「正時廻叉デビュー1周年&登録者5万人記念凸待ち -リクエスト即興劇-(休憩時間)」
仕事とプライベートの用事と寝落ちで全く書けない日々が続いておりました。
どんなに疲れていても、ベッドに倒れ込んではいけないと心から思いました。
Vtuber界の大物が半数を占める、ファンが見たら卒倒物のトーテムポールを一切の表情を失った表情での睨みつけで粉砕した正時廻叉は改めて自分とユリアの関係について語る。
「両想いではありますが、恋愛関係としての進捗は停止状態ですね。どちらもVtuberとしては新参、若手ですし。付き合っている事がどこかしらから露呈した場合、間違いなく騒動になるのが分かっていますから。とはいえ、社内には報告こそしてましたが何故外部の皆さんにバレたか説明してくださいますか?」
肉体年齢的にはこの中では龍真の次に年齢を重ねている廻叉からの圧に、丑倉白羽が即座に屈した。
「最初に隙を見せたのはユリアちゃんだけど、そこから察した上で尋常じゃない喰いつき方をして聞き出したのはアリアさんとオボロさんです!丑倉的には止める止めない以前に『あ、これ止まらないやつだ』ってなって諦めました!!」
「ああああ白羽ちゃんの裏切り物ぉ!!仕方ないでしょう!あんな恋する乙女顔見せられたら喰いつかないのは淑女のマナーに反してますわよ!!ってか、一番喰いついてたの私じゃなくてオボロちゃんでしょう!必死過ぎて若干引きましたよ」
「……ノーコメントやな」
「エレメンタルで一番喋る女がノーコメントで済ますなぁ!逃げるな!戦え!!そして『アリアさんは悪くない』と証言しろ!!」
「青さん、あなたの同期なんとかしてくれません?」
「紅くん、なんとか出来たらデビュー当時になんとかしてるよ」
大手事務所オーバーズの大看板が元凶であると知ると、廻叉は若干の頭痛を覚えた。更に、これまた大手であるエレメンタルの二枚看板の一角が乗っかってしまった以上、これを四谷やユリアでは止める術を持たない。
とはいえ、Vtuberとしての格であるとか登録者数やキャリアを全面に押し出して圧を掛けた訳ではない事も分かるだけに、廻叉からもどうする事が出来ない。単純に、七星アリアと月影オボロが、人としての圧が強いだけである。特に、デビュー当初から七星アリアを知っている青薔薇が匙を投げている辺りから、お察し案件だった。恐らく、月影オボロに関しても同期である照陽アポロに尋ねれば同様の答えが返ってくるのは火を見るよりも明らかであった。
「でもね、廻くんにユリちゃん。君らの関係、ファンにもちょっとバレ気味だよ?」
「……え?……あ……!!」
「……まぁ、時折その手の質問は来ますね、正直」
ステラからの忠告染みた一言に、ユリアは呆然としつつも何かに気付いたように絶句し、廻叉は納得した様に頷いている。実際に、ユリアのコメント欄やSNSにはその手の話題はごく僅かではあるがある。だが、それでも直接的な表現を避けて『廻叉さんとの執事とお嬢様みたいなやり取りが好きです』『執事さんの前だとちょっと油断するお嬢可愛いよお嬢』というような、二人で居る時のユリアの姿を褒めるような形が多かった。
一方で廻叉へのコメントは直球な物が多かった。例を挙げれば―――
『付き合ってるんだろ?いいぞ、もっとイチャつけ』
『お前ならまだギリギリ許せないので許せるようになるくらい誠意を見せろ誠意。ちなみに龍真と四谷は絶対許さない旨を奴らにお伝えください。ってか四谷はロエ子にめっちゃ懐かれてるの腹立つ末永く爆発しろ』
『事実であろうとなかろうと俺の中ではお前らは付き合ってるし、それをモデルにした漫画を描いて一山当てようと思っている。バズったらドネートするわ』
『執事おはよう。もう(検閲)たの?』
『付き合ってる宣言レース、只今のオッズは執事・お嬢が4.8倍の二番人気となっております。本命はクロム・ネメシスの1.7倍。アイツらそろそろ年貢の納め時じゃね?』
『父さん、そろそろ孫の顔が見たいと思ってるんだ。そろそろ、どうだ。なぁ廻叉』
―――御覧の有様であった。
