「二次選考進行中、ラジオも放送中」
「最終選考はボイチェン掛けて候補者この番組に呼ぼうぜって言ったら正気を疑われた三日月龍真です。なんでだよ」
「最終選考でSTELLA is EVIL方式の即興芝居を提案したら正気を疑われた正時廻叉です。例によってのライトヘビー級ラジオです」
《草》
《いつもの》
《初手から最悪で安心する》
《Vtuber界で最も治安の悪いラジオ(同接1000人)》
《こいつらオーディションをなんだと思ってやがるんだ》
《それに対応できたら即合格でいいよマジでw》
《火とガソリンを全方位にバラまくから視聴者が必死に消火する珍しい光景》
「ってか運営が今更俺らの正気を疑うってのも変な話だよな。俺らが正気な訳がねぇじゃん」
「龍真さん、誰もが薄々勘付いているとはいえ、我々がそれを認めてしまうのもいかがなものかと。多少無理筋であっても正気を装えるだけの外面はまだ必要なのです」
「こういう番組だって知ってはいたけどさぁ、君たちブレーキって概念知ってる?あ、魚住キンメでーす。どーもー」
「キンメ姐さんもだいぶオフモードじゃねぇかよ」
「んー、最近自然体な感じのが好評だからね。特に、この番組は自然すぎるくらいだし。自然というより文明が無い感じだけど」
「キンメさん、正確には文明は滅んだのです」
「最悪だね?」
《龍真がこの番組史上ワーストレベルの暴言はいたぞ》
《草》
《執事も何一つとしてフォローする気ないな……》
《正気じゃないのは分かってるけど、堂々と言わないでくれwww》
《っと、キンメネキじゃん》
《カーチャン……》
《マママーメイドメイドのエントリーだ!!》
《ポストアポカリプスだったのか、リバユニ世界》
《そりゃあ、まぁ……コズミックホラーとゆかいな仲間たちだし……》
《世紀末Vtuber軍団Re:BIRTH UNION》
「そんな最悪な事務所に入りたい物好き達がたくさん居るんだぜ?世も末だな」
「最初の物好きが何を仰いますやら」
「ようやく一次選考の一部が終わって、速攻で二次選考だもんね。あ、今回も私たちがオンライン面談には同席するからよろしくー。ただし、何回かに分けるから六人のうちの一人が現れる感じになるよ。一次選考合格した人は誰が同席するかお楽しみに。ちなみに、私は昨日出たから次があるとしたら、二周目に入るくらい合格者が出た場合、かな」
「そうやって聞くと本当に今回は応募者が増えたのだと実感しますね。方々で言われている通り、相応にハードルは上がっていたとは思いますが、挑んでくれる方が増えたのはありがたいことです」
《草》
《事務所愛があるんだか無いんだか……w》
《お、書類選考まだ途中なんだな。不合格通知が来たって人、SNSで見掛けたから終わったものかと》
《同時進行で二次選考かぁ。すげぇ見たいけど見れないのが悔しい》
《母ちゃん的にいい子は居たんだろうか》
「倍率低いだろう、で送ってくる奴も居るだろうけど、別にそれを否定はしねぇしな。打算も貫けばある種の個性だよ」
「確かに、そこまで徹底的に効率的に自分を売り込めるなら、一種の才能だね。ただ、そこまで出来るなら個人でもそれなりに結果残せるんじゃないかとは思っちゃうけど」
「……これは、放送していいんですね?丁度今、スタッフの方からDMが来まして」
「え?あ、俺にも来てるわ。……うわ、思い切ってんなぁ」
「ってことは、私も……うん、来てる。へぇー……よく通ったね、このアイディア。相当根回ししたんだろうなぁ……」
《倍率低くはならんだろ》
《ハードルの高さで尻込みして避けた人だって居るだろうけど、むしろテンション上がってくる人らも居るだろうからなぁ》
《計算高い系かぁ。居ても面白そうだけど、好感度上がるかは怪しいかもしれん》
《ん?》
《なんだろう》
《驚いてるってよりも、半信半疑な反応だな》
