「明日は我が身の対岸の火事」
気付けばユニークアクセスが2万の大台を突破し、ブックマーク数も600目前まで来ております。
第一話を投稿した当初は、正直ここまでたくさんの方に読んで頂けるとは思ってもいませんでした。
今月も出来る限りの更新はしていきたいと思っております。
※今話では炎上を話題にしております。当作はフィクションであり実際の事例とは無関係として書いておりますが、連想・想起してしまう部分がある点は否めない為、閲覧の際はご注意下さい。
「はっはっは、見ろ廻叉。コメント欄の加速具合がとんでもねぇぞ」
「そりゃ他所の炎上に口出そうとしてるのを見たら、善良なコメント欄の皆様は慌てますし、止めに掛かるでしょう。とはいえ、先程申し上げました通り対岸の火事として知らん顔をしていると、いざという時に困るのは我々です。私は私で、誤解されやすい振る舞いをしている自覚はあります。龍真さんも、ラップバトルで必要以上のディスをして燃える可能性だってあるでしょう?」
「うぐ……まぁ、参加者はディスりディスられには慣れてっけど、視聴者がそうとは限らねぇしなぁ。幸い今の所苦情は来てねぇけど」
《あー、確かに二人とも燃える要素はあるわけか…》
《納得できるようなできないような》
《今この瞬間こそ炎上リスクがMAXになってんじゃねぇか?》
「実際、この界隈でも炎上自体は少なからず起きています。今年の初め頃ほどの瞬間最大風速は収まったものの、Vtuberというジャンルは今もネット上のムーブメントとして屈指の勢いがあるコンテンツとなっています。火種一つが大火災になってしまう事を我々はもっと自覚しなければならない、と私は思います」
「そりゃそうだ。むしろ炎上リスクを考えてないVtuberは居ないって思いたいけどな……正直、『桃源郷心中』の件に関しては当事者全員がその辺の理性を失ってたからな……」
《草……生やせるかぁ!》
《初手で地獄の扉開けるのやめーや》
《まとめwikiまで出来てる事件じゃねぇか……》
《知らないから知りたいけど知りたくない……》
《下手すると個人勢全員にダメージ入ったまである大事件だからな》
「ここからは非常に生々しい話にもなりますので、苦手な方は今のうちにミュートやブラウザを閉じる等の対策をお願い致します。……今年の3月頃ですか、あれは。私がまだデビュー前……というか、龍真さんと白羽さんがデビューした直後くらいでしたか?」
「ああ、よく覚えてるわ……もう名前出しちまうか。桃瀬まゆ・源正影・郷田エレンっていう3人の個人勢が居てな。ここに他5,6人くらいを足した多人数でよくゲーム実況コラボしてたんだよ。確か『バーチャル遊ぼう会』なんて名前だったかな。で、桃瀬と源がちょっと良い仲になってな……」
《うっわ、久々に聞いたわ……》
《正影なぁ……面白い奴だったんだが》
《当時の話されるの嫌がる個人勢も居るからみんな注意な》
《ラッパーVtuber・MC備前:どうも、他5,6人の一人です》
《遊ぼう会メンバー、今も活動してるのマジで少ないはず》
《当事者来ちゃったwwww》
「……備前、来たのか。あー、一応言っておくか。備前にはこのラジオ始まる前に『桃源郷の話して大丈夫か』は確認してある。ネットサイファーの時に当時の話をしてくれてて、今回の企画の前にも改めて話してもらってたからな」
「はい、打ち合わせの際に同席頂きました。その節はご協力、本当にありがとうございます」
《ラッパーVtuber・MC備前:いや、いい加減俺も吹っ切れたとこだし、業界内で教訓として役立ててくれるなら何よりだわ》
《聖人……!》
《備前ニキ登録してくる》
《備前さんの動画だとHIPHOP用語講座マジおススメ。めっちゃ面白かった》
《ラッパーVtuber・MC備前:みんなありがとう。愛してるぜ》
「備前さんが良い、と仰られたので話を続けますね。桃瀬さんと源さんが良い仲になったタイミングで新しくメンバーとして入って来たのが郷田さんでした。この時点では桃瀬さんも源さんも後輩として郷田さんに接していたのですが……」
「郷田がなぁ……よりによって、源に一番懐いちまったんだよな……で、問題が起きた。よりによって2月14日に、だ」
《あっ(察し)》
《ラッパーVtuber・MC備前:このちょっと前に桃瀬と正影が付き合ってるって知ったんだよなあ。他の男どもが怨嗟の声を上げてるのを見て、俺は大爆笑してたが》
《いい性格してんな備前さんw》
《備前ニキ謎の余裕で草》
《バレンタインデーに修羅場は地獄すぎひん?》
