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「通話面談と記念企画(1)」

物語全体の、最初の山場とも言える部分になります。

このような時間ではありますが、いち早く公開したいという気持ちが収まりませんでした。

登場人物が一気に増えますが、実際に継続して登場するのは一部だけの予定です。

 自身のSNSにチャンネル登録者数5000人を超えた旨とその感謝を書き込んだ後、怒涛の勢いで祝福のリプライが届くのを見て正時廻叉こと境正辰は喜びと困惑の入り混じった表情を浮かべていた。


 同じ事務所の同期や先輩、そして多数のリスナーから届くのは想定していたが、これまで外部コラボを一切していないにも関わらず他事務所に所属する企業Vtuberや、個人勢Vtuberからも多数リプライが来ていたのだ。以前に業界視聴率が高いと聞いてはいたが、こうして実際に祝電が届いているのを目の当たりにしてみると事実として認めざるを得なかった。

 とはいえ、直接配信上などでコラボなどを行った事のない相手への返信となると、どうしても無難なものになってしまっていた。運営からは外部コラボを禁止されてはいない。報告さえすれば基本的にはNGはでないが、正時廻叉というVtuberの方向性も相まってほぼソロ配信であったせいか、正辰は外部のVtuberとの距離感を未だに測りかねていた。


「実際、コラボしようってお誘いも5000突破のお祝いと一緒に頂いているのですが、どうしたもんですかね?」

「で、俺に相談と。まぁリバユニで一番外に出てるの俺だしなぁ」


 結局考えが纏まらず、正辰は事務所の先輩である三日月龍真こと弥生竜馬を頼ることにした。DirecTalkerの通話越しに竜馬の「うーむ……」という声が聞こえる。ラップでのネットサイファーやMCバトルといった企画に積極的に参戦している、かつ同じ男性という事もあっての相談だった。未だに男性Vtuberを蛇蝎の如く嫌う層は一定以上いるため、女性の同僚と同じ感覚でコラボを決めるのは危険であると判断した結果でもある。


「俺の場合はラップっていう共通項のあるところに行くだけだったから、その辺あんまり考えた事なかったんだよな。そこで最初に知り合って、そこから別の企画……例えば、ゲーム一緒にやろうみたいな配信に参加した事もあるし」

「ああ、そこでゲームの腕前が露呈したんでしたっけ」

「やかましいわ」


 SNSの検索欄に三日月龍真、と入力すると検索候補に「ラップ」よりも先に「ゲーム 下手」と出てしまう程度にはその腕前は広く知られている。竜馬自身は最早それすら売りにしているようだが、後輩にさらりとイジられると思わずツッコミを入れる。流石にそこまで開き直り切ってはいない様子だった。


「お前さんの場合、朗読コラボ系があればそこに参加するとかでいいんじゃねぇかな。ただ、俺の知る限りそんなになかった気がするからいっそお前さんが主催するとか」

「募集掛けていきなり大人数で、は流石に荷が重いですよ。それに、今週末から通話面接始まりますし打ち合わせや読み合わせの時間も取れそうにないですし」

「あー、確かになぁ。俺も配信頻度ちょっと落ちるってSNSか配信で言っておかないと。そもそもマサって外部のVtuberと一切絡み無しだしなぁ」

「配信以外でのオフでなら、一度ご挨拶程度には……」

「え?それ初耳なんだけど」

「俺が東京行った二日目なんですけど、事務所に行ったら年末の大型企画の件で来社していたエレメンタルのツートップと鉢合わせしまして……」

「持ってるなぁ、お前?!」


 カウントダウンライブの件自体は情報解禁前の社外秘として周知されているが、エレメンタル所属Vtuberである照陽アポロ・月影オボロと会った件はステラ以外に話すのはこれが初めてだった。竜馬も驚きを隠せずにいる様子が通話越しに伝わって来る。


「念のためオフレコでお願いしますね。……まぁそこでご縁があったからこそ、オボロさんが歌コラボ動画の宣伝ついでに俺の事にも触れてくれたんだと思いますが」

「いや、オボロさんは良いもんは良いってどんどん言うタイプだから単純にマサの歌がよかったんだろうけどな。どっちにしろ外部との絡みは配信上ではゼロって事に変わりねぇわけだ」

「そこは、まぁそうです。廻叉の喋り方だと下手すると先方やそのファンの方に嫌な思いさせそうなので避けてたってのもありますけどね」

「それは確かにそうかもしれねぇなぁ。執事のキャラ知ってないと『せっかく〇〇とコラボしてるのに喜んでない』みたいに言われかねねぇわ」


 正時廻叉というVtuberは一部のファンからロールプレイガチ勢と言われている。ロールプレイ、とは端的に言えば役割・役柄になりきるという事であり、Vtuberとしてのキャラを徹底しているタイプがこう呼ばれることが多い。リスナーからすれば、廻叉もその区分に十分入っているという事になる。問題はそのロールプレイの内容が知られていない場合、初見のリスナーが戸惑うという点にある。廻叉の場合は無感情・無表情を貫いている為、見ようによっては無礼な態度に見られる事もある。正辰が外部コラボに対して消極的である最大の理由がここだった。