「それでは……現在、二次選考まで進出された方へのお知らせです。『最終選考まで進み、不合格になった方、もしくは合格後に辞退された方の中で、希望される方には他事務所への紹介状を株式会社リザードテイルとして発行致します』……との事です。後ほど、現時点で二次選考に進出された方にはメールでの連絡があります。また、オーディションページの方でも正式な書面としてアップロードされますのでご確認ください」
《!?》
《おおおおおおおおおおおおお!!!!》
《マジか!?》
《そんなこと出来るの!?》
《もう、これ最終選考まで行った時点で大勝利じゃねぇか……》
《リバユニのお墨付きの人材なんて、どこも欲しいだろ》
《推薦状じゃなくて、紹介状ってあたりがポイントだな。絶対にそこに入れてもらえる訳じゃないから、下手すりゃそっちでの最終面接でもう一回落ちる可能性も》
《……これ、最終選考進出へのハードルが跳ね上がったんじゃないか?自分たちの事務所に欲しくて、かつ他所に紹介できる人じゃなきゃ上がれないぞこれ》
「実際、別事務所を薦めるってのもあったしな。それに、実際最終選考まで行って、今個人勢や別事務所所属でやってる人も居るし……ってか、大半そうだよな、確か」
「少なくとも、以前に最終選考まで行ったことある人は割と公表してるよね。もちろん、当時と状況が変わっちゃってVtuberの世界から離れちゃった人も居るだろうし、ねぇ」
「今回に限り、以前最終選考まで行った方にも希望者には同様に発行するとの事です」
《リバユニオーディション参加者は割と多いと聞く》
《実際Vtuberにも居るし、普通のTryTuberやゲーム実況者とかになった人も居るよな。大体、オーディションの難しさを語ってるのが草生やしていいのか困るところだけど》
《ってか、前回まで最終行ってた人ちょっと損になるのか?》
《あ、フォローあるんだ。ってか、それ本当に通るんだな……》
《何気にリバユニ運営の信頼度高いしなぁ。たまに変なことするけど》
《紹介状が機能するレベルで鑑識眼を評価されてるって考えると相当だよな》
「平等だねぇ。まぁ、どうしてもウチに入りたい奴にとっては余計なお世話もいいとこなんじゃねぇかな」
「それなら、何も言わずにまた一次選考から頑張ってくれるよ。龍真くん達が受けたころは、ほぼ音楽系の人ばっかりだったって聞くし、そういう人たちが今のRe:BIRTH UNIONに入りたいと思うかはわからないし」
「確かにそうですね。ステラさんを中心とした音楽系Vtuber事務所として見られていた時期と、今のステラさんを中心としつつも独自路線を走っているRe:BIRTH UNIONはまた別物でしょう。その為の、紹介状というシステムでしょうし」
《シード権にはならない、と》
《平等かはわからんけど、面白い試みだとは思う》
《あー、確かに一期生の頃は音楽系だと思ってたわ。今は音楽系=Vインディーズって感じだけど》
《どっちにしても中心はステラなんだな》
《そりゃ、ステラが自分の仲間欲しがって作られた箱だからな、Re:BIRTH UNIONは》
「なんだかんだで、ウチのスタッフの見る目って確かだもんなぁ。ぶっちゃけ、俺は四谷がここまで染まるとは思わなかった」
「一般的なVtuberのイメージ通りの活動をしているはずなんですが」
「結果的にユリアちゃんが一番オーソドックスなVtuber像を見せてるよね、ウチの事務所だと」
「ピアノ練習8時間が?」
「長時間配信はVtuberという業界全体でのスタンダードですから」
「それでも、あそこまで喋らなくても長時間持たせられるって凄いけどね。まぁあの子の場合ピアノが言葉以上に雄弁だから、それでいいの。白羽ちゃんのギターと同じだよ」
「白羽は下手に喋らすといらん事ばっかり話すからな……」
「それ、我々にも刺さるのでやめましょう」
《確かに>四谷 》
《オカルト趣味が暴走してるよな、四谷の奴》
《都市伝説になりたい発言がすでに伝説級なんよ》
