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「これはアウトですね」

「時刻は午後九時となりました。正時廻叉です。という訳で、一週間という長い休暇を頂いた訳ですが皆さんいかがお過ごしでしたか?」

「え、そんな感じで始まるんです?あ、月詠凪です」

「廻叉くん、いつもこんな感じだよ。丁寧だけど、喋ってる内容は割と大まかというか。そんな訳でザッパーン!魚住キンメだよ」


《お久しぶりー》

《草》

《緩いなぁ》

《長いようで短い一週間だった》


 Re:BIRTH UNION休憩室配信特別編、と題したコラボ雑談配信。五人ずつ入れ替わりで一週間のリフレッシュ休暇が与えられた所属Vtuberのうち、先に休暇を終えた正時廻叉、石楠花ユリア、魚住キンメ、月詠凪、逆巻リンネの五人が集まって休暇の間に何をしていたかを話し合うというコンセプトの配信になっている。


「まぁ私は自分の配信で友人の結婚式に出席するとだけは伝えていましたが、それ以外の事はお話ししていませんでしたからね」

「廻叉先輩のアーカイブ見たけど、結婚のフレーズが出た瞬間のコメントの加速が凄かったっスね。正直、わざとやってんのかなって。俺、ヒヤヒヤしながら見てましたもん。あ、お久しぶりでーす。逆巻リンネでーす」

「あ、あはは……廻叉さん、結構コメントの人がどう反応するか考えてないところがあるから。朗読や演技の時は、お客さんのリアクションまで予測するけど、雑談の時はね……えっと、申し遅れました。石楠花ユリアです。みなさん、お久しぶりです」

「ユリア先輩はそれでいいの?あんまり茶化しちゃいけないとは分かってるけど、廻叉先輩が話題に出すって事は俺らも振っていいって判断してるけど……」

「心配しなくていいの、良くも悪くも、公私の区別がついてる二人だから」

「そういえば俺、結婚式って出た事ないんですけどどんな感じでした?」


《結婚……!》

《執事とお嬢の場合「するのか?」じゃなくて「いつ?」が問題》

《まんまと踊らされたぞ、あの時はぁ……!》

《実際にはもう籍は入れててもおかしくないからな、こいつら》

《凪くん、ナイス話題チェンジ。でも結婚の話題からは逃れ切れてないぞ!》


 廻叉とユリアは交際を公言しているのは、既にVtuberファンには広く知られている。そんな二人が結婚式の話題をしているというだけで、少なからず周囲はざわつく。ある程度統制が取れている廻叉とユリアのファンですら「いよいよか」「いや、まだか」と固唾を飲んでしまうほどだ。要らぬ野次馬も引き寄せられるが、当の二人は特に気にするような素振りも見せない。

 ともすれば、結婚する気がないようにすら思える廻叉の態度にリンネが少し心配そうにするのも無理のない話だった。しかし、二人を良く知っているキンメが宥め、凪が結婚式への単純な興味から話を変える事でざわついた雰囲気は少しずつ和らいだ。


「基本的には親戚の方と、ごく少数の友人達という感じの式でしたね。正直に言えば、私も結婚式に出席するのは初めてだったので、マナー違反をしない事に集中してたせいでよく覚えていないのが実情です」

「確かにねー。私も、式の時の写真とか見返すと顔とか超引きつってたもん」

「披露宴とか二次会とか、色々あったんでしょ?」

「いえ、私は予定があると言って式と披露宴だけの参加に留めました。二次会まで参加してしまうと、どうしても新郎新婦やそのご家族、それと友人以外とも話す機会が出来てしまいますから。それに、二次会まで行くと私自身の飲酒量も少なからず増えますからね……余計な事は言わないうちに、仕事と言い張って中座しました」


