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 晴嵐学園第三体育館、この体育館は10年以上前に当時から強豪であったバスケットボール部のためだけに建てられた体育館であり、現在でも共に全国大会常連である男子バスケットボール部、女子バスケットボール部のみが使用している。


 そのため体育館に直接繋がっている更衣室も一部活とは思えないほどに広く、なんと50人近い女子部員全員にそれぞれロッカーが与えられているという。


 小泉から相談を受けて次の日の放課後、俺と桐花は現場を調べていた。


「まさかこんなに更衣室がデカイとは思わなかったな」

「いや、吉岡さん何普通に入ってきてるんですか? ここ女子更衣室ですよ」


 何を言っているのやら、事件捜査の基本は現場百回だ。


 しかし本当に広いな、形だけなら曇りガラスの窓に中心に置かれている長椅子など、普通の部室と変わらないが規模が違いすぎる。ずらりと並んだロッカーなど壮観だ。


 今日は俺たちが現場を調べるということで部活は少し早めに終わらせ、部員たちはもう帰ったらしい。


 更衣室内には部活終わり特有の汗の匂いや制汗剤の匂いが立ち込めている。女子がいた空間というだけで男子更衣室よりも空気が甘い感じがするのは気のせいだろうか?


「……吉岡さん、なんで深呼吸してるんですか?」

「脳に酸素を送ってるんだよ」


 桐花の声が引き気味なのは気のせいだろう。


 今この空間には俺と桐花、責任者として女子バスケ部の中野部長がいる。


「君が桐花さんだね、よろしく頼むよ」


 そう言って部長は桐花の手を握って上下にブンブンと激しくふった。


「うちの可愛い後輩の私物が盗まれたんだ、犯人を必ず捕まえてとっちめてやってくれ! ……いや、むしろ私が制裁を加えてやるから捕まえたら私のところに引きずってきてくれたまえ!」

「は、はい、ガンバリマス」


 部長のあまりの熱量に桐花が珍しく押されている、上下する手がそろそろ痛そうだ。


「……えーっと、部長さん、普段更衣室に入ることができるのはだれですか?」

「当然女子バスケ部の部員だけだ、カギは私が持っているものと職員室の物が2つ、もちろんどちらもしっかりと管理されている。ただ……」


桐花の質問に軽くため息をつきながら部長は続けた。


「部活中はカギをかけていないんだ。うちの部のルールで体育館内に飲み物を持ち込んではいけなくてね、水分補給をするときは更衣室内でしなければならないんだ」


「うーん、でも部活中に関係のない人が更衣室に入ろうとしたら誰か気づきますよね?」


 桐花の言う通り、この更衣室唯一の出入り口は体育館に直接繋がっている。更衣室に入るためには部活中の数十人の部員の目をかいくぐらなければならい、そんなことは不可能に近いだろう。


 その指摘を受けた中野部長は決まりが悪そうに、


「……いや……その、実はそこの窓も普段換気のために部活中開けてるんだ」

「防犯意識がザルすぎんだろ」


 思わずタメ口でツッコンでしまった。


 窓の外は体育館裏の目立たない空間になっている。曇りガラスでできたこの窓はかなり大きい、誰にも気づかれず窓から侵入することなんて簡単だ。


「もちろん最初のストラップが盗まれた後は窓のカギをかけるようにしたぞ! だが、タオルが盗まれたときは何故か開いていたんだ!」


 カギをかけたのに開いていた? 犯人はどうやってカギを開けて侵入したんだ?


「こんなに古い窓なら簡単に開けられますよ」


 桐花はそう言うと、窓をガタガタと揺らし始めた。


 するとカギが少しずつ倒れ、ものの1分もしないうちに開けらてしまった。


「なっ!」


 あまりにもあっさりと開いてしまった窓を見て部長は絶句している。


「流石にこの窓は取り替えた方がいいですね」

「……ああ、顧問に頼んでみるよ……」


 こうなるとこの更衣室に忍び込んでロッカーをあさるなんて誰にでもできるな。名門女子バスケ部がこれでいいのか。


「完全に私の落ち度だ、最初、あんなに貴重なものが盗まれた時点で警察に、少なくとも教師達に報告するべきだった」

「貴重なものって、ただのストラップっすよね?」

「あのストラップ、今じゃプレミアがついててネットオークションに出せば1万円はくだらないそうですよ」

「1万ッ!?」


 あんなしょぼくれたおっさんのストラップにそんな価値が!? 現実のおっさんにだってそんな価値は無いぞ!


「たかだかストラップ風情が! 2頭身になった程度で女子高生にチヤホヤされるなんて、何様のつもりだ!!」

「たかだかストラップに嫉妬しないでください」


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