石楠花ユリアという存在がVtuberファンから『界隈で絶滅危惧種となってしまった純正清楚』という評価を得ている事、また正時廻叉が『多少のクソ質問にも誠意ある回答と制裁が出来る男』という評価がされてしまった事で、彼のQ-BOX(質問を募る為の簡易メールフォームサービス)には、この手の荒らしと怪文書をミキサーにかけたような文章が大量に送り込まれる事態になっている。
なお、まだネタに出来る類の怪文書はお悩み相談配信で雑に切り捨てているせいで数が減らないのだが、その事実に廻叉は気付いていない。インターネットネイティブとは言えない正時廻叉、並びに境正辰は『荒らしは基本スルー推奨』の大原則をよく分かっていないのである。
「でも、まぁ執事さんなら大丈夫だと俺は思うけどね」
「そうですね。裏も表も誠実な人ですから、廻叉さん」
「そういう四谷くんも、ウチのロエンちゃんが君の事を大分お気に召してるみたいだけど?」
「ちょ、青薔薇さん今ここで言いますかそれを!?」
「む!新たなエサが投入されましたか!?」
「エサ言うなや。アリア、ホンマそういうとこやぞ」
「アリアちゃん、四くんは廻くんほど神経図太くないんだから程々にね」
「フォローになってませんが?」
フォローに入った紅スザクと小泉四谷だったが、青薔薇による横槍が四谷の腹部を貫いた。そこに襲い掛かる制御不能の蛮族こと七星アリア。今にも四谷に飛び掛かって石油が出るまで掘り下げようとするアリアであったが、流石に月影オボロが止めに入った。なお、本来止めるべき立場にある龍真と白羽はゲラゲラ笑っているだけであり、唯一止めに入ったステラは四谷と廻叉の両者にトドメを刺していた。
「あの……でも、応援してくれてるのは、分かるので……!う、嬉しいです……!」
スタッフすら苦笑いしか出来ない混沌状態を解決したのは、意を決した様に声を張り上げたユリアの一言だった。起き上がっていた廻叉の服の裾を申し訳程度に摘まみながら、顔を赤くしている様は他事務所の女性陣に多大なるダメージを与えた。
「分かるかい、アリア?彼女の様な振る舞いが真の清楚だ。理解したかな?理解したのなら君は金輪際清楚を名乗るんじゃない。あと色んな意味でいい加減にしなさい」
「くっ……しかしだよ、青ちゃん!私から清楚芸を取ったら何が残るというの!」
「アリアさん、自分の再生リストじっくり見直してからもう一度それ言ってみろよ。むしろ清楚芸は添え物だろうが」
真・清楚を至近距離で浴びて混乱したアリアは、同期と直近の後輩から罵倒されていた。
「……なぁ、願さんもああいう子のがええんかな」
「いや、そこで凹まれても私も困るんだけど」
「いややー……それでなくてもナユに勝てる気せぇへんのに……」
「これからハイテンションでオフ凸するんだから、その悩みは後にしよう?何なら呑みでもなんでも付き合うから」
「え?ステラおごってくれんの?」
「はい、龍真ステイ」
「ゴフッ……?!」
「今のは龍真さんが悪い」
オボロはオボロで自分とユリアを比較して勝手にダメージを受けていた。ステラが必死で宥める様は、ある意味放送では見せられない姿である。
なお、デリカシー皆無でタダ酒を目論んだ龍真は白羽のニーリフトと四谷の冷たい視線を浴びて悶絶していた。
「あ、あの……皆さん?」
「いいんですよ、ユリアさん。こういうグチャグチャのやり取りを楽しめる人達ですから」
自分の介入で更なる混乱が繰り広げられる現状に困惑するユリアを廻叉は苦笑いで宥めるしか出来なかった。テーブルにある台本を取る振りをして、廻叉はユリアの耳元で小さく呟く。
「膝枕は、二人きりの時にまたお願いしますね」
「ぴゃああ!?」
ユリアの奇声と悲鳴の中間くらいの声を聞いた面々がまた騒ぎ出し、結局休憩時間は本来の予定をやや超過することになるのだった。
執筆時間が取れず、やや短めですが、色々と濃縮した仕上がりになった気がします。
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