「あいつ、機械だから寝てるのかわからないけど」
マスコット企画配信が終了してから数週間後。キンメが清書した画像ファイルがRe:BIRTH UNIONの各メンバーへと送付された。
「配信画面で一緒に映してあげてね!」
というキンメからのメッセージを、珍しく全員がしっかりと守っていた。
全員が自分のマスコットを気に入っているのは確かだが、それぞれにその思い入れの濃淡は出来ていた。
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丑倉白羽のマスコットであるロックスター風の白鳥『ロックスワン』は、彼女のギター練習配信に現れるキャラクターとして彼女のファンに認識されている。ただし、彼女が完全にソロで演奏する際にはロックスワンは画面に居ない。ただし自身がリードギターを担当し、事前録音したリズムギターパートを流す場合に、彼女はロックスワンを画面に呼びつけていた。逆に自分がリズムギターを担当する場合も同じように、ロックスワンがリードを担当する。
ロックスワンは、丑倉白羽の演奏のパートナーになっていた。
「そんな訳で、今日はこの曲を延々やるんだけども。リズムパートはこの子にお願いするとして。ウチのバックバンドのロックスワンくんです。今度、ベースも習わせようと思ってるんだよねー」
《今日もクールだなロックスワン。これから五時間近い練習だってのに顔色一つ変えてねぇぞ》
《ベースも……?》
《一羽に全部押し付けるな、むしろ二羽目をキンメかーちゃんにねだれ》
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三日月龍真のマスコットであるモグラは、視聴者との協議の末『ディグモグ』と名付けられた。雑談配信でテーブルの上に置いてある灰皿に、ディグモグを添えておくのが定番となっている。ディグモグが煙草を持っている事から、その灰がテーブルに落ちないようにという配慮だった。
また、名前の由来とそもそもモグラになった理由であるディグにちなんだ楽曲探索&楽曲紹介配信ではサムネイルにも登場するなど、マスコットとしての面目躍如たるものだった。
ディグモグは、三日月龍真の小さな相棒になっていた。
「ところでコイツが吸ってるの、こないだキンメ姉さんに確認したらちゃんと普通の煙草だったわ。取締法が定められてるタイプの煙草じゃないからお前ら安心しろよ」
《そりゃそうだ》
《もしウィードだったらフィルター付けねえだろ》
《この子が持ってるのが煙草で良かった。ガラスのパイプとかだとマジでシャレにならない》
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小泉四谷のマスコットである複数の尾と三つの眼を持つキツネのヤクモは、常に四谷の配信画面に映るようになっている。Re:BIRTH UNIONの中で最も多彩な配信を行う四谷の場合、雑談配信以外にもゲームごとに配信画面を自作や外注で多数用意していた。そうなると、マスコットの置き場がなくなる事も多い。四谷は全ての配信画面の右上にワイプ画面を設け、そこにヤクモの姿を映すことで解決を図った。
ヤクモは、小泉四谷の部屋に設置したペット見守りカメラに映っている留守番中のペットのようだった。
「……こういう形でヤクモの事をみんなに見せてるけど、微動だにしてないから神社のお狐様っぽいよね」
《草》
《言われてみれば》
《だとしたらもう一匹追加しないとダメじゃね?》
《そのうちワイプと本編入れ替えそう》
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緋崎朱音のマスコットであるカピバラは和名である鬼天竺鼠から『テンちゃん』と名付けられ、彼女の雑談配信ではマイクの真横に近い位置に鎮座して朱音自身の顔が映らない状態になるほど、朱音に溺愛されていた。雑談配信中にマイクに物がぶつかるような異音やノイズが走る度に、朱音はテンちゃんがマイクにぶつかったのだと主張するようになる。また、テンちゃん専用のファンアート用ハッシュタグを用意するなど、ファンに対するアピールが非常に強くなっていた。
テンちゃんは緋崎朱音の配信におけるもう一人の登場人物として定着していた。
「ふぇ、ふぇっくしょっ!!痛っ!!……い、今のはテンちゃんがビックリしてマイクにぶつかっちゃったの!!本当だから!!」
《嘘つけ》
《くしゃみ助かる》
《マイクに頭ぶつけたんだろ?正直になれよ》
《可愛がってはいるけど、たまに失敗をテンちゃんのせいにする悪癖が生まれつつあるな》
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正時廻叉のマスコットである黒ウサギは、『クロップ』と名付けられていた。自身で名付けたその名前を廻叉は気に入っていた。
