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翌日、俺は変わらず部活中の女子バスケ部を見ていた。
昨日水筒の盗難騒ぎあった直後はそりゃあ大変だった、部長が何がなんでも警察に通報するべきだと大騒ぎだった。しかし何か考えがあるらしい桐花の説得と、大ごとにはしたくないという被害者である小泉の言葉で渋々と矛を収めた。そして部員たちには口外しないように徹底してもらい、いつも通りの部活を続けている。
当然そんな状況でいつも通りの雰囲気で部活ができるはずがなく、バスケ部にはピリピリとした嫌な空気が流れている。
「……嫌な感じだよ本当に」
なんと言うか、自分が情けなかった。
新たに起きた犯行、桐花の言う通り新しい手がかりとなるこの犯行は、犯人探しをしている俺たちにとって歓迎すべきものなのかもしれない。
でもやるせい。
昨日の青ざめた小泉の表情が頭から離れない。
何かに怯える様子で練習に取り組む女子部員を見ると胸が痛む。
あのとき俺はすぐそばにいたのだ。もっとうまいこと立ち回っていたら、犯人を取っ捕まえて一件落着、なんてこともあり得たかもしれない。
「……ちくしょう」
犯人と自分自身への苛立ちが口から勝手に出て来てしまう。
「そんな怖い顔して、また変な噂が流れても知りませんよ?」
そんな俺を茶化すような口ぶりで、桐花は現れた。
「桐花……調査ってのはもういいのか?」
ここしばらくそればっかだったからな。
「ええ、お陰さまで」
「そうか」
詳しくは聞かない。
何を調べているのか知らないがこいつのことだ、きっと事件解決に必要なことなんだろう。
桐花は俺がつけていた更衣室の出入りの記録を受け取り、読み始めた。
「ふむふむ、最後に小泉さんが水筒を確認したのは紅白戦前の休憩中のとき、その時更衣室には親友の大木さんを含め何人か部員がいますね。そして小泉さんが更衣室から出てきてから紅白戦の途中の休憩まで、更衣室に出入りする人物はいなかったと」
確かあの時は大木が小泉に水分補給するように言って、更衣室に行ったんだっけな。
そして休憩がちょうど終わるタイミングで更衣室から出て来た。
誰がどの順番で更衣室を出入りしたのかは全て記録してある。我ながら勤勉だとは思うが・・・・
「……なあ、もしかしてバスケ部の部員も疑ってるのか?」
「可能性はあります」
やっぱりか……
なんとなく気づいてはいたさ、桐花は決して無駄な事はしない。
俺にこの記録を取らせたことにもきっと何か考えがあってのことだろう。……だけど。
「……そりゃ無理だ。小泉が更衣室から出てきたとき、他の部員もほとんど同じタイミングで出てきたんだぞ、次の休憩も小泉が更衣室に入ったタイミングは他の部員と変わらない。そんな状況で誰にも気づかれずに人のロッカーから水筒を盗み出すなんて不可能だ。これは明らかに外から侵入して来た奴の犯行だろ」
窓の鍵はまだ変えられていない。桐花が見せた方法を使って鍵を開けて侵入した。そう考えるのが普通だ。
「あの時、ロッカーから水筒を盗み出すのは不可能……」
桐花はこめかみの辺りを指で軽く叩きながら考え込んでいる。
「うーーん、もうちょっとな気がするんですよね」
「何が?」
「……こう、なんと言うんですか?喉のこの辺りまで言葉が来ているのに、上手く出て来てくれないと言いますか……」
「おいおい、犯人が分かったのか?」
「いえ、もう一押し欲しいんですよ。何かの衝撃でポンっと出て来そうな気がするんですけど・・・・私の頭軽く叩いてくれません?」
「女子の頭を叩くなんて非紳士的な事するわけないだろ!!」
「どの口が言うんですか 」
その時だった、更衣室から昨日と同じようなざわつきが聞こえて来た。
「おい嘘だろ? 昨日の今日だぞ!」
立ち上がり更衣室に近づけば、中からは恐怖による悲鳴、憤る声が聞こえて来た。
小泉がターゲットになっているとはいえ、女子バスケ部を狙った変質者がいると言う事実がパニックを引き起こしているようだ。
中野部長が必死に落ち着けようとしているようだが効果はない。
「ああクッソ……!!」
自分の不甲斐なさにヘドが出そうだ。
「桐花! 早くなんとかしねえとまずいぞ!」
もう小泉のストラップがどうこう言ってる場合じゃない。このままだと部活全体の危機だ。
「後一押しが欲しいってんなら、俺がいっちょぶっ叩いて……」
「その必要はありませんよ」
桐花はこんな状況なのに不敵に笑っている。
「なんだ……そんな事でしたか。フフフ、今確信しました。犯人が誰なのか、どう言う手口で盗みを行ったのか」
「謎は全て解けました!!」
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