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 更衣室を調べてから何日か過ぎた、桐花は調べ物があるらしく1人で行動している。その間、俺は桐花の指示で、女子バスケ部が部活中、更衣室に不審な人物が近づかないか体育館の中で監視していた。


 正直なところ、俺がいる意味があるのかどうかわからない。桐花が指摘した通り更衣室の出入り口に部員でも無い人間が近づけば部活に集中している部員でも気づくだろう。そんな危険を侵すような奴がいるとは思えない、それよりも侵入される可能性が高い体育館裏の窓の前で見張っていた方が事件の抑止になるのではないかと思う。


 そのことを桐花に言ったところ


『いいですか吉岡さん、私たちの目的は次の犯行を防ぐことではなく犯人を特定し、ストラップを取り返すことです。手がかりが何もない今、犯人には次の犯行を行ってもらう必要があります。それに、犯人は窓からこないと思いますよ』


 彼女はそう言い、俺に監視と共に、なぜか更衣室に部員の誰がどのタイミングで入ったかを記録するように命じた。


 桐花にどういう意図があるかわからないが、俺は命じられたことを忠実に守り続け、今日も体育館特有の、解放された大きな鉄扉の前で監視を続けている。


 監視当初は校内一の不良という不名誉な呼び名を持つ俺に部員の多くが怯えながら練習を行なっていたが、何日かすれば俺がただそこにいるだけの無害な人間であることが徐々にわかってきたらしく今では休憩中に俺に話しかけくる部員も少ないながらも出てきた。


「今日も熱心ね」


 彼女もその1人、小泉と一緒にお揃いのスポーツバッグで写真に写っていた長身の女子、大木 茜だ。


「まあ、事件の解決のためだな。桐花にサボるなって釘を刺されてるし」

「前から疑問だったけど、恋愛探偵で有名な桐花さんとあなたみたいなチンピラがどうして一緒にいるの?」

「誰がチンピラだ」

「ふふっ、冗談よ」


 女子とこんな軽口が叩けるようになるなんて信じられなかったな、この依頼、受けてよかった。


「でも本当に不思議な組み合わせね、接点なさそうだし。……もしかして付き合ってる?」

「いやまさか、あいつとは……」

「どちらかといえば主従関係に近いですね!」

「適当ぬかしてんじゃねえ!」


 いつのまにか桐花が隣にいた。


「調べものってのは終わったのか?」

「ええ、大体は。それより吉岡さん、もう少し詰めてください」


 そう言って桐花は俺の体を鉄扉の前にググッと押しやった。


「いや、ここ暑いんだけど」


 今は6月、風が入ってくるとはいえ、ちょうど日光が指すこの場所にいるのはなかなかキツいものがある。


「というか、わざわざ俺を押しのけなくても場所あるだろ」

「何言ってるんですか、依頼を受けたとはいえ私たちは部活にお邪魔させてもらってる身、隅っこでおとなしくしてたほうがいいんです」


 そんなもんかね。


「本当に仲がいいんですね」


 俺たちのやりとりを見てた小泉がそう言って、少し笑いながら近づいてきた。


「いえいえ、小泉さんと大木さんの仲には負けますよ」


 確かにこの2人はかなり仲がいい、写真に写っていたスポーツバッグだけでなく、シューズやリストバンドまでお揃いだ。


「中学の時からお友達なんですか?」

「いいえ、あたしとカナは高校から。クラスが一緒で席も近かったし、同じバスケ部に入るってことで意気投合してね」

「ふふ、その時から大の親友同士なんです。私たち」

「やめてよ、人前でそんな恥ずかしいセリフ」


 大木は少し困ったような顔をしてそう言った。


「ほら、そろそろ紅白戦始まるから水分補給しに行くわよ」

「うん、それよりアカネ、膝大丈夫?ずっと痛そうにしてるけど?」

「うーん、明日病院に行こうかしら」

「大丈夫?一緒に行く?」

「子供じゃないんだから1人で平気よ」


 そんなやりとりをしながら2人は更衣室に向かって行った。……本当に仲良いなあの2人。


「友達のいない吉岡さんには羨ましくて仕方ないんじゃないですか?」

「失礼な、少ないけどちゃんといるわ」


 タケルとか、タケルとか……タケルとか。


「えーー?最近ご一緒している所見ませんよ?」

「……しゃーねえだろ。九条がいるし」


 あの薄情物のゴリラの中で大切なものは


 彼女>柔道>>>>>>>>>>>>>俺


 みたいな位置づけだろう。


 最近は休み時間から部活中、さらに部活後や部活のない休日まで、入り込む隙もないほどベッタリだからな。

 

「オメーはどうなんだよ?友達がいるなんて聞いた事ねえぞ」


 恋愛中毒者(ジャンキー)としてのこいつの悪名は俺以上のものだ。そんなヤツと友達になりたい奇特な人間なんているのか?


「失礼な! ちゃんといますよ! 体育の準備運動とか、授業のグループワークでいつも一緒になるミキちゃんって子が!!」

「……それ本当に友達?」


 なんてくだらないやりとりをしながら俺たちはバスケ部の紅白戦の様子を見ていた。流石に強豪校のチームだけあって紅白戦でもかなりの迫力がある。なりより、女子が汗を流しスポーツに励む様は見ているだけで目の保養になる。


 ……いますっげえ揺れた。


「吉岡さん、鼻の下が伸びています」

「おっと」


 いかんいかん、俺には女生徒を脅かす犯人を捕まえるという崇高な使命があるのだ。


「第1クウォーター終了! 2分後に再開します!」


 終了の合図ともに部員たちは水分補給のために更衣室にぞろぞろと入っていった。やばい、あんなに一気に入られるとメモを取るのが大変だ。


「しかし水飲むのにわざわざ更衣室まで行かなきゃならないってのは、なかなかめんどくさいな」

「昔は壁の方に置いてたらしいですけど、ボールがぶつかって床がびしゃびしゃになることが何回もあったからできたルールだそうですよ」

「まあ、あんだけ激しい練習してたらなー……おい、なんか騒がしくないか?」


 女子更衣室がざわついている。すると、青ざめた顔の小泉が近づいてきて、


「……桐花さん、更衣室の窓が開いてて、それで、私の水筒が……」


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