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『学園の七不思議、それは友達の友達、知り合いの知り合いなど出どころのハッキリとしない不確かな噂話』
時間は夜の9時、生徒はおろか教師も既に帰路につき、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。
『しかしそれは世代を超え、時代を超え確かに受け継がれてきています。消して途絶える事なく、不自然なぐらいに』
月明かりが照らす校舎というものは妙な神秘性がある。現代的なコンクリートの建物を自然の月光が青白く染めるというミスマッチな調和がそう感じさせるのかもしれない。
『それは我らが晴嵐学園も例外ではありません。そう、七不思議とはこの学園にも存在するのです!」
そんな不気味な雰囲気を醸しだす学園に俺たちはいた。目的はもちろん七不思議の調査だ。
『我々の目的は晴嵐学園七不思議の検証、この学園に受け継がれた怪談が真実かデタラメなのかを明らかにするため、私たちは非日常の暗闇の中に勇気を持って踏み出すのです!!」
今この場にいるのは俺と桐花、それに依頼者である神楽坂先輩と百目鬼先輩の4人だ。
当然生徒だけでこの時間に学園に入れるはずもなく、部活動の一環のためマスメディア部の顧問も付き添いできているが、『なんで私がこんな時間に……』なんてボヤき俺たちを置いて宿直室に篭ってしまった。まあこんなことに付き合わされる教師もたまったもんじゃないだろう。
『我々を待ち受けるのは幽霊か妖怪か! はたまたそれよりも恐ろしい“ナニか”なのか!!』
今桐花はカメラを構える百目鬼先輩に向かって何やら熱弁を奮っている。今回の調査は俺たちの行動を動画で撮るロケ形式で行うらしく、そのオープニングカットを収録しているのだ。
『そして今回の調査で我々は生き残ることができるのか! ……今宵、あなたは真実の目撃者となる……!!』
お、ちょうど終わったみたいだ。
「ふー、楽しいですね! 一度こういうのやってみたかったんですよ!」
「……あの、桐花さん。張り切ってくれるのは嬉しいんだけどこれ七不思議の調査なの、ジャンルでいうとホラーなの。そのテンションだと秘境探検みたいなノリになっちゃってるから」
神楽坂先輩が桐花に苦言を呈している。
桐花はこの七不思議の噂を利用した恋愛ブームの立役者となるべく意気込んでおり、妙にテンションが高い。桐花からすれば恋愛ブームが上手く巻き起これば、新しい恋愛ネタがたくさん増えるのだ。なんとしても成功させたいのだろう。
「つーか少なくないっすか?そっちは神楽坂先輩と百目鬼先輩だけ?」
話を聞いた限りだとマスメディア部はかなりデカい部活で、部員数も結構いるみたいだ。それなのに2人しかこの調査に来てないのか?
「ええ、マスメディア部はいくつかのチームがあってね、それぞれが別の活動をしているのよ。今回の企画は私の発案だから私のチームだけなの」
「か、神楽坂はうちのチームリーダで、じ、次期部長の最有力候補。だからチームメンバーは他に何人かいる、だけど例の動画のせいで、み、みんな怖気付いた」
百目鬼先輩の言う例の動画とはあの合わせ鏡の動画だろう。
「……結局あの動画はなんだったんだ」
あの後桐花と一緒に何度も動画を見直した。撮影者が鏡の中から消えるなんて怪奇現象としか言いようのないものが映ったあの動画を。
最初に疑った動画が加工されている可能性を考慮して見直してみたが、無限に続く鏡の中から撮影者だけを消すような加工は、やはり無理だと結論づけられた。
「あの動画を撮影された方はまだ無事ですか?」
「おい! 変なこと聞くなよ!」
桐花の言葉で思い出してしまったが、あの七不思議は合わせ鏡をする事で、鏡の中に引き摺り込まれると言うもの。
撮影したのは確か1年生だったけか? まさか本当に消えてたりしないだろうな?
「ええ、一応無事よ」
……一応て。
「ただ本当に怖がっちゃって、今日の調査もカメラマンをお願いしたんだけど嫌がっちゃって」
「だ、だから今日は僕がカメラマンを務める」
そう言って百目鬼先輩はハンディカムを構える。先ほどのオープニングのために桐花を撮影していたものだ。結構高そうなものだが、マスメディア部の備品なのだろうか?
「今日の調査では私が進行役と語り部を、桐花さんにリポーターをやってもらう予定よ」
「俺は?」
「そうね……賑やかしってところかしらね」
「……いやまあ良いっすけど」
多少扱いに不満はあるが、ヨロシク、と妖艶に微笑む神楽坂先輩の前では何にも言えなくなってしまう。
「さて、早速調査を始めましょうか」
いよいよか、俺も覚悟を決めねばならない。
「はい! では張り切っていきましょう!!」
「……桐花さん、もう1度言うけどテンション抑えて」
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