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「最終選考へのカウントダウン」

連休にも関わらず、仕事やら所用やらで執筆に時間を割けないのがこんなに辛いとは。お待たせして申し訳ありませんでした。誤字報告、感想等も頂いており、感謝しております。


3期生オーディションもそろそろ佳境となっております。実際にオーディションの描写があるかはまだ未定です。

 正時廻叉のチャンネル登録者数5000人突破記念配信は成功と言っていい結果となった。外部のVtuberとのトークは、相手方のファンにもおおむね好評であり、予告なしの登場だった事からアーカイブの視聴も伸びており、正時廻叉としては初めてファンメイドによる切り抜き動画も作成された。そこからまた再生数とチャンネル登録者数が伸びるという好循環が起こっていた。

 一方で、廻叉本人が懸念していた通り「女性Vtuberとのコラボ」という点で、動画への低評価であったりSNS上での心無い発言等も発生する事態になった。幸いにして炎上と呼べるような規模ではないが、特にアイドルVtuber事務所として認知されているエレメンタルのファン、木蘭カスミの熱狂的ファンから口汚い罵倒をSNSに直接送られる事もあった。


「それはそれとして初のゲーム実況となります。今回は、『LIKE A LOAD MOVIE』……アメリカ本土をかなり精密に再現した舞台でのレースゲームですね。タイトル通り、古き良きロードムービー風のストーリーモードもあるのですが、自由に走るだけのモードが非常に好評で、今回はこちらでアメリカの名所を巡る旅を御主人候補の皆様と共に楽しんでいきましょう」


 《ゲーム実況だー!》

 《チョイスが渋い……》

 《初見です。良い声してますね》

 《つーかゲームの腕前どうなんだ執事は》

 《配信レイアウト凝ってるな。ちょっとレトロ風なのが》


 だが、正時廻叉というVtuberはその手の煽りが一切通じないタイプである。恋愛、あるいはもっと露骨な肉体関係を邪推された所でその手の情緒を一切見せない。木蘭カスミ関連の煽りに対しても「同じ演劇の道を歩む者として仲間意識はある」とSNS上で表明して以降は基本的に無視していた。挙句、暫く動画作成作業に没頭していた為、SNSの更新も進捗状況の報告と、今回のゲーム実況に関する告知のみという有様であり、暖簾に腕押し・糠に釘ということわざ通りの状況だった。


「初のゲーム実況という事で心配されている方もいらっしゃいますが、ご安心ください。ロケハンはしました。チュートリアルと序盤のストーリーまではクリア済みです。また、ゲーム内通貨の稼ぎも行いましたので、私が心惹かれた車の購入も済ませております」


 画面上にはいわゆるクラシックカーが鎮座している。老若男女に愛されている有名なアニメで主人公が乗り回していたことで有名な、イタリアのコンパクトカーだった。車体のカラーリングこそ黒であったが、これが黄色であれば日本一有名な怪盗一味を思い出すであろう。


 《俺でも知ってる奴》

 《渋い》

 《かっけぇ》

 《色は執事カラーか》


「それでは早速初めていきましょうか。スタート地点は西海岸サンフランシスコ。目的地はニューヨークです。今日だけで到着できなければまた次回となりますが」


 市街地の路上から走り出したフィアットは数十メートル進んだところで電柱にぶつかった。


 《草》

 《初手事故wwwww》

 《ニューヨークどころかサンフランシスコから出れるのか》


「気を取り直していきましょう。ゲームで良かった、と思って頂ければ幸い。丁度BGMの変更がまだでしたからね。このゲーム、実際の洋楽がカーラジオという形で流れるので著作権対策でSEのみに設定してあります。なので、こちらのフリーBGMを流します」


 効果音だけの画面からジャズ風のBGMが流れ始め、車も再度走り始めた。ゲームらしく法定速度からは大幅に超過しているものの、レースゲームの様にフルスピードを出しているわけではない。CGで再現されたアメリカの風景と相まって、まさにロードムービーの様な映像だった。対向車や先行車との接触事故が多発している事だけが雰囲気を削いでいたが。


 《事故に動じない執事の鑑》

 《いや事故る時点でダメだろ》


「実際の運転と同じようにしていても面白味がないですからね。無論、御主人候補の皆様におかれましては安全運転を心がけて頂きますようお願い致します。ルートとしてはラスベガスを通り、イエローストーン国立公園に行ってみましょうか。とはいえ、サンフランシスコに居る以上ゴールデンゲートブリッジは通りたいのでそちらにまずは向かいましょう」


