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「あの三角の布、天冠って名前らしいぜ」

「あんまり休んだ気がしねぇのはなんでだろうな……どうも、休暇明けの三日月龍真です」

「それはアンタが休暇の間に予定ギッチギチに入れたのが悪い。どうもー、丑倉白羽でーす。今日はいつものアレなラジオでゲストって話だったんだけど……廻叉くんは?」

「元々予定があったらしくてな。俺がそれを忘れてこの日にやるって予定出しちまったんだよなぁ。という訳で、今日のライトヘビー級ラジオは俺と丑倉の一期生二人体制でお送りする。覚悟は良いか?」

「それは丑倉に言ってるの?それともこれからやべー話を聞かされるリスナーに言ってるの?」

「無論、俺ら二人のクソみたいなラジオの後始末をするであろう廻叉にだよ」

「最悪だよ」


《ラジオの時間だああああああ》

《休暇明けなのに疲れ切ってて草》

《おい龍真、あの件に付いて話すんだろうな?》

《知ってる知ってる》

《執事のSNSに書いてたわ》

《覚悟て》

《草》

《後始末をその場にいない人間に任せるんじゃねぇよ》


「とりあえず今日は俺らが休暇中に何をやってたかを話していくことになるんだが」

「話すってか龍真の場合、事情説明が先でしょ?SNSでトレンド入りしてたの見たんだけど」

「アレか?アレは事前に相談してるから問題ねぇと思ったんだけどな」

「Vtuberとして禁じ手ギリギリでしょうが、アレは。ウチじゃなかったら絶対止められてるからね?ほら、ちゃっちゃと説明しなよ」

「わかったよ。まぁ休暇中に某赤いサメのライブに出たんだけどな。前世の姿で」

「無茶苦茶だよ、アンタ。ご丁寧に死装束で、頭に三角の布まで付けてライブしてる動画まで流れて来てたじゃん」


《ん?》

《草》

《Vtuber界隈を震撼させたあの件かw》

《一部は大爆笑だったけどな》

《草》

《何やってんだ龍真!!》

《思いっきり顔出ししてやがったからな……w》

《和解出来たのは喜ばしいけども、和解の仕方が酷いんよ》

《釈然としない顔のREDSHARK、その横で満面の笑顔(死装束&亡霊メイク)のY-STAGという酷い画像が大バズりしてたな》


「あの三角の布、天冠って名前らしいぜ」

「知らないよ。今はそんな雑学を聞いてる場合じゃないんだよ。どういう経緯でああなったの?」

「いや、裏で和解はしてたんだけどな。折角だから、もっとわかりやすい形で見せてやろうぜって。ちょうどハロウィンシーズンだったし、死人が戻ってくるにはちょうどいい時期だからお前のライブに出るわって」

「あの格好で戻ってくるならハロウィンよりお盆にやるべきだったんじゃない?……今日、廻叉くん不在でよかったよ。たぶん、凄い説教されてたよ」

「おいおい、廻叉を舐めるなよ?とっくに説教されたわ。Vtuberとしての意識についてな……!」

「それでいいのか先輩として。で、当の廻叉くんはオーバーズさんのコラボだっけ?」

「ああ、本職の仕事でな?」

「本職って事は執事?」

「いや、俳優の方。まぁ朗読劇だから実際には声優としての方が近いかもな。ちなみにお嬢も一緒だぜ?」

「ほうほう。明日アーカイブで見ようかな。何の朗読?」

「アレだよ、鹿羽ネクロのVtuberが登場する現代伝奇小説の朗読劇」




※※※




 深夜。昼間であっても人通りの少ない郊外の住宅街は全てが眠りについたかのように静まり返っていた。時間が止まっているかのような静寂の中で、三つの足音が響いた。三人の姿は現代日本においては不自然な格好だった。彼らの姿が浮くことが無い場所は、真夜中の住宅街ではなくコスプレイベントの会場であろう。


「ここが噂の幽霊屋敷か?幽霊が出るようには見えねぇな……もっとボロボロの崩れかけになってるもんじゃねぇのかよ」


 一人目は、中世の海賊のような衣装を纏った偉丈夫。腰に下げた無骨な曲刀は、警察に見つかれば即座に銃刀法違反でお縄に着くだろう。名を、ブラックセイルという。


「セイル、油断しちゃいけない。幽霊が出るから幽霊屋敷なんて言われてるんじゃないんだよ、ここは」


 もう一人は、中世ファンタジーに出てくる勇者そのもののような青年。彼もまた、剣を腰に下げていた。銃刀法違反だけでなく、凶器準備集合罪にも問われる可能性が生まれた。名を、クロム・クリュサオルという。


「そうだよん、幽霊なのは屋敷そのもの――故に、『幽霊屋敷』なんだよん。神出鬼没の大豪邸。ごく一部の例外を除いて認識されない豪華なお屋敷。つまり、わかるよねん?」


 三人目は、黒いローブに身を包んだ根暗そうな少女だった。彼女は凶器こそ手にしていなかったが、禍々しい雰囲気を発する書物を大事そうに抱えていた。名を、鹿羽ネクロという。


「……これが『バグ』だってのか?だとしたら、とんでもねぇ大物だぞ。俺らより上の連中が出張る案件じゃねぇか?それとも、俺とクロムを鉄砲玉にでもする気かよ?」

「落ち着け、セイル。そもそも、『バグ』だとしたら『オーバーズ』の監視網に引っかかる。それがないんだよ。勿論、『エレメンタル』や『にゅーろ・ネットワーク』もこの幽霊屋敷について関知していなかった。ネクロさんが別口の情報網から拾ってきた案件だよ」

