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「正時廻叉デビュー1周年&登録者5万人記念凸待ち -リクエスト即興劇-(8)」

新年あけましておめでとうございます。意外と三が日に予定塗れになっておりました。

感想返しの方は一時停止させて頂いておりますが、全て目を通しております。いつもありがとうございます。

 境正辰と三摺木弓奈は付き合ってこそ居るが、然程の進展がある訳では無い。何も知らない第三者が見れば、若干距離感が近い兄と妹の様にも見える、と言った所である。


 正時廻叉と石楠花ユリアは先輩と後輩の関係である。廻叉はユリアを気に掛けている態度を見せており、ユリアは廻叉が憧れの先輩であると半ば公言しているも同然だ。


 そんな二人の距離感は、離れる事はないが必要以上に近付く事もない。お互いに恋愛感情としての好意を抱いている事をお互いに認識しているが、それ以上の進展はしていない。先ほどの様な膝枕であったり、手を繋いだりハグをしたりといった程度のスキンシップ程度が最高到達点である。


 尤も、二人ともそれに満足している。満足していないのは、二人の幸福を真剣に願いつつも二人がイチャイチャしている所を見たがる周囲の面々だけである。


 正時廻叉も石楠花ユリアも、まだまだ発展途上のVtuberだ。恋愛沙汰が表に出れば。間違いなく負の影響の方が大きいだろう。二人ともそれを分かっているからこそ必要以上に距離を縮めず、ここまで活動してきた。


 だからこそ。今回の凸待ちでとあるシチュエーションをユリアが提案した時に、廻叉は最初は反対するべきか迷っていた。自分が燃える分には問題がない。粛々と対応する覚悟は出来ている。だが、ユリアの場合は違う。事務所所属のVtuberとはいえ、彼女はまだ20にもなっていないのだ。


 結局、周囲の後押しを得たユリアからの懇願に廻叉が折れる形となった。感情を隠しきれる廻叉と違い、ユリアにはそれを徹底するだけの感情のコントロールが出来る可能性が低い事。ゴシップ系の動画作成者に変な形で広められるよりも先に少しずつでもお互いの感情を視聴者に見せる事で、免疫を付けさせる方がいいという提案だった。実写、匿名、バーチャルいずれにも存在しているゴシップ系の動画作成者がネタにするまでに二人の味方を大量に作っておくべきだという提案でもあった。


 なお、それはそれとして堂々と二人がイチャイチャしてるところが見たいという欲望を隠しきれていない点に関して廻叉は無の表情を以て解答とし、ユリアは顔を赤くして俯くだけだった。


 そんなあらゆる思惑が蠢いている事を視聴者にはおくびにも出さず、記念配信はいよいよ佳境へと差し掛かっていた。



※※※




「という訳で、最後のお客様となります。自己紹介をお願いしても?」

「はい……!Re:BIRTH UNION3期生の、石楠花ユリアです、よ、よろしくお願いします……!」

「ただ一人しっかりとシチュエーションを考えて来て下さり本当にありがとうございます。後ろの席に居る弊社の皆様方はもう少し見習ってください」

「ま、まぁまぁ……」


《お嬢来た!!》

《正直これが見たくてここまで見続けて来たまである》

《てぇてぇを濃縮還元してるからな、執事とお嬢は》

《単純なイチャコラだったら他でも見れるけど、執事とお嬢でしか摂取出来ない栄養分がある》

《そして諸先輩と四谷に厳しい執事で草》

《ガヤ連中ブーイングすなやw》


「それでは早速ではありますが、どのようなシチュエーションをお考えですか?」

「は、はい。その……前にも言ったと思うんですけど、私にとって廻叉さんは憧れであり目標とする先輩なんです。廻叉さんからも、私や同期の四谷さんも気に掛けて下さってて。でも、改めて私から廻叉さんに対して何か恩返しみたいな事や、直接感謝を伝える機会って殆ど無かったように思えて」

「そこまで気にしなくても大丈夫なんですけれどね。お二人からの感謝であったり敬意であったりは、きちんと伝わっていますから」

「でも、それじゃ私自身が納得できなくて……!それに、さっき発表されたように新しく後輩が出来るじゃないですか。他の事務所さんでの後輩にあたるみんなとは仲良くさせて貰ってますけど、自分の直接の後輩が出来るのは初めてで、そのちゃんと先輩出来るかちょっと不安なんです。だから、その、廻叉さん!」

