「ユリアのお茶会 ~本日のお客様:SINESのみなさま~(4)」
「最後の質問は、これからのSINESの皆さんの目標を知りたいというのと、私や廻叉さんのこれからを改めて考えてみよう、と思って。『来年の貴方はどうなっていますか?』……です」
「明日明後日の事すらまだ決めてないんすけど、俺」
「リンネさん。これはアドバイスですが、直近一週間の予定くらいは大まかに決めておくといいですよ。その場その場で色々決めていくと、知らないうちにダブルブッキングなどが起こる可能性もあります。ちなみに弊社では白羽さんが一度やっています」
「コラボの予定とレコーディングの日が被っちゃったんだよね、確か……あんなに平謝りしてる白羽さん見たの、初めてだったかも」
「白羽姉さまの意外な一面……」
《これは気になる。新人勢も執事たちも》
《気が付けばお嬢や執事も二年目なんだよなぁ……》
《Vtuberに沼ると時間感覚バグるからな……執事のデビュー配信が十年前くらいに思える》
《逆に十年前の曲が最近の曲のカテゴリーに入っている自分に気付く》
《おいやめろ》
《リンネは人生その日暮らし感が既に出てるもんなぁ》
《ここで執事からのガチアドバイス。最後の一言は必要だったか?》
《必要(鋼の意思)》
「……出来ました」
「みんな悩んでるけど、凪くんが一番最初、ですね。それじゃあ、オープンします」
【月詠凪:こちらに来る(もう来てる?)友人たちとコラボ】
「なるほど」
「あー、凪くんっぽい!友達の話してる時の凪くん、超嬉しそうだもんね」
「……その、凪くんは、そのお友達がもうVtuberになっているかは知らない、の?」
「なんか情報封鎖されてて……俺自身、自分の配信でいっぱいいっぱいで。同時期の新人さんとか、他事務所や個人含めて見れてないんです。もしかしたらもうデビューしてるかもしれなくて」
「でもバーチャル世界でリアル世界の友人と再会とか、ドラマティックでいいじゃん。もうちょっと落ち着いたら友人探索配信とかしてみる?直近デビューした人らの動画を順繰り見ていく配信」
《なんか納得》
《深くは話してないけど、相当な恩があるみたいな話してたもんなぁ》
《ここ最近新人の増加量ヤバいからなぁ。探し当てるのに相当苦労するぞ》
《いっそオーバーズとかマテリアルみたいな大手に居たら面白そうなんだけどな》
《友を訪ねて三千再生》
《落ち着け。相手側の許可取らないと燃えるまである企画だぞ》
「その企画は、無許可でやると問題になるので事務所側と相談の上でお願いします」
「ういーっす」
「まぁ気長に探すつもりなんで」
「次は私!」
「それじゃあ、朱音ちゃんのを見よっか」
【緋崎朱音:3Dアイドルとしてソロライブ!】
《これまた納得》
《なんならデビューしてからずっと言ってるまである》
《それでこそよ》
「こればっかりは絶対に叶える!とりあえず、先輩たちの3Dお披露目を見て勉強します!」
「俺らもいつかはあの椅子に座りたいよなぁ。俺の場合、3Dで何すんだ感は否めないけど。朱姉ちゃんも凪兄ちゃんもフィジカル強者だからなー」
「逆に俺の場合、3Dにならないと全力出せない……」
「悲喜こもごもですね。我々も3Dお披露目を控える身として、皆様に御満足頂ける作品を作らねばならない訳ですが……」
「そこは、未来の私たちに期待しましょう……!」
「お嬢様、さては企画書がまだ進んでませんね?」
「……ぴ、ぴあのは、ひきます……」
《そっか、もう3Dお披露目までもうちょいか》
《一期生はツーマンライブやるんだっけか。二部構成でそれぞれのチャンネルでやるってSNSにあったわ》
《おお、二期生三期生もあるのか!》
《お嬢、そんなイラストの締め切り間近のキンメカーチャンみたいなこと言い出して……》
《バレテーラ》
《そりゃあんたがピアノ弾かなきゃどうするって話ですよ》