そして、クロップ自身もその名前を気に入っていた。
「やぁ、ボクの名前はクロップ。飼い主である廻叉の……友達だよ。今日はボクの事をみんなに紹介するって言われてここに来たんだけど、廻叉の奴、時間を使っていいから好きに喋れって言うんだよ。酷いよね。台本も貰ってないよ。そもそも、ここ最近廻叉が自分で台本書いてるところみたことないよ」
《草》
《おいw》
《かわいい》
《微妙に声を高くしてて草》
《さては執事、珍しくノープランでやってるな?》
《これは執事じゃない、クロップだ。いいね?》
《あ、はい》
配信画面に正時廻叉の姿はなく、クロップの姿だけがあった。そして、どこか初々しさを感じさせる緊張気味な口調で自己紹介をした。そして、台本を用意しない廻叉への文句を述べる小生意気な様は初めての配信とは思えない堂々たる姿だった。当然ではあるが、クロップの声を当てているのは廻叉本人だった。
「まぁこうしてボクが配信で喋る事は滅多にないんだけどね。たまにこうしてボクが勝手に出てきて喋ったりゲームしたりするかもしれないからよろしくね。時間は深夜を予定してる。ほら、あいつが寝てる時じゃないとボクも勝手に動いたりできないからさ。あいつ、機械だから寝てるのかわからないけど」
《おおおおおおお!》
《生意気ショタボ執事ウサギとまた会えるのね!》
《草》
《確かに執事って寝たりするのか……?》
《スリープモードだろ、たぶん》
《機械仕掛けの体の拡大解釈が俺たちの間で広まりつつあるな……》
「そんな訳で、今日は早速ゲームをやろうかな。廻叉の奴が買うだけ買って未プレイのゲームが結構たまってるんだよね。セーブデータ、全部ボクのデータで埋めてやろうかな」
ゲーム機を起動し、配信画面もゲーム実況時と同じ構成へと切り替える。違うのは、普段ならば廻叉が座っている位置にクロップの姿があった。特にアニメーションが付いている訳ではなく、喋ると光るというだけの簡素な機能だけ組み込まれているようだった。
「短時間でサクッと遊べそうなゲームは……お、これなんか良いんじゃないかな?」
《あ》
《ちょw》
《なぜピンポイントで苦行系を選ぶのか》
《これは朝までコースですね》
起動されたゲームのタイトルは『Rooftop Tightrope』という、文字通りビルの屋上と屋上を繋いだロープの上を渡っていく3Dゲームだった。写実的な風景と、全画面表示させた動画サイトのような画面配置が特徴であり、命知らずの動画配信者がロープ渡りの生配信を行っているという設定だった。成功すればタイムに応じた量のドネートがもらえるが、落下すると地面に叩き付けられる直前に配信をBANされてゲームオーバーとなる。
「……なんか実話を元に作ったゲームとか、そういう訳じゃないよね、これ。そうなるとジャンルがアクションからホラーになるんだけど」
《おいやめろ》
《確かに海外のTryTuberが自撮り落下死みたいなニュースはあるけどさぁ……》
《あかん、クロップしっかり飼い主似だわ》
《ってか普通に可愛いんだけど、この子》
ちょっと生意気で尊大な黒ウサギの配信は好評を得た。ファンアートにもクロップの姿が描かれるようになった。更には少年の姿になった廻叉にウサギの耳を付けた『クロップの擬人化』とも『年齢操作された正時廻叉』とも取れるイラストがSNSに出回るようになった。思い付きで始めた配信が想像以上の反響を得た事で、正時廻叉は大きく困惑することになるが周囲からは自業自得の一言で流されていた。
ついに今週の土曜日に書籍第一巻が発売となります。気負い過ぎて有休を取りました。完全に掛かってますが、退職届を出さないだけの理性は残っています。
よろしければお手に取っていただければ幸いです。
マスコット完成後のお話を書くメンバーでちょっとずつ書いてみました。前半は普通に可愛がっている組の五人です。後半は作者であるキンメによる総括と、キンメの想定を超えて溺愛してる危険な面々が待ち構えています。
御意見御感想の程、お待ちしております。
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拙作「やさぐれ執事Vtuberとネガティブポンコツ令嬢Vtuberの虚実混在な配信生活」がTOブックス様より、2024年1月20日に発売となります。また、本日より予約受付も開始しております。
イラストは駒木日々様に担当して頂いております。TOブックス様オンラインストアの他、公式Twitterにて表紙イラストが公開されていますので、是非ご覧ください。
今後も情報があり次第、筆者のTwitterでも発信する予定となっています。
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