「……はい、なんですか?」

「後輩になってください!!それと……いつもの堅い感じじゃなくて、その、学校の先輩後輩くらいの距離感が良いです!」

「……そう来ましたか」


《さて何を持ってくるか》

《お、おう》

《初手から感情の量が多いんよ》

《たまにファンアートで見るヤンデレお嬢の気配を察知》

《執事は相変わらずの大人の対応である》

《っと、そこに繋げてくるのか》

《草》

《割とスタンダードな要求なのに、言ってるのがお嬢って時点でちょっと面白い》


「では始めましょうか……ユリア先輩」

「……っ!う、うん!あのね、今日は廻叉くんを褒めます!!」

「いきなりアクセル踏み込み過ぎじゃないです?いや、まぁ褒めてくれるのは嬉しいですけど」

「そ、そうかな……?でもね、いつも先輩なのに世話焼いてもらってばっかりだから、お礼だと思って聞いてほしいの」

「それは、まぁ、はい……」


《後輩執事!》

《おい、この先輩ポンだぞ》

《草》

《流石に執事もツッコミ入れるわな》

《気負ってるなぁw》

《いい子であることは間違いないだけにたまに見せるズレっぷりが面白いのよ》

《本当に箱入りのお嬢なんだなと確信することが何度あったことやら》

《頑張って先輩ぶるお嬢可愛いなおい》


「あのね、パソコンや配信に不慣れな私にいつも丁寧に教えてくれたり、アドバイスくれたりして本当に助かってるんだよ。それに、今年のイベントでも私の事引っ張ってくれてありがとう。一人だったら、絶対に委縮してたと思うし、もしかしたら『私以外の人が行った方がいいかも』って思ってオファーを断ってたかもしれないから」

「いや、まぁそれほどでもないですよ」

「あのね、私は……廻叉くんって凄いっていつも思ってるんだよ。自分に出来る事をちゃんと分かってて、その上で新しい事にもたくさん挑戦して……私は、どこかでピアノに頼ってる所があるから。見習わなきゃって……その、また何か始めるときにお手伝いとかお願いするかもだけど、頼ってもいい?」

「勿論ですよ。先輩のお願いを、私が無視する訳ないじゃないですか」

「うん……優しいね、廻叉くんは。だから、私も絶対に恩返しするから。何かあったら、いつでも私を頼って欲しい。私だけが寄りかかるだけなんて、嫌だから。対等になりたいの、廻叉くんと」


