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「……何故だ、大木?お前と小泉はいつも一緒にいる親友で、お互いを高め合えるライバルじゃなかったのか? 何故!」
「……ライバルなんかじゃないです。あたしなんかよりカナの方がずっとバスケの腕は上です」
部長の問いかけに答える大木は、懺悔するかのようだった。
「最初あたしもそう思っていました。お互い同じぐらいの腕前で同じくらいバスケが好きだった。でも、カナはあたしを置いてどんどん上手くなっていった。追いつけるようどれだけ頑張っても、差が縮まるどころか広がっていくのが身にしみてわかるんです」
「それだけじゃない、桐花さんの言った通り最近になってシューズが合わなくなってきたんです。あたし、兄弟がたくさんいて、生活がそんなに楽じゃないのにお父さんとお母さんに私立の学園でバスケやらせてもらって、入学祝いでシューズもバッグも買ってもらったばかりなのに、新しいの買って欲しいなんて言えなくて、ずっと我慢してた」
「最近、バスケをするのが辛いんです。全然上手くならないし、足は痛いし、そのせいで練習に集中できなくて……そんな時に間違えてカナのロッカーを開けちゃって、いつもカナが自慢してるストラップを見たら頭ん中ぐちゃぐちゃになって気がついたら……」
大木は今にも泣き出しそうだ。今まで溜め込んでいたものが溢れそうになっている。
しかしここである疑問が俺の頭に浮かんだ。
「なあ、桐花。リストバンドが盗まれた時って、大木病院行ってて部活来てないよな?」
そう、膝の痛みを訴えていた大木は病院に行ってて、昨日の練習には来ていなかった。
「……え? リストバンドって?」
大木は何のことかわからないといった顔でこちらを見ている、とぼけているようには見えない。
「それは簡単です。小泉さん、リストバンドが盗まれっていうのは嘘ですよね」
「嘘っ?」
嘘って、あの騒ぎは小泉の狂言だってことか?
「そもそも、先程トリックはかなり雑なものです。運の要素も強い、隣のロッカーの人が途中で入ってきたらアウトですからね。おそらく私たちを警戒して、急ごしらえで考えたものなんだと思います。実際に決定的なミスが1つありました」
「ミス?」
なんのことだ?
「制服のサイズです。どちらかといえば小柄な小泉さんと、長身の大木さんとでは一目みてわかるほどの違いがあります」
にもかかわらずトリックは成功した。つまり、小泉はロッカーの入れ替わりに気づいていたにもかかわらず大木のトリックに乗ったっていうことか?
「最初から不思議だったんです。女子の更衣室で盗難騒ぎなんてあったら普通警察沙汰です。実際に部長さんは警察に届けようとしたそうですが、小泉さんが止めて私たちに相談しようって言ったそうですね。
小泉さん、あなた最初から犯人が大木さんだって知ってたんじゃないですか?」
「え? どういう……」
桐花の推理に大木は完全に混乱している。
俺も何が何やらわからなくなってきた。
「私たちに相談して部活を監視してもらうことで、危機感を覚えた大木さんがこっそりストラップを返してくれることを期待してたのではないのでしょうか? でも、大木さんがが罪を重ねてしまったことで、大木さんに疑いがいかないように、彼女がいない時を狙ってリストバンドが盗まれたと主張した。
小泉さんは、大木さんを庇ったんです」
「……。」
何も言わない小泉の顔を大木は呆然と見ていた。
「……なんで?」
震える大木の言葉には様々な疑問が込められていた。
なんでわかったの?
なんでかばったの?
その疑問の答えは驚くほど簡潔だった。
「……だって、アカネは私の親友だから。」
「やめてっっ!!」
悲痛な叫び。
ここにきて大木がずっとこらえていた涙が溢れ出した。
「あたしカナの大切にしてたストラップ盗んだんだよ! ストーカーに狙われてるかしれないって、カナを怖がらせたんだよ!」
大木はまるで、許されることに恐れているかのようであった。
「ストラップを取った時初めてわかった。あたしよりバスケが上手くて、可愛くて、恋人のいるカナが羨ましかったんだって! あたし、カナに嫉妬していたんだって!! こんなあたしに……親友なんて言われる資格なんてない……」
そのまま大木は崩れ落ちた。顔を手で覆い、泣き続けている。
……違う、大木の考えは間違っている。
「……親友であることに資格なんていらないだろ。嫉妬していたってことはさ、相手の凄いところをよくわかってる証拠だろ」
俺には桐花のような推理力もないし、女心なんて全然わからないけど、それでもこの数日間彼女たちを見て来て彼女たちの間にあるのは、嫉妬の感情とかそんなドロドロしたものでない事はわかっている。
「大木お前さ、ストラップ売らずにもってるんじゃないか?」
それにはなんの根拠も証拠もないけど、確信を持って言えた。
「……うん」
大木はポケットからストラップを取り出し小泉に渡した。
「……カナごめん、ストラップ取って、親友なのに……ごめん」
「もういいよアカネ、私最初から怒ってないよ」
大木はそのまま、小泉に抱きつき子供みたいにワンワン泣いた。小泉も大木を抱きしめ、静かに涙を流している。
「部長、お願いです。この事は誰にも言わないでください。アカネのことも責めないでください」
「……お前たちがそれでいいなら構わない。しかし、他の部員たちはどうする? 不審者の影に怯えている彼女たちに、なんて説明する?」
部長は苦い顔をしている。
無理もないだろう、騒ぎが大きくなりすぎた。
犯人不在のままでは、事件が解決したと言っても信じてもらえない。
「それは……」
「ふふふ、そこもしっかり考えていますよ」
桐花はここでまた不敵に笑った。
「アフターサービスも恋愛探偵、桐花 咲にお任せあれです!」
タイトルを変更したらビックリするぐらいpvが増えてビビってます。
これからも皆さんよろしくお願いします。




