「キッチンは思った以上の戦場でした(by.石楠花ユリア) 後編」
「完成したので味見のコーナー!!」
「いえええええい!!!」
「……大丈夫かなぁ、今回のこれ、自分たちだけで食べるだけじゃないんでしょ……?」
「大丈夫、大丈夫です……!今のところは見た目は全部、ちゃんと私の知ってるパウンドケーキですっ……!」
「そうそう、大丈夫大丈夫。まず最初に自分たちで食べて、危険物じゃないと判断出来たら事前に募集したオーバーズの女に飢えた男達にプレゼントしようって企画だったでしょ?」
「ゆい姉さま!飢えてるのは女にじゃなくてバレンタインデーにチョコを貰ったという思い出に飢えてるんです!」
「朱音ちゃん……?!」
「……ってウチの同期のリンネくんが言ってました!」
「なるほど!」
「……やばい、私が立ち直らないとユリアちゃんへの負担が……!」
【 停 止 】
「さぁ紆余曲折ありましたが、なんとか焼き上がりまで辿り着きました――そして、今まさにオーバーズの大看板の一角である雛菊さんとリバユニ期待の新星である緋崎さんが焼き上がろうとしています!」
「隠し味に使うお酒を取り出して味見言うて飲みだした辺りから雲行き怪しなってたよね。これ、お酒スタジオに置いてった奴ら説教やね」
「恐らくですが数日前にスタジオで飲み会配信してた紅スザクさんとその仲間たちですね。『ご自由にお持ち帰りください』って張り紙、色紙とかに書くタイプのサインがありましたし。紅さんの」
「まあ、それはまだええんよ。なんで雛菊はん、躊躇わずにウイスキー開けたんやろなぁ。お菓子の隠し味にするには合わへんやろ」
「単純に飲みたかったんでしょうね。雛菊さん、大酒豪ですし。あといつの間にか朱音さんがオーバーズのお二人を姉さま呼びになってますね。カットされたところでなんかあったんでしょう。それでは続きを見ていきましょうか」
【再生】
「それじゃ、まずは私のから食べようか!雛菊作、チョコマーブルパウンドケーキ!」
「凄っ、模様がちゃんと出来てる……」
「自分の切るのが不安になってきました……」
「美味しそう……!では、早速試食を――美味ぁ!?」
「……え?お店で出してる奴?」
「凄いです、雛菊さん……!」
「はっはっは、どんなもんよ。それじゃ、次は朱音ちゃんのを切ってみようか……っ!?固っ!?え、朱音ちゃん何入れたの?!」
「アーモンドチョコが好きなんでアーモンド入れました!」
「わぁ……アーモンドが底の方に沈んでる……しかも砕いてないし……」
「み、見た目じゃなくて味ですから、重要なのは……固ぃ……」
「パウンドケーキとアーモンドが一体になってないね、これ。ケーキと素焼きアーモンドを一緒に食べてるっていうか」
「んー……型に生地入れた後に埋め込んだだけじゃダメですね!よし、次はきっとうまくやれるんじゃないかな!」
「朱音、ちゃん?マイクの前でアーモンド齧るのやめよ?」
【 停 止 】
「さぁ突然のアーモンド嚙み砕きASMRですっ!専用機材じゃないんですが、凄い音しましたね」
「ビックリしたわぁ……朱音はん、行動先行型なんやね、ホンマに……味は、普通やったみたいやね」
「一方で雛菊さんは流石と言うかなんというか……キッチンドランカーのお手本みたいな立ち振る舞いから店レベルの物が出てくるんですもんねぇ……」
「あの人、家庭科のジャンルに収まるもんやったら何でもこなしてまうからなぁ……」
【 再 生 】
「じゃあ、オチは最後に回すよ」
「雛さん!!!」
「ごめんごめん、でも音色ちゃんの前科がそうさせたんだよ……!音色ちゃんが悪いんだよ……!」
「わっ、ユリア姉さま見てください!ゆい姉さまがヤンデレ百合してますっ!」
「たぶん、違うんじゃないか、な……?」
「ユリアちゃん、否定するなら自信持って否定してほしいんだけど……」
「す、すいません……!」
「……はいっ、と言う訳で次はユリアちゃんのを試食しようか!」
「露骨な編集点!!」
「こっちもちゃんとマーブルになってる……でも、チョコの色が黒い?」
「あ、その、ビター系というかカカオ比率の高いチョコを使ったので……」
「あー、もしかして、ですか?ユリア姉さま?」
「………………」
「出ましたよ、ゆいさん」
「出たわね、音色ちゃん」
「た、食べましょう食べましょう!」
「ユリア姉さまの大声、久々に聞いたなぁ。それじゃあ頂きまーす!……ええと、その、大人の味というか……甘さ控えめっていうか……」
「苦いよね、ちょっと……」
「普通の生地は甘くて、チョコ生地の部分が全く甘みがないね。私はこういう味も好きだけど」