《草》
「と、とと、というわけで……!私の、私の目標です!」
「あ、ユリちゃん先輩誤魔化した」
「リンネくん、急に呼び方がフランクになったね」
「しょうがないよ、ユリア姉さまの可愛さ故だよ」
「まぁ私から見ても威厳を見せつけるというよりも慕われるタイプの先輩ですからね、お嬢様は」
「ひゃうあああ!?発表、発表です!!」
【石楠花ユリア:3dコンサートします】
《動揺が激しすぎて草》
《親しみやすさがアップ、威厳がダウン》
《一番年下にユリちゃんと呼ばせるお嬢の妹力の高さよ》
《執事も同意見であったか》
《ここ最近でもトップクラスの奇声、頂きました》
《まぁピアノコンサートはピアノやってる人の夢よな》
《Dが小文字になっている辺りに隠し切れない動揺が現れてるな》
「お披露目とはまた別のコンサート、という事でいいですか?」
「は、はい。一年間Vtuberとして活動してきて、特に楽器演奏をされている皆さんや、歌をメインに活動されてる皆さんと仲良くさせて頂いてて。可能な限りたくさんの人と、一緒に音楽を作れたらって。一年後の目標なのは……皆さんと一緒に演奏できる3Dライブが、出来るようになっていたらと思って」
「あー、技術的なのは俺らは待つ一方だもんね。こればっかりは技術班スタッフ頑張れ超頑張れとしか言えないもん」
「……そういえば、機材ってどれくらい耐えれるんだろう」
「凪くん不穏な事言わない!」
《何気に外部コラボに積極的なお嬢》
《ってか外部の面々がお嬢大好き過ぎるんだよなぁ》
《技術面はまぁしゃーない》
《NDXだけ3年くらいリードしてるもんなぁ》
《おいまて凪、何する気だ》
「っし、書けた!」
「それじゃあ、リンネくんの答えです」
【逆巻リンネ:俺の活躍でとある人たちに恩返ししたい】
「これは……」
「あー、まぁちょっと真面目な話っすけど。なんやかんやで沈んでる時期も長かったんで。バーチャルの世界に目を向ける切っ掛けになってくれた人らのお陰で、俺はここに居るんすよ。だから、その人らに『こんなに立派になりました!』って言えるようになってる事、っすかね」
「リンネくん……!」
「もう今のセリフだけで十分恩返し出来てる気がする」
「私も、そう思います……」
《ええやん……》
《最年少なのにしっかりしてる》
《今のリンネ見てると沈んでる時期ってのが想像できないな》
《同期が感涙しとる》
「私が最後でしたか。少し考えましたが、これがやはり一番私らしいと思いました」
「ええと、それじゃあ廻叉さんの答えです」
【正時廻叉:良い意味で一年後も変わらない】
「おおー……」
「廻叉先輩らしくてカッコいいと思う」
「これ、私たちには書けないなあ」
「成長しながらも、根幹は何も変わらずブレずに正時廻叉として在り続ける事が私にとっては何より重要である、と。まぁ何せ時計で出来た人間ですからね。変わらず秒針を刻み続けなくてはいけませんから」
「そう、ですね。廻叉さんは、そのままで居てくれたら、きっとみんな安心すると思います」
《そう来たか》
《まぁキャラブレなんてザラに起きるVtuber業界だと、デビュー時からブレてないってのは凄いことでもあるんだよな》
《四期生が本気で感心してるっぽい声してる》
《まぁ一ヶ月そこそこのキャリアではこの答えにはたどり着かんだろうて》
《おおっと、ここでEVIL設定が出てくるか》
《時計がズレたらあかんわな》
《ほんそれ>廻叉がそのままだと安心する》
「そんなわけで、『プロフィールに無い五つの質問』のコーナーでした。SINESのみんなは、まだデビューしたばかりだけど……きっと、一年はあっという間だから、たくさんいろんなことを経験して、最後に聞いた一年後の目標にたどり着けるように、お互い頑張ろうね」
「……はい!」
「頑張ります」
