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「は、はい!実際、今もこんな感じです!」

「はっきりと申し上げることが出来るのは、私たちはみなさんと敵対するつもりはございません」


 正時廻叉は淡々と語る。機械的なアナウンスのような言葉に、オーバーズの三人はそれぞれ割合こそ違えど半信半疑でその言葉を聞いていた。石楠花ユリアという少女は、相変わらずピアノを弾いているだけで廻叉の説明に口をはさむことも無ければ、突然の来訪者たちに視線を向ける事もしない。


「あなた方の言うバグは、確かにこの現実世界に悪影響を与えるものです。駆除できるのであれば、駆除するべきだ。可能であれば、根から絶つべきでしょう」

「その認識を持っている事は助かるよん。正直、どうでもいいって言われるんじゃないかって警戒してたから」

「でもよぉ、こんなバグみたいな家に住んでて目的もわからねぇ。敵対しないからってじゃあお友達で、みたいな感じにはならなくねぇか?ってか、こんだけ強くてバグ駆除やらねぇ連中を信用できねぇよ」

「セイルの言う通り、いきなり警戒を解くのはちょっと出来ないですね……バグ対策で色んな人と関わってきましたけど、貴方たちはこれまで出会った人の中でも異質だ」


 実際に廻叉に捻られたブラックセイルは敵対心を隠そうとしない。クロムはRe:BIRTH UNIONという組織自体への警戒心が拭いきれないようだった。


「なるほど、お二人が警戒されるのは理解できます。ですがご安心ください。私たちは武力、暴力という点では他の方々の足元にも及びません。荒事のための組織ではないのですよ、Re:BIRTH UNIONは」

「あんな魔法みたいな真似しておいて、どの口が言うんだよ!」

「確かに、その子の動きが急に鈍ったのはこの目でしっかりと見たよん。それにそっちのお嬢ちゃんのピアノの音色を聞いたら精神的に鎮静化されちゃったし……荒事にも十分対応できるように思えるよん」

「私のやったことなど、小細工に過ぎません。人間相手には通用しても、バグには通用しないでしょうね」

「じゃあ、彼女のピアノは?」

「バグ、耳ないですから……それに、ピアノを持ち運んで討伐するわけにもいきませんし……」

「聴覚くらいはあるのでは……」

「ピアノじゃなくて、ギターみたいな形のキーボードとかあるだろ」

「それはそうなんですが……」


 丁寧な口調で謙遜する廻叉と、物理的理由から無理だと語るユリア。言いたい事は分かるものの釈然としない気分になるクロムとブラックセイルだったが、廻叉はともかくユリアが本当に申し訳なさそうにしている姿を見ると、それ以上追及しようとは思えなかった。


「まぁ今のやり取りだけでも、君たちが善良寄りであることはなんとなくわかるよん。とはいえ、こうして初対面で会っただけじゃ分からない事もある。一歩ずつ踏み込んだ話をしたいんだけど、どうかな?」

「私たちの知る範囲、私たちの話せる範囲であれば構いません。ユリアさんも、それでよろしいですか?」

「はい。あ、でも、私……Re:BIRTH UNION以外の人たちと話すのは初めてかもしれません……!ど、どうしましょう、何か粗相があったら……!」

「大丈夫です、その時は私がフォローします」

「あくまでも自己紹介の延長だよん。緊張しなくて大丈夫」


 ネクロの提案は極めて穏当であり建設的なものだと判断した廻叉は対話に賛同する。少なくともこの場に居るRe:BIRTH UNIONの二人の内、主導的に決定しているのは廻叉であるとネクロは判断する。一見すれば執事と令嬢、主として見られるのはユリアの方だ。しかし、実際には彼女は廻叉の庇護下にあるように思えた。


「なんで急に三国志の話になったんだ……?」

「セイル、粗相ね。曹操孟徳の話じゃないから」


 小声でどうしようもない話をするクロムとブラックセイルもまた自分の庇護下にある事をネクロは再認識した。少なくともこの二人を交渉や現状認識の擦り合わせの最前線に立たせるには、あまりにも頼りない二人の姿にネクロは小さく溜息を吐いた。





※※※




「はい、という訳で今回はここまでだよん。続きは概要欄にリンクが張ってあるから読んでねー」

「お疲れさまでした。この先は今日この場に居ない方の登場がありますから、残念ながら私たちだけで進行するのは困難ということで、ご了承ください」


《888888888888》

《やっぱ執事さん上手いなぁ》

《お嬢のセリフパートがもっと多いシーン目前ってのが惜しい》

《ってかみんな普通に上手いんだよなぁ。当然いい声だし》

《リブラのナレーションこんなに上手かったっけ?》


「あのさー、ネクロ先輩さー。俺ら最後の最後でアホ丸出しなのどうにかならん?」

「僕、ツッコミというか訂正入れただけでセイルと同じアホ扱いなの納得いかないんですが……」

「心配せずともオーバーズは基本シリアスが長続きしないように調整済みだよん。私らが純度の高いシリアスが出来るわけないじゃんって途中から気が付いたんだよん。アドリブでボケさせて収集が付かなくなるくらいなら、最初からお前らが言いそうなボケ台詞を先回りして書いてやるんだよん……!!」