 《おk》

 《BGMと相まってすげぇ落ち着くな》

 《たまにガードレール擦ってるけどな》


 ゲーム実況というよりもゲーム映像にナレーションを入れるようなスタイルだったが、コメント欄はそれなりに楽しんでいる様子であった。事故を起こしそうになる度に悲鳴で溢れかえる事はあったが、運転手が何一つとして焦らない為、その悲鳴も時間が経てば減少傾向にあった。


「こちらがゴールデンゲートブリッジになります。映画や海外ドラマでも見たことが多い方もいらっしゃると思いますが、サンフランシスコの代表的な観光名所です。カーチェイスが行われたり、戦闘が行われたり、シンプルに破壊されたりと、何かと酷い目にあっている橋でもあります」


 《そうだけどさぁw》

 《もうちょっとマシな言い方あるだろw》


「巨大建築物の宿命と言えばその通りなので、仕方のない面もあります。ちなみに徒歩や自転車でも通行できますので、観光旅行の際には一度歩いてみる事をお勧めします。展望台もあり、風景を眺めるだけでも価値のある場所だと思います。全長がおよそ2.7kmほどありますのでその点だけご注意頂ければ」


 《長ぇ……》

 《一度は行ってみてぇよなぁ》

 《なんだかんだでアメリカは憧れの国》


「バーチャルの世界の住人が、ゲームの世界のアメリカの観光案内を、現実世界の御主人候補の皆様にお伝えする、というのも何とも不思議な感覚ではありますが、皆様お楽しみ頂けているでしょうか?ニューヨークまでの長旅、複数回の配信になるとは思いますがお付き合い頂ければ幸いです」


 《楽しいからいいぞ》

 《シリーズ化助かる》

 《それはいいから前見ろ前。車間距離やべぇぞ》


 この後、道に迷ってゲーム内に実装されていないカナダ国境で見えない壁に激突した所で配信は終了となった。


【ゲーム実況】『LIKE A LOAD MOVIE』アメリカ横断ドライブ Part.1【Re:BIRTH UNION】

 配信時間:2時間50分


 最大同時接続者数:633人


 チャンネル登録者数:6108人




 ※※※




 配信を終え、ゲーム用パッドを片付けているタイミングでDirecTalkerから呼び出しコールが響いた。相手は、自身の2DアバターのデザインをしたイラストレーターのMEMEだった。


「はい、廻叉です」

「配信お疲れ様。終わってすぐの所に悪いね。頼まれてたイラスト、出来たよ」

「ありがとうございます。申し訳ありません、ほんの数分の動画の為に時間を割いて頂いて」

「ちゃんと報酬も貰ってるし、そこは大丈夫。それ以上に君の動画の力になれるのは俺も楽しいし、何より創作意欲が無茶苦茶湧くんだよね」

「収益化待ち分割払いを提案してくださって本当に助かりました。必ず、良いものを作らせて頂きますので」


 楽曲投稿と記念配信を切っ掛けに、正時廻叉こと境正辰は完全自作での動画作成に取り組んでいた。スタッフに根掘り葉掘り聞きながら、配信などの合間に作業を積み重ねていた。MEMEにはその際に必要な画像などの依頼をしている為、こうして通話を介した打ち合わせを多数していた。その際、MEME本人からの希望で『極力、正時廻叉として話してほしい』と言われている。MEME自身が、誰よりも彼のファンであるが故の要望だった。


「最初の動画は短くても、どんどん長くなるんでしょ?貰ったプロット読んだけど、俺の考えた正時廻叉像を更に膨らませてくれてるし……このクライマックス、これを新衣装にぶつけるんでしょ?もう今からこれが公開された時の事を想像するだけでゾクゾクするよ」


 興奮を隠し切れない口調でMEMEはそう語る。それを聞いて廻叉もおもわず口元が緩むのを抑えきれない。この企画の詳細を知っているのは正時廻叉、MEME、そして統括マネージャーの佐伯だけである。元々は2Dアバターのアップデート及び新規衣装の打ち合わせにて、廻叉が考えていた連続ストーリー動画の企画を話した事が理由だった。


「デビュー前に『正時廻叉』の姿を見せて頂いた時の打ち合わせで、素顔についてのお話をされた時に考えたんですよね。この姿と私自身の人格を合わせた時に、ある程度の話の流れが浮かびまして。実際に動画を創るとなったら……まぁ、中々に大変でしたけども」

「歌動画の方はスタッフさんがやったもんねえ」

「ええ、ステラ様と共演する以上、拙い歌だけでなく拙い動画まで出してしまうのはどうかと思いまして」

「なるほどね。でもこっちの企画は廻叉くんが主導なんだから君自身が頑張らないとね」

「もちろんです。とはいえ、配信外の時間の八割を勉強に割かれているレベルでやっていますが……それでもなかなか上手く行かないものですね」


 疲れの滲み出るような声を出しつつも、どこか満足げではある。元々動画配信自体も未経験だったが、今ではスタッフの手を借りずにソロで配信が出来る程度には成長している。動画作成も同じように、全くの未経験からではあったが、自分の考えたストーリーを形にするのは単純に楽しかった。