「本来は趣味の執筆に役立つ都市伝説を集めてたんだよん。それが、まさかまさかの『バグ』疑惑のお屋敷が見つかっちゃうんだから嫌になっちゃうよねん?まぁなんにせよ今回は深入りしないよん」


 やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめるネクロにクロムは苦笑いを浮かべセイルは露骨に面倒くさそうな顔をした。Vtuberとして普段は電子の世界で活躍する彼らは、時折こうして現実世界へと現れて『バグ』と呼ばれる異常存在の駆除を行っている。それは『オーバーズ』に限った話ではなく、『エレメンタル』や『にゅーろ・ねっとわーく』といった他の事務所も同様に『バグ』の対処を行っている。最近になり『電脳銃撃道場』がバグ対策に打って出たという。


 現実社会が壊れれば、バーチャルの世界もまた崩壊する。バグの駆除は、Vtuberにとっての至上命題である。


「護衛は、むしろ僕の本領ですから。問題ありませんよ」

「クロムの一人称が『僕』の間は落ち着いてる証拠だからな。いざとなったら『俺』って叫んでくれりゃ『あ、今ヤベェんだな』ってわかるからよ」

「人の一人称のブレを警報扱いするなよな。気にしてるんだよ、僕だって」

「二人とも静かに、何か聞こえるんだよん……」


 同期であるからこその気安い会話を続けていたクロムとセイルを、ネクロが真剣な口調で止めた。彼女の言う通りに口を閉じ、耳を澄ました。



 ピアノの音色が、目の前の屋敷から響いていた。



「この曲、確か……月光。ベートーヴェンだっけ」

「詳しいな、クロム。ピアノって事しかわからなかったぞ、俺」

「……少なくとも何者かが居るのは確定だよん。さ、侵入するよん」


『幽霊屋敷』の門扉が、三人を歓迎するかのように開かれた。警戒を解かぬまま三人は歩みを進め、玄関の豪奢な扉へと手を掛ける。


「……お邪魔します」

「ネクロ先輩から『だよん口調』が消えた……先輩、マジみたいだぜクロム」

「いいからちょっと黙ってろよ……!」


 どこか緊張感に欠けるセイルへと小声で文句を言いながら、クロムが屋敷の中へと視線を向ける。


 天窓から降り注ぐ月の光がスポットライトのように、広い玄関ホールに設置されたピアノを照らしていた。館の主らしき少女……否、令嬢が穏やかな笑みを浮かべたまま鍵盤に指を走らせていた。

 その傍には、執事らしき青年が彼女を見守るように佇んでいた。無表情、無感情にも見えたのは表情の半分を隠す仮面だけが理由ではなかった。身じろぎ一つせず、それどころか瞬きすらもしないまま、彼は令嬢の姿を見守り続けていた。


 不意に、ピアノの音が途切れた。


「私の事は大丈夫ですから、お客様を迎えてください」


 穏やかな声だった。自分に仕える執事への言葉としては、丁重すぎるようにも聞こえるほど丁寧な言葉遣いだった。

 執事が無言のまま来訪者へと視線を向ける。三人は自然と身構えた。これまでに討伐してきたバグとは違う異様さを三人は感じ取っていたからだ。


「お客様、ようこそおいでくださいました」


 丁寧な挨拶の言葉を告げ、執事は恭しく一礼して見せた。柔らかい口調からは、敵意も殺意も感じられない。表情も含めて、一切の感情が込められていないことに三人は気付いていた。


「私達はRe:BIRTH UNION、極星に集った黄泉帰りの星。そして、あなた方と同じVtuberでもあります」


とうとう流行り病に引っかかりましたが、なんとか回復してきました。

ご心配をおかけしました。お見舞いの言葉もX(Twitter)で頂きまして、本当にありがとうございます。

まだ万全ではないので、本文の内容がちょっと短くなるかもしれませんがよろしくお願い致します。


御意見御感想の程、お待ちしております。

拙作を気に入って頂けましたらブックマーク、並びに下記星印(☆☆☆☆☆部分)から評価を頂けますと幸いです。


拙作「やさぐれ執事Vtuberとネガティブポンコツ令嬢Vtuberの虚実混在な配信生活」第一巻がTOブックス様より、2024年1月20日に発売となりました。

また、第二巻は4月15日に発売予定となっております。ダークなハロウィン衣装の二人が目印です。

イラストは駒木日々様に担当して頂いております。

TOブックス様オンラインストア他、各種オンラインストア、書店でご予約、ご購入ください。

今後も情報があり次第、筆者のTwitterでも発信する予定となっています。


筆者Twitter:https://twitter.com/Mizkey_Siz_Q

TOブックス様公式Twitter:https://twitter.com/TOBOOKS

ハッシュタグ:#やさネガ配信

ファンアートタグ:#やさネガ配信FA

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― 新着の感想 ―
[良い点] 件のVtuber小説……! 現代異能バトルものっぽくてすごく素敵だ……! そして竜真はさあ……自由人か?(そうです)絵面想像するだけで面白いの卑怯でしょ [一言] どうぞご安静に……いく…
[一言] STELLA is EVILの要素もちょっと出てきそうですごく楽しみです。 まだまだ寒暖差が激しい季節です。どうぞご自愛ください。
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