「おふざけはオーバーズの評判を落とすと思えー」
「……はい、カット!いやー……流石本職って感じだよん。正時くん呼んで正解だったねぇ。ユリアちゃんも、凄くナチュラルな演技で良かったよん」
「恐れ入ります。改めて今回はお招きいただきありがとうございます」
「緊張しました……!」
《うわー、凄かった……》
《オープニング無しでいきなり演技から始まるパターンは初めてじゃね?》
《読んでる時も面白かったけど、声が付くとまた違うな》
《最高、ご褒美》
「という訳で、改めて自己紹介の時間だよん。あるいはちょっと早めのカーテンコール?というわけで、地獄の底からわんばんこ。オーバーズ所属、地獄の小説家こと鹿羽ネクロだよん。今回の朗読声劇の台本になった小説『バグハンター』の著者でもあるよん」
「はい、同じくオーバーズ所属のクロム・クリュサオルです。小説の中ではだいぶカッコよく書いてもらっているので、それに見合う演技が出来ているか少し不安です」
「同じくオーバーズ、海賊ブラックセイルだぜ。切り込み隊長役ではあるんだが、ぶっちゃけ今回の執事さんに特攻するの超怖ぇ」
「オーバーズのメンツでは俺が最後ですかね。今回、出番は無いんですけど持ち回りのナレーション……小説の地の文のところを読むの担当してます。リブラです」
《わんばんこー!》
《バグハンターの更新待ってます》
《小説の更新が増えるとネクロの配信が減るジレンマ》
《クロムが改めて主人公ボイスだと実感してる》
《セイル、ちゃんとやれてんじゃん》
《やっぱりナレーション、リブラくんだった!》
「それでは改めて自己紹介させていただきます。Re:BIRTH UNION所属、正時廻叉でございます。今回はお招きいただきありがとうございます。僭越ながら、役者を名乗る者として恥じない演技をお見せできるように誠心誠意努めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「お、同じくRe:BIRTH UNIONの、石楠花ユリアです……!こうした演技は、ボイスでしかやったことがなくて……その、台詞やピアノも失敗したりするかもしれませんけど、頑張ります……!」
《執事さんだー!》
《流石に場慣れしてる感じだったな》
《いい意味でいつもの執事さんだった》
《お嬢可愛い》
《可愛い》
《ピアノ生演奏だったん!?》
《末永く爆発しろ》
「失敗なんて気にしなくていいんだよん、ユリアちゃん。声劇配信のアーカイブを見たらわかると思うけど、セリフを噛んだり飛ばしたりなんてまだ序の口。セリフの途中で笑い出したり、必要以上にカッコつけた読み方をして全員が笑ってNGみたいな地獄が繰り広げられていたんだよん……」
「ちなみにカッコつけて爆笑を掻っ攫って行ったのは各務原パイセンだ。昭和のムービースターの喋り方だったぜ……」
「散々自然体でやるように言われてた上で、あんな感じでした……」
「一応ではありますが、該当の回は確認しています。劇を意識しすぎた結果かと」
《草》
《初期の声劇は面白かったけど、劇としてはひでぇもんだったからな……w》
《ウケを頂きたがるオーバーズの悪い癖が出てた》
《正蔵おじさん、何かしらのモノマネしてるだろって詰められてたもんなぁw》
《意識しすぎたとしてもああはならんて》
「とはいえ、我々とてボイスだったりでちょっとずつ演技力を磨いたり、とりあえずのウケ狙いに走らないよくできた後輩がデビューしたり……ようやく、本当にようやくどこに出しても恥ずかしくない声劇が披露出来るようになったんだよん……」
「ネクロちゃん大変だったよね。みんな、ある意味真面目に取り組んではいたんだけど、どうしても配信者としてネタに走っちゃうところがあったからね」
「ネクロ先輩、一回泣いたって聞きましたぜ?」
「表では泣いてないよん。配信終わった直後に泣いて、地獄のような空気になっただけだよん。具体的に言うと学級会になったよん」
「た、大変でしたね……」
「お気持ちはわかります。モチベーションや、取り組み方の違いはどうしても存在しますからね」
「気のせいかな……廻叉さんの言い方、妙に実感が伴ってるような……」
《ネクロは本当に大変だったからな》
《必死に軌道修正を試みる姿が見てて忍びなかったまである》
《おいセイル!?》
《マジか……いや、流石に泣くか……》
《学級会と書いて魔女裁判と読む》
《お嬢の優しさが染みる》
《執事、何か思い出してないか?大丈夫か?》
「はいはい、雑談はそれくらいにして次のシーンに行くよん。結構気合入れて書いたシーンだから、頑張って。今回はゲスト回だから、おふざけはオーバーズの評判を落とすと思えー」
※※※