「どうすればいいのか、ちょっと考えが煮詰まってしまいまして。しかも5000人突破の記念配信をして欲しい、って御主人候補の皆さんからリクエストもあって、そっちの企画も考えないといけないんですよね……」

「凄い勢いで伸びたからな、執事のチャンネル。そっか記念配信……あ」


 竜馬が何かを思いついたような声を出す。正辰もそれを察知して彼の次の言葉を待った。


「そうだ、記念配信なんだから『(とつ)待ち』やればいいんじゃねぇか!これなら自然と外部とも絡めるしな!」

「いやいやいや募集するにしても時間が足りませんし、拡散力も足りませんよ!確かにお祝いリプで意外とVtuberさんから来てたのでお願いは出来るかもしれませんけど、リバユニ外と一切関わっていないVtuberのとこにいきなり来れる人って滅多に居ないと思いますよ」


 凸待ち、というのは突撃待ちの略を捩ったもので誕生日配信・周年配信・記念配信でよく行われている。自身の人脈がダイレクトに出るため、ある程度の活動期間や知名度がダイレクトに出てしまうため、正辰はその提案を却下しようとした。しかし、竜馬には更に腹案があったようだった。


「まあ最悪俺が行って無理矢理外部のVtuber呼び出して紹介するってのも……」

「……紹介して貰った人に、更に別の人を紹介するリレー形式ならいろんな人と絡めますかね?」

「え?あー、どういう事?」

「例えば、まず龍真さんが来ます。トークの最後に龍真さんが別のVtuberさんを呼びます。で、出演OKならそのままそのVtuberさんと俺が話します。またトークの最後に別のVtuberさんを紹介してもらう、という風にリレー形式で行けば無理に募集を掛ける事無く出来るのではないか、と」

「あー、そういう事か!それなら誰も来なかったり逆に殺到したりってのも防げるわけだ!」

「勿論、私が事前に告知して『もしかしたらあなたに、御友人様から出演依頼が来るかもしれません』と予告しますし、なんなら本放送までに順番に出演交渉をしてもらえれば、当日もっとスムーズに進行出来そうですね……!あれ、これまぁまぁの発明では……?」

「ぶっちゃけお昼の某番組のスタイルまんまだけどな」

「……くっ、優れたアイディアだと思ったら、いつも先人の足跡がある……!!」


 生放送中に電話で出演依頼をしていた番組を思い出しながら正辰はわざとらしく悔しそうに呻いた。何にせよ、記念配信の内容が固まったので正辰はそのまま資料と簡単な台本の作成に取り掛かった。それと同時に、日程に関して考え、改めて竜馬へと尋ねる。


「今週末の土曜日、昼から3期の通話面接じゃないですか。その日の夜、空いてますか?出来ればその日の夜に記念配信リレー凸待ちやろうと思うんですが」

「早っ!?いや、一応大丈夫だしバトン渡す先もアテはあるけど、今日が月曜だからそんなに時間無いぞ?っていうか、さっき時間がないってお前が言ってただろ」

「この場合、時間がない方が面白いんですよ。月曜に依頼を投げて、6日間でどこまでいくか、っていう実験的な面白さを提供したいな、と。物凄く長くなっても、逆に3人くらいで終わっても面白いと思いません?」


 心底楽しそうに正辰が提案すれば、若干の無言の後に竜馬の笑い声が聞こえて来た。好感触を得た、と正辰は内心でガッツポーズを作る。


「OK、ただしバトンが渡った分は全員とちゃんと話せよ?人集めで楽した分、トークでリスナーも凸者も全員楽しませるのがマサの……いや、廻叉の義務だからな?OK?」

「無論、全力を以て事に当たらせていただきましょう」


 敢えて、正時廻叉として答える。結果的に、この企画は運営側からもGOサインが出た為、即座にSNSで告知をした。


『今週末土曜日、19時よりチャンネル登録者数5000人突破記念配信を執り行わせて頂きます。企画として、友達紹介リレー凸待ちを予定しております。私が最初の方のみ既にオファーしております。その後はその方から御紹介頂いた方とお話させて頂き、同様に次の方を御紹介して頂くという形を取らせて頂きます。今回は事前出演交渉という形で進めさせて頂きます。土曜日までに、どこまでバトンが繋がるのか、是非お楽しみに』


 ごく一部で他力本願という批判が出たが、大半のリスナーはこの企画に肯定的な反応をしめしてくれた。中には「自分にバトンが回って来てほしい!」と表明するVtuberも居た。良い意味で期待感を煽れた副産物として、SNSのフォロワー数やチャンネル登録者数が配信をしていない日にも関わらず伸びるという事態も起きていた。正時廻叉というVtuberの存在は、着実に界隈の中で静かに少しずつではあるが広がりを見せていた。




