「正時廻叉デビュー1周年&登録者5万人記念凸待ち -リクエスト即興劇-(3)」
寝落ちに次ぐ寝落ちで久々に締め切りが危険水域まで迫ってました。
あと、不定期で土曜日に出勤があるので、休みの日にまとめ書きできないのがとても辛い。
凸待ちの募集中、彼女から参加希望の連絡がSNSのダイレクトメッセージで送られてきた時に、廻叉は少なからず驚いた。スマイルムービー主催のイベント以来、相互フォロー状態でこそあるが明確な交流があった訳ではない。小規模ではあるが揉め事があり、その張本人同士が一対一で会話するという状況を、エリザベート・レリックが望んだ、という事実。
これを廻叉は、歓迎した。
募集を締め切り、大まかなタイムスケジュールが完成した時に、Re:BIRTH UNION統括マネージャーである佐伯からは難色を示された。理由は当然、エリザベート・レリックの参加だった。しかし、廻叉は問題ないと断言して見せた。廻叉は、彼女が変わりつつあることを知っていた。
悪く言えばファンに甘えるような、もっと悪く言えば媚びるような態度を取っていたエリザベート・レリックは、スマイルムービーのイベント以降、ガラリとその性格が変わっていた。今までの態度から掌を返すように気怠く、つっけんどんな態度を取り、その一方で良く笑うようになっていた。
今までの彼女のファンの多数が離れ、一部は反転してアンチとなったが今の彼女からすればそれすらも養分に変えるだけの度量を感じた。元々、黎明期の個人運営からキャリアをスタートさせた彼女の本領を見てみたいという想いが、廻叉には存在していた。
※※※
「えっと、それじゃあシチュエーションだけど。最近、よく『悪役令嬢』って言われるのよね、私」
「……分からなくもないですが」
「実際、小説や漫画で見たら結構面白くって。だから、『悪役令嬢と敵対する貴族』を廻叉さんにやってもらおうかなって」
「そのまま執事ではない辺りにこだわりを感じますね」
「お祝いの場で傅かせる程、無礼じゃないわよ」
「なるほど。お気遣い頂き感謝します。では始めましょうか」
《こっちもお嬢様だけど何やるんだろうな》
《草》
《自覚あんのかいw》
《否定しない執事よw》
《読んでるのか……w》
《和解したのに敵対を選ぶ悪役令嬢の鑑》
《気遣いのしかたそれでええんか?》
「まぁでも、私がこうして祝いの場に現れたのは、意外だったと思ってるでしょう?」
「ハッキリと言えばな。それにしても以前の貴女を思うと、随分と様変わりした様だな」
「もっとハッキリ言ったらどうかしら?『前までの猫かぶりはどこにいった?』って」
「そこまで私は無神経ではない。だが、どういった心境の変化があったかは知りたいとは思うが」
《おおおおおおお!?》
《見える!眉間に皺を寄せた金髪碧眼のイケメンが私にも見えるぞ!!》
《態度的に元婚約者とかでもない、対等な立場っぽいのがいいな》
《エリザもド直球投げてくるな》
「否定はしないところが貴方らしいわ。大した理由じゃないわよ。自分を偽る事をやめたってだけの話ですもの。後は、好かれたい愛されたいという欲が、自然と消え失せてたから。ありのままの、本当の私を見せてそれで去っていくなら去っていけばいい。石を投げたければ好きなだけ投げればいい。そう考えただけよ」
「なるほどな……個人的には、今の貴女の方が話しやすい」
「それは何より。貴方は今も昔も変わらず、誰に対しても同じように話すから、ある意味安心して話が出来るわね。前は、それがどうにも気に入らなかったのだけど」
《偽ってるって断言しちゃうの強い》
《これはファンが総入れ替えになるのもわからんでもないな》
《ぶっちゃけ、以前のエリザは苦手だったけど今のエリザは割と好き》
《実際石投げる連中も居るのに、これが言えるのか》
《執事は実際公平だよな。ごく一部の扱いが雑だけど》
《気に入らなかった、って言い切ったぞオイ》
「初耳だな。貴女が私に対してどう思っているかは」
「だって、私が周りの目だけ気にしていた時に、貴方は己を貫いていた。それがどれだけ眩しく、どれだけ煩わしいと思ったことか……端的に言えば、貴方に嫉妬していた」
「それは光栄と思えばいいのか?それとも『勝手な事を』と呆れれば良いか?」
「光栄に思いなさいよ、どうせなら」
「では光栄に思っておこう」
《尊大な態度取る執事が珍しい。いつもより声低いか?》
