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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ママには夫がいないので娘の私が告白することにした

作者: 婿音青人

恋に禁断なんてナンセンス。

 人類を産んだ神様とやらを信仰するのが正しいのなら、本当の意味で私を産んだママのことを私が好きになるのは、なんらおかしいことではないと断言できる。


 禁じられた恋だか近親の行為だか知ったことではなくて、つまるところ私の中でとめどなく溢れている、愛だとか恋だとかで一括りにできないこの感情を、もはや止める術など存在しない。


 今は亡き父親にも、一応は感謝しておこう。こんなにも最高の女性を結婚相手に選び、更にその人と二人きりになれる環境を用意してくれたことに。


「いや、実の父親相手に不謹慎が過ぎるよ」

「実の父親だからいいんだよ。ほら、さすがの私も知らないおっさんには優しいよ」

「いや、知ってるおっさんにも優しくしてあげてー?」


 私の力説を受けて尚、私の正気を保証してくれる唯一無二の存在、それは意外にもママじゃなくて親友のココちゃん。

 小学三年生の頃からの付き合いで、今は中学二年生だから……五年ものの友情だろうか。ワインではないので既に熟成している。


「おっさんの話はどうでもいいよ。私の世界にはママとココちゃんが居れば万事オッケー、無問題(モーマンタイ)だよ」

「ふーん、『世界』ねぇ」

「え、なになに。そんな全てを知る悪役みたいな笑顔をして」

「いやー、そんなことないよ。大事だよね世界」

「うん。まぁRPGの勇者みたいな、世界を守るぞーみたいな気持ちはないけどね」


 そう、世界なんてどうでもいい。

 見知らぬ六十億人とママを秤にかける場面があったとしたら、六十億人には死んでもらう。その中にココちゃんが入っていたら……悩むなぁ。流石に即断即決で親友を見殺しにできるほど、私は人間を辞めたつもりはないし。


「で、お母さんに告白とかするのー?」


 五月の突き抜ける青空の下で、そんなごく普通の恋バナみたいに質問されて、思わず握っていたクレープを潰してしまった。生クリームが招く大惨事、手がベタベタになる二次被害。


「も、もぉビックリさせないでよ。いくら好き好き大好き愛してる状態でも、ママに告白なんてできないよ」

「どうしてー?」

「えっ、だって一般的観点から考えたら、娘と母親が付き合えるわけなくない?」

「そこは冷静なんだね」


 いくら私が頭おかしめの中二女子とはいえ、そんなことはわかっている。

 もしママに嫌われでもしたら、クラスメートに告白してフラれて、そこから残りの学校生活を送るよりも悲惨な目に合う。

 学校生活の長さと残りの人生の長さを比較したら、そりゃ当然の結果だ。そんなキンキンに冷えた家庭生活を送ることなんて想像もしたくない。


「私はいつだって冷静だよ。沈着沈着」

「それ、単体で言うワードじゃないと思うけど」

「そんなことより、ココちゃんはどうなのさ」

「恋愛はねー、するより眺める主義なもんで」

「と、言いますと……?」

「早くお母さんに告白して?」

「た、他人事だと思って!」

「他人事だもーん。親友といえど、ね」


 そう言って、惨事に見舞われた私のクレープを一瞥しながら自分のクレープを食べるココちゃん。おい、なんで見たんだよ。


「……ねぇ。ママのことが好きって変かなぁ」

「自分の想いを、自分で疑問に思うのは良くないと思うよ」

「おぉ、確かに」

「誰かに正しくないって言われた程度で諦められるの?」

「無理無理。神にも仏にも、鬼にも親友にも止められないよ」

「じゃあ、それが答えだよ。大丈夫、付き合えなくてもお母さんならそんな冷たくはしないでしょ」

「そ、そうかなぁ」

「そうだよー」


 母娘(おやこ)という関係で十二分に満足しているつもりではいたんだけど、そう言われるとそうかもしれない。

 今のままでも今のママでも、それはそれは仲睦まじく清く正しく親子親子できているけど、仮に再婚とかしたら?

 それこそ、知らないおっさんがパパになったりしたら?

