「恐らく龍真さん、今パチンコやってますね」
「ウサギと来たかぁ……!いや、ちょっと意外だったなぁ。黒ヒョウとか、あるいはフクロウとか言い出すかなって思ってた」
「ですよね、僕も廻叉さんが自分のイメージから動物に例えるなら蛇とか行くかなって」
「お二人は私をどういう目で見ているのですか?」
「え?少なくともウサギって自分から言い出すタイプではないと思ってるよ?」
「とりあえず鋭い目の動物になるだろうなって感じの人」
「……否定が出来なくて困っています」
《黒ウサギとはまた意外なチョイス》
《マスコットになるなら可愛い方がいいって計算ずくっぽいぞ執事》
《廻叉はカラスだと思うんだがなぁ》
《おい四谷w》
《蛇www》
《同期と後輩にしっかりとイジられてて草》
キンメがペンの色を黒へと切り替えつつも、廻叉の選んだ動物への意外性を口にすれば四谷もすかさずそれに同調した。二人から見ても、ウサギというチョイスは意外だった。特に同期であるキンメからすれば、廻叉がVtuberとしての自我に飲み込まれかけていたのを知っている。良くも悪くもストイックでのめり込むタイプの青年が、自分のマスコットキャラクターにウサギを提示したのだから驚かざるを得なかった。四谷もどちらかといえば驚きの方が先に立っていた。ここに一期生の二人が居ればゲラゲラ笑っていただろう、という言葉は口に出さなかった。四谷は空気が読める男だった。
「まぁ少なからず理由はあります。まぁそもそも私は時計じゃないですか」
「オリジン知らない人が聞いたら『何言ってんだコイツ』ってなる話から入るの?」
「あ、初見の人に説明しておくと廻叉さん、時計に魂捩じ込んだオートマータみたいな存在なんですよ。詳しくはEvilシリーズ参照」
「もう敢えてツッコミませんが、時計と動物を合わせるとなると、不思議の国のアリスの白ウサギか、ピーターパンのチクタクワニの二択になります」
「じゃあワニじゃん」
「ワニですよ」
「……はぁ。お二人が私の事をどういう目で見ているか、心の底から理解しました」
「冗談はさておき、廻叉くんはその二択からウサギを選んだ理由は?」
《時計だけどさぁ》
《歯に衣着せないというか、身も蓋も無いというか》
《なるほど、二択》
《草》
《草》
《草》
《満場一致のチクタクワニ認定で草》
《冗談なのか?》
《深い溜息が出たなぁ……w》
何の迷いもなく正時廻叉はチクタクワニだと言い切る二人に対し、廻叉は一度自分のパブリックイメージがどうなっているか再確認する必要が生じていると感じた。キンメは冗談ということで話を切り替えてはくれたが、おそらく四谷共々冗談ではない部分も多いだろう。下手すれば八割を超えている可能性もある。
「……ユリアさんをこの世界に引き込んだのは私ですから」
「あー、納得。それなら廻叉さんが白ウサギだわ。引き摺り込んだって意味ではチクタクワニでもあってるけど、別にユリアさんがフック船長みたいな目にあった訳じゃ無いし……」
「そうだね、うん……」
ウサギを廻叉が選んだ最大の理由は、自分の存在が石楠花ユリアというVtuberを産み出した事だ。三摺木弓奈という引きこもりの少女が、自分を追いかけてバーチャルの世界へと足を踏み入れた。その事実は変わらない。幸いにもユリアはこの世界での活動を楽しんでくれてはいるが、相応に辛い思いや大変な事も少なからずあったはずだ。先輩と後輩というラインを踏み越えたのも、良い方向にも転んだ反面、一時的な炎上が発生し会見を行って公表するに至っている。
不思議の国のアリスの白ウサギをモチーフとすることで、自分が彼女を引き込んだのだという自覚を一生忘れない為に廻叉はウサギを選んだ。廻叉としてはマスコット一つに重々しい理由になってしまったが、それを良しとしていた。しかし、二人の言葉を濁すような言い方が気がかりだった。もしかしたら、自分の独りよがりにも近い重苦しい判断を察してしまったのかもしれない、と少しだけ廻叉の心に不安が生じた。
「……お二人とも、その意味深な沈黙は何ですか」
「いや、たぶんみんなが思い浮かべたけど言ったらダメなワードが浮かんで……」
「僕も同じく……」
「口にしない理性がある事を嬉しく思います。なお、我慢出来なかった視聴者の皆様は……ああ、モデレーターの方が『処理』してくださったようで」
「廻叉くん、言い方言い方」
特に関係が無かった。ピーターパンに登場するチクタクワニは、悪役であるフック船長の腕を喰い千切った怪物のような人喰いワニだ。そこから、肉体関係をネガティブかつ下世話にした表現と結びついたのだろう。実際に結び付けて発言した視聴者はモデレーターの手によって一時的な発言禁止処分とコメントの削除を受けていた。
