「まぁそうなるだろうなぁ、とは質問を選んでいる段階で思っていました」
【Q:後輩との付き合い方、距離感の取り方が難しくて、気を使わせてしまってるように思います。竹取兄妹のお二人は、自分より後輩のVtuberさん達とどうやってコミュニケーションを取っていますか?】
「あの、これは私なんですけど……どう、でしょうか」
ユリアからの質問は、本人としては然程深刻ではないが聞く機会があれば聞いてみたい類の質問だった。これまでは自分が後輩であるという立場が多かったこともあり、自身の所属している事務所だけでなく個人や他企業の先輩にあたるVtuber、特に女性Vtuberから可愛がって貰った経験が多い。
しかしデビューからある程度経って現在。いざ自分が先輩という立場になった時に、自分を助けてくれていた先輩達と同じように出来ていないように思えた。Re:BIRTH UNIONの後輩である四期生、SINESの三人はそれぞれバイタリティが高く、むしろ自分を巻き込んで引っ張っていくようなタイプだ。他の事務所や個人のVtuberに目を向けても、往々にして積極性の塊のような存在の方が多かった。どちらにしても先輩らしい事が出来ていない。そんな、悩みというには小さな、とはいえ気にせずにはいられない程度には気に掛かる質問をユリアは投げかけた。
《ううむ、良い子だ……》
《気にしなくていい話だけど当の本人からはまた別だわな》
《先輩としての自覚を持ってるのは偉い。初期に三下手下ムーブやり過ぎて後輩からナメられてる奴も居るからな……》
「私は以前に答えたので、その際に言った事を繰り返します。いざという時に助けになりたい、という気持ちを持ち続けていれば自然と頼られますよ」
「ううむ、メグたんが模範的な答え方してる。まぁ私なら色々企画立てて積極的に後輩ちゃん達誘うかな。この対談企画も横の繋がり増やすのが最初の目的だったもん」
「良くも悪くも儂とカグラで完結するのが竹取兄妹のチャンネル、って評判じゃったからね。趣味ならともかく、これでメシ喰おうと思ったらそうもいかんし。カグラの言う通り、実際に何か一つ企画を動かしてみるってのは大事かもしれんな……いや、先輩に対して偉そうじゃな、儂」
「自分主導の企画……ちょっと色々考えてみます」
「まぁ私もそこまで後輩勢に頼られてる感はないからねぇ。割と対等になっちゃうし、そもそも先輩よりも後輩の方が減ってる傾向にあるし」
「おいやめろ馬鹿」
《投げっぱなしとも信頼ともとれる執事さんのお言葉》
《カグラはまぁ企画屋の側面もあるしな。だいたいオキナとやっちゃうから交友関係広がらない訳だが》
《オキナは人生の先輩だからギリギリセーフ》
《草》
《本当にそうだから草生やせねぇよ……19年組の個人勢、半年持たないで引退したり顔出しに転向する奴ら多すぎた》
《地道に頑張ってるメンツも居るんだけどな。どうしても企業勢程注目集めないのはしゃーない》
《なお、軽い気持ちで参入した企業もいくつか解散した模様。DJDとVインディーズ、あとはラブラビが受け皿になってくれてるので推しが消えずに助かっております。ありがとうラブラビ》
「……オキナさんとしてはこの話を打ち切りたいとは思うのですが、残念ながら私の質問がその話を蒸し返してしまいそうです。私からの質問はこちらです」
【Q:私が自身のお悩み相談でよく受け取る質問なのですが、是非お三方にも考えをお聞きしたいと思います。Vtuberとして生きていく為に、最も必要な素養とはなんでしょうか?】
《おおう……》
《この話の流れからのこの質問は難しくない?》
《これがよく受け取る質問なのか執事さん……》
正時廻叉の悩み相談配信は凡そ五割が軽めの悩みや質問、二割が質問ですらない大喜利のお題のようなネタ投稿、残りの三割が回答するのに苦慮する真剣な悩みだった。この場に居るユリアもまた、その三割に該当していた一人でもある。
そして最近増えているのが匿名の個人Vtuberからの相談だった。数字が伸びない、見てもらえない、続けるための心が折れかけている、と言った悲鳴にも似た悩みが廻叉へと送られてきていた。これに配信で廻叉が直接回答したのはごく一部である。下手すれば配信者の人生を左右する上に、質問をよく見れば投稿者を特定できる可能性がある文面だった事も理由になっていた。
「……重いなあ。儂らが素養とか資質とか語れるほどの者でもないんじゃがなぁ」
「私も、これを語れるような人間じゃないです……」
「まぁそうなるだろうなぁ、とは質問を選んでいる段階で思っていました」