「…………」
「ああ!目に見えてユリア姉さまが凹んでる!!」
「大丈夫だよ。私と朱音ちゃんが甘党なだけなんでお目当ての人は多分そういう味が好きなんだよね?ほら、ゆいさんも好きな味って言ってるし!」
【 停 止 】
「さぁ触れにくい話題!触れにくい話題であります!」
「いや、散々ネタになってるしええんちゃう?何なら本人らが一番ノリノリやんなぁ」
「記者会見までやってますからね。カップルチャンネルとかいずれ作るんじゃないかなぁと睨んでいるわけですが」
「んー……あの二人そういう事はせんやろ、たぶん」
「ですよねぇ。さて、味の方は相当ビターだったみたいですね」
「あんな甘い雰囲気出しとんのになぁ」
「ぶっちゃけユリアさんの場合、全世界の人間が不味いと言っても廻叉さんだけ美味しいって言えばOKですしね」
「ちょっと不評気味やったけど、ゆいさんは好きみたいやったしなぁ。まぁ、あの人大酒飲みやさかい苦味の強い味も平気やし」
「さて……最後は、音色さんですが……」
「……まぁ見守ろか」
【 再 生 】
「さぁ、音色ちゃんのだけど。……マーブルではない、ね!」
「あー……やっぱりこうなったかあ……」
「混ぜ方、ですかね……でも、大事なのは味ですから、ね?」
「それじゃあ頂きま……すいません、先に姉さま達食べてもらえますか?」
「え?どうしたの?」
「これ、お酒の匂いですよね……これ、たぶん、めっちゃお酒入ってます」
「そんなに……?あ、これは、ちょっと……ラムレーズンのアイスの匂いを強くしたような感じが……」
「あー……そっか、あれかなぁ。余ってたラム、残しても仕方ないからって全部入れたんだよね」
「音色ちゃん、そういうとこだよ。……あ、でも私にはちょうどいいくらいかも。けど……うーん、ビールくらいのアルコール度数は残ってる感じがする」
「すいません音色姉さま、年齢的に試食無理ですっ!」
「私も、その、お酒の匂いは苦手で……」
「ん……それなら仕方ないか……それじゃあ、私も一口……酒臭っ!!」
「自分で言ってたら世話ないよ音色ちゃん」
【 停 止 】
「さぁ悪い癖が出ました!『中途半端に余ってたら全部入れる』という鈴城音色の大雑把がここで発揮されました!」
「ラム酒ってストレートで40度くらいあるやろ……?入れ過ぎたらそうなるわな。むしろ、ビールくらいの濃度まで薄まってるのが奇跡なんちゃうかな……」
「とはいえ、ビールでもお酒がダメな人には体調崩すには十分過ぎますからね。懸命な判断です。しかし、この後の配信で試食したお二人がやたらめったらテンション高かったのはこれ食べて酔っ払ったからじゃないですか?」
「雛菊はんはともかく、音色はんは間違いなくせやろね……」
【 再 生 】
「と言う訳で、今回は全員完成品を作る事に成功しました!この後は、勇気あるオーバーズ男子が試食しに来てくれます。この後から、配信になります――っていうけど、この作ってる段階のは動画で上がるから、もうアーカイブになってると思いますんで良かったら見てくださいね!」
「あ、その、すいません。私はここで帰りますので、アーカイブの方には、いないと思います」
「私は参加しますっ!」
「私も私もー」
「それじゃあ、また次回お会いしましょー!……こらっ、そこで様子を伺ってるのは誰だ!」
【 停 止 】
「さぁ、ここで映像は終了した訳ですが……なんというか、お菓子の方が成功するんですかね?」
「基本的に分量と手順さえ間違えへんかったらええ訳やしなぁ」
「なんにせよ、全員上手く行ったみたいで何よりです!ここまで実況は私、音無ミクロと!」
「解説の式夢弁天でしたぁ」
「それではまた次回お会いしましょう!さようならー!!」
※※※
これは後日談であるが、石楠花ユリア作成のケーキは無事に正時廻叉へと渡され、好評の旨がSNSや雑談配信で証言された。
一方で、テンションの赴くままに凸待ちを行い複数名のオーバーズ所属男性Vtuberが翌日に胃もたれをおこし、同時に行われた『余り酒消費の儀』によって二日酔いにも苦しめられることとなったが、それはまた別の話である。
何にしても、正時廻叉と石楠花ユリアの交際が順調そのものであることを示すには十分な動画であったことは間違いなかった。
ちょっと短めですが、動画はここまでです。
次回からは休憩所雑談がしばらく続きそうです。
ご意見ご感想の程、お待ちしております。
(感想返しが滞っております。申し訳ありません。すべて熟読させて頂いております)