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「初めまして! 柔道部1年の石田っす!!」
岩野部長に呼び出されたのは、二分刈りの小柄な柔道部員だった。
「岩野部長から呼ばれて、うどんを食べてる途中ですがダッシュで駆けつけました!!」
……声がデケエ。
運動部らしい元気さはいいが、この暑苦しさはなんとかならないのか。
「あなたが桐花さんですねっ!!」
石田は部室にいる桐花を見ると声を張り上げた。
「桐花さんのお噂はかねがね聞いております!!」
「いやー照れますね」
多分ロクな噂じゃないぞ。
「そして吉岡くん! お会いしたかったす!!」
吉岡……くん?
「お、おう。お会いしたかったって?」
こんなことを言われたのは初めてだ。学園の不良と呼ばれる俺は、できればお会いしたくない人種のはずだが?
「はい! 剛力くんから吉岡くんの事は色々伺ってるっす!!」
「あ、うんわかったもういいよ」
「自分の口からはとても言えないような、あんな事やこんな事、色々お聞きしました!!」
「もういいっつってんだろっ!!!」
タァァケェェルゥゥゥ!! なんなんだアイツは! 無駄に俺の話ばっかり!! どんだけ俺のこと好きなんだアイツは!!!
「そいつは柔道部の中で、一番剛力と仲が良い。石田なら何か知ってるかもしれん」
昼飯がまだだった部長が、重箱みたいな弁当箱を広げながら言った。
なるほど、柔道部内の交友関係か。思いつかなかったな。……まさか本当に俺以外に友人がいるとは。
「はい! 剛力くんとは入部当初から仲良くさせてもらってるっす!! なので剛力くんのことなら何でも聞いてもらって大丈夫です!!」
なんとも頼もしい答えだ。この男からなら何か手がかりを得ることができるかもしれない。
「では早速、剛力さんがここ1週間ほど調子が悪いそうですが、その理由になにか心当たりはありせんか?」
「はい! あるっす!!」
……は?
「……え、え!! あるんですか!?」
「はい、剛力くんの不調の原因を知ってるっす!!」
手がかりどころか、いきなり答えが来ちゃったよ!!
「本当ですか!? 教えてください!!」
想定外の答えに動揺していた桐花だが、すぐに興奮と共に石田を問い詰める。
思った以上に早く事件が解決するんじゃないかこれ!?
しかし、
「それは言えないっす!!!」
石田の答えはまたしても想定外のものだった。
「へ? な、なんでですか!! さっき何でも聞いて大丈夫だって!!」
「はい! なんでも聞いてもらって構いませんが、答えるかどうかは別っす!!」
屁理屈じゃねえか!!
「どうしてですか!?」
「それも言えないっす!!」
食い下がる桐花だが、それでも石田は頑なだ。言えない理由も言えないって、どういう事だ?
「お願い! 教えて石田くん!!」
「く、九条さん……」
そうだ、ここで引き下がる訳にはいかない。答えが目の前にあるんだ。
「タケルくんがどうしてあんな事を言ったのか。どうしてあんな事を言わなければならなかったのか。知らなきゃいけないの!」
石田も柔道部員なら昨日の一件も目撃したはずだ。このままだと九条とタケルの関係がどうなるかわかっているはずだ。
「ダ、ダメっす!! 九条さんの頼みでも言えないもんは言えないっす!!」
しかし、それでも石田の答えは変わらなかった。
すると、昼食を食べながら静観していた岩野部長がゆっくりと立ち上がり、石田の前に立ち塞がった。
「……石田。どういう事だ?」
「……ぶ、部長。」
さっきまで呑気に昼メシ食ってた人と同一人物とは思えないほどの威圧感を放つ部長。
部室が緊張感に包まれる。
「昨日のやり取りは見たはずだ。それでも理由を言えないんだな?」
「い、言えないっす!」
「部長であるッ! 俺の頼みでもッ! 言えないんだな!!」
「い、いいいい言えないっす!!!」
部長の迫力を前に青ざめ震えながらも、自分の決意を曲げず声を張り上げる石田。
すると、
「そうか、わかった」
放っていた威圧感が嘘のように消え、部長は昼食に戻った。
「石田。お前も戻っていいぞ、うどんも伸びてしまう」
「は、はいっす! 失礼します!!」
そのまま石田も部室から急いでて行った。
「ちょ、部長さん! なんで帰しちゃうんですか!?」
桐花は慌てて抗議する。
答えを。九条とタケルの関係を修復するためのカギを見つけたにもかかわらず、みすみす見逃す形になってしまった。
「すまんな。協力するとは言ったが、俺も部長だからな。部員1人のために、他の部員にやりたくない事を強制させる訳にはいかんのだ」
そう言って俺たちに頭を下げる部長。
部長としての立場はわかるが……歯痒い。
「それに、石田は頑固なやつだからな。俺がいくら締め上げても、ああなった以上絶対に吐いたりしないだろう」
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