「端的に言うと二股ですね。そこから関係性は一気に悪化。奇しくも3月14日、お気持ち表明・謝罪文・個人情報の暴露が連続で発生するというこの世の地獄が発生しました。私は後から知りましたが、言葉が出ないとはまさにこの事でしたね」
「ちなみにこれ、当事者全員がそれぞれ一回以上ずつやってるからな。俺と白羽が3月1日デビューだから……二週間でこれが起きた訳だ。後から備前と知り合った時も、この時の事は中々聞けなかったな……界隈全体でタブー視された上に、男女コラボが激減した。特に男性Vtuberへの風当たりは目に見えて強くなったな」
《地獄やん……》
《草も枯れ果てる不毛な争い》
《個人勢では最大の炎上だと思う》
《オーバーズですら男女コラボ自粛してたもんなぁ》
《ラッパーVtuber・MC備前:火遊びは怖いよな、って話よ。いろんな意味で》
《至近距離で見てた人が言うと笑っていいのか困るわ》
「これ以降ですかね、所謂ユニコーンと呼ばれる男性Vtuberを敵視する一部の過激派が産まれたのは」
「あー、明確にユニコーン呼ばわりされるようになったの最近だけどな。幸いウチの女性陣には誰一人いないけど。ウチの女性陣、瘴気が強すぎるんかね?」
「龍真さん?」
《おいwwww》
《草》
《瘴気wwwww》
《丑倉白羽@RBU1期生:覚えてろよお前》
《ヒェ……》
《さっき白羽がコメントしてたのに何故言ってしまうのか》
《これはギターで殴られるやーつ》
「不適切な発言がありました事を謝罪致します。龍真さんは後日何らかの報いを受ける事になるでしょう。さて、色恋沙汰というのは往々にして理性よりも感情が上回ってしまうものです。とはいえ、あらゆる漫画・アニメ・映画、あるいは楽曲でも恋愛というのは切り離せないものでもあります。Vtuberが恋愛をするなとは、私は思いません」
《報いて》
《あー、演劇やる側からしたら恋愛をテーマにした話なんて山ほどあるもんなぁ》
《でもなぁ……推しに彼氏できたら冷静で居られない気がするわ》
《攻めた事言うなあ》
「そうですね、敢えて強い言葉を使うならば……『恋愛をするなら本気でやれ。視聴者から応援されるくらいの本気の恋愛をしろ』とだけ」
《ヒッ……》
《急に朗読モード入るな心臓止まっただろ》
《これが演劇ガチ勢……!》
《心臓止まったニキは早くADAして》
《AEDだろ。なんだ、アダって》
「ぶっちゃけ俺ら恋愛してる余裕なんてあんのか、って話だしなぁ。日々の活動だけで手が足りてねぇのにな」
「まぁその辺は人生と運命の転がり方次第、という事で。次は……『プリンセスラウンジ』の運営による不手際ですか。運営が極めて恣意的に所属タレントへの対応を変えていた、というのが内部告発された件ですね」
《あ、そっちも触れるんだ……》
《度を越した依怙贔屓と脅迫染みた口止めだっけか》
《推しが居た(過去形)》
《過去形ニキ元気出して》
「正直この件に関しては告発側が問答無用で弁護士通したのが驚きましたね。過去にも企業個人問わず告発はありましたが、SNS上やTryTubeでの動画や配信を通じた物が大半でしたし、場合によってはゴシップ系配信者に情報を横流しするという悪手を打ってしまった方もいらっしゃいますし」
「あー、例のアイツとかか。こないだ『ステラ・フリークス、後輩への様付け強要、パワハラ疑惑!』とかいう配信やってたよな。ビックリするほど嘘しか言ってなくて大爆笑したわ」
「何をやっているんですか、あなたは」
「正直痛くない腹探られたところで、くすぐったくて笑うしかできねぇじゃん?」
「そこはその通りではあるんですが」
《龍真何見てんだよ再生数に貢献すんなよ》
《草》
《図太いにも程がある》
《アレで登録者数1万行ってるのが腹立つというか》
《残念ながら需要はあるからな……》
「少なくとも我々の運営は健全というか、個人の好みで扱いが変わるという事はないと思います。ステラ様が最優先なのは当然ですし、実際私なんて彼女の5%ですからね。登録者数」
「俺もようやく1万1千だしなぁ。曲出すたびに伸びてくれるのは本当にありがたい。この状態でステラ様蔑ろにして俺らに力入れたら他でもない俺らがキレるっつの」
「私たちの事を『星に巣食う寄生虫』と呼ぶ方もいるみたいですが、考えてごらんなさい。星に巣食える時点でその寄生虫のサイズは龍です。我々、知らぬ間にドラゴンだったようです」
《リバユニはその手の揉め事と無縁よな》
《全体的に大人だしな。大人げないけど》
《うーむ、なんだろうこの『歯車の噛み合ってる独裁』感》