「話を戻しますが、私の過去の行動との一致が理由ですね。あとは、私のイメージカラーの黒に合わせてほしい、というくらいです」
「ふむふむ。こんな感じで懐中時計持ってて……それで廻叉くんと同じような仮面を付ければ、見た目のコントラストも映えそうだね。あと、個人的な趣味なんだけどロップイヤーにしていい?」
「そこはお任せします」
《シンプルに可愛いな、このウサギ》
《仮面と時計があっても執事のマスコットだって気付かないまである》
《垂れ耳好き》
《拙者、ぬいの者。執事とお嬢のをセットで購入致す》
《これでお嬢がガッツリ肉食動物を指定してきたら笑う》
《ワンピースを着た清楚なワニ……!?》
《ワニから離れろお前ら》
廻叉のマスコットである黒ウサギ、そして四谷のマスコットである緑色のキツネの、ある程度完成したイラストが並んでいるのを見て、四谷が何かに気が付いたように声を上げた。
「……あれ?そういえば、キンメさんのは?」
「……あ」
「忘れてましたか」
《草》
《キンメ母ちゃん、あんたもリバユニやぞ》
《完全に忘れてた声で草》
《マママーメイドメイドだからなぁ……やっぱ魚介類?》
《クマノミとか、海の熱帯魚とか良さそう》
《魚介類って言うと食材感が出るな》
キンメは自分のマスコットについて何も考えていなかったことが「あ」の一言で露呈した。そもそもこの企画が始まった段階では、他のメンバーと雑談を交えながらアイディアを出すという形式を思い付いた事から、自分の分はまた後で考えればいいと先送りにしていた。だが、こうして指摘されてしまった以上は何かしら考えなければならない。
「えーっと、まずは色が青だよね……水中の生き物に青を使うの難しくない?!いや、グッズとして出す分にはともかく、自分が海中に居るイラストで一緒に描こうとするとバッチリ保護色になるんだけど!?」
「でも実際に海に居る生き物でも青色は居るでしょう。カツオノエボシとか」
「危険生物じゃん!海水浴場で注意喚起されてるやつ!あと青っていうよりほぼ透明だよアレ!」
「そうですよ廻叉さん。もっとメジャーなところで言えば、アオブダイとか」
「アオブダイも毒があるんだけど?!」
「え、そうなんですか!?」
「……ウミウシはどうでしょう?青いのが居た覚えが」
「んー……まぁデザインによっては可愛くなりそうだけど、水族館に普通に売ってそう……」
「あ!ブルーギル!!」
「四谷さん、ブルーギルは淡水魚ですしそもそも名前ほど青くないです」
《ブレインストーミングなのに漫才みたいになってて草》
《なんで青い生き物の第一候補がカツオノエボシやねん》
《アオブダイは……ユニークな顔立ちはしてるよ、うん》
《ウミウシのぬいぐるみ、普通に水族館で売ってるな。ホワイトブリムでも被らせて差別化させるとかしないと》
《草》
《四谷、名前だけで選んでて草》
《そういえばアオブダイも名前に青があるから挙げた可能性があるな……!》
「あ、DirecTalkerのメッセージに龍真くんからアイディアが。出先からわざわざ見てくれてたみたい。すごい、海の生き物の候補がズラッと」
「配信コメントだと流れて見逃されるかもしれないから、って事でしょうか」
「そんな感じっぽいね。えーっと、タコ、ハリセンボン、ウミガメ、サメ、エビ、アンコウ、ジュゴン、エンゼルフィッシュ、カニ、サメ」
「なんでサメが二回も?」
「恐らく龍真さん、今パチンコやってますね」
「……ああ!パチンコ屋さんのチラシで見たことある!」
《龍真気が利くなぁ》
《……どういう並び?》
《草》
《察した。龍真お前さぁ!》
《サメが二回出てくる用意周到さよw》
《マジでわからん》
《パチンコ……海……ああ!そういう!!》
《物語を感じる》
「……まぁ発想の出どころはともかく、これだけ羅列してもらえればヒントにはなるかもしれませんね」
「そうだね。元々は別の色でも、青色にしちゃえばいいんだし。そもそも四谷くんのキツネだって『キツネなら赤だろ』って人も少なからずいるだろうし」
「だからってタヌキにするわけにもいかないでしょう。それこそスタッフさんからボツにされますよ」
結局、この配信内ではキンメのマスコットにするキャラクターは決定には至らなかった。次回以降に龍真以外の意見も参照しつつ考えるということで話がまとまり、次回予告をして配信は終了となった。
「次回は女の子組描いていくよ!ということでゲストは白羽ちゃん、ユリアちゃん、朱音ちゃん!お楽しみに!」
「最後に龍真さんからの速報ですが、現在の時点で三万円ほど負けているそうです」
「その情報必要かなぁ……」
右上に数字が付いた海の生き物を並べるネタ、読者の皆様にどれほど伝わったでしょうか。
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