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暴走する恋愛探偵に巻き込まれたチンピラの優雅な学園生活  作者: ツネ吉
第一章ゴリラキープアシークレット
2/62

1

「出会いが欲しい」


 思わず漏れてしまった俺の願望に、目の前にいる男は箸を止め律儀に反応を返してくれた。


「……なんだいきなり?」


 小学校からの腐れ縁である男の名前は、剛力 猛 。俺以上の長身と、常人の数倍以上に膨れ上がった筋肉の持ち主である。その恵まれた体躯のおかげか、所属する柔道部では1年ながらエース候補だそうだ。


「いやなタケルよ。せっかくの高校生活なのに何が悲しくてお前みたいなむさ苦しいゴリラと2人きりで昼飯を食わなきゃならんのか、と思ってな」

「随分とご挨拶だな、チンピラが」


 今俺たちがいる場所は晴嵐学園の食堂。高校の食堂にしてはかなり広くて立派だが、さすがマンモス校と言うべきか、昼休みにはどのテーブルも埋まっているほど人でいっぱいだ。……なぜか俺たちがいるテーブルには人が寄り付かず、俺たち2人で占領しているが。


「ふっ、お前がいると昼飯を食うのが楽でいい」


 ははは、何を言ってるんだろうかこのゴリラは。


「それで、お前は恋人が欲しいのか?」

「そりゃそうだろうよ、華の高校生活だ、華が欲しいに決まってる」

「華か」


 どうもタケルはピンときてないようだ。こいつは昔から柔道一筋で、柔道が恋人みたいな男だったからな。人間の恋人なんて自分の人生に必要ないと思っているかも知れん。


「義理で聞いてやるが、どんな女子が好みなんだ?」

「どんな女子って……」


 あれ?改めて聞かれると答えに困るな。コイツとの間にこんな話題が出たことなんて無いし・・・・・そもそもコイツ以外に会話の相手はほとんどいない。考える機会なんてなかっった。


 好みの女子、好みの女子、うーーん?


「あそこにいる女子はどうだ?」


 悩んでいる俺を見かねたのか、タケルは食堂にいるある女子に視線を向けた。


「あれは……確か守谷だっけか?」


 タケルの視線の先にいたのは、1年の有名人、守谷 エリカだ。アメリカ人のハーフであるという彼女は、鮮やかな金髪の持ち主であり、美人ではあるのだが・・・・


「いやあ……俺、気が強すぎる女はちょっと」


 その美貌以上に彼女を有名にしているのは、その性格だ。入学当初、彼女の美貌に惹かれて多くの男子が声をかけた。しかしその全てを守谷は切り捨てた。話しかけられても全て無視し、それでもしつこく言い寄ってくる男には罵倒と毒舌で答えたのだ。


 当然そんなことを繰り返せば反感を買いそうなものだが、男達はその守谷の態度ににトキメキを覚えてしまったらしく、今では“エリカ様”の下僕を自称する男が急増している。彼女のクラスの半数、つまり男子全員はすでに下僕となっているそうだ。


今も守谷の周りには下僕であろう、取り巻きが群れをなしている。その存在をガン無視して食事をとる守谷は……いやはやなかなかの貫禄だ。


「守谷はないな、俺ドMじゃねえし。罵倒されてそれがイイ!なんて思える奴の気が知れねえよ」


 まして、自分から下僕を名乗るなんて、恥ずかしくないんだろうか?


「あんな感じの女子より、もっとこう・・・元気があって女の子らしい可愛さがある女子がいいな。……ああ! あんな感じの!」

「……九条か」


 俺が見つけたのは友達に囲まれ楽しそうに食事する女子、九条 真弓だ。


 ついこの前まで中学生だったとはいえ、随分と幼い顔立ち、そしておそらくこの学園で最も低い身長もあいまって、とても高校生には見えない。しかしその小動物の様な可愛さと、人懐っこい性格が男女問わず人気を集め、今でやアイドルのような扱いを受けている。


