「ユリアのお茶会 ~本日のお客様:SINESのみなさま~(2)」
サブタイトルに波線使ったら最近3Dになった天下無双女史みたくなってしまいましたが、他意はありません。
「えーっと……まず最初に朱音ちゃんは、やっぱりアイドルらしく自主トレーニングに励んでるなって。でも、その……」
「全員が自分の活動のメインと近しいジャンルの動画を見る傾向にあるのが見て取れますが、最後の動画はどのような理由で見ているのでしょうか?」
「なんていうか……ガチャの恐怖を思い出すため、かな……」
「朱姉ちゃんが見たことないレベルで沈んでる……」
「俺はソシャゲーやらないからよくわかんないけど、ガチャってそんなに怖い物なの?」
「愛故に人は負けると分かっている闘いに飛び込むんだよ、凪くん……」
「その、ほどほどにね?」
《思ったよりみんなちゃんとしてて安心している自分が居る》
《リンネは本当にトーク能力にステ振りする気満々だな》
《草》
《他人の不幸を自省に使うな》
《凪くんソシャゲやらない系男子かー》
《愛(推しへの課金)》
「さて、ユリアさんとリンネさんは自分のパフォーマンスに直結するものを中心に見ていらっしゃるようですね」
「そうですね、練習のお供に……クラシックの演奏はどちらかというと、作業の時に聴かせてもらってます」
「ユリア先輩ストイックだなー。俺の場合はアレっすね、人生経験的に普通に喋ってるとワンパターンになりがちなんで色んな喋りの要素をインプットしないと近々息切れするんじゃねぇかなって思っちゃうんですよね。ネタ自体よりも喋りの間の取り方とか、緩急とかはやっぱ芸人さんや落語家さんの見てるとすげぇなぁって思いますし、より大勢の人の前で心を掴むって意味だとプロレスのマイクはマジ参考になりますね、ハイ」
「正直に言えば十分すぎるほどトークスキルは持ってると思うよ?」
「年下の同期が一番喋れるのってちょっと複雑かもー」
《ユリアの真面目さは本当に癒し》
《同じ質問を四谷にしたら検索してはいけないワードが出てきそう(偏見)》
《クラシック鑑賞は令嬢の嗜み》
《お前も相当ストイックだぞ》
《リンネって最年少とはいってたけど、マジで未成年なのかも》
《公式プロフィールだと年齢不詳になってたけど》
《プロレスのマイクパフォーマンスは上手い人はマジで参考になる……下手な人はとことん下手だけど》
《凪と朱音も新人の割には喋れてる方だと思うんだけどなぁ》
「それより問題は廻叉兄さまの三つ目ですよ。水回り掃除とかするんですね」
「水回りが汚れてる状態が個人的に気に入らないのです。特にキッチンのシンクは念入りにやっております」
「執事ってその辺の掃除は部下に任せるイメージだけどなぁ」
《問題というか異彩を放ってる感はあるw》
《わかる》
《シンク汚れてると食欲下がるんだよな》
《食器やゴミでシンクが埋もれてる汚部屋とか見せたら執事発狂するんちゃうか?》
《自ら進んで掃除をする執事の鑑》
「イメージで言うと凪兄ちゃんのがヤベェって。見てるラインナップが全部素人が迂闊に手を出したら文字通り体壊す内容ばっかりだよ。そんで凪兄ちゃんなら怪我せずある程度こなせそうなんだよね、特にパルクール辺りは絶対出来るでしょ」
「うーん、でも独学だから正しいやり方覚えたくて」
「やはり出来るのですね。凪さんの身体能力はどうやら底なしのようです」
《人類の限界に挑むタイプの動画で草》
《フィジカルガチ勢はVtuberにも何人かいるけど、エクストリーム系は初めて見たかもしれん》
《なんで独学でやれるんだ》
「あの……凪くん、クリフジャンプっていうのは」
「えっと、その、文字通り『cliff』から『jump』するエクストリームスポーツですね。海外の、切り立った崖や滝の上など十メートル近い高さから海や川、湖なんかに飛び込むスポーツです」
「え……あ、無理……」
「ユリア姉さまが蚊の鳴くような声で……」
「お嬢様は高所恐怖症のようですので、想像したのでしょう」
《うわあ……》
《なんでそんなジャンルを見つけてくるんだ凪は》
《月詠凪という男を見誤っていたかもしれない》
《草》
《かわいい》
《お嬢の弱点は高いところだったか》
《ACT HEROESでもビルの屋上近くで明らかに動き鈍ってたもんな》
「大丈夫なの、それ。サスペンスドラマの最後みたいなノリで崖から落ちるわけでしょ?」
