表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴走する恋愛探偵に巻き込まれたチンピラの優雅な学園生活  作者: ツネ吉
第一章ゴリラキープアシークレット
4/62

3

 あれは中学三年の夏、俺の髪がまだ黒かった時の話だ。


 帰宅部でヒマな夏休みを送っていた俺は、柔道部主将であったタケルに、半ば無理やり柔道部のマネージャーの真似事をさせられた。


 当時の柔道部は夏の大会を目前に控え、夏休みの全てを練習に当てていた。


当然、そんな柔道部のマネージャーともなればなかなかの激務だ。備品の管理に、部員達の飲み物の買い出しから、汗臭い柔道着の洗濯までを俺一人でこなしていた。


 なんで俺が貴重な夏休みを潰してまで野郎どもの世話をしなければならないのかと、ボヤきながら仕事をしていた。

 ……しかし、今にして思えば、黒髪であっても学校全体から怖がられていた俺を、一切恐れない猛者どもの集まりの柔道部は、結構居心地が良かった。


 柔道部は個人戦、団体戦共に地区予選を突破しており、次の県大会を優勝すれば全国に行けるとあって、部員の士気は高かった。特に主将のタケルは、全国を狙えるとずっと期待されていた上、中学生活最後の大会ということもあり、誰よりも熱心に練習に取り組んでいた。


 そんな中、事故が起きた。


 団体戦のメンバーに唯一選ばれた2年部員、彼とタケルが乱取りを行なっていた時のことだ。


 2年で唯一選ばれたということもあり、周囲からの期待や、大会のプレッシャーがあったからだろうか、強引に技をかけてしまい、練習相手のタケルが利き手を痛めてしまった。大会1週間前のことだ。


 そして迎えた大会当日、利き腕を痛めたタケルは執念で一回戦を突破したが、それ以上勝ち進めるほど県大会は甘くはなく、団体戦もタケルを大将と置いていたため、他の部員の頑張りも虚しく勝ち上がることはできなかった。


 大会後、負けたのは主将を怪我させてしまった自分のせいだと、泣いて謝る2年生をタケルは一切責めなかった。


「謝るな。いいか、俺の目標は世界一強い柔道家になることだ。世界一強くなるには県大会の予選ぐらい、片手で勝ち上がるくらいの実力が必要なんだ。そこで負けたということは、完全に俺の実力不足だったということだ。俺の弱さをお前のせいにさせるな」


 馬鹿みたいな理屈だった。だけどその馬鹿みたいな理屈で彼は救われただろう。


 かっこいいと思った。タケルが俺のダチであること、それがとても誇らしいことに思えた。



 ……だが。



「はじめまして、剛力 猛くんとお付き合いさせてもらっています、九条 真弓です」


 今はあいつへの嫉妬で気が狂いそうだ。


 桐花に協力を申し出た日の放課後、俺は桐花から九条を紹介された。


「……あの、本当にタケルと付き合っているのか?」

「はい! 私はちゃんとタケルくんの彼女です!」


 タケルくん、タケルくん、タケルくん・・・そうか、あいつ彼女にタケルくんって呼ばれているのか。


「……一体いつから?」

「えーと、付き合ってもう1ヶ月以上になるかな」


 ……てことはタケルと最後に一緒に昼飯を食ってた時、九条の話題が出てきた時にはもう付き合ってたってことじゃねえか!! あの薄情者! 俺に隠してやがったな!


 ていうか、本当にタケルと付き合っているんだな。桐花から話を聞いた時は半信半疑だったんだが……


 俺は改めて、タケルの彼女を観察する。


 ……ちっこい。隣に並ぶ桐花も小柄だが、彼女はさらに頭一つ分小さい。その上かなりの童顔だ。中学生、いや下手すれば小学生に見えるほどに。


 ちなみにタケルは背が高いうえに、いかつい老け顔だ。こんな二人が並んで歩いていたら通報されれるんじゃないか?