《まぁ冠婚葬祭で一番機会が少ないまであるからな、結婚式って》

《俺も礼服、葬式・法事用のやつしか持ってないわ》

《出た事はあるけど、一年ちょっとで離婚して困惑した記憶しかない。引き出物の夫婦湯飲みが未開封だよ……》

《うーん、Vtuberとしての意識が高い》

《二次会は独身勢のコロッセオだからな……相手の居る執事は参加しなくて大正解だよ》


「あー……俺らの仕事だとそういうのもありますよねー。俺、年齢的に酒が飲めないからわからないけど、親戚が泥酔してる時の危険度は良く分かるからなぁ。何故か三回くらいお年玉もらったり」

「リンネくん、ちゃっかり得してない?むしろ貰ってないフリしてせびりに行ってないよね?」

「凪兄ちゃんから見た俺はどういう奴なの?」

「甘え上手」

「おおっと、急な直球の誉め言葉は動揺するぞ?」

「まぁ、でも廻叉くんとしては参加してよかったと思ってるでしょ?」

「それは勿論」


《草》

《リンネさぁ……w》

《甘え上手は本当にその通りだと思うわ。甘やかしたくなる才能で溢れてるよ、リンネは》

《執事の事だから、結婚式当日よりも事前準備とか予算とかを新郎新婦から聞き出してそう》


 廻叉の答えにキンメは少し安心したように笑った。一方で、ユリアは配信中にも関わらず想像の世界に旅立っていた。ウェディングドレス姿の自分と、いつもの執事服ではなく白のモーニングコート姿の廻叉。正確に言えば廻叉ではなく、正辰の姿で――


「ユリアせんぱーい?マイクトラブル?」

「ひょわぁ!?」

「……マイクは万全のようですね」

「す、す、すいません!ちょっとくしゃみが出そうで!マイクの音量下げてました!」

「あー、それで口開けたままだったんだ。それで、ユリアちゃんの休日はどうだったの?」


《草》

《一週間ぶりの奇声助かる》

《くしゃみか。道理で変な動きをしてるな、と》

《本当にくしゃみだったのかな?》


 実際にはミュート操作はしていないが、なんとか誤魔化すことに成功した。ホッと胸をなでおろしつつも、仮にも配信中に放心して妄想にふける自分が情けなくなってしまう。それでも、振られた話にはなんとか答える事に成功した。


「その、基本的にはノンビリしたり、あとVtuberの女子会を配信無しでやったりしました。楽しかったです……その、友達が、Vtuber関係の人しか居ないから、遊ぶってなるとどうしても……」

「確かにそうですね。私も招待してくれた友人が特例みたいなものですし、基本的には同じ業界の方との付き合いの方が多いです」

「だよねー。私の場合どうしてもママ友付き合いというか、保護者会とかの付き合いもあるけどそうでないならお互いに事情を知ってるVtuber同士の方が安心するところはあるよねぇ」


《気になるなぁ、Vtuber女子会》

《他の参加者なぜ配信してくれんかったんや……!》

《あー、同業者のが色々説明が楽だわな》

《聞くべきでない事、他所で話すべきでない事の認識が共通してるから安心できるっていうのは分かる》

《ただ、モヤる奴はモヤるやろなぁ》

《保護者会は草》

《Vtuberという存在に理解がなさそうだし、あったとしたらそれはそれで身バレが怖いというジレンマ》


 自然とVtuberの交友関係の話になり、良くも悪くも「お互いの身元がはっきりしている相手」との付き合いが多くなる傾向についての話題になっていた。特にRe:BIRTH UNIONの場合は過去を捨て、本気で生まれ変わってVtuberの道に進んだ者が大半だ。結果的に、Vtuber以外との交流が極めて狭い事務所になっている。例外は、案件を経由して顔出しのストリーマーやゲーム実況者と知り合った廻叉くらいであるが、それでもインターネットを介した知り合いの域に留まっている。


「とはいえ、Vtuber同士だからと安心してしまうのも問題ではありますが。どれだけ気を付けていても、うっかり個人情報を口に出してしまうこともあり得ない話ではないですから」