《一般的なVtuberがやるには度を越してると思うんだよな、EVILシリーズとか》
《楽器やって、歌って、ゲームもやって、女の子同士で友達たくさん作って……うん、一般的Vtuberだな!》
《(アーカイブの再生時間から目を逸らす)》
《実際作業用とか、寝る前に垂れ流す人も居るらしいからな。お嬢のピアノ練習と、白羽のギター練習。ただしギター練習の方は寝れないともっぱらの評判》
《いらん事しか話さないラジオ番組のレギュラーどもが抜かしよる》
※※※
「新人もそうだけどさぁ。俺らの3Dいつになんのよ」
「詳細は追々、との事です」
《そういえば忘れてた。3Dあるんだった》
《アー写みたいに使われてはいるけど、実際にちゃんと動いてるのってリンカネのMVだけなんだよなぁ》
《いろいろと難しいのは分かるけど、やっぱちゃんと見たい》
《2Dモデルで活動してるVtuberの晴れ舞台みたいなとこあるからな3Dお披露目って》
「私も気になるけどさぁ……スタッフさん達の負担考えたらねぇ。それに、あの人らが半端な出来で満足するとは思えないんだよね」
「それはまぁそうだけれども。あー、早く3Dの体でライブしてえよ。身振り手振りで客を煽れねぇのが、やっぱライブしてても微妙に物足りないとこあんだよなぁ」
「音楽をされている皆様にとってはそうでしょうね。私個人としては白羽さんとユリアさんの演奏を3Dの姿で見るのが楽しみですね。あの技術は、やはり直接見ていただきたいですから」
「そういう廻叉くんこそ、君の演じる姿を3Dで見たい勢はいっぱいいると思うんだけど」
「キンメ姉さんもライブドローイング見たいなの出来るんじゃね?」
《頑張りすぎて燃え尽きてたからな……》
《あの休みでちゃんと足りてたのか不安になってくる》
《社長の便乗休暇却下は草だった》
《龍真や白羽は一番3D欲しいだろうなぁ》
《お嬢のピアノ演奏会3Dは絶対見たい。出来れば指の動きのトラッキングに力を入れてほしい》
《え。執事、お嬢がピアノ弾いてるとこ見たことあるんか……?》
《おう、お前も一人芝居するんだよ》
《ライブドローイング!》
《逆に3D空間自体をキャンパスにするとか、そういうのも見たい》
「……ところで、四谷さんは?」
「なんかこう、口に出すのも恐ろしいホラーをやりそうで……」
「都市伝説になる前にトラウマとして名を遺すと思うんだよな、あいつ」
《草》
《小泉四谷は何処から来て、何処へ行くのか》
《Vtuber初の「検索してはいけない言葉」になるんだろうな……》
《普段は普通の兄ちゃん系Vtuberやってるのが一番タチ悪いよな(誉め言葉)》
《人の心を掴んで安心させてから落としてくるからな(賛美)》
《主人格どれなんだ小泉四谷(絶賛)》
「まぁ、何にしても時間は掛かるってことだよね。信じて待ってて、って感じで一つ☆」
「皆様と同様に、我々も待っているという事だけは信じていただけますと幸いです」
※※※
数日後。
自宅のパソコンは、配信時と同様の状況にセッティングしてある。
しかし、配信用ソフトは起動されておらず、通話用ソフトであるDirecTalkerだけだ。
サブディスプレイにはPDFファイルが開かれている。
マイクのミュートを解除し、彼は無感情に、だが極力柔らかい声で話し始める。
「初めまして。Re:BIRTH UNION二期生、正時廻叉です。本日は二次選考の立会人を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
感想への返信が滞っておりますが、全て目を通させて頂いております。
そして二次選考開始。スタッフ数名に所属タレント一名という布陣でお送りいたします。
流石に全員分はできませんので、多少ダイジェスト気味になる点だけご了承ください。
御意見御感想の程、お待ちしております。
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