《執事、その反論はおかしい》
《無感情モードでトンチキな事言い出すの腹筋に悪い》
《草》
「あとアレだ。寄生されたまま喰われるようなステラ様じゃねぇって。むしろ俺らが囚われてるまである」
「そこは同意します。信者と揶揄される事も多々ありますが、そこは否定しようのないただの事実ですし」
《ええ……》
《こいつら隙あらばステラ信者アピールするな……》
《リバユニがステラ強火担しかいないからしゃーない》
「というわけで、弊社に関してはその手の炎上はおそらく無いと思います。迂闊な発言等さえなければ」
「舌禍ばっかりは防ぎようがねぇからな……」
「何度も言いますが、炎上は対岸の火事ではないという事を我々は肝に銘じて活動しなくてはいけない、という事です。それではここで一曲」
「よっし、そんじゃあ最初の曲はステラ・フリークス最新オリジナル曲『Warning』!」
《ノリは軽いけど危機感は伝わった》
《ここで何故曲!?》
《そういえばラジオだった》
《図った様にタイトルがWarningなの草》
※※※
数週間後に控えた初配信を前に、三摺木弓奈は先輩二人のラジオ配信を聞きながら運営から配送された配信用ツールのマニュアルを読み込んでいた。ツール、とは言っても専用アプリの入ったスマートフォンと、その周辺機器だったので、基本的な使い方は私用のスマートフォンと然程変わりはない。パソコンと連動させる事で、画面上に表示させるように設定すればいいだけだ。
合格者発表の数日後には両親と共に再度事務所に来て欲しい旨を伝えられ、契約書及び保護者同意書の取り交わしと共に簡単な講習を受けた。その際にスタッフとのDirecTalkerのフレンド登録を行い、自宅からでも質問が出来る環境になったのは彼女にとってはありがたい事だった。パソコン回りの事はある程度までは兄による指導があったので大丈夫だが、配信ソフトや専用アプリに関しては家族に聞いても意味がない。
実際に、練習として現在もそのアプリを起動させている。龍真と廻叉の配信を流しているモニターとは別のモニターには、その姿が写っている。
「……こんにちは、石楠花ユリアです」
薄紫色の長い髪の少女が、自分が喋る動きに同期して口元を動かした。華美ではないが品のあるワンピースに、帽子を被った美しい少女が――自分の新しい姿だとは、まだ思えなかった。
「ねぇ、貴女は、私でいい……?」
未成年である為、事務所に同席して説明を受けた両親もこの姿を、『石楠花ユリア』の姿を知っている。父はその技術に感心し、母は「少し弓奈の面影がある」と評した。スタッフ曰く、最終面接が終わり合格者が決まった直後から石楠花ユリア、そして小泉四谷の配信用2Dモデルの作成に取り掛かったとの事だった。目に隈を造り、どこか窶れながらも晴れ晴れと笑うスタッフの姿を見て弓奈は引き攣った笑みを浮かべてしまった事を今更ながらに後悔する。
「凄いね、廻叉さんも、龍真さんも。すごく活き活きしてる。……廻叉さんでも対応できない悩みってあるんだ……」
今まで何気なく見てきた配信、廻叉・龍真の2Dモデルが全く違うものに見える。ぎこちなく画面上で動く石楠花ユリアとは、全く違うとわかる。二人の会話に呼応するように、ちょっとした体の動きや表情の変化を起こし、それが今この場で話している姿を映し出しているように思えた。
『いやもう債務整理の話を何故私に投げたのか理解に苦しみます』
『怖ぇよ!!なんでお前のとこのリスナー、外貨為替失敗した人からメールが来るんだよ!どういう層のファン抱えてるんだお前!!』
『私が聞きたいですよ、そんなの。えー、ラジオネーム『誰にも言えない』さん。先ほどの話じゃありませんが私ではなく弁護士に相談してください本当に。あと親や配偶者にはすぐに言いなさい、手遅れになる前に』
当の二人は廻叉のところに来たが扱いに困ったメールを二人掛かりで処理しようとして、失敗した所だった。なお、メールの内容はFXの失敗で数千万円単位の借金を背負った男性からの悲痛極まりない相談であった。
「あ、あはは……債務整理ってなんだろうね、お父さんに聞けばわかるかな?」
廻叉の呆れ声と龍真の勢いしかないツッコミに思わず苦笑いを浮かべれば、弓奈と同じようにユリアもどこか困ったような笑みを浮かべていた。弓奈は、少しだけ石楠花ユリアに近付けたように思えた。
そして、三摺木弓奈は石楠花ユリアとして配信デビュー日を迎える。
次回は、3期生デビューです。デビュー配信は小泉四谷→石楠花ユリアの順になります。
御意見御感想の程、お待ちしております。