13
「なんだお前ら?」
部室練を出てすぐのことだった。顔を隠した男が3人、俺たちの前に現れたのだ。
服装は学園の制服であったため、この学園の生徒だと言うことは想像がつく。だからと言ってこれっぽっちも油断できない。顔を隠した連中が待ち構えていた理由なんて絶対にろくなことじゃない。
男たちは無言でこちらににじり寄ってくる。
「な、なんなんすか! アンタ達!!」
へっぴり腰ながらも構えを取っている石田の声は上擦っている。
「今時目出し帽かよ、だせえな」
軽く挑発して見せるが、男達から反応はなく俺たちを逃さないように広がり、徐々に距離を詰めてくる。
連中の狙いが何かはわからないが、どうやらやる気のようだ。
……まずい。相手は3人、こちらも3人。だがこちらの戦力は俺と、どう考えても喧嘩もしたことのなさそうなヒョロガリの石田だけだ。
最悪石田はいい。あいつも柔道部員だ、根性を見せてもらおう。問題は……
「よ、吉岡さん……」
俺の後ろに隠れている桐花だ。俺の服を握る彼女の手はわずかに震えている。
……ああまずいな、本当に。
「テメエら!! 一体なんのようだ!!!」
少しでも牽制しようと、声を張り上げる。全力を掛けて睨みをきかすが、怯えるそぶりも見せない。
クソっ!! こちとら不本意ながらも1年一の不良で名をあげてんだぞ!!
どうする? 必死で足りない頭を絞って考えを巡らせるが、活路が見えない。桐花さえ逃がせれば何とかなりそうだが、その方法がわからない。
すると、後ろにいる桐花が震えながらも声を張り上げた。
「あ、あなた達が! 柔道場を襲った犯人ですね!!」
ピクリ、と男たちがここに来てわずかではあるが、確かな反応を見せた。
それは、俺でもわかる確かな証明だった。
「……お前たちが?」
タケルの大切な居場所を?
頭の中、心が冷え、冷たくなっていくのがわかった。
そう感じたのも一瞬のことで、次の瞬間には何もかも……後ろにいる桐花のことも忘れて、1番近い男に殴りかかっていた。
「がっっ!!」
1人目の顔面を殴り飛ばし、次の男に向かって飛び蹴りをかます。
かろうじて腕で防がれたものの、その衝撃で男は後ろに倒れ込んだ。
胸ぐらを掴んでもう一度殴りかかろうとするが、後ろから羽交い締めにされた、最初の男を一発KOとはいかなかったらしい。
羽交い締めにされた俺は、そのまま飛び蹴りをかました男に何発か殴られるが、不思議と痛みを感じなかった。
後頭部で無理やり頭突きをかまし拘束から抜け、さらに殴りかかろうとする男にタックルをぶつけて地面に叩きつける。
もんどり打つ男に、鼻を押さえて呻く男。これで2人。もう1人は?
この時、自分がどれだけ周りのことが見えていなかったか気づいた。
「離せ!! 畜生が!!」
「絶対に離さないっす!!!」
最後の1人は足元にすがりつく石田を何度も踏みつけていた。男の進行方向には桐花がいる。
「離せつってんだろうが!!!」
石田の顔面を蹴り飛ばし、そのまま桐花へと歩を進める。
馬鹿か俺は!! これが最悪のパターンだってわかってただろうが!!!
全力で2人の間に割り込もうとするがわずかに遠い。
「桐花っ!!」
男の手が桐花に掴みかかろうとする寸前、
「えいっ」
プシュっと軽い音と共に、桐花の手の中の小さな容器から何かが空中に巻かれる。
「グオッホッ!! ゴ、ホッホ!!! ゲハっ!!!」
男はそのままむせかえる。
おそらく今のは防犯用の催涙スプレー。空気中に散布するだけで中の唐辛子の成分が、目、口、鼻に刺激を与えるとんでもない代物だ。
それを至近距離で浴びた人間は顔面に激痛が走る。あまりの痛みに大の男が泣き出すほどだ。
それは桐花と男の間に割って入ろうとした俺も例外ではない。
「グオッホッ!! ゴ、ホッホ!!! ゲハっ!!! グオッッホホ!!!!」
あああ痛いいいいい!!! 傷口に染みて2倍で痛いい!!!!!
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