「そっちこそ大丈夫?この会社五年持つ?」
「……凪さん、どんな地雷拾ってくるんですか」
「やっぱり地雷ですよねぇ、これ……なんか、俺がデビューする前の話だったから京吾さんと備前さんがなんであんなゲンナリしてたのか分からなかったんですけど」
「とりあえず配信前に話したい事があるっていうから何事かと思ったら、もはや悪いまとめサイトですら扱わないネタの話持ってくるとはな……」
『勝った人が残りの二人に食事を振舞う』というルールで行う三人打ち麻雀コラボの前に、正時廻叉と三日月龍真は後輩が拾ってきた話の内容に頭を抱えていた。桃源郷心中事件と呼ばれる三人のVtuberを巻き込んだ修羅場。一人は既に過去を振り切り、既にVtuberとして新たな道を進んでいる。その過程で廻叉との諍いがあったが、結果としてラブラビリンスという事務所自体の方向性を良い方向へと進む切っ掛けになっている。
「とりあえず、島の出身とはいえ日本には物凄い数の島がある訳ですからね。例の彼の出身が凪さんと同じとは限らない訳で」
「……あ、そっか。じゃあ今度確認しておきます。これで別だったら俺もそこまで気まずくならなくて済みますね」
「同じ島な挙句に凪の顔見知りだったりしたら地獄も地獄だけどな」
「はっはっは、まさかそんな」
「そうですよ、自分の地元の事をこんな言い方するのもどうかと思いますけど、そんな大した島じゃないんですから。まさか、ねぇ……」
凪が詳細を敢えて聞かずに帰って来た事もあり、これ以上掘り出しようがない事も確かではあった。少なくとも現在は『V Music Fes』の打ち合わせや準備、リハーサルの方がよほど重要である。そして、日々の配信も同等に重要だ。三人は一度、掘り返されてしまった地雷を一度地面に埋めなおすことで合意した。うっかり配信中に口走っても、余計な誘爆に巻き込まれるだけだろうという予想も出来ていた。そもそも、この地雷自体が不発弾である可能性も十分に高かったのだ。
なお、『V Music Fes』終了の数か月後、この地雷が再び顔を出し、表に出ない苦労をそれぞれが背負うことになるのだが三人はその未来をまだ知らない。
余談ではあるが、忖度無しの本気の麻雀を打った結果、一番の先輩である龍真が一度も食事をおごらないという結果になった。真剣勝負を散々アピールした上で二着を一回、三着が三回という惨敗具合に炎上ではなく同情を集める結果となり、龍真は「タダ飯の代償に先輩としての威厳を失った」と力なく呟く結果となった。
※※※
Re:BIRTH UNION男性陣が地雷の埋め直しと麻雀に勤しんでいた頃、社長である一宮羚児とステラ・フリークスは今後のRe:BIRTH UNIONの展開についての会議を行っていた。四期生であるSINESがある程度の成功を収め、デビューからある程度の月日が経ったこともあり次の戦略を考える時期に来ていた事もある。また、五期生オーディションの問い合わせなども多数あった。
「我々も大きくなったけれど、ステラとしては満足はしていないだろう?」
「それはまぁそうだね。たぶん、私も含めて全員がそうだろう。今日まで引退も卒業も出ていない
ところからもよくわかるだろう?消える時は、Re:BIRTH UNIONというVtuber事務所自体が沈む時だ。少なくとも、私は」
「たぶん、君以外もそう答えるんだろうって予想が出来るよ。私が言うのもおかしなはなしだけど、本当に大丈夫なんだね?人生オールインするにはみんな早すぎない?」
「そもそもカジノにも入れずテーブルにも着けなかったんだよ、私たちは。人生のギャンブルにベットする機会が与えられただけでも喜ばしいことなんだから」
「実質的な胴元であるこっちとしては、心配にもなるよ。今のところは全員ある程度勝っているとはいえ、間違いなくどこかのタイミングで下がり目や裏目は出てくるんだから」
ステラ・フリークスを初めとしたRe:BIRTH UNIONの所属タレントは、総じて迷いというものがない。大きな挫折を伴った上で、新しく生まれ変わる事を選んでいることもあり、他事務所における引退・卒業トラブルなどとは無縁だった。とはいえ、一宮からすれば全員がまだ三十にも満たない若者ばかりだ。既婚者で娘を持つキンメですら、三十歳になるかならないかという若さである。
自分の人生を確定させるには早い上に、Vtuberあるいは配信者という職業が今後どこまで続くかも不透明である。
「じゃあ、リバユニを閉める?」
「まさか。私が出来るのは、全力でこの場を維持する事だよ。君たちが思うように活動できるような場を整えておく。その上で、君らがやり切ったと思った時には次の道に向けてのサポートはさせてもらうけれど」