「動画作成に慣れるって意味でも、段々動画を長く、鮮明にしていくのはアリだろうね。初心者であるが故の荒さを演出にするのは上手い手だと思うよ」

「だからこそ、最後の動画は誰が見てもクオリティの高いものに仕上げなければならない、というプレッシャーはありますが」

「ふむ。それじゃ、更にプレッシャーを与えてみようか。実はさっき、佐伯さんからこんな提案があってね。動画のプロットの大幅変更とかそういうのではないんだけど、R()e():()B()I()R()T()H() ()U()N()I()O()N()()()()()()()()()()が大幅に変わる可能性のある提案だ」

「……どういう事ですか?」


 MEMEの口から出た不穏な文言に、廻叉は訝しんだ。Re:BIRTH UNIONのプロット、というのも初耳である。その詳細を聞き出そうとする前に、PDFファイルが送られてきた。


「これは?ファイル名は、『stella_is_evil』……?」

「俺はもう読んだけど、リザードテイルの上層部とステラさん、イカレてるって思ったね。無論、褒め言葉としてだけど」


 そのファイルを開き、廻叉は絶句する。その内容はRe:BIRTH UNIONに所属する全員の根本に関わる設定資料集であり、同時に数年先を見据えた進行表でもあり、恐らく現在のファンを阿鼻叫喚へと突き落とす爆薬でもあった。その中には、当然廻叉の動画に関わる内容もあり――衝撃的でありながらも、これ以上の展開は無いと断言できるものだった。


「……イカれてますね」

「でも、最高だろ?」

「最高です。しかし、新しく入る3期生の皆さんも衝撃を受ける事でしょうね……」

「なーに、それを飲み込める人を選ぶだろうさ」


 Vtuberとそのデザイナーは、まだ見ぬ3期生と、このPDFファイルの内容が動画や配信で表に出た時の事を考え――悪人のような笑みを互いに浮かべていた。




 ※※※




「例のPDFファイル、もう1期生と2期生のみんなには渡ったのかな?」


 東京、リザードテイル本社のミーティング室にはRe:BIRTH UNIONの統括マネージャー佐伯とステラ・フリークスこと星野要が、タブレット端末を挟んで打ち合わせに臨んでいた。今回の件はステラと佐伯の共謀であり、社長からは難色を示されたが『今後の業界において自分達の立ち位置を唯一無二にするために』という説得でようやく許可が下りた。ただし、条件は今後デビューする3期生も含め、所属者全員からの同意を得る事だった。


「幸い、全員からOKを貰えた。かなり攻めた内容だけど、そういうのがむしろ大好物な面々しか居ないからね。特に境くんは目に見えて喜んでたよ」

「はは、彼らしいな。あとは3期生だけど――もう、最終選考への審査は終わったんだよね?」


 タブレット端末のPDFファイルを閉じ、紙ベースの資料を取り出す。社外秘の印が押されたそれは、Re:BIRTH UNION3期生オーディションの最終選考進出者のプロフィールだった。


「合格者は、7名。辞退者は無し。そしてデビュー枠は2人……正直、今回の2次審査は大分甘めに審査をしたらしいね。応募者のレベル自体は上がっているが、むしろウチに所属しない方が伸びる要素の大きい、と判断された人が多数だ。こういう時に、同業他社さんや大手個人勢の影響を強く感じるよ」

「そこは仕方ないさ。ファンの視点から見れば、どの事務所も基本的には同じVtuberの括りだ。それに、業界研究でわからない部分がウチの本質だからね」


 互いに資料に目を通しながら、佐伯は難しい顔を、要はどこか楽しそうにしていた。


「さて、私達と同じだけの怨念と執念を持った人間は居るのかなー―?」


 候補者たちのプロフィールを眺めながら笑う要の姿は、もはやステラ・フリークスそのものだった。同時にそれは、無邪気でありながらも――どこか、邪悪さ(evil)を感じさせる姿だった。

今回は前振り回みたいになってしまいました。廻叉のプレイしていたゲームは、実在するゲームをモチーフにしております。恐らく、知っている方にはバレバレだったかと思います。


御意見御感想の程、お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです!! [一言] 演劇系のVってあまりイメージないですよね 全員前世関係で何かしらがありそうで怖いような楽しみなような 応援してます頑張ってください ファイルはなんなんだろう……
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