「もちろんっす!でも、本当に一年後の俺とかどうなってんだろうなぁ。楽しみな反面、結構不安ではあるんですよね。たぶん俺だけじゃなくて、凪兄ちゃんや朱姉ちゃんもだと思うんですけど」
「まぁ、ね。今の配信だって、俺はちゃんとエンタメ出来てるかなって思うから」
「二人とも悲観的過ぎ!むしろ、私たちがRe:BIRTH UNIONのトップになってるって言い切っちゃうくらいの勢いで行こう!」
「どうやら、SINESの皆様のリーダー、旗振り役は朱音さんのようですね」
「ふふ、そうみたいです」
《お嬢が先輩してる……(感涙)》
《いい返事だなー朱音ちゃん》
《リンネって割と冷静よな、パッション系お喋りモンスターで最年少なのに》
《色々とバランス良いのかもな、SINESって》
《これは不動のセンター朱音ちゃんっすわ》
《この後は普通にフリートークだっけか。コーヒー淹れなおしてくるか》
※※※
「さて、今年もこの季節が近付いてきたね。夏前からの打ち合わせもこれで……何回目だっけ?」
「流石に覚えとらんわ。……なんにしても去年みたいにはいかんやろうけどな」
「っていうか、NDX勢込みで集まれたのも軽い奇跡みたいなもんでしたからね。結果的に一日でやりきれたのがもっとすごい奇跡みたいなギッチギチのスケジュールだったわけですけど」
「その代わり今年は3DAYSですよ!楽曲紹介に一日で、3Dライブが二日!」
「ええっと、楽曲紹介はオーバーズさんのスタジオ、3Dライブは今年もにゅーろのスタジオだっけ」
「機材以上に複数人数映せるのが、現状にゅーろさんとこだけなんよなぁ。ウチの機材やと多くて3人までだし」
「私のところのスタジオも、まだ技術的に他社の人を招けるだけのものがないからね……私たちも最大限の協力はするよ」
DirecTalkerの鍵付きルームに集まる五人のVtuberは、現時点での日本のVtuber界の頂上に立つ者たちだった。
Re:BIRTH UNION、ステラ・フリークス。
エレメンタル、月影オボロ。
同じくエレメンタル、照陽アポロ。
オーバーズ、七星アリア。
にゅーろねっとわーく、天童シエル。
かつて最初の七人と呼ばれ、現在は『各事務所非公認非公式有名無実ユニット・ULTRA HIGH FIVE』を自称している五人の女性Vtuberが打ち合わせを重ね続けている。
その理由は、今年も行われる予定の『Virtual CountDown FES』だ。
昨年盛大に執り行われ、複数人のバズを誘発したVtuber界最大の音楽系配信イベントと言っても過言ではない。まだ情報公開こそされていないが、公に発表される日もそう遠くはないとその場にいる全員が予想していた。尤も、ある程度は各事務所の社長、幹部クラスの話し合いがまとまる事が大前提ではあったが。
「今年は新人さんも、新しい事務所も増えたからきっと去年より楽しくなるよ!」
「あとは、NDXの二人が今年は来れないからね。……彼らが悔しがるくらいのものを作り上げようじゃないか」
「ガンさん達、向こうで箱の特番配信やるんやろ?それはそれで気になるけどなぁ」
「本当に電脳世界の進化を二倍三倍くらい早めてますよね、NDXって」
「ガンマさんはそれを自分たちで独占するタイプじゃないから大丈夫だよ。私たちは私たちなりに、日本のVtuberだって凄いんだって所を見せて行こう」
天童シエルの言葉に、音声通話ながら全員が頷いて同意の声を上げる。
年末最大の祭りは、もう間もなく――。
ちなみに3Dお披露目が先です。
フェスに関してですが、前回よりはリバユニメンバーメインでお届けする形になるかと。
最初の七人の掘り下げという部分が大きかったですからね、去年のフェスは。
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