「うん、思ったなら別のにしよ?」
《空気がどんよりしたぞ、どうしてくれるんだ正時廻叉》
《回答拒否で草》
《わかってたんならやめろやw》
《カグラが正論言うって相当だぞw》
「まぁでも……儂から一言だけ言えるのはメンタルじゃろ、メンタル。極論、同接が一人だろうが何を言われようが気にせず続けられるメンタルの強さが全てじゃろ」
「敢えて私から言うとしたら……その、やはり出会いを大事にすること、だと思います。私は廻叉さんもそうですけど、他にも先輩の方や同期の四谷さん、別の事務所のシャロンちゃんだったり……そういう人に、一人でも多く出会って大事にする、大事に出来るのが必要なんだと思います」
「いや、本当にね。二人のいう事もそうなんだけど……私からすればさぁ、結局素の人間性じゃない?」
「おい」
「一番過激な意見が出ましたね」
カグラの言葉に、オキナが明らかに語気を強めた。ユリアは心配そうにその様子を見守っていたが、廻叉が逆に興味深そうに続きを待っているのを見て少し安心した。カグラもカグラで立ち上がって制そうとしたオキナを逆に制して言葉を続ける。
「いやいや、最後まで聞いて?あのね、何らかのどうしようもない都合で辞めなきゃダメだった人と違って、自分から活動終了を選んだりフェードアウトしてく人ってやっぱりね、人が良いのよ。だから色んな視聴者だったりファンだったりの期待に応えようとし過ぎたり、売れてる人と比べて自分が至らないって思っちゃったり、或いはアンチのゴミみたいな話に耳を傾けちゃったりするワケでさ。だからもう、そういうの良いから!ある程度エゴイストであることがVtuberの素養!」
「……まぁ、否定はせんけどな」
「我々の事務所、私とユリアさん含めてかなり自我強めですしね」
「た、確かにそうかも……」
《おお、想像以上に良い事言ってる……?》
《言わんとすることは分かるけども》
《表舞台に出て自分をエンタメ化する以上、強固な自我が必要ってのは分かる》
《リバユニ民だけど、良い意味でブレないエゴイストしかおらんなぁ!ユリアのお嬢だって、結局執事と付き合うことを公表してそのまま活動継続してるとか、普通だったらなかなか出来る事じゃないよ!》
《本人たちの自覚もあるようで何よりです》
「大体Vtuberっていうギャンブル商売に手を出す人が真っ当な常識人の感性だけだとやっていけないでしょ!ある程度どこかしらトチ狂ってないと!!」
「おいコラ」
「風向き変わりましたね」
「あ、あはは……」
「そぉしてぇ!!そんな明確にトチ狂ってる事を自覚している私からの質問がこちらぁ!!」
【Q:リバユニのお二人へ。私には今のところ彼氏は居ないけど、もしVtuberで好きな人が同じ業界に居たり、恋人が出来ちゃったりした人にアドバイスをください。たぶん、私らが知らないだけでもしかしたらそういう人たちもいるかもしれないから】
「お、おう?ロクでもねぇ話かと思ったら意外と普通だ?」
「とはいえ、我々ピンポイントで狙い撃ちの質問ですが」
「あの、居るかもしれない、ですよね?仮定の、話ですよね?」
「さぁ~どうかなぁ~?」
「余計な波風を立てるんじゃねえよ!!」
「オキナさん、口調が若返ってます」
「まぁ冗談はさておき、二人からのアドバイスで救われる子は間違いなく出てくると思うよ。現在進行形でそういう風になってる子が居るかどうかはわからないけど、そういう時に先駆者の二人の言葉は絶対に必要になると思ってる」
「なんていうか……私が考えていたのとは違う意味で、後輩思いなんですね、カグラさん」
ユリアが尊敬を含んだ視線でカグラへと微笑む。こういう形で後輩の助けになるのならば、多少の気恥ずかしさはあれど真摯に答えようと、ユリアはそう考えた。廻叉へと視線を向けると、既にどのように答えようか考えているようだった。
「……なぁカグラ。儂にだけ本音で答えてくれるか?これ、最終的にどうなってほしくてした質問?」
「そんなの決まってるじゃん」
今日一番の笑顔で、竹取カグラは答えた。
「私が色んな子の恋バナを聞きやすくするための下準備!!」
「お前本当に最悪だな!!」
「エゴですね」
「……あの、さっきの後輩思いって言ったの、キャンセルしてもいいですか?」
《だろうな!!》
《それでこそカグラ》
《草》
《いい笑顔しやがって》
《尊敬の言葉キャンセルは流石に草》
《すげぇな、盛り上がりすぎて今までの対談企画で一番長いことになってるぞ》
体調の方は回復しましたが、文章量は相変わらず減っております。
仕事の方が落ち着くまで、今しばらくお待ちください。