 そして、九条に関してもう1つ気になることがあった。


「怖がらないんだな、俺のこと」


 そう、彼女は俺に対して一切恐れを抱いていないのだ。話しかけただけで人に逃げられるような、この俺に。


「うん。タケルくんから吉岡くんの話をよく聞いていたから」

「俺のことを?」


 タケルが彼女に俺のことを話していたなんて。なんだろう、妙な照れ臭さがある。


「何を話したんだ?あいつは」

 

 まいったな、こういう時幼馴染というやつは厄介だ。俺がタケルのことをよく知ってるように、タケルも俺のことをよく知っている。あいつ、俺に関して変なこと話してなけりゃいいけど。


 すると九条はなぜか顔を赤らめ、俺から目をそらした。


「えーーと……私の口からはとても言えないです」

「あの野郎っ!! 一体何を話しやがった!!!」


 口に出すもはばかれるような俺の話って一体なんだ!? というかそんなもん人に話すんじゃねえよ!!


「なんですか! なんですか! 私すっごく気になります!!」

「そこっ!! 興味を持つんじゃねえ!!」」


 目の色を変えて食いついてきた桐花を牽制する。この女、恋愛話じゃなくてもゴシップならなんでもいいのか?


「俺の話よりも今はタケルの話だろ!!」


 そうだ、そもそもなんで放課後教室に俺たちが集まったのか。学園の不良、校内一の変人、小動物系アイドル、どんなに頑張っても接点を見出せないこの三人が集まった理由はなんなのか?


「九条、タケルが最近アンタを避けているって話だよな」

「……うん。」


 俺の問いかけに対して、目を伏せ悲しそうに答える九条。……あの馬鹿野郎、自分の彼女にこんな顔させやがって。


「……私、タケルくんと付き合いはじめてから、柔道部のお手伝いをやらせてもらってるの。と言っても、生徒会の仕事がない時にちょっとだけだけど。柔道部って今マネージャーがいないから雑用がすごく溜まってて、少しでもタケルくんの力になれればいいなって思って。……本当は放課後タケルくんのそばにいたいだけなんだけどね」


 本当によくできた彼女だ。俺も経験があるからわかるが、柔道部のマネージャーってのは結構大変だ。なんせ柔道やってる奴は揃いも揃ってガサツな連中ばかりだ。汗臭いし、暑苦しいし、うるさいし、うっとおしいし、ゴミは片付けないし、仕事をやけに押し付けてくるし。……ダメだ、どうしてもあの夏にこき使われた記憶が柔道部の評価を必要以上に下げてしまう。


「でも、1週間ぐらい前にメールで、柔道部に来るなって言われて。理由を聞いてもそれ以来メールに返信してくれないし。……私、何か怒らせるようなことしちゃったのかなって思って、もしそうなら謝ろうと思ったんだけど、学校で会おうとしても、タケルくん私を見ると何も言わずに行っちゃうの」

「……タケルがそんなことを」


 やっぱり変だ。あいつは温厚な奴だ。たとえあいつを怒らせるようなことをしても、弁明すら聞かずに無視するなんてことありえない。


「それで悩んでいたところを桐花さんに声をかけられて……その、お話するつもりはなかったんだけど、桐花さんちょっと強引で」


 ……? 桐花の話ぶりだと、悩みに悩んだ九条が桐花に相談した。って感じだったが。


ジッ

プイッ


 ……目そらしやがったこの女。何が恋愛マスターだ。見栄はりやがって。


 桐花はそれを誤魔化すように、ゴホンと軽く咳払いし、


「とにかくですね! 私たちがすることは、お二人の関係を修復することです! そのためにも剛力さんが九条さんを避けている理由をハッキリさせなければなりません!」


 ただ……と、ここで桐花は少し落胆したように、


「……頼みの綱であった、吉岡さんがここ1ヶ月剛力さんとケンカしているとは誤算でした」

「別にケンカしてるわけじゃねえけど」

「やれやれ、これで捜査は振り出しです。これからどうしたものやら」


 ……別になんも悪いことしてねえんだけどな俺。なんで勝手にがっかりされなきゃならないんだ。


 それに、


「どうするもなにも、簡単なことだろうが」

「何かいい考えがあるんですか?」


 考え? いいや、そんな難しいことじゃない。


「今から柔道部に行ってあいつから直接聞きゃいいだろ」

「え?いやいや、いくらなんでもそれは……」

「あいつに遠慮なんかいらねえんだよ」


 そうだ、あのバカ相手に色々考える方がバカらしい。


「行くぞ。行って聞かなきゃならんことがたくさんある」


 彼女がいたこととか、彼女がいたこととか、彼女がいたこととか!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