「ご心配せずとも、二年や三年程度でやり切ったなんて言えるようなタイプじゃないよ。私も、みんなも。廻くんなんて『二周年はキリが悪いから、次は五周年でちゃんとした企画をします』って言ったらしいよ。そっちこそ大丈夫?この会社五年持つ?」
「動画制作の事業が順調だから大丈夫だけどね……やるなって言ってるのに自主残業する3D班が何かしらの法律・法令・条例に引っかからないかだけが不安かな……」
「そこは会社の総務に頑張って貰って……」
株式会社リザードテイル自体の業務は順調そのものである。ステラの杞憂は一笑に付した一宮ではあったが、主に3Dアバター関連の担当チームのモチベーションが必要以上に高い事が懸念材料だった。勢い余っての残業が増えつつある為、総務や経理が若干頭を抱えている。ブラック企業にする気は一宮には一切ないが、結果的にそうなった場合に矢面に立つのは自分である。
「……とりあえず、五期生はもうちょっと落ち着いてからかな……」
「……少なくとも三人入れるのを続けたら、間違いなくパンクするだろうね。3D班の増員の方がよほど急務な気がするよ」
どちらからともなく溜息が零れた。
※※※
「『ファンシー釣り紀行・海千川千スペシャル』……これ、どういうゲームなんです?」
「見ての通り、可愛い二頭身動物キャラクターが釣りをするゲームよ。ファンシーだけど、意外と本格的なのよ。大型アップデートで海だけじゃなく川でも釣りが出来るようになったバージョンね。だから海千山千じゃなくて、海千川千っていう造語なんだけど」
「私、釣りって兄がやってたバスフィッシングしか知らなくて……釣りだけでもこんなに種類があるんですね……」
不定期ではあるものの継続して行われている『ユリアとシャロンのゲーム補講』シリーズ、今回のゲストは『V Music Fes』の繋がりでオファーをしたラブラビリンス所属の淀川夏乃だった。彼女自身は流行りのゲームをやるというよりも、のんびりとやり込むタイプのゲームと雑談を同時進行させるスタイルを取っている為、これまで二人がプレイしたことのない作品を持ってきてくれるという期待を込めての講師役依頼だったが、実際に二人が触れたことのないジャンルだった。
「私たちが動かすのはファンシーな猫とかウサギとかで超可愛いです!マップもなんとなくファンタジーな感じがあって歩いてるだけでも楽しいですよね!ピクニック気分というか!」
「でも、釣り竿だったり、釣り道具全般だけ物凄くリアル……チュートリアルの時から、気になってたんですけど、当たり前のように夏乃さんが進めるから、言えませんでした……」
「あー、リールとかルアーとかね。そりゃ釣りがメインのゲームなんだからそこに力入れないとリアリティが損なわれるって事じゃない?流石にエサに使う虫系のだけはファンタジー補正掛かってるけど」
「リアルな針に刺さってる絵本に出てきそうなミミズでちょっと腹筋に悪いですよこれ!」
《草》
《子供向け、女性向けっぽい全体像からの明らかに専門家が監修に入っている釣り道具のリアル具合よ》
《ゴカイやイソメをリアルにするとな……下手すれば虫以上にキモいからな……》
《精一杯初心者に向けた配慮をしようとしているのは伝わる。方向性がそれでええんかという気持ちもある》
「実際の釣りに行くにはハードルが高いけど、本格的な釣り気分を味わえるのよね。夜中に釣り糸垂らしながらやる雑談配信が意外と好評なのよ。マルチプレイも出来るから、こういうトークをしながら出来るし」
「なるほど……あ、引いてる……!」
「おお!頑張れユリアちゃん!」
魚が針に喰い付いた事を示すアイコンが出ると同時に、事前に教わっていた操作でリールの糸を巻き取っていく。タイミングよくクリック、マウスホイールで糸を巻くというシンプル操作なので初心者二人も事前チュートリアルでマスターすることが出来たのも幸いだった。
「釣れたっ!やったねユリアちゃ……うわあ」
「……釣り具だけじゃなくて魚もリアルなんですね……チュートリアルだと魚のぬいぐるみみたいなのだったのに……」
「スタッフロールに海洋学者の人の名前があったって話だもの。そりゃリアルよ、魚も」
《おおう……》
《ファンシーウサギがリアルなハゼを掲げている姿はシュールにもほどがある》
《草》
《魚の大きさがリアル準拠だとしたら、この二頭身ファンシー生物ども身長が二メートルくらいないとおかしいんだよな……》
本格的なのか緩いのかわからない釣りゲームに困惑しながらも、夏乃が言った通り釣れるまでののんびりとした時間を過ごすのも一つの楽しみ方だった。今回のゲーム補講は、三人の女子会トークがメインとなりそうだった。
久々に登場のオリジナルゲーム。某どう森のようなキャラクターによる某ぬし釣りシリーズみたいなゲームとお考え下さい。
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