うーむ、やっぱりリバユニは普通の人は来ないのかなぁ、丑倉以外」

「白羽さん、さりげなく自分を普通のカテゴリーに入れないでください。貴女もまぁまぁ常識外れです」


 結局、小泉四谷が見せた別の顔については何一つわからないまま、時刻は淡々と進んでいった。そして、時刻は21時となり、待機中だった小泉四谷の配信が開始された。


 ◆


 まず、最初に映ったのは蝋燭の炎だった。そして僅かな風の音だけが響いている。そこに、青年の声が響く。


「ようこそ。現実と電脳の狭間へ」


 画面に砂嵐とノイズが走る。その蝋燭が映る時間が段々と短くなり、和装に茶髪の青年が映り込んだ。口元だけを弧状に歪ませた笑みを浮かべ、画面の向こう側を見据える。


「僕の名前は小泉四谷。何処にでも居て、何処にも居ない普通の男だよ。ああ、でも……人よりちょっとだけ怖い話が好きなんだ。幽霊だけじゃない、怪物も、呪いも、都市伝説も、古い伝承も、神話も、なんでもだ。ああ、そうだ。一番身近で一番恐ろしい、人間の話も大好きなんだよ」


 張り付けたような笑みを浮かべながら青年は燥いだような声で語り掛ける。コメント欄はその青年の外見と、口調と、その話している内容との乖離からか混乱と困惑に叩き込まれていた。


「そう、例えば、今、目の前に居る君達のような人間が――」


 画面は砂嵐で埋め尽くされる。そして、ザッピングをするように様々な画像が入り混じる。


 太陽の見えない曇りの日の海

 廃道

 古い教会

 朽ちた日本家屋

 月と地球

 殺人事件を報道する新聞の紙面

 ピラミッド

 風神雷神図屛風

 オッドアイの猫

 Re:BIRTH UNIONのロゴ

 花と蝶

 割れた皿

 経文

 能面

 狛犬


 狐面を模した化粧を施された青年――


『小泉四谷』


 黒い画面に真っ赤な文字で記されたその名前で、OP動画は〆られていた。


 ◆


「……これ、動画だよな?四谷が作ったっていう」

「……すいません、ちょっとまだ耳がやられてます」

「ご、ごめんて、廻叉くん……だ、だって怖かったんだって……」

「キンメちゃんの絶叫久々に聴いたなぁ、丑倉も耳キーンってなってる」


 ホラー要素の高い演出にキンメが悲鳴を上げ、結果的に鼓膜をやられた廻叉と白羽が大ダメージを負っており、龍真の質問は一時的に宙に浮いた。しかし、数秒もすれば麻痺していた聴覚も戻ってきており、改めて今の映像に付いて4人は語り合う。


「確か彼はゲーム実況動画の経験者でしたか。ここまで毛色の違う物も作れるんですね。正直驚きました」

「通話面接の時と大分印象違うよね……でも、こっちの方が素っぽい感じがする」

「だな……真っ当な常識人タイプだと思ったら、ここまでハジけるタイプだったかぁ……」

「編集技術もだけど、BGMやSEの選択が絶妙だね。センスいいと思う」


 少なくとも、このインパクトの大きい開幕はリスナーだけでなく同事務所の先輩たちにも小泉四谷の存在を強く刻み付けた様子だった。


 ◆


 画面が切り替わり、薄暗い和室の背景にコメント欄と小泉四谷の立ち絵が表示された。狐面メイクの無い、通常仕様の物だった。


「というわけで、OP動画を見て頂きました。改めて自己紹介しますね。Re:BIRTH UNION3期生、オカルトマニアの和装男子、小泉四谷です。趣味はオカルト全般、特技は動画編集。さっきのOP動画も、僕が作りました。結構、凝ってたでしょ?」


《凝ってたっていうか怖かった》

《こいつはとんでもねぇ男が入って来たもんだぜ……》

《最後のメイク付きの立ち絵で悲鳴上げたわ》

《超ビビった》

《動画作成勢か!》

《これは期待の新人》


 コメント欄の勢いはかなりの速度ではあったが、目で追う限り好意的な印象が多いようだった。四谷は満足そうに頷くと、今後の抱負を語る。


「まぁでも動画作成の経験はあっても、配信の経験は全くないので色々面倒を掛けるかもしれませんが、迷惑は掛けないように頑張ります。今後の活動は、オカルトトーク配信だったり、動画作成のコツを語ってみたり、ホラーゲームをやったり、ホラーゲームをやったり、ホラーゲームをやったりすると思います」


《草》

《ホラゲーばっかじゃねぇか!》

《これはオカルトマニアですわ……》

《怖がるとかじゃなくて、その手の怪奇が大好き系の方なのか》

《黒魔術とかやってそう》


「あ、黒魔術はやったことないですけど、藁人形や紙人形は作った事あるよ。後は呪うだけだけど、幸い呪いたいほど憎い相手は居ないから安心しようね。ただし迷惑行為を働くリスナーさんは頑張って呪うね」


