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 生徒数が千人を超える我らが私立晴嵐学園は、その母数の大きさからか個性的すぎる生徒が多数いることで有名だ。


 そして今年入学した1年生もなかなかの粒揃いであり、常識的な教員の皆様を戦々恐々とさせている。


 その一人が俺、吉岡 アツシである。


 髪を金色に染めているなど、外見が少々チンピラっぽいことを除けばどこにでもいる普通の男子高校生だと自負しているのが、周りの人間はそう思ってはくれず、学園一の不良として認知されてしまった。


 しかし俺以上に危険視されている女がいる。


 その女こそが、柔道部の部員全員を舎弟にしたと噂されている俺以上の危険因子、スイッチの入った爆弾女、近づくな逃げろ、


 桐花 咲。


 この女の何がヤバイって、人の恋愛事にかける情熱と行動力が度を超えていることだ。


 ラブコメの波動を感じるや否や、たとえ火の中水の中、違法スレスレの活動もなんのその、とにかく首を突っ込みたがるのである。

 

 最近は調査という名目で、学園近くにある定番のデートスポットとなっているオシャレなカフェに、小遣いがすっからかんになるまで出入りしていたそうだ。


 そしてさらに自分の欲求を満たすために、部室連の一角に人生相談部なる部活を立ち上げ、向こうから恋愛に関する相談がやってくるように画策し始めた。


 こんな変人に相談を持ち込むやつはいないだろうと思いきや、なんやかんやで依頼者はぼちぼちとおとずれており、青少年たちにとって青春と恋愛は切ってもきれない関係であると再認識させられる。


 そして今日も、桐花の餌食となってしまう哀れな相談者が部室に訪れていた。





「ふむ、恋人からプレゼントされたストラップが盗まれたと」


 相談者である女生徒を前にした桐花は、口元に手を当ててクールにそう言った。


……最近気づいたことだが、どうやら彼女のそのポーズは口元がにやけているのを隠すために行っているようだ。


 カモがネギ背負ってやって来たのだから嬉しくてたまらないのだろう、俺の位置からは上がった口角が良く見える。


「はい、多分部活中に取られたんだと思います」


 相談者は女子バスケットボール部の1年、小泉加奈


 髪をポニーテールにまとめた活発そうなスポーツ少女だ。


「盗まれたストラップってどんなストラップなんだ?」


 俺がそう質問すると、小泉はビクリっと肩を震わせた。


 ……あれ?なんだこの反応?


「もー、ダメですよ吉岡さん。いたいけな女子生徒を怖がらせちゃ。この学園に流れている吉岡さんの悪名を忘れちゃったんですか?」

「うるせえ、全部デタラメだ」


 そうデタラメなんだ。だがなぜか俺の預かり知らぬところで全く身に覚えのない悪名や噂が広がり、日に日に肩身が狭くなってしまうのだ。


 俺に怯える小泉を安心させるためか、桐花はいつもより優しい声色で声をかけた。


「大丈夫ですよ、吉岡さんはそんなに怖い人じゃありません。チンピラっぽいのは外見と、言動と、性格だけですから」

「全部じゃん」


 フォローする気ゼロかこの女。


 当然そんな言葉で安心できるはずもなく、小泉は時折警戒するようにこちらをチラ見してくる。


「えっと……ストラップですよね、彼がコンビニのクジで当てたものです。結構レアな物らしいんですけど、私あまり詳しくなくて、……でも! すごい可愛いんですよ! 私一目で気に入っちゃって、ずっと部活用の鞄につけていたんです」


 ほら、と言って小泉はスマホで写真を見せてきた。


 写真には小泉ともう一人背の高い女子がお揃いのスポーツバッグを担ぎ笑顔を見せていた。


 小泉のバッグには小さくだが、しっかりとキャラ物のストラップが写っていた。が……


「……可愛いか?これ」


 写っていたのは変なおっさんのストラップだった。


 ブランコに座り、疲れた顔で俯いている2頭身のおっさん。その顔はしっかりデフォルメされているはずなのに、妙にリアルな哀愁を漂わせている。


 ……見ていると心がざわつくと言うか、変に不安な気持ちになる。他人事ではない、将来の自分の姿を見ているようで。


「可愛いじゃないですか! この頭のバーコードの具合とか、なんとも言えないこの表情とか!」


 熱弁されるが、ダメだ全くわからん。


「これは”悲壮おっさん“シリーズのストラップですね。現代社会の荒波にもまれ疲れ果てた中年男性をモデルにした物で、現在女子高生を中心に大ブームとなっています」

「マジかよ」


 最近の女子高生って一体……



 小泉の話によれば、このストラップが盗まれたのは3日前、部活中のことだそうだ。


 更衣室のロッカーにストラップのついた鞄に入れ、いつもどおり練習に励み帰るときに無くなっているのに気づいたらしい。


 ロッカーに入れるときにストラップが付いている事はしっかりと確認しているし、部員には彼氏のプレゼントであると自慢していたので、落としたとか、誰かが間違えて持ち帰ったと言う可能性はないそうだ。


「無くなっていたのはこのストラップだけですか?」

「はいこの日は。鞄には1万円ぐらい入った財布も入れてたんですけど無事でした」


 ストラップだけを狙った犯行か。なんでこんな妙なもんを欲しがるのかね?


「ん?この日は?別の日に何か取られたんですか?」

「はい、昨日のことです」

「今度は何を?」

「ええと……その……」


 小泉の歯切れが悪くなったが。


「タオルです……部活中に使っていた……」


 少し恥ずかしそうに告白した。


 じょ、女子の使用済みのタオルを盗むなんて……しかも小泉のものだけを狙ったと言う事は……


「それって、悪質なストーカーなんじゃねえか?」


 思った事を口に出した瞬間後悔した。小泉が顔をうつむかせてしまったのだ。


 女子にとってストーカーに狙われている状況なんて怖いに決まっている。


「なるほど、つまり私たちにそのストーカーを突き止めて欲しいと言う事ですね?」

「はい、それにストラップを返してもらいたいんです。愛着があるし、何よりも彼が初めてプレゼントしてくれた物だから」


 お願いします。と小泉は頭を下げた。


 それを見た桐花は立ち上がり、


「心中お察しします小泉さん。女子バスケ部に所属しているあなたと、陸上部の彼氏さんとでは会える時間に限りがあるでしょう。そんな彼氏さんからプレゼントを盗むなんて絶対に許せません!」

「……あの、なんで私の彼氏が陸上部だって知ってるんですか?」

「私を誰だと思っているんです! 小泉さんと彼氏さんがデートでよく行くお店から、告白したときのセリフまで全て把握しています!!」


 おおっと、今の発言で小泉の警戒の警戒のベクトルが俺から桐花に完全にシフトしたぞ。どうやらこの場において誰が一番危険な存在か、彼女にも分かったらしい。


「安心してください小泉さん、私がいるからには必ずストラップをあなたの元に返してみせましょう」


 そして桐花は胸を張り、高らかに宣言した。


「この恋愛探偵、桐花 咲にお任せあれです!」


第二章開始しました。

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