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『学園の七不思議、それは誰が言い出したのか、どこから生まれたのかわからないあやふやで不透明な物語』
時刻は夜11時、正直この時間帯で家に帰らず学校に居るのは大丈夫なのだろうか?
『世代を超えて受け継がれてきたこの物語は、どこにでも存在する。……いえ、もしかしたらどこにも存在しないのかもしれません』
夜特有の静寂、普段であれば穏やかさを感じるはずなのだが、今はその静けさが不気味な物に思える。
『私たちはこの学園の七不思議を調査しました。そしてそこで様々な怪奇現象に遭遇した。そう、この学園の七不思議は眉唾なんかではない、確かに存在した物だったのです!』
そこに俺たちはいた。七不思議の調査を終えた俺たちを桐花は招集したのだ。
『しかし、果たしてそれは真実なのでしょうか? 私たちの目撃したものに偽りがなかったと本当に言えるのでしょうか? あの怪奇現象は、私たちが見たあの不思議な出来事は本当に本物だったのでしょうか?』
今桐花は俺が構えるカメラ(百目鬼先輩が使っていた物だ)に向かってやや芝居がかった動きで熱弁を奮っている。
『私は今回七不思議の調査隊として同行し、七不思議の検証を行なっていました。……しかし、ここからは恋愛探偵として七不思議の謎を解き明かしたいと思います!!』
いつになくテンションが高いなコイツ、カメラを向けられると気分が上がるタイプのようだ。
『はたして! 私は真実にたどり着くことができるのか? 七不思議という暗闇の中に隠された真実は一体なんなのか? ……今宵、あなたは驚愕の真実を目撃する……!!』
どうやら茶番が終わったようだ。
「ふー、やっぱり楽しいですね! 私こういうの結構好きみたいです!……あ、吉岡さんカメラはもう回さなくていいですよ」
「……桐花さん、いったい何をしてるの?」
神楽坂先輩は困惑している。まあ、無理もないだろう。
七不思議の調査は終わった。奇妙な現象の数々に襲われ、最後にはお供物が炎上するなんていうトラブルがあったものの、これでお開きになる筈だった。
しかし、突如して桐花に集められて見せつけられたのは謎の演説、困惑するのも当然だ。
そんな先輩を見て桐花は不適に笑う。
「雰囲気作りですよ、雰囲気作り。これからのためにテンション上げる必要がありますから」
「これから?」
「ええ、これからは探偵一番の見せ場、推理パートですから」
そう言う桐花は、どこまでも楽しそうだった。
「まず、今回の七不思議についてまとめましょう。
七不思議その1、人が消える合わせ鏡
七不思議その2、徘徊するガイコツ
七不思議その3、座ってはいけない呪われたイス
七不思議その4、上りと下りで段数の違う階段
七不思議その5、悪戯好きの少年
七不思議その6、七不思議を調査する新聞部員
七不思議その7、晴嵐学園の土地神サマ
そして、七不思議を調査して、起きたできことを整理します。
七不思議その1、撮影した鏡の映像に撮影者が映っていなかった。
七不思議その2、特になし、あえて言うなら骨格標本が納められているケースが開かれた形跡があった。
七不思議その3、座ったイスが壊れて吉岡さんが負傷。
七不思議その4、下りの段差を数え間違えて転倒しかける。
七不思議その5、誰もいない図書室で本が落下。
七不思議その6、窓に正体不明の少女の影が映る。
七不思議その7、お供物の箱が炎上する。
……こんなところですね」
改めて聞くと随分と濃い内容だな、七不思議のほとんどに遭遇している。
桐花はここで俺たちを見渡す。
「これ、ちょっと出来すぎだと思いませんか?」
「出来すぎ?」
「ええ、最初に撮影者が消えるという明確な怪奇現象で引き込み、不気味なガイコツで恐怖心を高める。椅子が壊れるという事故とも怪奇現象ともとれる現象が起き、階段の段数が増えることで何か不思議なことが起きているのではないか? という疑念を膨らませる。図書室で姿の見えない幽霊の存在をチラつかせて、新聞部部室で明らかな怪奇現象を目撃する。……そしてラスト、お供物が突如炎上するという衝撃の展開」
ここまで一息で話し、ふう、と一拍置く。
「お手本のようなホラーの展開です。七不思議というホラーとしてはあやふやすぎるジャンルで、ここまで上手く物事が進むものでしょうか?」
そして指を一本立てる桐花。
「さらに、今回の七不思議を撮影したこの映像を見てください」
そう言って俺が渡したハンディカムを操作し、映像を俺たちに見せる。
そこに映っていたのは、今回の調査で目撃した様々な怪奇現象、そしてそれを見てド派手なリアクションを取る俺、神に祈りを捧げる俺、咽び泣く俺、膝から崩れ落ち意識を飛ばす俺、それを見て呆れたような視線を向ける桐花が。
「……あの、桐花……その映像消してもらってもいいかな?」
本当にひどい。マジでひどい。
冷静さを失い取り乱した自分を映像越しにみることがここまでキツイとは。アレに映っているのは本当に俺か?
桐花は俺の要望を軽く無視して話を続ける。
「この映像、ちょっとおかしいと思いませんか?」
「おかしいと言えばおかしい事だらけだろ? 怪奇現象が映ってるんだぞ」
「そうですね、ある意味では今回の調査はその怪奇現象をカメラに収めることが目的でしたから」
ここまでハッキリと撮影できるとは思っていなかったがな。
「では質問を変えましょう。吉岡さん、もし吉岡さんがカメラマンで、七不思議の調査を撮影していた時に怪奇現象に遭遇したらどうしますか?」
「カメラなんか放り捨てて全力で逃げるね」
「……カメラマンとしての責務を果たす事前提でお願いします」
俺がカメラマンだった時ねえ。
「そりゃあ……なんとしてでも怪奇現象をカメラに収めようとするだろ。そもそも遭遇できるかもわかんねえ代物だし、もし遭遇したら脇目も振らずカメラを回し……あれ?」
自分の言葉に違和感を覚える。なんだ? 何がおかしいと思ったんだ?
「その通りです。怪奇現象なんて撮ろうと思って撮れるものではありません。もしそんな機会があればそれをカメラに収める事だけに全力を尽くすでしょう。しかし、このカメラにある映像は違う、目の前の怪奇現象を無視してまで撮影したものがあります」
「……あ!! 俺たちか!?」
そうか、そういうことか!
この映像には、怪奇現象に遭遇して驚く俺たちが撮影されていたのだ。
「そう、本来であれば怪奇現象の撮影を優先する筈です。もっと言えば、眼の前で起きている不可解な現象に釘付けになって私たちのリアクションなんて撮っている余裕なんてない筈なんです。……怪奇現象が起きる事を事前に知りでもしない限り」
怪奇現象が起きる事を……事前に知っていた?
「この事と、先ほどのあまりに都合が良すぎる展開、この二点を踏まえて考えれば、導き出せる答えは一つです」
桐花は、マスメディア部の二人を見据える。
「神楽坂先輩、百目鬼先輩。今回の七不思議、その怪奇現象を引き起こしたのは貴方達ですね」
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