恭しく頭を下げて名乗りを上げた執事服の男は、Re:BIRTH UNIONと名乗った。ネクロはその名前を知っている。『極星の歌姫』と呼ばれるVtuberが、自ら集めたと噂されている実力主義かつ少数精鋭のVtuber事務所だ。そして、現時点では『バグ』に対する姿勢を見せていない事務所でもある。もし現実世界で遭遇した時は真意を問え、と言われている。
ネクロたちが警戒の視線を向けるのに気が付いた令嬢も、ピアノの手を止めて立ち上がり、来客へと会釈して微笑んだ。
「オーバーズの皆さん、ですよね。皆さんの事は、よく存じ上げています。はじめまして、私は石楠花ユリア……彼と同じくRe:BIRTH UNIONのVtuberです」
「そりゃ光栄だよん。私はオーバーズの鹿羽ネクロ……幽霊屋敷の調査に来ただけの、しがない小説家」
「……クロム・クリュサオルです。同じく、オーバーズの一員でもあります」
「同じくオーバーズのブラックセイルだ。……お前ら、何者だ?」
「先ほど名乗った通り、Re:BIRTH UNIONですが――これは、失礼を。申し遅れました。正時廻叉と申します」
それぞれが名乗りながらも、オーバーズの三人は警戒を緩めない。特にブラックセイルは完全に臨戦態勢となっていた。元々の喧嘩っ早さからバグに対する先行部隊に任命されたブラックセイルの気質が完全に裏目になっている。ネクロが仲裁と対話の為に一歩足を踏み出す直前に、既にブラックセイルは曲刀を抜いていた。
「っ、セイル!よせ!!」
「バグみてぇな屋敷に住んでる連中だ。Vtuberってのも怪しいだろうがよ!」
ブラックセイルが放つ殺気にいち早く気が付いたクロムの静止は間に合わなかった。曲刀を振り上げ、ブラックセイルが廻叉と名乗った執事服の男へと襲い掛かる。
(おかしい)
このままでは止められないと判断したネクロが、やむをえず呪術書を開こうとした瞬間、違和感に気付く。
(なぜ、あの二人は焦っていない……?)
無表情で迫りくる曲刀を見据える廻叉。少し驚いた様子を見せながらも、悲鳴どころか声すら漏らさないユリア。
チク、タク。時計の針が進む音が、不自然なほどに大きく響いた。
(あ、これやばいやつだよん)
発動しかけた魔術を土壇場で解除すると同時に、ブラックセイルの動きがあからさまに鈍っていた。それなりに鍛えている上に海賊を名乗るだけの場数はこなしている男が、まるでスローモーションのような動きになっていた。廻叉は悠々とブラックセイルと擦れ違い、そして膝裏に正確な足刀を叩きこんだ。
「ぐあっ……!?」
廻叉が触れた瞬間、再生ボタンが押されたかのようにブラックセイルの動きが加速し、バランスを崩して転倒した。同時に、ピアノの音色が鳴り響く。クラシック、これもまた三人には聞き覚えのある曲であり――耳にすると同時に警戒心や闘争心が削がれていくのを感じた。
「ご無礼をお許しください。万が一にもお嬢様に危害を及ぼすわけには参りませんでした」
「まずは……落ち着いてお話したいです。なので、落ち着く曲を弾いたんですけど……どうでしたか?」
「……ジムノペディは落ち着くっていうより、不安になるよん」
「え、そ、そうでしたか……?!」
「お嬢様、楽曲に対する印象は人それぞれです。演奏自体に文句を付けられたわけではありませんので、どうかお気になさらぬよう」
ネクロのボヤきに過剰反応するユリアの姿からは、毒気や悪意は一切感じられなかった。どこかズレたフォローをする廻叉からも、先ほどの剣呑な空気は消え去っている。クロムの目から見て、Re:BIRTH UNIONの二人は敵対勢力とは思えなかった。
「まずは、ウチのセイルが大変失礼いたしました。心からお詫びを」
「いえ、構いません。私たちが怪しいと思われるのも無理はありません。とはいえ、攻撃に対しては流石に対処をさせて頂きましたが」
「とりあえず、落ち着いて話をしたいよん。君たちが何者か、そして君たちはバグに対してどう考えているか、最後に君たちは味方なのか」
一触即発の遭遇戦から、対話と交渉の時間が始まった。
微妙に投稿が遅れました。仕事も体調もひと段落しそうですが、今度は2巻の書籍に関する作業もありそうでまた予定通りの投稿が出来ないかもです。
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拙作「やさぐれ執事Vtuberとネガティブポンコツ令嬢Vtuberの虚実混在な配信生活」第一巻がTOブックス様より、2024年1月20日に発売となりました。
また、第二巻は4月15日に発売予定となっております。ダークなハロウィン衣装の二人が目印です。
イラストは駒木日々様に担当して頂いております。
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