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暴走する恋愛探偵に巻き込まれたチンピラの優雅な学園生活  作者: ツネ吉
第一章ゴリラキープアシークレット
15/62

14

「お前なんで催涙スプレーなんて持ってたんだ?」


 あのあと本当に大変だった。


 悶絶する俺と男は溢れ出す涙で前が見えないまま、手探りでお互いの位置を探りながらの殴り合いとなった。


 結局この泥仕合を制したのは、桐花の指示を受けながら闘った俺であった。(スイカ割りをしている気分だった。)


 初めて喰らったが、催涙スプレーってやつの破壊力は凄まじかった。そんな物を携帯しているなんて、まさか今日の事を想定していたのか?


 その事について尋ねたところ、


「ああ、これは初めて学年一の不良の吉岡さんにお会いする前に、念のために買っておいた物です」

「うぉいっ」


 この女、俺に使うつもりだったのか。


「で?結局コイツらはなんなんだ」


 俺が顔を洗いに行っている間に桐花はどこから持ってきたのやら、結束バンドで親指を縛り上げるという、かなりガチっぽいやり方で男たちを拘束していた。


 男たちは3人全員2年の先輩であった。桐花曰く、この学園であまりいい噂を聞かない柄の悪い先輩、とのことだ。


 問題はなんでその柄の悪い先輩が俺たちを襲ったのかだが……


「先ほども言った通り、柔道場襲撃事件の犯人ですよ」

「違う!! そんなことやってねえ!!」


 男の1人が必死で否定する。しかし、桐花は努めて冷静に切り捨てる。


「いいえ、あなた達です。制服に付いている汚れ、柔道場に巻き散らかされていたスプレー缶の塗料と同じです」

「あ! 本当っす!! コイツらの袖口塗料がついてるっす!」


 完璧な証拠。馬鹿な連中だ、塗料なんて汚れが落ちない物を制服を着たまま使うなんて。


「それで、なんで私たちを襲いにきたのか……話してくれますね」

「……。」


 男は分が悪いと思ったのか、黙秘を決め込む。このままダンマリを貫き通す腹づもりだろう。


 しかし、黙っていられなかった奴がいた。


「うぅ、頼む……水をくれ……」


 催涙スプレーをモロに浴びた男だ。この男はあの後顔も洗えないまま拘束されたため、顔面が涙や鼻水でぐちゃぐちゃになっている。


 まあ痛いだろう。俺も顔が擦り切れそうなぐらい洗ったがまだ痛い。


 同じ痛みを知る者として同情するが、ここは心を鬼にする。


「ここに水がある。全部話すってんならくれてやる」


 ペットボトルの水をちらつかせ交換条件を提示すると、すがる様に男は受け入れた。


「わかった! 話すから早く……!」


 残りの2人が、オイふざけんな! 勝手なことすんじゃねえ!! などど喚くが無駄だ。男にとって水道で汲んできただけのこの水は、命の水に等しいのだから。




「柔道場を荒らしたのはあなた達3人、間違い無いですね」

「……ああ、そうだ。」


 認めた。


ヨシッ!! と心の中でガッツポーズをとる。心が高揚する、俺たちは今事件の核心に迫っている。


「なんでそんなことしたんすか! 柔道部に何か恨みでもあるんすか!!」

「恨みなんざねえよ。……ただそうする様に指示されたんだよ」

「指示? 誰に指示されたんですか?」

「知らねえよ、手紙を一方的に送られてきてその内容に従っただけだ」

「手紙は?」

「……燃やした。そうしろって書かれていたからな。ただ、えらく細かい注文内容だったな。何を用意しろとか、どこをどういう風に荒らせとかな」


 桐花の推理通りだ。コイツらは柔道場を襲ったが、タケルと九条の仲を引き裂こうとしている真犯人は別にいる。


となると……


「お前らは、どんなネタで脅されていたんだ?」

「!? ……なんで知ってる?」


 適当にカマをかけてみたが、これも当たりみたいだ。


 すると桐花は彼らに近づき、スンスンと鼻を鳴らし顔をしかめた。


「……制服がタバコ臭いです。学園内で喫煙してたとかそんなところでしょうね」

「チッ、そうだよ、手紙にその写真が同封されて下駄箱に入れられてたんだ」


 なるほど、指示に従わないと写真をばらまくってわけか。


……気に入らない。自分の手を汚さず、人を傷つける真犯人が心の底から気に入らない。


「クソッタレが……俺たちを襲ったのもそいつの指示か。」


 拘束されている男達の表情が強張る。どうやら俺はよほどひどい顔をしているらしい。


「あ、ああ。前とおんなじように手紙が来たんだ。お前達3人を適当に痛めつけろって、それで……」

「それで?」

「九条真弓と二度と関わらないようにさせろって」

「はあ? 九条?」


 なんだそれ?事件から手を引けってんならわかるが、九条と関わるなだって?


