「ドヤ顔ではありません。キメ顔です」
発端はメンバーの出入りが自由の雑談配信である『リバユニの休憩室』で行われた、ステラとキンメによる雑談だった。近い内にオンラインでのソロライブの予定があるステラが、新しいグッズについてのアイディアをキンメ相手に募った。そこで、ちょうど娘の学校で流行っている作品のぬいぐるみやキーホルダーを参考にした商品はどうだろう、という提案をしたところステラだけでなくスタッフも乗り気になった事で『Re:BIRTH UNION所属者主導による新グッズ』という新しいプロジェクトが発足した。
「という訳で、第一回企画会議ー!どうも、私が議長でありチャンネルの主であり原案イラストの担当でもある魚住キンメです」
「理由はわかりませんが一番手に選ばれました、正時廻叉です」
「同じく、理由がわからないけど一番手に選ばれた小泉四谷です。キンメさん、廻叉さん居るなら僕じゃなくてユリアさん呼んだ方が良くない?たぶん視聴者のニーズはそっちだと思うんだけど」
《はい、拍手ー!》
《マママーメイドメイド議長チャンネル主イラストレーター》
《肩書が多いなぁ!!》
《緊張しろとは言わんが、肩の力抜け過ぎだぞ男衆》
《そうだそうだーお嬢を呼べー(棒読み)》
配信画面にはキンメとイラストソフトの画面、そしてワイプに廻叉と四谷というシンプルな構成になっていた。既に画面の上部にはデフォルメで描かれた廻叉と四谷が描かれていた。それぞれの顔の下に、二人のマスコットキャラを描いていくという構成のようだった。
「最初はそう考えたんだけど、別件の準備で忙しいのと、この前のフェスが終わって間もないからね。そんなタイミングでもう一回廻叉くんとユリアちゃん呼んでイチャつかせたら、過剰反応を起こして倒れる人が出かねないでしょ?」
「あー、アナフィラキシーショックですか」
「お二方とも、私とユリアさんのやりとりをスズメバチの毒の様に言うのはどうかと思われますが?」
《草》
《それはそう》
《あのライブは刺激が強すぎた。何度もリピートしてはガンギマってを繰り返している》
《アナフィラキシーは草》
《刺さって抜けないんだよ、執事とお嬢の毒針がよぉ……!》
「いや、毒でしょ。何人の廻叉さんとユリアさんのガチ恋勢とか恋愛嫉妬勢がのたうち回りながら倒れたと思ってるんです?僕の知り合いのVtuberも、何人か辞世の句を詠んでましたよ」
「私から見ても、廻叉くんとユリアちゃんのイチャコラは純度が高すぎると思う。炭酸かトニックウォーターで割りなさい」
「人を焼酎のように言わないでください」
「いや、焼酎どころか間違いなくフランベに使えるアルコール度数だと思う」
「ブランデーよね、ブランデー」
「…………」
《もう笑うしかねぇよ、あんなの見せられたら》
《本当の両想いを見せられると、人は罵声すら飛ばせなくなるんだなって》
《逆にアンチに対する風当たりが強くなったからな……人の幸せを踏みにじる駆除すべき敵、みたいな扱いされてるし、SNSでのアンチアカウントが通報爆撃で次々に垢バンくらってるとか……》
《草》
《この遠慮のなさよ》
《ブランデーは良い酒だぞ》
「廻叉さん、急に黙らないでくださいよ怖いから」
「あ、えっと、ブランデー呼ばわりは流石に気に障った?」
「……消毒用アルコールなどと言われるかと思っていたので拍子抜けしています」
「そっちかい」
「なんで他人に言われる揶揄より辛辣な例えがでてくるんです?」
今回の配信の内容自体は既に概要欄やタイトルにも表示されているが、三人はそんな事おかまいなしに雑談を繰り広げていた。放っておけばそのまま三時間ほど雑談を続けて、本来の目的を忘れたまま配信が終わる勢いだった。
「キリがないから進めるよ?今回は新グッズの会議だから、二人の意見も取り入れつつラフに描いていこうと思う。二人には事前に説明というか企画書を送ってるから、どういうのを描くかはわかってるよね?」
「はい。私たち自身をモチーフにした小さい動物のマスコットキャラクターを作ろう、という企画です」
「他のVtuberさんも、結構こういうマスコット居る人多いよね。元々そういうのが居た人だけじゃなくて、ファンアート切っ掛けで新衣装と一緒に実装されたりとか」
「ステラさんは先に作られたんですか?」
「まぁ触りだけね。こんな感じで……」
キンメが画面を切り替えると、ステラ・フリークスのデフォルメの似顔絵と、ステラの衣装であるローブを羽織ったペンギンが気取った表情で佇んでいた。とはいえ、目の色と頭部の色が同じなため本当に気取っているのかはわからなかった。だが、ステラの宣材写真の立ち姿とペンギンの立ち姿は良く似ていた。目の位置は判別できないが、きっと似たような表情をしているだろうと見る者に分からせるデザインだった。
「うっわ、可愛い。そしてポーズだけでドヤ顔してるのが分かる……!」
「四谷さん、ドヤ顔ではありません。キメ顔です」
「どっちもどっちだよ。確かに、ステラ様って歌い終わった後に『ふふーん』って感じの顔するのが可愛いからそのイメージに引っ張られたところはあるけど!」
