「正時廻叉デビュー1周年&登録者5万人記念凸待ち -リクエスト即興劇-(4)」
「で、何話す?」
「アンタ自分でタメ口脊髄トーク振ったんだから、せめて初球くらいは考えとけよ」
「いやいや、執事さん。そこもフィーリングで進めていくべきだろう」
「それで事故るのは俺のチャンネルなんだよ」
《草》
《ノープラン!!!》
《おお、マジで執事のタメ口だ。新鮮》
《フィリップマジで何も考えてねえな》
《一人称俺……!!》
「いいじゃん、俺のチャンネルの動画なんて八割事故映像だよ」
「マジで一回怒られたら?」
「いやー、これ以上はもういいかなって。お子様にも安心して楽しめるハードコアお笑いチャンネルを目指すよ」
「じゃあハードコアを名乗るんじゃねぇよ」
「なら何を名乗ればいいんだよ。グラインドコアか?」
「まずコアから離れろっつってんだよ」
《割とマジです<八割事故》
《それでいいのかオーバーズ》
《ガチで謹慎とか喰らう程じゃない小さい事故が多いんだよな……》
《机の角で足の指ぶつけたとか、コンセント踏んだとか、コーヒー溢したとか、だいたい周りをよく見てないせいで起きる事故》
《怒られてはいるんだよな……》
《反省はするけど改善はしてないw》
《草》
《お子様も安心するハードコアとは(哲学)》
《執事のツッコミがいつにも増して速いなw》
《脊髄というか反射神経が良いタイプ》
「しょーがないなぁ、かいさくんは。じゃあ、ポップにやるよ、ポップに」
「猫型ロボット声で言われると煽りにしか聞こえないんだけど?」
「馬鹿野郎、日本で一番ポップな存在だぞ。積極的にパクっていけ」
「今度は事務所じゃなくて出版社やテレビ局からお叱りが来ても俺は庇わないぞ」
「やっぱ真面目にやるのが一番だな」
「日和見が過ぎる……!」
「何言ってんだ、俺は気絶してねぇよ」
「“ピヨリ見”じゃねぇよ馬鹿」
《草》
《うわ腹立つ声》
《煽っとるw》
《モノマネする事とパクりとはまた違う気がするが》
《草》
《真っ当な指摘からの音速手の平返しで草》
《フィリップが適当過ぎる……w》
《速攻でどういうボケ方してるか気付く執事も大概だぞ》
「そういえば、執事さん格ゲーとかやる?最近、昔の格ゲーがオンライン対戦対応になって復活しててさぁ。俺が中学生の頃に既にレトロゲームだったのとかガンガン配信されてんだよ。やろうぜ。ってか、正蔵のとっつぁんが張り切ってて、対戦相手欲してんのよ」
「コンボゲー全盛になってから触ってないけどな。上級者の対戦見てるのは面白いからよく見てたけど」
「ちょうどいいじゃん。初心者講習会やるぞーっつってるからな、とっつぁん。スマイルムービーで有名な某ゲーセンの常連さん連れて来て基礎から学ぶんだってさ。今の所、とっつぁんと俺以外の参加者希望者が新人のランランだけなんだよなぁ」
「えーっと、鄙罌粟蘭丸さんか。自称忍者の女性」
「そうそう。忍者に必要なのはフィジカルとか言ってる脳筋くノ一な」
《ピヨリから格ゲーの話にナチュラルにシフトしやがった》
《俺もやってるわ。ドット絵ってすげぇんだなって思った》
《名作は今も名作だし迷作は今も迷作だからな……致命的なバグまで完全再現で草》
《コンボはなぁ……あれで客が離れたのは事実だからな》
《ゲーセンでの大会動画全盛の時代も十年以上前か》
《講座やるんだ》
《『上野のゴザ健』……生きていたのか……!》
《誰……?》
《名前の通り上野のゲーセンの大会をメインでアップロードしてた人。初心者に優しく、常連に厳しい実況で大ブレイクした動画投稿者。最近も細々とやってた》
《でた、蘭子しか読めないでお馴染みのランランちゃん》
《『特技:城壁登り(ボルダリング)』をネタにされてたけど、同期の証言でガチだってバレた人だっけ》
《面接と初顔合わせで指倒立したらしいからな。今最も3D化を待望されてるライバーの一人》
「最近、Vtuber界フィジカル重視の人がやたらと多い気がするんだが気のせいかね。体動かすゲーム十時間やってたのが、確かにゅーろの新人さんで居たし」