《あかん、俺様系がアタイのツボなんよ……》
《この声でボイス出せ執事》
《エリザが闇出してる……》
《意外と噛み合ってるな》
《動じない執事》
《優雅に殴り合っとる》
「話は変わるのだけど、貴方とこうして話せたのならRe:BIRTH UNIONの方とのコラボも解禁という事でいいかしら?一度お話したい方がいるのよ」
「まぁ貴女と淀川夏乃嬢であれば恐らく許可は下りるであろうな。則雲女史に関しては……一度こちらの執務を取り仕切っている者達との相談が必要だな……理由は、貴女の方がよくご存じだろう」
「でしょうね……悪い女性ではないのよ。ただ、人一倍奔放で、人二倍ほど、その、ふしだらなだけで」
「私が言うのもお門違いも甚だしいが、大丈夫なのかね」
「不思議な事に今まで一度も問題が起きてないのよ……理由は、ちょっと私の口からは言いたくないわ」
「そ、そうか……」
「流石に最近しっかりとした説教があったみたいだから、当面は大人しくしてるんじゃないかしら……」
「……心中お察しする」
「お気遣い、痛み入るわ……」
《おや、コラボのお誘い》
《誰だろ。ユリアのお嬢が一番それらしいけど》
《なつのんもOK出るんか》
《最近、シンプルツンデレになって可愛くなったと評判のなつのん》
《ガチの社長令嬢とは思わなんだ。そしてお父さん呼びなの解釈一致》
《草》
《草》
《誘えば「させて」くれるけど、SNSで一言感想を入れられるせいで男が避けるようになったってマ?》
《マジやぞ。ピロートークでダメ出しされたって言ってる奴居たもん》
《※このアカウントは管理者により非表示設定されています》
《同僚の説明に困るエリザ草》
《残当>しっかりした説教》
《マジのお察しで草》
《則雲天歌@ラブラビリンス:ねえ、なんで消されたの?》
《草》
《うわ出た》
《何書いた則雲ぉ!!》
「話が逸れたな。それで、誰とコラボを希望するんだ?」
「最近エレキギター始めたのよね。だから、丑倉白羽さんに弟子入りしようかと思って」
「……あの方も、発言が相当なセンシティブだがいいんだな?」
「もう慣れたから平気よ」
「………………………………そうか」
《白羽!?》
《そういえば雑談でギター買ったって言ってたな》
《なるほど、それなら納得だ》
《★丑倉白羽@RBU1期生:いいよー》
《うわ出た(本日2回目)》
《軽いなぁw》
《★則雲天歌@ラブラビリンス:白羽さん、さっきの私のコメント消したの白羽さん?》
《★ラッパーVtuber・MC備前:俺だよ……則雲お前本当に大概にしとけよ……》
《草》
《おいたわしや備前ニキ》
《そういえば白羽も下ネタ全力勢だったな……》
《慣れたと語るエリザの声に諦観が滲んでて草》
《言葉を選びに選んで無難な相槌になる執事も草》
「まぁコメントを見る限り当の本人が許可を出しているので大丈夫だろう。不規則発言は即座に咎める事をお勧めする。龍真さんとの雑談コラボで相当酷い会話をしていたからな……まったく、私からも一度説教をしておくべきだろうか?」
「そうは言っても、ギター練習の時のストイックさは本物でしょう?二時間以上同じギターソロの練習してるの見たけど、下ネタどころか一言も発してなかったわよ」
「音楽に対する姿勢は確かだからな。その点においては、私からも保証しよう」
「まるでそれ以外の部分が保証できないみたい……いえ、よしましょう。私の勝手な予想で決めつけてはいけないわね」
「残念ながら予想通りなのだよ」
「もうVtuberやってると避けられない物だと思った方がよさそうね」
《執事に苦言を呈する事を決意させる残念な先輩なのだな……》
《カッコいい時と残念な時のギャップが激しいリバユニの一期生》
《★丑倉白羽@RBU1期生:あれ、お酒入ってないのにあのトークよ》
《むしろ怖いよ》
《酔ってるのではなくて狂ってるだけだった》
《まぁ練習含めて演奏の時はガチもガチよな》
《後輩からの印象をよくする努力をしてください》
「……とまぁ、こんな感じでどうでしたか?」
「うん、楽しかったわ。お祝いの場で、凸した側が楽しんでいいのかって思ってたけど。よく考えたら私より百倍以上楽しんで帰っていった人が結構いたわよね」
「まぁそれが悪いとは言いませんが。むしろ私からの日ごろの御礼という意味合いもありますから」