「そういえば、俺の友達の個人勢の子が最近やたらとオフで会おうって誘われるって言ってましたね。ワダツミ兄妹っていう双子のVtuberなんですけど、その妹さんの方が『みんなで飲み会して親睦を深めたい』ってメールが何度も来るって」

「ワダツミ兄妹に関しては存じ上げてます。凪さんと同期かつ同級生、マテリアルの獅狼さんを含めた四人でコラボをされているのを何度か見ていますよ」

「……わざわざオフラインでやる必要あるんでしょうか……?オンライン飲み会配信のお誘いは、少なからず来てますけど……」


《身バレは本当に怖いからなぁ。特定班とか、いまだに結構な数が居るって聞くし》

《おや、不穏》

《凪くんの友達連中好き。全員キャラが濃い》

《違うベクトルで話し方がねっとりしてると噂の双子か》

《飲みの誘いねぇ……》

《そういうのが煩わしい奴ほどVtuberになるんと違うんか?》


「そりゃお相手の居るユリア先輩を誘えるのは女子だけでしょ。むしろ男からその手の誘いが来たら、灰も残らない勢いで炎上すると思うし何なら廻叉先輩が率先して火を付けに行きかねない。放火というか、火炎放射器抱えて突撃するタイプの」

「リンネさん、採用です」

「採用すんなー。まぁでも普通に飲み会したいだけの人かもしれないからなぁ……浴びるどころか漬かるようにお酒飲む人、Vtuberにも居るしウチの社員にも居るし……」

「いや、男の人が双子の妹にだけ誘いのメール送ったらしいんですよ。双子の兄の方は無視されてちょっと落ち込んでました」

「これはアウトですね」

「アウトだね」


《草》

《間男を焼き払え!》

《真顔で採用するんじゃない》

《浴びるどころか……漬かる……だと……?しかも社員……?》

《アカン、話がとっちらかって何をメインに聞けばいいやらわからん》

《アウト》

《これはSNSで注意喚起拡散案件ですわ》


 このまま話が終われば、それは一部のデリカシーとリテラシーに欠けた誘いに対する注意喚起で終わっていた。しかし、凪が続けた言葉にコメント欄も含めた全員が絶句するに至った。


「それでですね、休暇期間にちょうど獅狼や双子や、その周辺のスタッフの人らと遊ぶ機会があって。その時にさっきの相談をされたんですけど……その人、呼んだら来たんです」

「は?」


《は?》

《は?》

《は?》

《凪くんもやっぱりリバユニだったね》

トラブルの話ってどうしてもストレスが溜まる展開になりやすいですよね。

なので解決済みの状態から、回想する形になりました。そして適宜ツッコミも入る複数人雑談の場。

勝ったな……!


御意見御感想の程、お待ちしております。

拙作を気に入って頂けましたらブックマーク、並びに下記星印(☆☆☆☆☆部分)から評価を頂けますと幸いです。


拙作「やさぐれ執事Vtuberとネガティブポンコツ令嬢Vtuberの虚実混在な配信生活」第一巻がTOブックス様より、2024年1月20日に発売となりました。

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今後も情報があり次第、筆者のTwitterでも発信する予定となっています。


筆者Twitter:https://twitter.com/Mizkey_Siz_Q

TOブックス様公式Twitter:https://twitter.com/TOBOOKS

ハッシュタグ:#やさネガ配信

ファンアートタグ:#やさネガ配信FA

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 火炎放射器で何かを焼く執事のファンアート出てきそう [一言] 仮に男側がガチ恋してるなら最終的に義兄になるかもしれない人を無視はアカンw 仮にワンナイト目的ならリバユニ関係者は狙ったら…
[一言] 勝ったなじゃないんですよ こんな引きで一週間待たされる身にもなってくださいよ 次回も楽しみにしております ていうか来るんだ…… 恐ろしいやつだな……
[一言] 本買いました。たまたまふらっとよった本屋にサイン本だけ1冊あったので「これが運命力って、ヤツ」と思いながら買ったのですが、サイン本ってとっときたいじゃないですか。読めない。ってなって。読むた…
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