「一緒に死線を潜る事で深まる仲もある」
第10回ネット小説大賞、一時選考突破致しました。ありがとうございます。
『ミッション開始時刻となりました。各機、出撃準備をお願いします』
オペレーターの声に合わせ、起動シーケンスが立ち上がる。システムはオールグリーン、何の問題もない。二度目の出撃ではあるが、初出撃にも関わらずそれなりの戦果を残し、尚且つ生き延びて見せたのだ。人型機動兵器のパイロットとしての才能が自分にはあるのかもしれない、と考えて口元に小さく笑みを浮かべた。
「ここを生き残れば、本当に才能があると思ってもいいかもしれませんね。生き残れれば、の話ですが。正時廻叉、パイロットコード『KS TIMER』、機体識別コード『TELESCOPE』出撃します」
正時廻叉がそう言うと、長距離狙撃銃を手にした人型機動兵器が基地から飛び立つ――
《うおおおおおおおおおお!!!》
《やばい、今日初見だけどβテストでこれはやばい》
《いい案件貰ったなぁ執事》
《執事にロボゲー投げるメーカーサイドよ》
《単純にパイロットロールプレイして欲しかっただけだろ。正体知ってて投げたんなら人の心はあるのか案件だけど》
《ロボ作品に仮面の男は必須だからね。仕方ないね》
大盛り上がりするコメント欄を横目に、正時廻叉はマウスとキーボードを握る手に力が籠った。彼は現在クローズドβテスト中の最新オンラインTPSロボットゲーム、『FINAL DEFENSE FRONTLINE -Mission for EARTH-』の案件配信の真っ最中だった。
※※※
『FINAL DEFENSE FRONTLINE』シリーズ、通称FDFシリーズは家庭用ゲーム機でゲーマーやロボットアニメファンから熱い支持を得ていたタイトルだ。ロボットが出てくる作品のツボを良く抑えた作風であり、容量の大半をロボットのモデリングや挙動に注ぎ込んだ結果、人間のキャラクターが主人公を含めて登場せずほぼ全て通信での会話となっている。最初期は顔のイラストすら切り詰めた為、苦肉の策としてパーソナルマークと声優の声だけで判別させていたが、結果としてファンの想像の余地が広がったことで更なる高評価を得ていた。この傾向は容量に余裕が出てきた家庭用版最新作でも変わっていない。
この作品のもう一つの特徴は『人間同士の戦争を描かない』ことだった。ロボット同士の対戦を求めていた層が離れる結果にはなったが、異星人の宇宙戦艦、巨大生物、機動兵器、巨大隕石、落ちたら地球が滅ぶ系ミサイルなどが雪崩のように地球に攻め込み、「自分が斃れたら地球が終わる」「ゲームオーバー=地球滅亡」というシビアな設定、そこから一騎当千の働きで逆転するカタルシスは一度味わうと離れられなくなる中毒性があるという。
そんなFDFシリーズ最新作がPC版でのマルチプレイ対応になるというニュースの初報が入ったのは数年前の事だった。初のオンラインマルチプレイ対応、初のPC版での開発という事もあり開発は難航を極めたがつい先日抽選式クローズドβテストが行われた。そこで得られた意見や注文を取り入れ、クローズドの最終テスト兼お披露目としてストリーマーやTryTuber、Vtuber、ゲーム実況者、プロゲーマーなどを対象にしたクローズドβが企画された。選ばれたのはFPSの強者であったり、自他共に認めるFDFシリーズファン、あるいはゲームに感情を入れ込み過ぎて半ばゲームキャラと化してしまうタイプが多かった。廻叉はゲームキャラ化するタイプだが、意図的に演じている点では例外に近い存在かもしれない、と廻叉自身がこの案件が来て詳細を知った際に思った事だった。
「『KS TIMER』帰投しました。……帰投しました」
《帰投じゃなくて殉職じゃねぇか》
《ボコボコにされてて草》
《巨大兵器相手にスナ担ぐ執事サイドにも問題がある》
《速攻でビームバズーカに持ち替えてて草》
《ミッション内で三回落ちるとコックピット打ち抜かれて強制二階級特進(最大限の配慮)なのはFDF名物だからな……》
