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「俗に言う、ステゴロです」

 石楠花ユリアの二周年記念配信の企画はある程度まとまりつつあった。一時間を予定し、ピアノ演奏とゲーム企画、そして歌唱ライブという三部構成にすることは決まっていた。ライブのゲストに正時廻叉を呼ぶこと、楽曲などは決まっていたがゲームに関してだけ決まっていなかった。

 元々ユリアはVtuberになってからゲームをやり始めた人間であり、デビューから二年が経過した今でもゲームに詳しい、ゲームが上手いとは自信を持って言えるほどではなかった。ほぼ同期である、にゅーろねっとわーく所属の如月シャロンとのゲーム勉強企画『ゲーム補講』も不定期ペースで続けている。しかし、今回は3Dを活かした上でゲームを行うのが本題だ。今までの2Dモデルでのゲーム配信とは毛色が違う。


「どんなゲームがいいでしょうか……?」

「まだ決まってなかったんですか」


 リザードテイルの地下スタジオでの打ち合わせ中、ユリアは真剣な表情で廻叉へと尋ねた。ユリアの二周年企画は廻叉以外のゲストはおらず、ほぼソロ企画だ。打ち合わせの回数も少ないため、この機会に相談しておこうとユリアは考えた。仕事場かつ仕事のための話し合いということで、二人は既にVtuber正時廻叉とVtuber石楠花ユリアとして会話と打ち合わせを続けている。


「ごめんなさい、なかなか聞く機会が無くて……」

「そういえば、私とお嬢様が一緒に仕事をする頻度が最近では控えめでしたからね」

「そ、その、プライベートの時にお仕事の話をするのは、身バレとかありますし……」

「そうでしたね、他ならぬ私が『プライベートではVの世界の事は一旦置いておこう』と提案しました」


 夏フェスでの出演以降、正時廻叉と石楠花ユリアが共演する機会はやや控えめになっている。一部では疎遠になった、不仲になった、別れたといった憶測だけの噂が流れているが、単純に共演時の反響が大きすぎたのが原因だった。

『これに頼るのは良くない。バズるために交際しているわけではない』という意見で廻叉とユリアが一致し、基本のソロ配信を中心に行おうという方針になっただけの話である。


 実際には配信が行われない平日の午前から夕方ごろに時間さえ合えば二人での時間を過ごしているので、別れ話とは無縁ではあった。だが、それを知っているのはRe:BIRTH UNION関係者を中心とするVtuber界隈の一部分だけであった。


「ゲームだけはシャロちゃんと一緒にやろうかなって思ってたんですけど、にゅーろさんの大きいイベントの準備期間みたいで……」

「存じております。お嬢様がビデオメッセージを頼まれたという話は、マネージャー経由で伺いました」

「はい。シャロちゃん、今回が3Dモデルの初出しらしいです。すごく嬉しそうで……いつか、一緒にライブ出たいねって話もしました」

「それは楽しみですね。お嬢様とシャロンさんの共演を喜ばれる方はたくさんいるでしょうから。何故か頭に大佐と呼ばれる軍人が浮かびましたが、それはさておきゲームですか……」

「はい、VRゲームをやろうとは思っているのですが……ホラーが多くて……四谷さんと被るなぁって……」

「ホラーを避けている理由は本当にネタ被りだけですか?」

「……たぶん、パニックになって暴れて、機材壊しちゃいそうだから……」


 ユリアはホラーゲーム自体に対する苦手意識はない。ある種のアトラクションの様に楽しむことが出来るが、リアクションが声よりも動きに出るという悪癖があった。コントローラーや、キーボードの操作があからさまに荒っぽくなり、配信中に座っているゲーミングチェアが軋む音がマイクに乗るほどに動作が大きくなる。VR機器を付けて立ち上がった状態でホラーゲームをやった場合、本人や周囲のスタッフの怪我、器物の破損の可能性があるとユリアは考えていた。


「意外とリアクションが大きいですからね、お嬢様の場合。よく存じております」

「2Dだと誤魔化せるんです……そういうところ……」

「むしろそういう所を見せていくべきだとは思うのですが。良くも悪くも、お嬢様には『真・清楚』という評判が付いて回っているわけですし」

「……その、私ってそんな清楚って言われるような事をしていないと思うんですが……」

「むしろ清楚を自称して好き勝手やって来た先達の皆様の影響でしょうね。具体例を一名だけ挙げるのであればオーバーズのアリアさんです」

「……の、のーこめんと……」

「これに関してはアリアさん本人がご自分で言っていた事なので問題ないです。早い話が、Vtuberの界隈において『清楚』という誉め言葉へのハードルが著しく下がっていたのです。こればかりはお嬢様が悪いわけではないので、あまりお気になさらぬよう」