 朗らかに言い切ると同時に、再びコメント欄が阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。この僅かな時間で、『小泉四谷ならやりかねない』という共通認識が産まれていた。


「それはさて置き、僕自身の事は追々知っていってもらいたいなって思います。という訳でホラゲーやりまーす!」


《 置 く な 》

《やっぱヤベー奴じゃねぇか!》

《これでユリアちゃんが真っ当な子である事を祈るしかなくなったな》

《Vtuberの世界に度し難い狂人がまた一人生まれてしまった》

《初配信開始5分でホラゲーを始めるオカルトマニアの鑑》


 ◆


「ごめん、悲鳴上げると思うからミュートするね」


 ホラー耐性皆無のキンメが作業部屋内での反応が消える。苦手でありながらも、後輩の初配信は見守るという気概に他の3人が感動するが、配信画面上でケタケタと笑いつつオカルトの衒学(げんがく)趣味を発揮して語り散らかす小泉四谷の姿を見て冷静になった。


「通話面接の際に褒めた理路整然とした解説がこんな形で発揮されるとは、この私も予想できませんでした。最終面接で何があったんでしょうね、彼」

「9割方ステラ様が何か言ったんじゃない?」

「だろうな……まぁ、いずれ俺らも知れるだろ。すげぇな、ホラーゲームプレイしながら実況解説しつつ、SE入れてるぞ。ホラゲーにレゲエホーン鳴らすと無駄に面白いな」


 ◆


 ノベルタイプのホラーゲームの第一章が丁度終わるタイミングで、配信開始から50分が過ぎていた。この後に同期の配信が控えているという事もあり、小泉四谷は名残惜しそうに終了の挨拶を始めた。


「この後は、僕の同期の石楠花ユリアさんが初配信です。僕はこの世界に飛び込む時に真っ当じゃなくなってしまいましたが、彼女はそんな子ではないと思います。打ち合わせでお話しただけですが、応援したいと素直に思える子です。ユリアさん、大丈夫だよ、頑張って」


《ハードルを上げたのか下げたのか》

《真っ当じゃない認識をしててくれて助かる》

《デビュー配信で終末論語るとか前代未聞だろ》

《趣味と話が合いそうなので推すね》

《アレだよ、スイカに塩振ると甘みが引き立つみたいな効果を四谷くんは狙ったんだよ》

《スイカに岩塩を塊でぶち込んだようにしか見えないんだが》

《今後に期待込みでチャンネル登録。同期を気遣える良い奴やんけ》


「そんな訳で、丑三つ時か黄昏時か逢魔が時にまたお会いしましょう。小泉四谷でした」


《縁起悪い時間帯ばっかで草》

《刺さる人には無茶苦茶刺さるタイプだな、こいつ》



【初配信】小泉四谷、大いに語る【Re:BIRTH UNION3期生】

 最大同時接続者数:449人

 チャンネル登録者数:2411人




 ※




 同期の小泉四谷のデビュー配信が終了すると同時に、石楠花(しゃくなげ)ユリアこと三摺木弓奈(みするぎゆみな)は手の震えを必死に抑えていた。限定公開でのリハーサルも何度もしてきた。機材との接続も、既に十回以上は確認している。後は、自分が意を決して配信開始ボタンをクリックするだけだった。


「小泉さんは大丈夫って言ってくれた。スタッフさんも見てくれている。先輩たちも、廻叉さんも見てくれてる。だから、後は私次第。私次第。私次第……!」


 目の前にはパソコン用のキーボードとは別に、楽器のキーボードが置いてある。何年も使ってきた、自分の手に馴染んだものだ。何を弾くかも決めてある。練習も散々してきた。後は、一番信じる事の出来ない自分を信じる事だけだ。マイクがまだミュートになっていることを確認し、画面上で微笑む薄紫色の髪の少女と視線を合わせる。


「大丈夫、三摺木弓奈に出来なくても、石楠花ユリアは出来る。私は三摺木弓奈は信じられなくても、石楠花ユリアを信じてる。だから、大丈夫」


 自己暗示を掛けるように、何度も何度も大丈夫と繰り返す。時刻は、丁度22時となった。


「生まれ変われ、自分」


 三摺木弓奈が配信開始ボタンをクリックすると同時に、彼女は石楠花ユリアになった。

彼もまたRe:BIRTH UNIONでした。いろんな意味で。

次回、いよいよ、拙作のヒロインである石楠花ユリアのデビュー配信です。


御意見御感想の程、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 桧田啓介くん24歳って書いてなかった?
[良い点] 四谷さん、登録待ったなしです! ヒロインちゃん、応援してます(*´ー`*)
[一言] 濃 ゆ い ! なんこのドロリ濃厚みたいなオカルトマニア……(°Д°)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