「いやー、可愛いよな、九条」


 カレー食ってるだけなのに、それでもう可愛いもん。


「頭も良いらしいしな」

「ああ、確かそれを買われて生徒会の仕事も任されているらしい」

「へー、生徒会の仕事ねえ」


 うちの学校はその自由さが売りだが、その分自らの行動に責任を持つことを求められる。そのため生徒のことは生徒がやるという、ある意味では放任主義な側面がある。


 当然と言うべきか、生徒の代表である生徒会は、かなりハードな仕事をこなさなければならないらしい。そのため、生徒会の役員は成績上位者がスカウトされるそうだ。


「にしてもよく知ってんな。……あっ! お前まさか! 九条みたいな子が好みなのか!?」

「い、いや、そう言うわけではないが……。」


 タケルが珍しく慌てている。

 ほー、へーー、柔道一筋だったこいつがねえ。


「ははは! やめとけやめとけ、お前と九条じゃそれこそ美女と野獣だ。それに九条にはもう彼氏がいるって話だぞ。残念だったな!」

「……余計なお世話だ」


 おっと、からかいすぎたか?この辺にしておこう。普段温厚な奴ほど、怒るととんでもなく怖いということを俺は身を持って知っている。


「まあ、九条に彼氏がいなかったとしても俺がお近づきに、なんてのは無理だろうな。怖がって逃げられちまいそうだ」


 あんな可愛い子に逃げられたら、ショックで立ち直れないかも知れん。


「じゃあ、お前の好みの女子は、元気があって、女の子らしくて、お前を見ても逃げ出さない肝っ玉のある女子。そう言うことだな」

「肝っ玉って、まあそうだな」

「……じゃあ、アレはどうだ?」

「アレ?……ああ、アレか」


 タケルが指し示す先には、ある女生徒がいた。


 個性豊な1年生の面々の中でも、ブッチギリで有名で、ブッチギリでヤバイと噂の女、桐花 咲だ。


 小柄で整った顔立ちの少女、眼鏡の奥の瞳は爛々と輝き、少し茶色がかったショートカットの髪と相まって活発な印象を与える。


 見た目だけなら充分可愛いと言える容姿の持ち主だが、彼女がその名を学園に轟かせている理由はそれではない。彼女の可憐さが全く話題にならないほどの問題のある性格、それは桐花が他者の恋愛に異常な程の興味を持っていることだ。


「……アレは何をしてるんだ?メモ帳片手に食堂をコソコソして」

「多分あそこの女子グループが話している、彼氏との惚気話が狙いだろう。……ほら、気づかれて女子達が逃げていったぞ」


 獲物を逃した桐花は、メチャクチャ悔しそうな顔をし地団駄を踏んでいる。


 そう、彼女はいつもこのように人の恋愛を調べて回っているのだ。誰と誰が付き合っているという生徒同士の噂話から、友人同士の恋バナまで、どこからともなく現れ盗み聞きメモを取る。生徒が告白している現場を陰からジッと見ている。などが彼女の日常であるらしい。


 桐花 咲に関するこんな逸話がある。まだ彼女が入学して間もない頃、彼女の性格がまだ知れ渡っていなかった時の話だ。


 さっき言った通り、桐花は見た目だけなら充分人目を惹く可愛らしさがある。彼女を恋人にしたいと思う男も多かったそうだ。


 そんな中、名乗りを上げた1人の男がいた。2年の中でもカッコいいと噂されている先輩が、桐花に告白したのだ。


 場所はなんと昼休みの学校の中庭。中庭で昼食を食べている生徒はもちろん、校舎にいる生徒からも告白しているのが丸見えになる場所だった。


 その先輩は余程自信があったのだろう。衆人環視が見守る中、堂々と桐花に告白した。


 しかし、その自信は粉々に打ち砕かれることになる。


 桐花は告白してきた先輩を、


『私のどこが好きになったんですか?』

『いつ好きになりましたか?』

『付き合ったらどんなことをしたいですか?』

『今までにお付き合いされた方はいますか?』

『先輩が去年に告白した女性にまだ未練があるって噂、本当ですか?』

『あ、そうそうその女性、最近他校に彼氏ができたそうですよ。知ってましたか?』


 と、メモ帳片手に質問責めにしたのだ。


 先輩はあまりにも想定外の事態に思考がショートしたのか、その質問に対し全て素直に答えてしまった。


 そしてメモを取り終えた桐花は、


『あ、申し訳ないんですけど、先輩好みのタイプじゃないので』


 あっさりふったのだ。


 そんな経緯と、彼女の普段の恋愛欲(造語)を満たすための奇行から、誰が言い始めたのか、いつしか彼女は恋愛中毒者(ジャンキー)と呼ばれるようになった。


「元気があって、女の子らしい可愛さがあって、おそらく度胸もあるだろう。お前の望み通りの女子だな」

「いやいやいやいや、アレは流石にないって」


 俺には荷が重すぎる。というか、関わりたくない。


「全く注文の多いやつだ」


 やれやれといった感じで肩をすくめるタケル。なんだそのアメリカンなリアクション。


「そもそも吉岡、お前は恋人の前に、俺以外に一緒に昼飯を食べる友人を作った方がいい」

「それこそお前に言われたかねえよ。お前こそ俺以外にダチがいるのかよ」

「……いや、普通にいるが」

「はあ!?」

「柔道部の連中とか、普通にクラスの友人とか」

「ううう嘘つけ!! お前いつも俺と昼飯食ってんじゃねえか!!」

「それは、まあ、……お前が寂しいかと思って」


 こ、この野郎っ


「俺が高校生にもなって友達の1人もできない、ボッチの根暗野郎だと思って情けをかけてたっていうのか?!!」

「なにも、そこまで思ってないが……」


 ちくしょう!こいつめ!!


 俺は席を立ち、去り際に


「バーカ! バーカ! 俺を憐れみやがって! そこまで言うんだったらお前とはもう飯は食わねえ! すぐにでも新しいダチ作ってそいつと一緒に食ってやるよ! バーーーカ!!」




 結果として、その後1ヶ月の間、俺は1人で飯を食う羽目になった。

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