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「屋上でカギが無くなった事件のポイント、それはこの特徴的なカギの形です」
そう言って懐からウサギのぬいぐるみ、いやぬいぐるみの形のキーホルダーにつながれたカギを取り出した。
「これポケットに入れるとわかるんですけど手の平サイズとは言え、結構かさばるんですよね。鈴も付いてますし間違えて持って帰るなんてまずないでしょう」
「誰かがワザと屋上から持ち去って学校のどこか適当なところに置いた、だから落し物コーナーに置かれていたってことか?」
「そう考えると辻褄は合うんですが、その場合なぜそんなことをしたのか? という疑問が残ります」
まあ、そうだよな。そこがわからなくて苦労してたんだ。
「しかし、今回疑われているのが飛田さんであること、そして前回の事件を合わせて考えると説明がつくんです」
前回の事件?あれは結局飛田の嫌がらせが原因だった。……おい。
「今回もまたか?!」
「はい! 今回嫌がらせを仕掛けたのは伊達さん、ターゲットは飛田さんです!」
またかよ!! どんだけめんどくせえんだこいつら!!
「前回の事件で飛田さんから一方的に疑われた伊達さんは相当イライラしていたでしょう、そんな中屋上練習後に飛田さんが1人残るという絶好のチャンスがありました。当然伊達さんにはここで飛田さんに一発かましてやろうという考えが浮かんだでしょう」
「じゃあ、飛田に疑いを向けるためにワザとカギを紛失させたってことか?」
「ち、違う! そこまでしてない!!」
ん? そこまで?
「その通り、伊達さんはそこまでやってないんです。いいですか、この2人の嫌がらせはこの2人の間だけで完結しているんです。当然ですよね、もしこの嫌がらせが合唱部に迷惑をかけるという事はつまり、合唱部で熱心に活動している守谷さんに迷惑をかけることになるんです。それは守谷さんの下僕である2人にとって絶対に避けるべきことなんです」
そして桐花は屋上の入り口に移動した。
「私の推測では伊達さんが仕掛けた嫌がらせはこう、まず誰にもバレないようにカギを屋上から移動させます」
「やっぱ伊達が紛失させてんじゃん」
「最後まで聞いてください、先ほども言ったように伊達さんにカギを紛失させて合唱部に迷惑をかける気は一切ないんです。ただ純粋に飛田さんに嫌がらせがしたいだけなんです」
……純粋に嫌がらせがしたいだけ。すごい言葉だな。
「当然飛田さんは無くなったカギを必死に探すでしょう、しかしカギは屋上にないから見つかるはずもありません。探し尽くしても見つからなくて屋上を出ようとします。そして、」
桐花は屋上の扉を開けた。
「……そして扉を開けるとそこには部室のカギが置いてある、おそらくこれが伊達さんが仕掛けた嫌がらせです」
う、うぜえ……! それやられたら絶対ムカつく。
「で、でもそんな所にカギなんてありませんでしたよ!」
飛田は必死になって否定する。
「はい、実際には飛田さんが屋上から出るときカギは無かったんです。事実カギは落し物コーナーにあった。ではなぜここからカギが消えたのか? その答えはここからカギを持ち去った人物がいる、です。……あの日、合唱部以外にこの屋上を訪れた人がいます。」
「……おい」
「そうです! 屋上からカギが無くなった理由、それは合唱部顧問の清水先生です!!」
「またかっ!!」
どんだけ事態をややこしくしてんだあの先生!!
「あの日ここに訪れた清水先生は落ちているカギを拾いました、ですが清水先生にはこれがカギだと思わなかった。当然です! 顧問の清水先生は自分で合唱部のカギを持っています、清水先生にとってこのカギは馴染みがないものなんです。知らない人から見ればこれはただのぬいぐるみです。清水先生はこれを屋上でランチをとった女子生徒の物だと思い落し物コーナーに持って行ったんでしょう」
「以上、これが事件の真相です」
「君!! 僕をはめようとしましたね!!」
「お前が先に仕掛けてきたんじゃねか!!」
真相がわかった途端、2人はこれまでにないくらいの熱量で揉め出した。
「やっぱりこうなりましたか」
「本当にどうしようもねえなこいつら」
心配していた通りのことが起きてしまった。杉原部長はなんとかすると言っていたが、正直これはなんとかできるようなものではないな。
「前から気に入らなかったんだよ! スカした態度でエリカ様に近づきやがって!!」
「こっちこそ! 君のその軽いノリが大嫌いでした!!」
2人はどんどんヒートアップしている、今にも殴り合いになりそうだ。……まあ勝手にやってくれればいいが。
「ちくしょう! 清水先生さえいなければこんなことには」
「……そうです、先生のせいでエリカ様にご迷惑を」
なっ! こいつら自分のことを棚に上げて先生のせいにするつもりか!
「てめえら!いい加減に……」
「いい加減にしないかーーーーーー!!!!!!」
ここにきて、これまで無言だった部長がキレた。
「君たちのくだらない争いのせいで合唱部がどれだけ迷惑をかけられたと思ってるんだっ!! 挙げ句の果てに清水先生がいなければだって?! 先生がいなかったら合唱部はとっくの昔に終わっていたんだぞ!!」
さ、さすが合唱部部長、とんでもない声量だ。まるで目の前で雷が落ちたかのようだ。
「あの人が普段からどれだけ僕たちのことを気にかけてくれていると思っているんだ! ……もう怒った!! 来るんだ! これから部室でたっぷりとお説教してやる!!」
「はっ、はいっ!」
「う、うううううす!」
怒りで全身を真っ赤に染めた部長は、対照的に真っ青な顔した2人を連れて屋上から去って行った。
めちゃくちゃ怖かった。あの温厚そうな部長さんがあんなに怖くなるなんて……本当に第一印象なんてあてにならない。
「あー、とりあえず部長さんに任せておけば大丈夫そうだな。良かったな解決して。」
めでたしめでたしだ。
しかし桐花は首を横に振る。
「いえ、実は個人的にはここからが本題です。ねえ、守谷さん」