「知ってる知ってる。白石パールちゃん。代行疑われたけど、盛大にコケた音と悲鳴が完全に同期してて同一人物認定されたっていう」
「後から『そもそもスタジオでやってた』ってのが如月シャロンさんからの証言で出たから、その辺の疑惑は完全に払拭されたからな。歌ってみた収録でスタジオに来たらもうやってて、収録終わった四時間後にまだやってたって。むしろスタッフさんのが疲れた顔してたらしい」
「そもそも半日音ゲーやり続ける代行ってなんだって話だよ」
「発注する側も受注する側も頭がおかしくないと成立しない労働契約だからな」
《座ってるだけでは済まないVtuber業界》
《まぁ、普通に歌とダンスするしな……全くの体力ゼロじゃ出来ない業界よ》
《パル子はマジで「ただただ体力が有り余ってる」の典型例だからな》
《あれで切り抜き大量に上がったもんな》
《盛大にコケる声はめっちゃ面白かった。コメディの才能に溢れている》
《シャロちゃん、恐ろしい物を見たって言ったもんな……w》
《ブラック代行業務で草》
「Vtuberも体力使うからな。俺も常に体力を削って配信してるからな」
「フィリップの場合削ってるのは命だろ」
「大丈夫だよ、俺の寿命あと250年分くらいあるから」
「お前、一応種族人間だろうが」
「一応、じゃない。たぶん」
「もっと人間である可能性が減ってるじゃねぇかよ」
「それを言い出したらアンタだって執事、役者、時計の混ざった人工生命体だろう。ちょっと要素混ざり過ぎでは?魂でスムージーでも作ってらっしゃる?」
「やめろ、俺もちょっと思ったんだから」
「え、スムージー?」
「混ざり過ぎの方だ馬鹿」
《本当だよ>削ってるのは命》
《草》
《草》
《本当に何にも考えてねぇな、こいつ》
《なんでナチュラルに寿命250年とか大嘘ブッ込めるのか》
《フィリップ・ヴァイスは人間じゃなかった……》
《まぁ、その……人間にしては……こう、知性が……》
《やめてやれw》
《言い返したwwww》
《スムージー扱いで草》
《要素混じり過ぎはその通りだけども》
《もう漫才みたいな言い合いだな》
「あ、そうそう今度別件でロシアンスムージーやろうと思ってるんだよね。トマトベースで作って、一杯だけデスソース入れて一気飲みするんだけど執事さんも是非」
「はい、以上フィリップ・ヴァイスさんでした。ありがとうございました」
《切られたwwww》
《そりゃそうよ》
《巻き込まれてなるものか、という強い意志を感じた》
《★フィリップ・ヴァイス@OVERS1804:凸待ちで追い出されるって何事だよ》
《草》
《残当》
《お前が悪い》
《反省しろ》
《★オーバーズ所属/秤京吾:何やってんだよ!折角執事さんのリアクション芸が見れるとこだったのに!》
《こいつら……》
《捨て身路線を走るのはいいけど、他人を平然と巻き込むからな、こいつらは》
「さて、時間的に丁度いいタイミングですし一度枠を閉じて休憩にしたいと思います。再開は20分後くらいを予定しております。あと、フィリップさんは参加希望の時点で『最後は無茶なオファーするんで無言でDirecTalkerから蹴ってください』という要請がありました」
《★フィリップ・ヴァイス@OVERS1804:執事さん、それバラすのはアカンて》
《草》
《喋らせると脊髄しか使わないのに、コントの構成とかオチへの持って行き方とかには頭を使うんだよな》
《流石に休憩かー……長かったけど普通に面白かったわ》
《まだRe:BIRTH UNIONの面子だとちょっとだけ顔をだしたキンメだけしか出てないから、後半に固まってくる可能性も》
「次の枠も『褒めて下さい枠』と『甘やかしてください枠』がそこそこありますので、お楽しみに。では、一旦失礼いたします」
《お疲れー》
《いやー、これ、思った以上に執事も体力使う奴だよな》
《凸する側も大分疲れるよ、これ》
《枠取りなおしまでするのかー》
《今回スタジオで配信してるらしいし、一度枠切った方が色々調整しやすいんだろ》
※※※