「いや、みんな基本的には回転加えて上手く足から飛び込んでいく感じだからね。あと、事前に深さの調査はしてると思う。もう一本の方もスケートボードのダウンヒル部門でちゃんと競技化もされてるみたいだよ。これはいずれやってみたいかな。今日上げた中で唯一やったことないのがダウンヒルだから」
「あー、思い出したわ。初配信で飛び込みは地元でやってたって言ってたな、凪兄ちゃん」
「そ、その……怪我だけは、気を付けて……」
「それはもちろん、はい。安易に真似して怪我するとリバユニの皆さんはもちろん、競技者の人にも迷惑掛かると思いますし」
「いい心掛けだとは思いますが、やらないと言わない辺りに一抹の不安がありますね」
《そんな簡単なことみたいに言われてもだな》
《競泳用の飛び込み台でもちょっと怖いのに》
《なんだそのイカれた競技》
《さっきから調べてるんだけどちゃんと全部出てくるんだよな……エクストリームスポーツの世界、奥深いな……》
※※※
「えっと、それじゃあ気を取り直して次の質問は『一週間のオフがあったら何をしたいですか?』
です」
「これはこれで割と悩むな……」
「ここからは一人ずつ発表となります」
《いい質問》
《割とパーソナリティが出るよな、理想の休日的な》
《一人ずつ掘り下げていくんか》
《新人三人もだけど執事のオフとか想像がつかない》
「それじゃあ最初に書き終わったのは……廻叉さん、です。では、オープンします」
【正時廻叉:全身メンテナンス(人間ドック、整体)】
「ええええ……」
「メンテナンスて」
「まぁ体が資本の仕事ではありますから」
《草》
《これは流石に草》
《そういえば人間年齢だと二十代半ばあたりだって話をしてたっけか》
《健康に気を遣えててえらい》
《歯車人間だからメンテナンスなのか。グリスとか塗るのか》
「廻叉さんは、その、私が見てた限り健康的な生活リズムだったと思うんですけど……」
「お嬢様はそうおっしゃいますが、割と深夜まで作業に没頭することは少なからずありますよ。配信で陽が昇るまでゲームをするような事はしませんが、作業を詰めているうちに朝になっていたという事はありました」
「むしろその状況を配信で見たいっすけど。作業垂れ流し配信とかやりません?」
「本当に無言でキーボードを叩く音とマウスを操作する音しかしない状態ですから、やるつもりはありません」
《大体、日付が変わる前には終わるもんなぁ、執事の配信》
《DJDの大会前後は結構長時間配信もやってたけどな》
《ワーカーホリック気味なんだな……》
《作業配信はしないのか、残念》
「えっと、次はリンネくんが書き終わったみたいなので、見てみましょう」
【逆巻リンネ:喰って寝る×7】
「リンネくん、正座」
「待って?朱姉ちゃん、まず俺の説明を聞いてから判断して?」
「どう説明してもカバーできない気がするよ、これ」
《草》
《これは草》
《ゴリゴリのニートか、ブラック企業を辞めた直後の俺だよ、こんな事書くの》
《アクティブさの欠片も無い!》
「まぁ、最初の配信でも行ったけど俺は結構長いこと入院しててさぁ。育ち盛りの若者に病院食だけの生活ってとても厳しいのよ。だから、退院してから食欲が暴発しちゃっててね。でも、実家暮らしの身としてはエンゲル係数爆上げ要員になっちゃうのもちょっとアレだからさぁ。もしオフがあって、尚且つ自分の自由になるお金があったら21連続外食とかしたいんだよ。それこそファストフードやファミレスとか、俺が今まで行ったことないけど街ではよく見かける店を全部行ってみたいんだよ」
「健康になった身を不健康に戻すおつもりですか?」
「気持ちは、分からなくはないけど……ちょっと、限度を超えてる感じはあるかも……」
《そうか、それならしゃーないな……とはならんよ》
《若さゆえの無茶》
《一週間の献立を提出したら医者にしこたま怒られるやーつ》
《逆にそれが出来るのは今の内だけだから是非やってくれ》
《リンネやっぱおもろいな》
「あ、私も書けたので発表しますね」
【石楠花ユリア:予定が合えば家族旅行。合わなければクラシックのコンサートに行きたい】
《清楚》
《清楚》
《解釈一致》
「コメント欄が怒涛の清楚で埋め尽くされてる……」
「流石お嬢様です」