 知らないおっさんと愛を育むママを眺めるだなんて、耐えられない。私は恋を眺める主義じゃないからね。


「よし、告白する!」

「因みに、なんて言うのー?」

「好きです、付き合ってくださいって言う!」

「おー、シンプルだね」


 クリームまみれの右手を空高く突き上げる。よし、そうと決まれば善は急げだ。仮に悪でも急ぐけどね。


「今日はありがとうココちゃん、結果報告をお楽しみに!」

「うん。ハッピーエンドでよろしく」

「保証はできません!」


 ニコニコして手を振るココちゃんに別れを告げ、取り敢えず物理的に急ぐために走り出す。

 授業以外で走るのなんて初めてかもしれない。……いや、昔はママと追いかけっこをしたり、意味もなく階段で競走とかしたっけ。


 途中で見かけた公園に立ち寄り、水飲み場の蛇口を捻る。ちょろちょろと出る水に右手を突っ込み、クリームを洗い流す。詰まったりしたらごめんなさい。


 そうそう、この公園でもよく遊んでもらったっけ。友だちを作るのが驚くほど下手くそだった私は、ママと一緒に砂のお城を作ったり、ブランコに乗って後ろから押してもらったり、すべり台をすべる私のことを下で受け止めてくれたり……。


 あれ。思い返せば返すほど、なんだか泣けてきたぞ。

 そんなに一生懸命に母親母親してくれたママに、好きです付き合ってくださいとかどの口が言えるんだ?

 無償の愛に、無性に愛で返してもいいのか?


「あれ、ミサキちゃん?」


 透き通るように甘く、それでいて凛とした大人らしさを感じさせる声が私の名前を呼んだ。

 振り返るとそこに居たのは、二十代ラストイヤーであることを微塵も感じさせない、若くて美しい未亡人だった。というか、ママだった。


「ママ、どうしたの」

「どうもこうも、買い物帰りだけど」

「そっか、袋ひとつ持つよ」

「ふふ、ありがとう」


 娘にそんな無防備な笑顔を向けても良いんですかそうですか。これは娘だからこそ拝めるのではないだろうか。

 この笑顔を独占したい。禁止法という名のおっさんが新たに現れる前に、やはり私が告白しなくては。


「ママ、言いたいことがあるんだけど」

「言わなくてもわかってるよ。そして答えはノー」

「私、ママの……えっ?」

「袋の中のシチューの箱を見て、カレーライスに変更してくださいって言おうとしたでしょ」


 ふふん、とドヤ顔をするママ。

 以心伝心できてないよ、流石ママはなんでもお見通しだねってシーンかと思ったのに全然違うよ。でもドヤ顔が可愛いから全部許す。


「確かに五月にシチューかいって言おうと思ったけど、それじゃなくてね」

「え、じゃあママがミサキちゃんの寝顔を毎日撮影してる話?」

「初耳だしとんでもないことカミングアウトしてくるじゃん」

「なんだかねぇ、あの人が死んでからミサキちゃんのことが可愛くて可愛くて」

「とんでもなく好都合な展開になってるじゃん!?」

「どういう意味?」

「私はね、ママと付き合いたいの!」

「ママと……付き合う……?」

「どうしたのママ。突然、初めて芽生えた感情を理解できないロボットみたいになったけど」

「ミサキちゃん……ママのこと、そういう意味で好きなの……?」

「んもう好きだよ好き好き、私だけのママでいてほしいの!」

「そんな娘に育てた覚えしかないよ!」


 道の真ん中で、半泣きで私を抱きしめるママ。

 最初から相思相愛だったのか。知ってるおっさんが死んでから、ずっと私のことを恋愛的なニュアンスで愛しつつ育ててくれていたのか。

 神じゃん。そこら辺の神仏の比ではないレベルの女神じゃん。薬師如来も裸足で逃げ出すわ。


「ママ、大好き」

「私もよ、ミサキちゃん」


 初めて、ママの唇にキスをした。いってらっしゃいのチューとか、よくほっぺにはしてたけど。

 ママとのファーストキスは、涙と口紅の味がした。


―――――――――――――――――――――


『あれから、お母さんとは上手くやってるー?』


 高校生になり、別々の学校に通っているココちゃんとの電話。今は高校二年生だから、八年ものの友情ということになる。


「上手くやってるけど疲れるよ、三十代とは思えないくらい夜が凄いんだから」

『ふーん、よくわかんないけど良かったね』

「そういうココちゃんはどうなの?」

()()面白い恋を見つけてさー。それを眺めて楽しんでるよ』

「またって何、私とママの恋もカウントされてるじゃん。……で、どんな恋なの?」

『付き合ってもいないのに、毎日のようにキスしてる先輩後輩の百合』

「禁断の恋じゃん」

『ミサキに言われたくないと思うよ』


 失敬な、母と娘の何が禁断だと言うんだ。

 また一から説明してあげようか?

もし仮になんらかの反応があった場合、なんかするかもしれません。母娘百合初心者なので感想とかいただけると幸いです。

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先輩にはログボが無かったので後輩の私が毎日キスすることになった→先輩後輩百合です。是非ご一読ください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第1宇宙速度くらいの勢いとSAN値直葬の狂気
[気になる点] なんかこう、禁断ならではの背徳感が欲しい [一言] なかなかピーキーな題材ですよね~、母娘百合って
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