《2落ちまでだと修復費で報酬が減って、3落ちするとその時の機体とパーツ確定ロストって厳しいな。その代わり2落ちまでの機体は修復費なしで戻るけど》
「不覚でした。軽量機動型ロストは残念ですが仕方ありません。しかし、FDFシリーズは今まで触れてきていなかったのですが、ここまでしっかりとハードSFだったとは思いませんでした。義勇軍だから好きにカスタマイズした機体で出撃可能、というのは良い設定ですね。裏を返せば公的な軍隊は既に滅びているという事実が見えてきますが」
おおよそ一週間のストリーマーβテストの間で、廻叉は自分なりに作風を理解してそれに合わせて自分に極めて近い『FDF -MfE-』という世界に住むパイロット像を作り上げた。それが『KS TIMER』というキャラクターである。ロゴマークは十二時手前を指す懐中時計だ。初日の配信はこのロゴマーク作成に一時間を費やし、前半は実質的な雑談兼キャラクターを固める枠になってしまっていた。
とはいえ、正時廻叉と似て非なる存在としてFDF世界に生きる一人のパイロットの物語を見せるという点で他のβテスト参加者とは差別化されており、新規の視聴者も少なからず存在していた。なお、ロールプレイが行われるのは出撃中のみでありミッション選択やカスタマイズ画面ではVtuber正時廻叉として話している。
《基本、FDF世界は人類ハードコアモードだからな……》
《義勇軍が居るだけマシよ》
《何作目だっけ、故郷の島を守るために一人で立ち向かわざるを得ないやつ》
《軍隊や国家は常にボロボロだぞ、FDFは》
《プレイヤーへの負担がデカい》
《二次創作で転生したくない作品トップ10常連だぞ、震えろ》
《島で軍団ひとりは『FDF Nostalgia』だな。故郷の美しい島が戦火で灰色になっていく作品にこんなサブタイトル付けるの悪意しかない(誉め言葉)》
「それでは、次のミッションに向かいます。ソロミッションだけでなく、協力型ミッションの方も挑戦していこうかと。カスタムは……中距離の火力重視で行きます」
スタンダードな中量機体にミサイルポット、グレネードランチャー等の重火器を多めに積んで協力ミッションを選ぶ。協力型ミッションは最小参加人数と最大参加人数が設定されており、ミッション開始五分以内であれば援軍という形で途中参加も可能になっている。参加人数が多ければ難易度が下がるが、クリア報酬は下がる。参加人数が少なければその逆だ。
「それでは、拠点防衛ミッションに挑むとしましょう。あと三人の参加で開始なので、ここまで視聴者の方の感想を拾っていくとしましょうか」
《単純に面白いと思う》
《難しそう》
《対戦モードはやっぱ欲しいけどなぁ》
《今は全員配信者だからいいけど、野良で協力とか出来るのかって考えちゃうなぁ。絶対戦犯探しとかするやつ居るだろうし》
《チーム組んでやるのが安定かもしれんな。なお戦友は非売品》
視聴者からの反応は基本的には上々ではあるが、懸念点や要望も少なくない。正時廻叉の視聴者層にシリーズファンが少ないからこそ、どちらかと言えば新規ファンになりえる層からの感想だ。運営へのフィードバックに有用そうな意見があれば後々拾うのもいいかもしれない、と考えているうちに画面が切り替わる。
『ミッション開始、各機所定の位置へ』
「了解しました。パイロットコード『KS TIMER』、機体識別コード『TELESCORP』出撃する――」
《来た!!》
《毎回律儀にプレイヤー名と機体名言うの執事らしいなぁ》
《カスタイマー?》
《KaiSaの略だろ》
《テレスコープは望遠鏡だっけか。中遠距離武器使いらしいネーミングというか》
《遠見守の精神が根付いてるなぁ》
※※※
軍事基地の地下からせりあがるように自機である『TELESCORP』が地上へと現れ、同時にそこが地獄であることを認識する。小型の人型機動兵器が、目視するだけでも無数にあり――レーダーを見れば、僚機を示す緑の点がいくつかあり、外周は敵機を表す赤で塗り潰されていた。
「これは、不味いですね」
《アカン》
《いやあああああああああ?!》
《どうあがいても絶望》