 リアクションの大きさの話から、Vtuber界隈における清楚という言葉の意味合いに関する話にまで会話が飛び交う。このままラジオ番組にしても良さそうな内容だ、と廻叉は一瞬だけ考えるが、実際にはオフレコにすべき内容も少なからず多い事に気付いて脳内で却下した。それでなくとも、正時廻叉と石楠花ユリアとして、執事と令嬢としての関係を保ちながら視聴者を気にせずに自由に会話が出来る状況を廻叉は楽しんでいた。


「さて、話を戻してゲームなのですが……いっそ、その『真・清楚』というお嬢様について回る評判を逆手にとってみましょうか」

「逆手に、って……?」

「お嬢様、深窓の令嬢、或いはお姫様から一番縁の遠いものは何だと思われますか?」


 ユリアは突然の問いかけに狼狽しながら、頭を必死に回転させた。自分の事だと考えず、パブリックイメージにおける令嬢や姫君から縁の遠いもの。つまりは、令嬢や姫君がやらなさそうなことを想像してみることにした。


「銃での撃ちあいとか……?」

「一般論ではその通りです。ただ、Vtuberはお嬢様も含めて大体の方がACT HEROESで遊ばれてますから、この界隈においては縁の近いものになっていますね」

「……ギャンブル、でしょうか?」

「現代のセレブであればラスベガスでカジノゲームを嗜むくらいはするでしょう。残念ながら……と言うと語弊がありますが、お嬢様以外の『貴族令嬢』や『正統派アイドル』のVtuberでギャンブルに脳を焼かれていらっしゃる方を数名存じておりまして……ですが、考え方としては正しいと思われます」

「だとしたら、なんでしょうか?」


 ユリアの考えは正しくはあるが、Vtuberにおいては然程イメージを外れているというほどではないのが事実だ。二年目を目前に改めて、Vtuberというジャンルにおける懐の広さと業の深さを思い知ると同時に、ユリアはギブアップを宣言するかのように答えを求めた。


「最も原始的な闘争。即ち、素手での殴り合いです」

「……え?」

「俗に言う、ステゴロです」

「……えええ……?」


 あらゆる感情を載せた困惑の声が、リハーサル室に響いた。


 その後スタジオでの打ち合わせと音合わせを終わらせると同時にスタジオを出た廻叉とユリアが、大型量販店まで車を走らせた。購入してきたのは、VR用ゲーム機と初心者向けのスポーツゲーム、そして本命である企画用のゲームソフトだった。


「まさかこんなピンポイントで私たちの必要とするソフトが出ているとは思いませんでした。良い買い物でしたね」

「新作コーナーの一番目立たないところにありましたね……」

「SNSで検索しても、公式の極めて事務的な宣伝と『とりあえず買った』のような内容に触れていない話ばかりだったのが気になりますが、リハーサルでやってみてダメならばスポーツの方にしましょう。世の中妥協は必要です」

「そ、そうですね。ゲーム自体の規約で配信出来ない可能性もありますから……」


 結論から言えば配信規約はクリアされ、内容的にも配信映えする作品だった。ゲーム自体の出来も、ややボリュームに欠けるものの操作性は軽快でUIも視認しやすく使いやすいという隠れた良作と呼べる作品だった。


 それはそれとして、石楠花ユリアはこれを自分の記念配信で遊ぶことに一抹の不安を隠し切れずに居たが、万が一の時はこれを選んだ廻叉のせいにしようと心に決めた。二年目を間近に控え、彼女も少しだけRe:BIRTH UNIONの空気に染まっている事を自覚した。

読み返したら、先に繋がらない話になってました。深夜テンションで書くとこうなる。

故に大幅邂逅した結果一時間程の遅れとなりました。申し訳ない。


御意見御感想の程、お待ちしております。

拙作を気に入って頂けましたらブックマーク、並びに下記星印(☆☆☆☆☆部分)から評価を頂けますと幸いです。


拙作「やさぐれ執事Vtuberとネガティブポンコツ令嬢Vtuberの虚実混在な配信生活」第二巻がTOブックス様より、2024年4月15日に発売となりました。ダークなハロウィン衣装の二人が目印です。

第一巻に引き続きイラストは駒木日々様に担当して頂いております。

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今後も情報があり次第、筆者のTwitterでも発信する予定となっています。


筆者Twitter:https://twitter.com/Mizkey_Siz_Q


TOブックス様公式Twitter:https://twitter.com/TOBOOKS

ハッシュタグ:#やさネガ配信

ファンアートタグ:#やさネガ配信FA

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゲームだけはシャロちゃんと一緒にやろうかなって思ってたんですけど、にゅーろさんの大木イベントの準備期間みたいで…… 大木になってますよ? [一言] 更新ありがとうございます!
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