ブースからコントロールルームへと戻って来た廻叉は、まるでフルマラソンでも走り切ったかのようにグッタリとソファへと寝転んだ。自分で言いだした事とはいえ、想定以上に自分の体力と集中力を削るような記念配信になってしまったが、そんな愚痴をいう体力すら勿体ない。後半に向けて、少しでも声を休ませて体力の回復に専念したい、と思った。そして、自宅ではなくスタジオでの配信にした自分の判断を心から褒めたいと思った。
周りのスタッフはこの状態になっている自分に労いの声こそ掛けるが、心配するような声は一言もない。往々にして、Re:BIRTH UNIONの所属Vtuberがスタジオで何かしらやる度に、今の自分と同じように体力・気力を限界まで消耗させてコントロールルームのソファに寝そべるのは半ば日常茶飯事だからだ。少なくとも、四人が一度はやっている。石楠花ユリアですら、ピアノ生配信ライブを行った後はまともに立てずに女性スタッフの肩を借りてブースから出たという。
自分が寝そべった頭の先に座っているのが、その石楠花ユリアだと廻叉が気付いたのは、体感時間で十数秒ほど経ってからだった。ニッコリと微笑んだ彼女は、廻叉の頭を持ち上げると、座ったまま横に移動して手を放す。
「お、お疲れ様です」
「……あの、ユリアさん、これは」
「……私なり、の労いです……」
廻叉が見上げれば、顔を真っ赤にしているユリアの姿があった。そして、廻叉は勘付いた。
「……誰の入れ知恵ですか?」
膝枕状態から敢えて起き上がることなく、優しくそう問いかける廻叉に、ユリアはスタジオ入り口の方を指差す。防音の為の重たい扉の隙間から、まるでトーテムポールのように何人かの男女の顔がそこから覗いていた。
「やっべ、バレたぞ」
「丑倉は主犯じゃないよ」
「私も違うよ」
「あ、ステラちゃんズルい!一番楽しそうに嗾けてたのに!!」
「でも真っ先に『膝枕で労いましょう!王道ですよ王道!!』とか言ってたのアリアさんでしょうが。止めなかった俺も同罪っちゃ同罪だけど」
「なんか、俺、毎回これに巻き込まれてる気がするんですけど……ユリアさんゴメン、同期の君なら分かるはずだ……この面子を止めようとする勇気は、俺らくらいのキャリアには無理だ……」
「いや、しかし愉快だね君達」
「……ってか、社内恋愛しとったん?ウチ、マジで初耳やねんけど」
むくりと起き上がり、ご丁寧に上から順に喋り出したトーテムポールの顔を確認する。三日月龍真、丑倉白羽、ステラ・フリークス、七星アリア。ここまでの四人は明確に罪の擦り付け合いをしていたので、恐らくこの中の誰かが主犯だろう。後で問い詰める。
その次の若い男性は、初めて見る顔だったが声から紅スザクであると判断出来た。その次が、完全に弱り切った顔の小泉四谷。この面子に囲まれて嘆き芸が出来るなら十分だろう。
その次の、中性的な美少年とも美少女とも取れる誰かも初めて見る顔だったが、見た目と声がバーチャル世界の時と一切変わっていない。存在そのものが身バレなのではないかと思う。あの人は、青薔薇だろう。
最後は赤い顔で廻叉とユリアの二人を見ている月影オボロだった。なんなら彼女が一番この状況に興奮しているまであった。
前半を終えて枠を変えた理由は休憩と器材調整。そして、最後の最後に視聴者へのサプライズとしてリアルオフコラボ・直凸配信の準備の為だった。そして、それまでの十数分間、主に月影オボロから正時廻叉と石楠花ユリアの関係について熱心な質問を受ける事になり、休憩時間が五分伸びるのだった。
一区切りのタイミングになりました。直接の凸だってあるだろう、という事で。
大変申し訳ございませんが、次回12月10日の更新は一旦お休みさせて頂きます。
仕事の都合と、週末に予定が大量に入ってしまっており、書き上げられない可能性が極めて高い為です。
次回本編の更新が12月15日になります。可能であれば、普段の半分くらいの文字数でオマケ的な物をゲリラ的にアップするかもしれませんが、出来なかった場合は「作者立て込んでやがるな」とお考え下さい。
御意見御感想の程、お待ちしております。
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