「ひでぇ!けど否定できねぇ!」

「身に覚えしかないなぁ……」

「自分のパートが無くてこんなに安心したことはないね!一応推敲の段階で『ここ、どうやってボケる?』って聞かれるから、リアリティは担保されてるよ!ただし、それがウケるかどうかは話が変わってくるんだけどね!」


《草》

《声劇配信がぐちゃぐちゃになって、何かしらネクロが開き直った結果がこれである》

《オーバーズのボケやギャグ描写が増えたけど、逆にリアリティが増したって言われたの本当に草しかない》

《ネクロは本当にオーバーズのメンバーを良く見てる。決めるところは決めてくれるから信頼できる》

《リブラの暴露草》

《身内だからこそ出来る取材という名の大喜利大会》


「ところでさっきから息絶える寸前みたいな吐息が聞こえるのは、ユリアちゃんかな?」

「は、はひぃ……き、緊張しました……台詞もですけど、生演奏のタイミングとか、邪魔しない音量とか……!リハーサル、長くしてしまってすいませんでした……!」


《可愛い吐息が聞こえる……》

《たすかる》

《!?》

《え、録音じゃねぇの!?》

《お嬢のセリフパート少ないとか言って本当に申し訳ございませんでした》


「集合時間より二時間近く早くDirecTalkerに来て、音量やスピードの調整をされていたとの事です。私は全く知りませんでした。ネクロさんはお嬢様からの打診を受けて時間を合わせて頂いたそうで……本当にありがとうございます」

「ここまで熱意持ってくれてると嬉しくてねぇ。クロムと正時さんも一時間早く来て打ち合わせしてくれて助かったよん。開始五分前に滑り込みで来た残りの二人は心底から反省するといいよん。遅くとも三十分前には来て欲しいって言ったよな?聞いてるか?リブラ?セイル?」

「すいませんでしたぁ!思いっきり寝坊です!!」

「いや、ACTのランクがあとちょっとで上がりそうだったからつい……」

「この場合、正直に謝ったブラックセイルさんの方が高得点です」

「擁護できないししないよ」

「あ、あはは……」


《うーん、他事務所が絡んでもオーバーズはオーバーズなんだなって》

《リバユニの熱量を全員が持てとは言わんけど、時間くらいは守れ》

《お嬢が苦笑いマシーンと化しておる。複数人コラボで気まずい展開になると大体こうなるぞ》


「今度もユリアちゃんと正時さんは呼びたいねぇ。予定さえ合えば、この続きで登場するステラ様も呼びたいんだけど……」

「たぶん、呼べば来ますよ。あの方、なんだかんだで誘われるの大好きですから」

「普通の食事や買い物のお誘いでも、凄く喜んでくれるんです。凄く可愛い方なんですよ、ステラ様って」

「ほへー……意外だよん。それならオファーするだけしてみようかな。あと、お二人の関係が今みたいになる前に書いたから、なんとなく対等っぽく書いちゃったけど良かった?」

「は、はい!実際、今もこんな感じです!」

「お嬢様、落ち着いてください」

「元気よく何を口走ってるんだ、このお嬢様」


《おおおおおおおお!!》

《ステラ様に対する神聖視が最近、事務所の外の方が高まってる疑惑》

《可愛いんだよ、ステラ様って。普段着の新衣装貰った辺りでバレたな、完全に》

《これを読んだときは執事とお嬢がまさかくっつくとは思わなんだわ》

《草》

《お嬢?》

《引っ張って貰ってるって事かしら!?そうなのかしら!?》


「え!?あ、その違うんです!いや、違わないけど違うんです!!」

「お嬢様」

「むしろこの作品くらい、しっかり廻叉さんをサポートできる良妻賢……ああ!?」

「お嬢様、一度深呼吸しましょう。はい、吸って。吐いて」

「想像以上に味わい深いな、この二人」

「伊達に『無限に出汁が出る』って言われてないよね」

「この二人のこの感じだけは、どれだけ資料集めても書ける気がしないよん」

普段と毛色の違う話がやりたくなった結果の声劇回でした。

そして、4月15日に書籍第二巻が発売となりました!

第一巻共々、よろしくお願い致します!


御意見御感想の程、お待ちしております。

拙作を気に入って頂けましたらブックマーク、並びに下記星印(☆☆☆☆☆部分)から評価を頂けますと幸いです。


拙作「やさぐれ執事Vtuberとネガティブポンコツ令嬢Vtuberの虚実混在な配信生活」第二巻がTOブックス様より、2024年4月15日に発売となりました。ダークなハロウィン衣装の二人が目印です。

第一巻に引き続きイラストは駒木日々様に担当して頂いております。

TOブックス様オンラインストア他、各種オンラインストア、書店でご購入ください。

今後も情報があり次第、筆者のTwitterでも発信する予定となっています。


筆者Twitter:https://twitter.com/Mizkey_Siz_Q

TOブックス様公式Twitter:https://twitter.com/TOBOOKS

ハッシュタグ:#やさネガ配信

ファンアートタグ:#やさネガ配信FA

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― 新着の感想 ―
[良い点] ネクロちゃんの創作小説、設定とか雰囲気がいいのでこっちも読んでみたくなりますね また朗読回があったら嬉しいなぁ [一言] 書籍2巻買いました~! 本編はもちろん面白いんですが、挿絵がつくと…
感想一覧
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