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10

「……ん、んん……ここは?」


 目を開けると自分が横になっていることに気づく。


 頭の下に感じる温かく柔らかい感触、あれ? 俺寝てたのか?


 ぼやける視界の中、最初に目に入ってきたのは桐花の顔だった。


「……桐花?」


 なんで俺はお前を見上げてるんだ? お前、俺よりチビなのに。


「あっ、吉岡さん気がつきました?」


 

 ここで初めて、俺は桐花に膝枕されていることに気づいた。


「うおっ!」


 脳味噌が急速に覚醒し慌てて飛び起きようとする。しかし桐花に手で押さえつけられる。


「ダメですよ、まだ寝てなくちゃ」


 桐花の声色は俺を労わるように優しい。


「なっ、これいったいどう状況なんだ!?」


 初めて女子に膝枕されるというシチュエーションと、寝起きで上手く回らない頭のせいで軽くパニックになり、状況が読み込めない。


「吉岡さん気を失ってたんですよ」

「気を? ……っ!!」


 桐花の言葉で先程の出来事を思い出す。


「お、お供物! 土地神サマは!?」

「落ち着いてください、まだ起きちゃダメです」


 桐花に再度制される。


「気絶して倒れた時に頭を打ったかも知れないんですから、もう少し安静にしていてください」

「わ、わかった」


 いつになく真剣な眼をする桐花、そんな彼女に気圧され大人しく従う。


 どうやらここは旧校舎の近くに備え付けられているベンチのようだ。そこに座った彼女の膝に頭を乗せているらしい。


 ……なんだろう、膝枕をされていることもそうだが、上から桐花に顔を覗き込まれている今の状況が妙に気恥ずかしい。


 そのくすぐったい気持ちを誤魔化すように、桐花に質問を投げかける。


「……俺、どれくらい寝てた?」

「10分って所ですかね? 運んでくれた百目鬼先輩に感謝してくださいよ」


 桐花の視線を追えば、そこには息も絶え絶えの状態で座り込む百目鬼先輩が。


 ……あーー、そうだよな、俺無駄にでかいし重いし、そうなるわ。


「すんません、先輩。ありがとうございました」


 声を出す気力もないのか、先輩は右手を上げて返事をする。


「神楽坂先輩は?」

「……今消火用の水を汲んできてます。火はおさまったんですけど、念のために」

「火……」


 脳裏に浮かぶ先程の光景、突如として燃え上がるお供物の箱。


「……夢じゃ無かったんだな」

「ええ、現実の出来事です。……お供物、全部燃えて灰になっちゃいました」


 桐花はそう言いながら、手元のハンディカムを操作している。


「それって?」

「今日の私たちを撮っていたビデオカメラです。百目鬼先輩にお借りしました」


 どうやら今日調査した七不思議を見直しているらしい。


「……俺にも……見せてくれ」


 止めようとする桐花を制して起き上がる。


「……大丈夫ですか?」

「ああ、どこも痛いところはない」

「それもありますけど……動画見てまた気を失ったりしないでくださいよ?」

「……悪い」


 かなり心配してくれているようだ。


 だが、今の俺は不思議なほど冷静だった。一度気絶して脳味噌がリセットされたのか、一周回って恐怖心が無くなったのか。多分もう取り乱すことはないだろう。


 桐花の横に座り、彼女の手元のハンディカムを覗き込む。


 ハンディカムに写っていたのは、七不思議調査中に遭遇した怪奇現象の数々、それを見て奇声を上げる俺、謎の呪文を唱える俺、泣いている俺、気絶する俺、それを冷たい目で見る桐花が。


「……これは……ひどいな」


 冷静に、なおかつ客観的に見直すと本当にひどい。なんだ? 俺はこんな事になっていたのか?


「ええ、今日の吉岡さんはいつにも増してひどかったですね」


 いつにも増して、という言葉が引っ掛かったが事実なので言い返せない。


「それより、本当に大丈夫なんですか?」


 桐花が心配しているのは、動画を見た俺がまた取り乱すかも知れないという事だろう。


 動画には新聞部の部室で見た少女の影や、燃え上がるお供物なんかも写っていた。


 だが、やはり今の俺は不思議なくらい落ち着いていた。


「ああ、結構平気だ。……なんつーかさ、感覚的な話なんだけど……」

「なんです?」

「ガキの頃見た“アレ” に比べると禍々しさがねーんだよな。だから今見直してみるとあんまり怖いって感じがしない……」


 変な感覚だ。明らかな怪奇現象のはずなのに、やっぱ頭打ったかな?

 

 そんな俺を見て桐花は感心したように頷く。


「へー、まあそうでしょうね」

「へ?」


 そうでしょうねって、どういう事だ?


「あ、神楽坂先輩が帰ってきましたね。じゃあそろそろ始めましょうか」

「始めるって……いったい何を?」


 桐花は立ち上がり、こちらを見て不適に笑う。



「もちろん、七不思議の正体を暴くんですよ」


いつも読んでいただきありがとうございます。

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