《優しく褒めるお嬢良いなぁ》

《あー、そういえばあのイベントは執事とお嬢の組み合わせだったな》

《玉露屋ニキの記事見てから執事とお嬢にドハマりしてるのであのイベントは現地で見れてマジで良かった》

《ゲーム入門企画も最初は執事が天の声だったもんな。最近、色んな人が天の声やってるから忘れがちだけど》

《ACT HEROES回が十宝斎が出てきた時は驚きとか興奮とか通り越して、ちょっと引いたまであるしな》

《ここでこれを即答する執事の執事具合よ》

《実際、相手が四谷でもこれを言うだろうって思えるんよな、執事の場合》

《でも龍真だと塩撒いて追い返しそう》

《それは龍真だから仕方ない》

《対等、と来たか》

《あー……でもお嬢の気持ちも分かるな》

《俺みたいに一生何かに寄りかかって可能な限り可動域を少なくして楽に生きたいと思う奴とは大違いだな!》

《コメント欄に寄生虫の擬人化が居て草》


「……なれますよ。ユリアさんなら、私と対等どころか、私を追い越してしまうと思っていますよ」

「……廻叉さん、いつもの口調に戻ってます」

「すいません、こればかりは演じていない私で答えたかったので」

「ここまでずっと崩さなかったのに」

「それこそ、ユリアさんだからかもしれませんね」

「それは……ちょっと嬉しいです。廻叉さんの特別になれたみたいで」

「特別ですよ。貴女は……私がVtuberになったからこそ出会えた人なんですから。誰にも恥じる事無く言えますよ。ユリアさんは、私にとって特別な人です」

「……ごめんなさい、泣いちゃいそう」

「はい、ちょっと音声止めます」


《ん!?》

《あ、本当だ。いつもの執事だ》

《気付くお嬢もすげぇわ》

《来たぞ来たぞ来たぞ!てぇてぇの時間だオラァ!!》

《蹴破ったドアは片付けとけよ》

《互いに尊敬してるからこその尊いだと再認識させてくれるな……》

《もう結婚しろよ(涎を拭きながら)》

《この二人だったら付き合っててもいいって思えてきた(鼻血を拭きながら)》

《※このアカウントは管理者により非表示設定されています》

《草》

《何か拭いたんだろうな、コメントの流れ的に》

《こんだけ悲鳴だらけの中でコメント芸出来るのも、アウトなのを消せるのもどっちも職人芸だな》

《ああああ》

《特別!!特別ですってよ!!聞きまして奥様!!》

《(大音量の例の映画のテーマソング)》

《もうプロポーズやん》

《泣いちゃった!?》

《執事の判断が早い》




※※※




「という訳で長丁場となりました記念配信では御座いましたが、以上を以て全プログラムを終了とさせていただきます。ユリアさんと何があったかに関しては、まぁまた後日話せるときが来るでしょう。今にも話したくて仕方がないという顔をしている外野の皆様の配信を見に行くのもいいかもしれませんね。尊敬できるはずの先輩方はこういうのが大好物な様です」

「良いだろ別に!大体視聴者だってお前とお嬢がイチャ付くのがみダブァ?!」

「そうですよ!我々はそういうのに飢えてててて痛ててててて!!!」


《ええええええええ!?》

《凄く半端なタイミングで終わってしまったが、まぁアクシデント的に泣いちゃったからな、仕方ないね》

《後日話してくれるならヨシ!》

《あ、これはガヤ軍団が漏らすパターンやな》

《尊敬できる「はず」てw》

《とうとうマイクに乗る音量で叫び出したぞこいつら》

《草》

《何かされたようだな》

《とりあえず龍真はビンタされたのは分かる。すっげぇ良い音入ったなw》


「龍真さんアリアさんは本当に本当に自重という言葉をノートが埋まるまで書き続けてくださいますと幸いです。それと四谷さんに青薔薇さん、制裁のご協力ありがとうございます。青薔薇さんに至っては、お手本のようなコブラツイスト、惚れ惚れ致しますね。それはさておき、重ね重ねにはなりますがこれからもVtuberとして、執事として、役者として成長していく所存ですのでよろしくお願い致します。それでは、またお会い致しましょう」


《草》

《【朗報】小泉四谷、龍真に忖度なきビンタ》

《コブラツイストwwwww》

《よその事務所の後輩の色恋沙汰に大興奮するアリアもアリアだけど、よその事務所のスタジオで同期にプロレス技仕掛ける青薔薇様も青薔薇様だと思う》

《そこからシームレスに〆のセリフに行くな腹筋に悪い》

《8888888888888888》

《いやー、凄いもんをみた》




※※※




「という訳で、終わりましたがユリアさん、大丈夫ですか?」

「……ごめんなさい、ちゃんと最後まで出来なくて」

「最後まで役をキープ出来なかったのは、俺もだから、ね?」

「そこで正辰さんになるの、ズルい……」

「ごめんごめん。弓奈が一番安心するのかな、って思ったら、さ」

「ちゃんと、埋め合わせします……それに、自分の配信で、ちゃんと説明しないと、廻叉さんのファンの方にも申し訳が無いですから」

「うんうん。良い心がけだね……よく頑張ったね、偉いよ」




「という訳で、皆様も出来ればユリアさんの配信の後にしてくださいね?」

「分かった、分かったからその氷の目でこっちを見るな」

「歳の差カップルの慰め方見れた上に、ユリアさんの後なら話していいんですね?!」

「青さん、ステイステイ。笑顔でパイプ椅子を持つのやめよう?」

「何を言っているんだい、ただ片付けを手伝っているだけじゃないか」

「ええなぁ……」

「オボロ、なにもそこまで本気で羨まなくても」

「いやー……Vtuber界ってカオスだねぇ、四谷くん」

「そっすね、白羽さんも大概ですけど。……後輩、本当に入ってくるのかなぁ、これ見て」


段々隠さなくなってきた執事とお嬢。悪ノリする先輩達。配信に乗る音が出るがダメージは少ないビンタを会得した小泉四谷。なんだこの話、と読み返して思いました。


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[一言] 面白いです。 良い物語をありがとうございます。
[良い点] 無痛張り手は一流コメディアンの嗜み [一言] てぇてぇの過剰摂取になる前にカットした英断よ… 四谷くんのツッコミ・ストッパースキルに磨きがかかりまくってて草、成長したんやなぁ…
[良い点] てぇてぇ…
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