 まさか九条が俺たちと一緒にいることすら我慢ならないほど、独占欲が強い奴なのか?


「なあ桐花、どういうことだ?」


 意見を聞こうと桐花に視線を向けるが、俯き何やらブツブツと呟いており俺の声は無視された。


「……なんでこのタイミングで……私たちは何も……何が狙いで……九条さんと私たちが一緒にいることの何が……いえ待って、まさか最初から?……」

「お、おい。どうした?」


 今までにない異常な様子に声をかけるが、またもや無視される。だめだ、完全に自分の世界に入り込んでいる。


 そして突然、何か閃いたのか顔を上げ、男達に詰め寄った。


「手紙! 手紙は!?」

「も、燃やしたけど……」

「違います! いつ届いたんですか?」

「……昨日の放課後」

「私たちを襲う日時の指定はありましたか!?」

「今日の放課後に襲うよう指示されて……」

「ああ……やっぱり」


 何か焦ったように男達を問いただした桐花は、茫然自失といった表情を浮かべる。


「おい! 本当にどうしたんだ!! 何かわかったのか!!」


 たまりかねて声をかける。なに自己完結してんだコイツは、こっちは何が何やらさっぱりなんだ。


 すると桐花は……恋愛探偵桐花咲は、苦々しげな表情を浮かべながら言った。



「わかりました、犯人が、この事件の真相が」



「ほ、本当っすか!?」


 その言葉を聞き嬉しそうに声を上げる石田。だが、なぜか桐花の表情は優れない。


「どうした?犯人がわかったんだろ、そいつを教師か警察に突き出せば全部解決じゃないか」

「……無理です、証拠がありません」

「証拠なんてこれから探せば……」

「無理なんです! 犯人はこれまでなんの証拠も残してこなかったうえ、これから先何もせず大人しく過ごして行く気です!!」

「ど、どういうことだ? これからなにもしないって」

「言葉通りの意味です。……唯一救いがあるとすれば、剛力さんと九条さん。お二人のことも諦めて放って置かれるであろうとういうことですが」

「そんな……救いって……」


 桐花の言う通りならタケル達が被害に遭う心配がなくなった、それ自体はいいことだ。時間はかかるかも知れないが以前のような関係に戻れるかも知れない。


 だがあれだけのことを、二人の仲を引き裂き、柔道場を荒らし、タケルと九条をキズつけた犯人がなんのお咎めもなしで野放しだって!? そんなの……


「そんなもん! 納得できるか!!」


 ふざけんな!そんな理不尽がまかり通ってたまるか!!


「でも! どうしようもないんです!! 私たちへの襲撃が失敗した以上、犯人は絶対に証拠を掴ませません!」


 桐花も叫び返す。その表情はどこまでも悔しそうで、これから先出来ることはないと言われているようだった。


 だけど、諦めてたまるか。


「……襲撃が成功すればいいんだな?」

「……? 吉岡さん、一体何を?」

「ハサミ持ってるか?」

「ありますけど……」


 桐花から借りたハサミで男達の拘束を解く。


 いきなり解放されて怪訝な表情をする男達に向かい合う。


「よし、お前ら俺をボコれ」

「は?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 吉岡さん!」


 桐花が慌てて止めてくる。


「何考えてるんですか!!」

「だから襲撃を成功させればいいんだろ、俺はボコボコにされてお前と石田は辛うじて逃げることができた。そう言う筋書きだ」

「そんな滅茶苦茶な!」

「これしかねえんだよ! 犯人の狙い通りになれば、いつかボロを出す。そういう考え方だよな?なら、お前はそのチャンスを逃すな。出来るな?」


 桐花の眼を見つめる。好奇心旺盛な猫のような眼は迷いで揺れていたが、俺が引く気がないことをわかってくれたのだろう。覚悟を決めたように頷いた。


「必ず。必ず証拠を掴んで見せます」


 ヨシ、その言葉が聞ければ十分だ。


「石田、お前は桐花を連れて帰れ」

「わ、わかったっす! どうかご無事で!!」


 思わず笑ってしまう。今からボコボコにされるのい無事も何もないだろう。


 二人が去っていくのを十分に見届ける。これから先はあいつらには刺激が強いからな。


「さて、やってもらおうか」

「いや……でも……」

「なんだ?元々俺らをブン殴る予定だったんだろ、何を迷うことがある?」

「だからといって……」


 ああ、クソっ!煮えきらねえ奴らだな!



「さっさとやれって言ってんだろ! いいか、お前達が取れる選択肢は2つ! 俺をボコボコにするか、俺にボコボコにされるかのどっちかなんだよ!!!」



 今まで何が起きているのかわからないまま事態が進んでいき、蚊帳の外にいる様でもどかしかった。


 何もできず、ただ指を咥えて見ているだけの自分が嫌で嫌でしょうがなかった。


 この程度で役に立つってんなら、安いもんだ。

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