《もう末期戦やんけ》
《あ、僚機が突っ込んでいった》
『四人しか居ないからとりあえず東西南北で分担!俺、東に行く!』
『あ、じゃあ自分南行きます』
『OK、俺は西行くわ。あーもう、なんだこの無茶なミッション!!』
オープンボイスチャットで最初に指示を出したのは『RED COASTER』という名前のパイロットが駆る赤い軽量機体だった。即座に『TEL TEL BOYZ MIZORE』というパイロットが反応、ワンテンポ遅れて『OVERS POJ TENMA』が愚痴を零しながら反応した。最後だけ、よく後輩と絡んでる子だなと廻叉は即座に看破した。
「了解しました。北側はお任せください」
『あ、ご丁寧にどうも』
『え?その声、リバユニの執事さん?……あ、初めましてVtuber事務所オーバーズ所属の王海天馬です!』
「はい。同じくVtuberでRe:BIRTH UNIONという事務所に所属しています。正時廻叉と申します。こちらでは『KS TIMER』と名乗っています」
『え?これ自己紹介する流れです?ゲーム実況者グループ、てるてるボーイズのミゾレです』
『即席のチームを組むんだし、同じ配信業だから縁が出来るのは良いことだよ!ストリーマーのレッドコースター!よろしく!』
《おおおお!!》
《ミゾレさんや!!》
《天馬そういえば参加しとったな》
《こういう形で知り合いが増えるのか、協力ミッションだと》
《そうか、協力前提だからみんなオープンチャットオンにしてるのか》
《ちょ、レッコスって元プロゲーマーやんけ》
《全員感じが良い人ばっかで安心》
《この後、全滅したんだよね……》
《おいやめろ》
不吉なコメントが流れてはいたが、この後数機のプレイヤーが援軍に現れた事もあり、この地獄のような防衛戦を凌ぎ切る事に成功していた。レッドコースターは元プロゲーマーという事もあり、率先して戦況の確認と作戦提案などを行ったリーダーとしての役割を果たし、ミゾレは重装機体の防御力を活かした拠点維持の役割を全うしていた。天馬は機動力重視の機体で各機のフォローに走り回り、廻叉は重火力をフル稼働させることで戦線を突破した敵機をまとめて始末する役目を担った。
「ありがとうございました。……正直、ミッションクリアが出来るとは思いませんでした」
「いや、本当にね……多分、多少敵機も柔らかく設定はしてあるんだろうけど、無双ゲーどころか、蹂躙される恐怖しかなかったね……」
「とりあえず、せっかくDirecTalkerのアドレスも交換したことですし、今日はこの四人でチーム組んでやる感じです?」
「俺は全然やれますよ!それに、機体の特徴が良い感じに分かれてるからどのミッションでも行けそうっすよ!」
「私も今日はまだ配信を続けていますので、参加できます」
「それじゃあやろうか。あ、ミッション中は援軍もあるだろうからDirecTalkerはミュートして、ゲーム内ボイスチャットを使おう」
戦闘中に誰かが口走った『終わったらDirecTalkerのフレになろう!』という口約束にもなっていない約束が果たされ、SNSのダイレクトメッセージ経由で四人はDirecTalkerで通話をすることになっていた。それぞれが配信中であったこともあり、それぞれのファンが各自の配信を見に行くなど好影響も出ていた。配信後には、東西南北をそれぞれ分担して防衛戦にあたった事から『コンパス(仮)』というユニット名も付くことになった。
《ここで執事と天馬が繋がるとはなぁ》
《レッコスキッズワイ、推しと推しが繋がって絶頂しとる》
《ミゾレファンの者です!執事さんが凄く良い声なので見に来ました!》
《初見さんだ!歓迎しろ、盛大にな!》
《お前も歓迎すんだよ》
《最終日のイベントミッションもこの四人でやんのかなぁ。楽しみだ》
モチーフは某闘争を求める作品と某絶望VS俺な作品です
次回はこの四人を中心に数十人の配信者がFDF運営謹製の阿鼻叫喚地獄に挑みます
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