「ところで、なぜペンギンなのですか?私個人の意見ですが、ステラ様とペンギンがあまりイコールで結びつかないのですが」
「いや、本人がペンギンがいいって強く主張されてね……」
《おおおおおお!》
《かわいい》
《エンペラーペンギンの流線形フォルムにステラのローブ(簡易型)……大丈夫?ずり落ちない?》
《見れば見るほどドヤ顔に見えてくる不思議》
《こんな可愛いペンギンも口を開くと超怖い》
《あー、切り抜き上がってたな。ペンギンにしてくれって駄々捏ねるステラの動画》
《ミステリアスの割合が減って可愛いの割合が増えてきてるステラ様》
「それじゃあ……最初は割とイメージが決まってる四谷くんから行こうか。キツネ、好き?」
「まぁ狐面メイクしてるくらいですし、好きですけど。あ、これって最初から決め打ちでした?」
「むしろ四谷くんをキツネ以外にしたら色んな所から怒られるよ。ハンバーガーのセットのドリンクにブラックコーヒーを出すくらい怒られるよ」
「どういう例えですかそれは」
「実話。友達がポテトを山盛り口の中に入れてコーラで流し込むー!ってやってたのよ。で、自分のコーラがなくなって私の紙コップのを勝手に飲んで、盛大にアイスコーヒーとポテトを吹いたの。で、逆ギレされたの。コーヒーなら分かるようにせめてミルクを入れて色を変えろって」
「思った以上に酷い話だった……!せめてイートインでなく、自宅とかでの出来事であってほしい……!」
「四谷くん……残念だけど、この話が起きたのはドライブスルー後の車内よ」
「最悪だ……!!」
「壮絶な与太話ではありましたが、並行してイラストが進んでいくのが凄いですね」
《やっぱお狐様よね、四谷は》
《もはや決定事項で草》
《どんな例えだよ》
《草》
《草》
《コーラで流し込むは高校時代にやってたな……今はもう、揚げ物と甘い炭酸が辛い年齢になっちまったよ……》
《最悪過ぎて大草原》
《ちゃんとイメージカラーで描いてるんだな》
《妖怪出てくる系少女漫画のマスコットっぽい》
《緑色のキツネで、ちゃんと四谷っぽい服……というか巫女服っぽいの羽織ってるの可愛いな》
《しっぽが三本あるのもチャーミング》
《大丈夫?この子将来九尾になって国を傾けたりしない?》
《おいやめろ、つぶらな糸目だけでいい!額に第三の眼を描くんじゃない!そこだけ写実的にするな!》
小泉四谷のイメージカラーと、フェイスペイントの狐面模様を題材に手早く描かれていく。絵本に出てくるデフォルメされたキツネに、四谷のデフォルトの衣装をモチーフにした犬や猫が着る服コメント欄は雑談の内容から絵についての話に自然とシフトしていった。しかし、四谷の志向する都市伝説や怪談方面に寄せる為、しっぽの数を増やしたり額にリアルな眼を描き足すたびに悲鳴とも怒号ともつかない声がコメント欄に響き渡っていた。
「んー、まぁこんな感じかな?あくまでラフだから、調整はするけどね。服はもっとケープみたいな簡易なののほうが、他のみんなも描きやすいだろうし」
「キンメさん、それなら額の眼もデフォルメしましょう。そこだけ別のイラストや写真から貼り付けたみたいになっています」
「いや、いいんだ廻叉さん。気に入った。可愛いだけより、ちょっと不気味くらいの方が僕のマスコットに相応しい……!」
「これは意外にも乗り気!よしよし、調子が出て来たぞ。それじゃあ次は廻叉くんだけど」
キンメからの問いに、廻叉は放送事故にならない程度の間だけ黙考した。イメージカラーに合わせるならば、黒だろう。そして時計の意匠を合わせやすい動物がいい。首からぶら下げるのがよさそうだ。更に言えば、仮面を付ける事が出来れば誰が見ても分かる『正時廻叉のマスコット』になる。
「そうですね……シンプルに、犬や猫というのが私らしい気がするのですが、意外性はありませんね」
「犬や猫はねー……色んな人に当てはまっちゃうから完全にピタッと嵌る感じじゃないと使いにくいかなぁ。例えばリンネくんとか、どっちの要素もあるでしょ。人懐っこくて、好奇心旺盛。でもマイペース」
「確かに……むしろ、廻叉さんらしくない方がマスコットっぽくないです?」
自分らしくない、という四谷の言葉に小さく唸りながら思考を巡らせる。自分のイメージの逆。ならば、カッコいいイメージを持たれる動物よりも可愛らしい動物の方がいいのではないか。そこに、時計の要素を当てはめた時に一匹の動物が浮かんだ。正確には、その動物が登場する物語が思い浮かんだ。
「黒いウサギでお願いします」
実質キンメ中心のトーク回。イラストを描く才能が筆者には皆無なので、これくらいの速度で書けるのかとかは……その、フィクションという事で……。
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拙作「やさぐれ執事Vtuberとネガティブポンコツ令嬢Vtuberの虚実混在な配信生活」がTOブックス様より、2024年1月20日に発売となります。また、本日より予約受付も開始しております。
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