「あはは……引きこもってた時期は、家族旅行も断っちゃって、旅行の計画自体が流れてしまったこともあったので……恩返しと、お詫びも込めて私が計画して旅行したいな、って思ってます」
「ユリア姉さま素敵……!」
「なんか我欲全開で書いた俺が恥ずかしくなってきた……!!」
《泣ける》
《浄化される……!》
《女性Vtuberにおける清楚の最後の砦と言われているだけはあるな……!》
《現在進行形でリンネが浄化されつつあるな》
「それだと俺もユリアさんと同じ感じなのかな」
「ええと、それじゃあ凪くんの答えがこちらです」
【月詠凪:友人と旅行、或いは一週間ぶっ通しで遊び倒したい】
「この友人というのは初配信でも言われていた御友人の皆様ですか?」
「あ、そうです。学生時代にずっと同じグループだったメンバーです。男女混合だったんですけど、なぜか浮いた話が無い変なグループではあったんですけど……」
「本当に~?」
「本当本当。俺の知ってる限りはグループ内で付き合ったりは無かったかな。グループの子じゃない彼氏が居たって子は居たけど」
《凪っち……陽キャやったんか……》
《こっちの世界に凪くんを引き込んでくれてありがとう見知らぬ友人達》
《あー、でも絶対付き合わないけどめっちゃ仲良いってのは分かるかも》
《うんうん。友達としては最高だけど彼氏にするには「なんかちょっと違う」って人居るもんね》
《なんか女子目線のご意見が俺を襲ってくるんだが?》
《心配するな、友達が居なかった俺には凪の話の時点で大ダメージだ》
「凪兄ちゃん、その友達とは今も一緒に遊んでるの?」
「あー……どうだろう、みんな忙しそうだしなぁ。何人かは、俺がRe:BIRTH UNIONに入ったのを知ってるんだけど、『じゃあこれからはバーチャル世界で遊ぼうぜ!』ってVtuberデビューを目論んでるって話は聞いたかな。もうデビューしてるのか、準備中かはわかんないけど……なぜかみんな、俺に内緒で話進めてるみたいで……」
「凪さんも含めて行動力が凄まじい御友人方のようですね」
「ふふ、もしかしたら、こちらの世界で再会するかもしれないね。ええっと、最後は朱音ちゃんだね」
【緋崎朱音:歌とダンスの個人レッスン、残りの時間で積み動画の消化】
「健全で何よりです。朱音さんは本当にアイドルに対して真摯なのが伝わりますね」
「いやあそれほどでも……。ってか、みんな健全は健全だったと思います!」
「そうだね、龍真さんが居たら……その、もうちょっと、不健全だったかも?」
「お嬢様、事実でも言わぬが花でございます」
《アイドルとして百点》
《普通だけど、それが良いのよ》
《リバユニがちゃんと普通に寄り添えるメンバーを集めてきてくれたことに感動している》
《草》
《ユリアさん何てこと言うんだ》
《やべぇ、何一つ否定できねぇ》
《飲む打つ買う全部やりそうだもんな、龍真》
「朱姉ちゃん、積んでる動画って何?」
「ブックマークに入れたけど見れてない配信のアーカイブとかかな。ってか、Vtuberの人たち配信時間凄すぎ!歌配信で10時間って喉おかしくなるよ!?」
「そ、そうかな?そこまで長い人ばかりじゃないと、思うけど……」
「いやいやいやユリア姉さまもピアノ配信で同じくらいやってる!」
「あぅ……」
「これはお嬢様が藪蛇でしたね」
「トークで二ケタ時間は流石に未知の領域だな……」
「俺も筋トレ10時間はちょっとキツいかも。オーバーワークは逆効果だし……」
「お二人も落ち着きましょう。長時間配信を全員が求められるほどVtuber業界は修羅の巷ではありません」
《あー、俺も未視聴アーカイブ山積みだ》
《Vtuber沼にハマるとこうなる》
《歌10時間……誰だ?》
《候補者が複数出る時点でVtuber業界の無茶苦茶具合が……w》
《お嬢~?ピアノ練習こないだ何時間やってたっけー?》
《案の定突っ込まれて草》
《バツの悪そうなお嬢の声助かる》
《む、今の執事の声に若干の苦笑いを察知》
《執事ガチ勢怖ぇよ》
《凪とリンネが長時間配信のネタ考え始めてて草》
《やめて!まだ三人には綺麗なままでいて!!》
《この後の質問への答えでもう汚くなってる可能性もあるけどな……》
まだまだ続きます。流石に五人でトーク回しさせると想定以上に長くなってしまいました(見積もり:甘)
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