「それならお言葉に甘えさせてもらうわ。これからも、良い関係を築いていきましょう」
「ええ、こちらこそよろしくお願い致します」
《見ごたえあったなぁ》
《エリザの素に執事が合わせる感じだったけど、結果それがビシっとハマってたよな》
《おい聴いてるかお褒めの言葉貰いに来た連中。お前らの事やぞ》
《草》
《一番負担掛かってる筈の執事がOK出してるから問題ないって感じでいいんじゃね?》
《何にしても、あの騒動が良い方向に変わってるみたいで良かった良かった》
※※※
「なぁ、これだけ濃いもの見せられた後に俺の浅いリクエスト持ってくるの結構心臓に負担が掛かるんだけれど」
「その前に、自己紹介をお願いします」
「あ、オーバーズのフィリップ・ヴァイスでーす。執事さん、周年と登録者数、おめでとうございます」
「いえ、どういたしまして。またSNSでバズっていらっしゃいましたね」
「日常のちょっとした失敗談を持ってきてるだけなんだが」
「何をどうしたらトーストが砂糖で埋まるんですか」
「いや、バターシュガートーストにしようと思ったんだが、丁度砂糖を切らしててな。新品の袋の端っこ切って、そのままササッと振り掛けるつもりが、こうドバっと」
「ちゃんと保存用の器に移す手間を惜しむからですよ」
《 名 乗 れ 》
《執事からもツッコミ入れられて草》
《案の定フィリップかよw》
《間違えたくないから明確な数字言わなかったな、コイツ》
《もはやSNS芸人と化してるフィリップくん》
《正統派美青年の見た目の癖にやる事が全体的に雑なんだよなぁ(褒め言葉)》
《砂糖入れ持ってないまであるからな、この22歳児》
「んで、俺のリクエストなんだけど。執事さん、いつもすげぇ考えて喋ってるなーって思う訳だ。一方で俺は『何も考えずに喋ってる』とか『脊髄に声帯が付いてる』とか言われるわけなんだけども」
「ええ、よく存じております」
「存ざれてたなら話は早い。執事さんも、俺と何も考えないで話してみない?あ、勿論敬語禁止な」
「……今日一番難しいまでありますね、それ」
「そこまでか」
《知ってる>脊髄トーク》
《執事はマジで脳をフル稼働させて喋ってる感はあるが》
《存じてたw》
《なんだかんだで絡み多いからな、オーバーズ芸人組と》
《脊髄トークのお誘いw》
《草》
《ある意味執事の素が一番見れる可能性が高いな!でかしたぞフィリップ》
《そっちのが難しいんか、執事的には》
※※※
配信画面では、黒髪の仮面の執事と金髪の美青年が丁々発止のやり取りをしているのを見ながら、エリザベート・レリックはようやく一息つくことが出来た。本当は、自分が出てきた事でコメント欄が荒れるのではないか、という不安が無い訳ではなかった。しかし、実際には暖かく迎え入れられた。ようやく、スタートラインに立てたような気がした。
DirecTalkerの待機室からも落ちて、エリザベート・レリックから百田アユミへと戻ったタイミングで、プライベート用スマートフォンのメッセージソフトから、一件の通知が入った。彼女が通う定時制高校の同級生で、唯一の同い年の少年である、葉月玲一からだった。
『あの、間違ってたらゴメンだけど、エリザベート・レリックって名前で配信してる?たまたま見た歌ってみたで声が凄く似てて、そこからチャンネルの方の雑談見たら、もっと似てて』
安堵から一転して、不安に襲われた。
うっかりと開いてしまった為、既読証明は彼の下へと飛んでいる筈だ。このまま誤魔化すべきか、或いは誤ブロックを装って完全に連絡を絶つか、考えていた。
そうしてる間にも、メッセージが更に飛んできた。
そこには、更なる爆弾が仕込まれていた。
『いや。バラすつもりとか無いんだけどね。実は、俺の姉ちゃんもVtuberやってるから、もしかしたら知り合いかもなーって思って』
『ちなみに姉ちゃんにも言っていいって言われてるから、ここで教えるんだけど』
『オーバーズの七星アリアって知ってる?あれ、俺の姉ちゃんなんだけど』
同級生が、核弾頭だった。
彼と彼女の話は、近いうちにやります。自分でも想像以上にエリザを気に入ってしまっています。
次回は、フィリップvs廻叉の限界ギリギリ脊髄トーク回です。
逆に書くの難しいまであるな……!
御意見御感想の程、お待ちしております。
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