 ※※※



 時間は早々と進み、土曜日になった。時刻は13時、DirecTalkerにはパスワードの設定された通話部屋に7人のアイコンが表示されていた。


「お疲れ様です、音響系スタッフの岸川ですー。音質チェックしますので今チャンネル内に居る方、一人ずつ自己紹介お願いしますー」

「ではまず私から。人事・総務部の長谷部(はせべ)です。本日はリバユニ3期生通話面接の初回という事で、お互い緊張はされてると思いますが、リバユニの皆さんはある種の凸待ち配信だと思ってリラックスしてください。本名や個人情報の露呈だけは気を付けてくださいね。スタッフは逆に緊張感を持って面接に当たってください。お相手の人生に関わる大事な仕事です。合否決定権もスタッフのみだという事を肝に銘じておいてください。いいですね?」

「了解しました。あ、Vtuber関連事業部スタッフの宮瀬(みやせ)です。2期生のお二人の通話面接も担当していましたので、また新しい才能に出会えるのが楽しみです」

「1期生三日月龍真だ。今から『この調子』で喋るけど、気ぃ悪くしねぇでくれ。気合の表れって思ってくれると助かる」

「同じく1期生の丑倉白羽だよー。どんな人が来るか楽しみだねー」

「2期生の魚住キンメですっ。正直、デビュー数ヶ月の私と廻叉くんがここに居ていいの?って思うけど、やると決まったからにはしっかりやるよ!」

「同じく2期生、正時廻叉で御座います。面接官の大役、微力では御座いますが全力で務めさせて頂きます」

「はい、音質OKでーす。パスワードも最初の人のものに設定してありますんで、いつでも行けますよー。あ、俺は面接中は候補者の声質とか音質とかのチェックするんで、あんまり質問とかはしません。気になったら質問程度になりますので」


 場の空気は緊張感を保ちつつも、Re:BIRTH UNION所属のメンバーが配信時のテンションで話した事でどこか賑やかさがある。これは「候補者にも柔らかい雰囲気でリラックスしてほしい」という配慮でもあり、「Vtuberと話して我を忘れないだけの自制心があるかどうか」のテストでもあった。ここで喋る事が出来ないくらいに興奮したり、DirecTalkerの機能を使ってVtuberにフレンド登録を持ちかけたり、不用意な質問や発言を飛ばすようなタイプであれば、間違いなく不合格になるだろう。とはいえ、そういう事になりそうなタイプは事前の動画・書類選考で大方が不合格となった為、そのような『事故』が起こる可能性は限りなく低い、と言えた。通話の向こうで紙が捲れる音がする。


「それでは一人目の方ですね。22歳男性、以前は別のサイトで音声合成ソフトでのゲーム実況を行っていたそうです。動画編集に自信があるとの事で、実際にゲーム実況動画を送ってこられました。テンポの良さとSEの選択のセンスが決め手で合格されましたが、地声での動画投稿や配信の経験は無いそうです」


 長谷川が資料を読み上げる。同様の物は全員にPDFファイルで配られているが、書類を捲っているのが聞こえると否が応でも雰囲気は真剣味を増してきた。廻叉は、DirecTalkerの画面を真っ直ぐ見据える。


 入室SEが鳴った。デフォルメされたタヌキのイラストのアイコンが、8人目の入室者として表示される。そこにはハンドルネームらしき名前があった。


「本日は通話面接に御参加いただきありがとうございます。株式会社リザードテイル人事・総務部の長谷部と申します。では、まずはお名前や年齢といった簡単な自己紹介をお願いします」


 すぅ、という呼吸音が聞こえる。彼の緊張感が、画面越しの廻叉にも伝わる。



「初めまして、文福茶釜(ぶんぷくちゃがま)という名前でゲーム実況動画を作っていました。桧田圭佑(ひだけいすけ)22歳です……本日は、よろしくお願いしますっ」


 Re:BIRTH UNION3期生オーディション第一次面接、通話面接が始まった。

私自身はVtuberの面接を受けた事が無い為、実際のVtuberさんによる面接のエピソードなどや、私自身が参加した別業界のオーディション、或いは企業の面接の雰囲気をミックスさせて書いております。

もしかしたら読者様の中にVtuberの面接をされた方もいらっしゃって「こんなんじゃなかったぞ」というご意見もあるかもしれませんが、そこはフィクションという事で御容赦頂けますと幸いです。


この小説も登場人物も増えてきたので、登場人物紹介を作るべきか悩んでいます。

人物紹介に限らず様々な点で是非読者の皆様の御意見を伺いたいと思っておりますので、お気軽に感想欄へと御意見御感想の方、よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本文の下から24行目のところで(後書きを除く)、桧田の年齢が24として書かれているようなところがあるのですが、正しくは22じゃないのかな?と思いました。
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