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 大木も、小泉も、部長も無言だった。


 俺も信じられない思いだった、まさか大木が親友の大切にしていたストラップを?金の為に?


「桐花、おかしくないか? カバンの中には金の入った財布もあったんだろ? わざわざプレミアが付いているストラップなんか取らなくても、足のつかない現金をそのまま取った方がバレにくいじゃないのか?」

「さすが女子バスケ部の全員を自分の物にしようとしているチンピラは違いますね、発想が下衆で合理的です」

「てめえが流した噂だろうが!!」

「いいですか、大木さんはそこのチンピラと違って一般的な感性を持った女の子です。財布の中のお金を盗むのと、レア物とはいえただのストラップを盗むのでは、感じる罪悪感が違います」

「でもそんなの結局……」


 同じことじゃないか、とは言えなかった。


 大木がこれまで見たことがないくらい青ざめ、震えているのを見てしまったから。


 まさか、本当に……


「……確かに、あたしにはお金が必要。でも、そんなの誰だってそうでしょう! あたし以外にもストラップを盗むことができる部員は他にもいた! あたしは犯人じゃない!!」


 顔を青ざめさせながらも、大木は必死に否定する。


「確かにストラップを盗むことは誰にでもできたかもしれません、タオルの件もそうです。しかし、水筒を盗むことができたのはあなただけです」

「どうして! カナの水筒が盗まれた時、あたしはカナとずっと一緒にいた! 他の部員ならまだしも、あたしにそんなことはできない!」

「できます、あるトリックを使えば」


 トリック?


「今からそれを証明してみせます」



「吉岡さん、ちょっとここにきてもらえますか」

 

 桐花からお呼びがかかった。ここにきてようやく俺の出番がきたらしい。


「小泉さんのロッカーを見てください、何かおかしな点はありませんか?」


 おかしな点も何も、どこからどう見ても普通のロッカーだ。


 扉には他の物と比べても変わっているところはない。唯一、ロッカーの所有者の証である「小泉 加奈」と書かれたマグネットシールが他と違う点だ。


「右隣のこのロッカーが大木さんの物です」


 扉には同じく「大木 茜」と書かれたマグネットシールが貼ってある。


「吉岡さん、ロッカーを開けてください」

「えっ! い、いいのか!?男子の俺が女子のロッカーを!?」

「いいからさっさと開けてください」


 桐花に促され俺はロッカーに手をかけた。いかん、緊張で手が震える。


「ロッカーの中はどうですか?吉岡さん」

「いい匂いがする」

「そろそろ怒りますよ?」


 ロッカーの中には上の棚から、ペットボトルの水、ハンガーに掛けられた制服、そして学校指定の鞄が置いてあった。


「ん? これお前の制服と鞄か?」

「はい、事件の時のロッカーの中の様子を再現しました」


 なるほど、だからジャージ姿だったのか。


 ということは、このペットボトルが水筒、鞄がスポーツバッグの代わりという訳ね。


「では、今から私と吉岡さんでトリックを再現します。私が大木さんの役をやるので、吉岡さんは小泉さん役で水筒の水を飲むところから始めてください」

「ああ、わかった」


 そう言って俺はロッカーの中のペットボトルを取り出し水を飲んだ。


「練習疲れたわね、カナ」


 大木の口調をマネたのだろうか、桐花が俺に声をかけた。


 ん? カナ? ……ああ、成る程、そういう感じでいくのか。


「うん、でも大会が近いんだから頑張らなきゃ!」

「そうね、お互い頑張りましょう。あっカナ、ロッカーの扉閉めてくれなきゃあたしのロッカーが開けられないわ」


 確かに開けたロッカーの扉が大木のロッカーを塞いでしまっている。俺はロッカーを閉めると


「いっけなーーい! 私ったらドジなんだから♡ゴメンねアカネ!」

「ふふ、いいわよ気をつけてくれれば。それよりあそこのベンチに座って少し喋らない?」

「わーい! 私お喋り大好き!! 何お話する?」


 そう言って私は水筒を持ったまま中央に置いてあるベンチに腰をかけた。


「最近、彼氏とはどう?」

「ラブラブだよ♡普段お互い部活で会えないけど、離れてていても心は繋がっているから寂しくないの」

「羨ましいわね、陸上部の大会はいつ? 応援に行くの?」

「……ううん、その日はバスケ部の練習がある日だから行けないの……でも、お互いに全国に行けるように頑張ろうって約束したから大丈夫!!」

「じゃあ、もっと頑張らないと行けないわね。……そろそろ紅白戦ね、戻りましょうカナ」

「うん★」


 そう言って私は自分のロッカーに水筒を置き、更衣室の外に出る。


 頑張ろう。2人で絶対に全国に行くんだ!




「……はい!お疲れ様でーす。もういいですよ」

「……吉岡さん……いまのが私のつもりですか?」


 小泉がコメカミをピクつかせている。


 うーん、個人的は会心の出来だったんだかお気に召さなかったらしい。


「じゃあ吉岡さん、ペットボトルはどこに置きましたか?」

「どこって、普通に小泉のロッカーの中だよ」

「ちゃんとあるか確かめてください」


 ? 変なことを言うな、あるに決まってるだろ。


  そう思いながらロッカーをあけると、・・・あれ?


「ない! 私の水筒がなくなってるわ!!」

「吉岡さん、カナはもういいです」


 ロッカーの中にペットボトルはなかった。


「なんで? 俺間違いなくこのロッカーにいれたぞ!?」


 ほぼ同じタイミングで更衣室から出た桐花にペットボトルを取ることなんてできなかったはずだ。一体どうやって?


「吉岡さんがペットボトルを入れたのは小泉さんのロッカーではありません。この、大木さんのロッカーです」


 そう言うと大木のロッカーを開けた。


「なんだこれ?」


 大木のロッカーの中は小泉のロッカーの中と全く同じ配置だった。同じ制服に、同じ鞄。そして上の棚には俺が口をつけたペットボトルが置いてあった。


「トリックは簡単です。小泉さんが水筒を取り出しロッカーの扉を閉めた段階で扉についているマグネットシールを1つ横にずらすだけ。

外観が全く同じロッカーがこれだけ並んでいれば自分のロッカーの位置が1つズレていても気づきません。先ほどのやりとりはイメージですがおそらく同じような感じで小泉さんを自分のロッカーの前から引き離し、隙を見てシールを入れ替えロッカーの位置を誤認させたのです。

自分の物だと判断する材料は扉についている名前の書いてあるマグネットシールと中に置いてある自分の私物だけです」


 確かに簡単なトリックだ。扉に貼ってあるシールを移動させるだけなら水筒を盗み出すより気づかれる危険性は低い。


「このトリックを成功させるには2つのポイントがあります。1つは小泉さん、大木さんの近くのロッカーを使っている人が更衣室内にいないこと。もしいればズレていることがバレてしまいますからね。

大木さん、あなたはそのタイミングを見計らって小泉さんを水分補給に誘った。だから、部員には誰も水筒を盗むことができない状況が出来上がってしまったんです」


 そうだこの直後に紅白戦があり、誰にも更衣室内で1人になり水筒を盗むことが不可能な状況になった。


 タイミングを少しでもずらす事が出来れば他の部員にも盗むことが出来るという言い訳が作れただろう。


「そしてもう1つのポイントは当然、小泉さんがロッカーを開けたとき、そのロッカーが自分の物であると誤認させることができるように、自身のロッカー内の私物を小泉さんの物と全く同じものする必要があるということ。それができるのは、お揃いのスポーツバッグを持つ大木さん、あなたしかいないんです」


本日二話目となります。


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